上 下
1 / 1

最終的に行き着くところに行くお話

しおりを挟む
よくある話だ。

愛読書の悪役令嬢に転生した。

テンプレだな、というのが最初の感想だった。

とはいえ、始めのうちは悪役にされるのを回避しようと頑張った。

兄に媚を売り、両親に自分を認めさせた。

「私は小説とは違って、愛される侯爵家のお姫様となった」

両親は優秀で美しい私を可愛がった。

兄は自分に懐く私を溺愛した。

私は見た目も心も醜い嫌われ者の悪役令嬢にはならなかった。

見た目も心も美しいと言われるようになった。

けれどヒロインである妹がストーリー通りに現れた。

「見た目も心も美しいヒロイン。お父様の実の娘。私の腹違いの妹」

継母となった母は妹に当たりがきつい。

けれど小説とは違って虐待はしない。

私がなだめているから。

兄は妹を警戒している。

小説のように溺愛することはない。

父は小説通り、可愛がるわけでもなく邪険にするでもないどっちつかずの態度。

ヒロインである妹の母はすでに鬼籍。

「私は家族には愛されている。使用人達や領民にも。けれど、婚約者は…」

私の婚約者は、私を嫌っている。

小説では悪辣な悪役令嬢を嫌っていた。

この世界では、優秀過ぎる私を疎んでいる。

そしてヒロインである妹は、小説と同じように婚約者に近寄った。

私に虐められていると、婚約者に吹き込んだ。

「…どうして実の妹を虐めるんだ」

「そんなことはしておりません」

「嘘をつけ、本人が泣いて俺に頼ってきたんだぞ。お前は本当に最低な女だな」

…正直を言うと。

私は彼が嫌いだ。

私が優秀だからと疎むとか、性格最悪すぎる。

婚約者より婚約者の妹を信じるのも害にしかならない。

だから、もういいやと思った。

「私をお疑いなら、それでもいいですが…帰ってもらっていいですか?同じ空気を吸いたくないので」

「…は?」

「帰れ」

彼を追い出す。

そしてしばらくしてから、荷物をまとめて家出した。

何故って、彼と結婚するくらいなら家出した方がマシだから。

婚約は家同士の約束事で、簡単に覆せるとも思えない。

だから自由を手にするために、家出を強行したのである。













「この尻軽女!我が家に引き取ってもらった恩も忘れて、優しく接してくれた実の姉を悪者にして婚約者を寝とるなんて!」

「やはりお前など引き取るのではなかった…」

「もしあの子が無事に帰ってこなかったら…絶対に許さない!」

どうしてこうなるの?

私はこの世界のヒロインなのに。

きっとあの悪役令嬢が何かのバグなんだ。

あの悪役令嬢が悪いんだ。

「お姉様が私を虐めたんです!信じて!」

「心優しいあの子がそんなことをするものか!」

「お前はもううちでは面倒を見られない。出て行きなさい」

「…え?」

「お前は見た目はいいから、娼館にでも行けば雇ってもらえるだろう」

どうしてこうなるの?

私は悪くないのに。

あの悪役令嬢が、ちゃんと嫌われ役を演じないのが悪いのに。

私は屋敷を追い出され、結局娼館で働かざるを得なくなった。

愛読書の小説の世界にヒロインとして転生して、幸せになれると思ったのに…どうして。












「この馬鹿者が!」

父に打たれる。

「婚約者を信じず、婚約者の妹に手を出すなど何を考えている!?」

「あの女は出来がいいからと俺を見下してたんだ!だから仕返しのつもりで…」

また打たれる。

「彼女は見下すどころかお前を常に立てて、支えてくれていたんだぞ!馬鹿者が!」

「は?」

「お前はわからなかったのかもしれないがな、お前をよろしくと周りとの橋渡し役までこなしてくれていたんだ!お前は友達が多いと自分を誇っているが、実際には彼女が助けてくれた結果だったんだ!」

