上 下
1 / 1

慈愛深いお嬢様は俺のモノ

しおりを挟む
気持ち悪い。何もかもが気持ち悪い。大した努力もせずにただ貴族に生まれただけで幸せそうな奴らが気持ち悪い。平民に生まれたからって努力を投げ出して自堕落に過ごす奴らが気持ち悪い。俺はあいつらとは違う。いつか成り上がって全員見返してやる…。

ー…

「お嬢様、またスラム街の孤児を拾っていらしたのですか?お嬢様のお小遣いの範囲で雇っているとはいえ、いつか限界が来ますよ?」

俺の仕えるお嬢様は善人だ。吐き気がするほど人というものを信じている。はっきり言ってバカである。

「あら。まだまだお小遣いはあるわよ?」

「ですが、この間もお嬢様の隙を見て金目のものを盗んで逃げ出そうとした者がいたでしょう?俺が気付いて止めて治安部隊に突き出したから良かったですが、そうでなければお小遣いも何も無くなっていたかもしれませんよ?あまり人を信じ過ぎてはいけません」

「でも、可哀想なんだもの。それに、慈しむべき子供なのよ?」

気持ち悪い。ただ貴族として生まれただけで、こんなにも世界を優しいものだと、美しいものだと勘違い出来るこの女が気持ち悪い。

「そうですか。お嬢様が良いなら良いのです。ただ、もう少し自分を大事になさってください。人を受け入れるだけが優しさではありませんよ」

「わかったわ。そうだ!ねえ、今日から雇うあの子の指導をお願いしてもいいかしら?貴方の指導があればきっとすぐに上達するわ」

「わかりました。しっかりと一人前の執事に育て上げてみせましょう。…悪いことをしなければ、ですが」

「もう。可愛らしい子供よ?今度こそ大丈夫よ」

気持ち悪い。なんでそんなに人を信じられる?バカなのか。バカだった。

「では、俺は早速新人の研修に向かいます。失礼致しますね」

「あの子をよろしくね」

まるで弟を託すようにスラム街の孤児を俺に託す。なんでそんなに他人に愛情をかけられるんだ。意味がわからない。

ー…

…結局。今回拾ってきた孤児も金目のものを盗んで逃げ出そうとした。俺は証拠付きで治安部隊に引き渡した。あの女は裏切られたことを嘆くどころか、あの孤児のこれからを心配して泣いていた。バカなのか。バカだった。

「…お嬢様」

「悪いことをせずに、ここで働き続けていたら安定した生活が出来たでしょうに。可哀想だわ…」

「お嬢様。あの者を心配する必要はありません。お嬢様は裏切られたのです」

だから、あんなガキのために泣くなよ…。

「だって、可哀想なんだもの…どうして…」

「…お嬢様、失礼します」

バカを抱きしめてやる。

「え?」

「お嬢様が泣き止むまで、どうかこうして抱きしめさせてください。…優しいお嬢様。もう傷つかないでください。慈悲などかけるから、こうなるのですよ?」

「…そうね。でも、私はやっぱり孤児を見捨てることは出来ないわ。孤児院に預けても、孤児院によってはロクな扱いを受けないらしいし…私が引き取った方が幸せになれるはずだもの」

…バカはどこまでいってもバカだな。

「ならせめて、俺の目の届く範囲で。それならいつも通り、手遅れになる前になんとか出来ますから」

「今回みたいに?」

「ええ」

上目遣いで潤んだ瞳を向けてくるバカ。可愛らしいなんて思ってしまう自分が気持ち悪い。こんな気持ち悪い女のなにがいいのか自分でもわからない。

「お嬢様、落ち着きましたか?紅茶をお淹れ致しますね」

「ありがとう。貴方がいてくれて、本当に助かっているわ」

「過分なお言葉ですが…ありがとうございます」

これからもこの関係はきっと続く。気持ち悪い。けど、いつかこのバカが他の男のモノになると思うともっと気持ち悪いから、さっさとこのバカを手に入れられるように旦那様や奥様に色々吹き込んで俺を婚約者に据えようという流れを作っている。このままいけば俺も晴れて爵位持ちの婿養子だ。だから、はやく。はやく手に入れたいと思うのは、きっと成り上がるためだけだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

王太子になる兄から断罪される予定の悪役姫様、弟を王太子に挿げ替えちゃえばいいじゃないとはっちゃける

下菊みこと
恋愛
悪役姫様、未来を変える。 主人公は処刑されたはずだった。しかし、気付けば幼い日まで戻ってきていた。自分を断罪した兄を王太子にさせず、自分に都合のいい弟を王太子にしてしまおうと彼女は考える。果たして彼女の運命は? 小説家になろう様でも投稿しています。

姉の代わりでしかない私

下菊みこと
恋愛
クソ野郎な旦那様も最終的に幸せになりますので閲覧ご注意を。 リリアーヌは、夫から姉の名前で呼ばれる。姉の代わりにされているのだ。それでも夫との子供が欲しいリリアーヌ。結果的に、子宝には恵まれるが…。 アルファポリス様でも投稿しています。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

奴隷を買ったら王妃になった。

下菊みこと
恋愛
婚約者につまらないと言われた主人公。彼女は悪い子になれば婚約者に振り向いてもらえるかなと、悪い子になろうとする。兄に相談すると、闇オークションに連れていかれた。そこで見つけた愛玩用奴隷を一目見て気に入った主人公。競り落とし、連れ帰る。その頃には浮気者の婚約者のことなど、もう既に頭になかった。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...