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彼女の心を救うには。

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『お前のことなどどうでもいい』

彼女が父から言われ続けた言葉だ。彼女の父は、彼女の兄を溺愛していた。彼女の母は、彼女の姉を大切にしていた。彼女は誰からも必要とされていなかった。

「それでもめげずに努力すれば、報われると信じていました」

彼女はただ、認められたかった。そのために血を吐くほどに努力した。なんだってした。見た目も教養も、魔法の腕だって磨いた。

「けれどそんな努力、誰にも気付いてもらえなかった」

最初から、彼女は誰からも求められていなかった。

「聖女様は、思えば最初から私を目の敵にしていました。そして、ありもしないイジメをでっち上げ私を嵌めた。助けてくれる人などいなかった」

それでも、彼女は悲しみすら覚えなかった。もはや無感情だった。

「けれどそこに、俺が現れた」

「そうですね」

他国の第一王子。彼が彼女をさらいに来た。彼女は彼に抱きついた。彼女は彼を愛していた。また、彼も彼女を愛していた。

彼は幼い頃に彼女と出会ってから、ずっと一途に彼女に惚れ込んでいた。いつか彼女を迎えに行きたいと、両親に無茶を言って婚約者を作らなかった。本当なら彼女とはやく婚約したかったが、彼女の家庭事情を考えると「姉」の方を無理矢理あてがわれるだろうと推察できたのでなかなか踏み切れなかった。

「…迎えに行くのが遅くなって、本当に悪かった」

「いいえ。貴方が来てくれて、嬉しかった」

そうして現れた彼に連れられて、そのまま身一つで嫁いだ。お互いに婚約者も恋人もいない身であったため、とんとん拍子で話は進んだ。

そうすると何故か、彼女の祖国の聖女様が発狂した。そして彼女の祖国の王太子を唆して戦争を仕掛けてきた。

「幸い、聖女とやらが神の寵愛を失い力を発揮出来なくなったためなんとか勝ててよかったが。あの聖女、君を嵌めたのは全て俺と出会って結婚するために仕組んだことだと言っていたらしい。頭沸いてるよな。なんで君を嵌めると俺と出会えて結婚出来るって話になるんだろうな」

「まったくわかりません…」

「だよな」

彼女は聖女を理解出来ない。何故なら彼女は転生者でもなんでもない、普通の女の子に違いないから。

「そうそう。それで、君に助けを求める彼らの処遇は君に決めさせてあげようと思うんだが。どうしたい?」

「…誰のことでしょうか?」

「お友達を名乗る奴と、家族を名乗る奴と、聖女。…いや、神の寵愛を失ったのだから元聖女か」

「…それでしたら。聖女様は、神の寵愛を失ったのですから偽聖女の汚名を着せて奴隷に落としたいです。お友達を名乗る彼らは、そうですね。私のピンチを救ってくださらなかったのにお友達を名乗るならば、その喉を焼き奴隷に落としましょう。元家族は、拷問の末に奴隷にしましょう」

「…処刑しなくていいのか?」

「はい。それだけで十分です」












結局のところ、彼女の希望は全て叶った。

元聖女は、偽聖女として断罪され奴隷に身を落とした。

元友人は、喉を焼かれ奴隷に身を落とした。

元家族は、拷問の末に奴隷に身を落とした。

全員安値で売られて、変態のペットとして買われて行ったり、労働力として買われて行ったりした。

「彼らは非常に性格が悪い。その性根は変わらない。今まで虐げる側だった彼らは、奴隷なんて身分耐えられないはず。ざまぁみろと思ってしまいますね」

「なるほどな。さすがは俺のお嫁さんだ。彼らは処刑するよりもよほど苦しむだろうな」

「嫌いになりましたか?」

「まさか。余計に惚れ込んだ」

彼の言葉に、彼女は笑顔を見せた。

「ふふ、愛しています」

「俺も、愛してる」










彼女は雇い主に案内される。炭鉱で働く彼等を見つけて笑いを噛み殺した。

「お久しぶりです、お父様。お元気そうですね、お母様。汗水垂らして働く気分はどうですか?お兄様。お姉様は…炭鉱で働く方々からたくさん求められたのですね。ぼろぼろですね」

「お前…!助けに来てくれたのか!?」

「まさか。そんなわけないじゃないですか」

彼女の言葉に彼らは固まる。

「貴方方は、私を愛してくれなかったでしょう?私の貴方方への愛も、とっくに枯渇しています」

「そ、そんな…」

「ああ、けれど」

彼女のその言葉の続きに、少しだけ期待したような元家族の目。それを嘲るように彼女は言った。

「今日、憎しみさえ枯渇しました。もう、貴方方なんてどうでもいいです」

呆然とする元家族達の顔を見て、何の感情も湧かないまま彼女は炭鉱を出た。










「君もようやく魘されなくなったね」

「家族…元家族と決着をつけましたから」

彼女は彼と共に寝ているが、あれ以降は魘されていないらしい。

「これからは、幸せだけを君に捧げよう」

「ふふ、その言葉がもう幸せです」

後ろから抱きしめて、離さないでくれる夫に安心する。

「愛してる。絶対離さない」

「ええ、ぜひそうしてください。私も、愛していますから」

彼女はそれから先、ずっと彼と共に幸せな生涯を送った。
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