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孤児院で浮いてる子

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プリュネは気付いていた。自分の授業に、一人だけ参加していない子がいる。人数分揃えたタロットやプリントが一枚余っている。しかし、占いの授業は受けておいた方が楽しいし勉強になるが、無理矢理受けさせるほどのものでもなかったりする。ならばスルーするべきだろうか。

「皆様ご機嫌よう。今日はインド占星術を学びましょう」

今日もやはり一人足りない。ウィスタリアも気付いていたようだが素知らぬふりをしているので、やはりスルーするべきと判断して授業を始める。授業と言っても子供達が一生懸命占いをするのを、時々手助けしてやるだけだが。しかし、占いに目覚めた子供達は案外と成長している。相手にどんな伝え方をすれば喜ばれるか、逆に悲しまれるか。ちょっとした仕草ひとつだけでも、印象は大分変わることに気付いていた。子供達の喧嘩が最近減ってきたらしい。占いってすごい。そして授業が終わると、子供達はさらに占いに興じる。占い好きのプリュネからすれば万々歳である。

と、一人の少年が外から孤児院に入ってきた。

「あら…彼は…」

授業を受けていない子か。東洋の方の子なのだろう。肌は黄色で烏の濡れ羽色の髪と黒真珠の瞳を持つ。年の頃は自分の五つ下くらいか。あと二年しか孤児院にいられないから、働きに出てお小遣いを稼いでいるのかもしれない。

「お姉さん、あの子に関わらない方がいいよ?あの子すぐ怒るし怖いんだ」

「…そう」

そう言われると逆に放っておくのに罪悪感を感じる。

「プリュネちゃん、行っておいでよ」

「ありがとうございます、ウィス…さん」

危なかった。名前で呼びそうになった。

「はいはーい」

ウィスタリアは軽く返事をすると子供達の相手をしてくれる。その間に彼を追いかける。

「あの!」

「…何」

「ご機嫌よう。プリュネと申します。以後お見知りおきを」

「はい、よろしく。じゃ」

彼は適当な返事だけ寄越して部屋に逃げようとする。しかしプリュネは諦めない。

「あの、お名前は?」

「…僕は薊(ジー)。姓はない」

「何をしていらしたの?」

「別に勉強会は強制参加じゃないでしょ」

「ええ。怒ってはいません。貴方のことが気になって…」

「…。書いた小説を売ってた」

「まあ!小説家なのですか!?その歳でなんて凄いです!」

「違う。小説家に僕の小説を売ったんだ。ゴーストライターってやつ」

「まあまあまあ!本物の小説家の代わりになるほどの作品を書いているなんて凄いです!」

「え?」

「貴方は天才なのですね!それとも秀才なのでしょうか?」

「…。褒めても何も出ない」

「ねえ、せっかくそれだけの能力があるのでしたら、皇家のお抱え作家を目指してみたらどうでしょう?」

「無理だよ。僕は異国の民だ。それも孤児」

「だからなんですか?」

「…え?」

「実力は申し分ないのでしょう?チャレンジしてみましょう!」

「いや、でも…」

「まだ売ってない小説はありますか?」

「あるけど…」

「一番自信のある作品を持ってきてください」

「…うん」

薊は素直に小説を持ってきた。プリュネはそれを受け取ると、薊ににこりと笑う。

「責任を持ってお届けしますね」

「…あんた、皇家とパイプでもあるの?」

「まあ、ちょっと」

「…そう。期待してないけど、一応よろしく」

「…期待してないですか。なら、占ってみましょう!」

「え?」

目を白黒させる薊に対して、プリュネは至って平静だ。畳み掛けるようにタロットを出す。
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