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妻は前の男のことでまだ苦しんでいる

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夜中に目が覚めて、けれど気分はすごく良かった。イザベルの胸で思う存分泣いたおかげだろう。

すっきりした気分のままイザベルを見る。イザベルはすやすやと寝ていたが、突然魘され始めた。良くない夢を見ているのだろう。

俺は魔法でイザベルの夢に潜り込んだ。

「愛してるよ、ジュリー」

「本当?ノエル様」

「当たり前じゃないか」

ああ、なるほど。魘されるわけだ。浮気されたのを見てしまった時の夢だな。

「でも、イザベル様とは別れてくれないの?」

「…ごめんよ。きっとなんとかするから」

「そうは言うけれど、結婚まであと五ヶ月よ?」

「うん。そうだね」

「私を選んでくれないの?」

元婚約者の男も、浮気相手も最低だな。

「もちろんジュリーを選ぶよ」

「嬉しい!絶対よ?約束よ?」

「うん、約束だ」

何が約束だ。気持ちが悪い。

イザベルを見れば、すごく辛そうな顔。

「お嬢様、ここを離れましょう」

侍女に手を引かれて、その場を離れたイザベル。そこでやっと息ができるようになったらしい。あんな男のために苦しむ必要はないのに。

「…なんで、どうして」

ああ、泣かないでくれ。

「どうして、私を愛してくださらなかったのですか、ノエル様…」

ぽつりと溢れた本音は、たしかに俺に届いた。

「…イザベル」

優しく名前を呼んでやる。振り向いたイザベルの顔は涙でぐちゃぐちゃ。それでも可愛いと思えるのは、多分俺だけじゃないか?

「ユルリッシュ様…」

「そんなところで一人で泣くな。俺の胸で泣けばいい」

ほら、おいで。

「ユルリッシュ様っ…」

俺の胸の中で、涙が止まるまで泣き続けるイザベル。

「イザベル。悲しかったな、苦しかっただろう。よく頑張ったな」

イザベルの頭を撫でて、背中にも手を回して、優しく慰める。

「ユルリッシュ様は、どこにも行きませんか?」

「もちろんだ」

「ユルリッシュ様は、私を捨てませんか?」

「当たり前だ」

「ユルリッシュ様は、ずっと一緒にいてくださいますか?」

ずっと不安なまま、自分の気持ちに蓋をしていたのだろうイザベル。やっと、本音を見せてくれたんだな。

「イザベル。もちろんずっと一緒にいる。…なあ、イザベル。俺を見て」

俺の胸に縋り付いていたのを、顔を上げてくれたイザベルと目を合わせて話しかける。

「俺はイザベルを置いていかない、捨てない、裏切らない。あの男と俺は違うよ。俺はイザベルを何よりも大切にする。約束する」

イザベルのことは、絶対に俺が幸せにするから。

「イザベル。こんな夢はもう見ずに済むように、安眠できるおまじないをかけてあげる」

イザベルの額にキスをする。熟睡できる魔法と、記憶を消す魔法。イザベルは今から熟睡して、目が覚めたらすっきりと起きる。その時にはこの夢のことも覚えていない。…ただ、俺の言葉はきっと忘れてしまっても胸には残るだろう。

「夢すら見ないで、熟睡しよう。目が覚めたらきっと、爽やかな朝を迎えられる」

「…はい、ユルリッシュ様」

夢で熟睡するイザベルに寄り添って、抱きしめながら俺も寝た。
















「おはようございます、ユルリッシュ様!」

朝から元気なイザベル。魔法がちゃんと効いたようだ。

「おはよう、イザベル。元気だな」

「なんだか今日はすこぶる調子が良くて!」

「それは良かった」

イザベルにはやっぱり笑顔が似合う。

「イザベル」

「はい、ユルリッシュ様」

そっとイザベルの両頬に手を添える。

「え、え、ユルリッシュ様?」

「はは。朝から元気で可愛いから、食べちゃっていいか?」

「え、え?んっ…」

「イザベルの唇は柔らかくて気持ちいいな」

「んーっ…!」

ずっとこうしていたいけど、イザベルはキャパオーバーだろうと唇を離す。

「…ふふ、ご馳走さま」

恥ずかしがる姿も可愛い。

「顔、真っ赤」

「誰のせいだと思ってるんですかっ!!!」

「俺のせいだな。そう思うと余計可愛い」

「もうからかわないでくださいー!」

そうしてじゃれ合っていると、イザベルの侍女と俺の侍従が入ってきて朝の支度が始まった。
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