「…え?」

そんなの聞いていない。

そんなはずない。

「お前の愚行のせいで、我が家との付き合いを考え直したいという家が多い…なんてことをしてくれたんだ!」

「そ、そんな」

「お前は勘当だ!さっさと出て行け!」

生意気な婚約者を罵り、美しい婚約者の妹を愛した結果…家を出された。

弟が家を継ぐことになるらしい。

俺は数日もしないうちに飢えて、誰にも顧みられることがなくなった。

友達だと思っていた連中も、助けてくれなかった。

最終的には奴隷として人攫いに連れて行かれることとなった。

俺はどこから間違えたというのだろうか。













結論から言うと、私は数日で家族に確保された。

家出したが、家出先は隠居した田舎の祖父母の屋敷だったから。

祖父母がこっそりと家族に連絡を入れたらしい。

祖父母は突然家出してきた私を優しく受け入れてくれていたが、そこはしっかりしていた。

無事でよかったと兄に泣かれて、両親には叱られてしまったが…迷惑をかけたのに、それでも家族は私の味方だった。

「お前とあのアホの婚約はこちらから破棄したし、あの娘は家から追い出したから帰っておいで」

兄の言葉にホッとする。

どうやらあの人たちとはもう関わらなくていいらしい。

なら家出の理由はもうない。

「はい、お兄様」

「よかった…さあ、帰ろうか」

「はい」

兄と手を繋いで屋敷に帰る。

帰ったら、元婚約者からの慰謝料やら賠償金やらでお小遣いをたんまりもらえた。

何に使おうか考えて、私は一つの結論を出した。












私は今、小説家として活動している。

小説家というか、婚約者と妹に裏切られた経験をそのまま小説にして自費出版したのだ。

その赤裸々な内容にかなり世間は騒ぎ、本は飛ぶように売れた。

自費出版したのだが、十分すぎるほどのリターンがあった。

そして、そんなことをしていたら同じく婚約者を寝取られた経験を持つという男性との出会いもあった。

「君に話して心が軽くなったよ」

「それは良かった」

男性は私に悲しい過去を話して、心が楽になったらしい。

「ところで、このことを小説にするとか…ダメですか?」

「はは、ぜひ小説にでもなんにでもしてくれ。復讐なんて怒られるかもしれないが、やはり報復しないと気が済まないからな」

「よし、お任せください!」

私はその男性の経験も小説にして自費出版した。

結果、その男性を裏切った女性は影でコソコソ色々言われて今になって因果が巡っているらしい。

そのことで男性に感謝され、今では同じ傷を持つもの同士ということでお付き合いも始めている。

元婚約者とは人として付き合うのにも相性最悪だったし、なんだかんだでこうなってよかったのかもしれない。

今幸せだから、そう思うだけかもしれないけれど。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

こいぬ
2024.08.21 こいぬ

面白かったです。続きはございますか?

下菊みこと
2024.08.21 下菊みこと

感想ありがとうございます。続きは今のところノープランです。

解除

あなたにおすすめの小説

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】婚約破棄するということは覚悟はできているのでしょうね?

asami
恋愛
 婚約破棄モノの短編です

その王冠は復讐のために

asami
恋愛
理不尽な婚約破棄から復讐を決意していく令嬢たちのオムニバスとなります

悪役令嬢に転生しただけで、どうしてこんなことに?

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生した元OLであるアザレアは、これまで破滅回避のために頑張っていた。 けれど転生ヒロインが現れてから残念ながらそろそろキレそう。 そんな彼女の前に現れたのは、同盟国の第二王子で…。 よくある御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

彼女を妃にした理由

つくも茄子
恋愛
ファブラ王国の若き王が結婚する。 相手はカルーニャ王国のエルビラ王女。 そのエルビラ王女(王妃)付きの侍女「ニラ」は、実は王女の異母姉。本当の名前は「ペトロニラ」。庶子の王女でありながら母親の出自が低いこと、またペトロニラの容貌が他の姉妹に比べて劣っていたことで自国では蔑ろにされてきた。今回も何らかの意図があって異母妹に侍女として付き従ってきていた。 王妃付きの侍女長が彼女に告げる。 「幼い王女様に代わって、王の夜伽をせよ」と。 拒むことは許されない。 かくして「ニラ」は、ファブラ王国で王の夜伽をすることとなった。

冷徹だと噂の公爵様は、妹君を溺愛してる

下菊みこと
ファンタジー
シスコンな兄様に愛されている公爵家の姫君のお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 恋愛方面には行かない。 ざまぁは添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。