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とある長兄の話

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鏡を見て、ため息がこぼれた。王族の証である、この国では王族の他にはない金の髪に青い瞳。普段は一本縛りにしている長い髪は、今はおろされている。

眠ろうと思っていたが、寝付けない。絶世の美人だなんて言われる、母親譲りの顔。

けれど、ああ。才能もあり見た目もいいと言われる私は、弟一人守ってやれないのだ。

「サミュエル…」

可愛い弟。僕と同じ金の御髪に青い瞳の、たしかに王族として生まれた彼は冷遇されている。

理由なんて、簡単だ。

為政者として正しく在ったはずの父が、ある時色に狂った。

その相手が産んだ子供。

その後その側妃はすぐに亡くなった。父は正気に戻ったが母や母方の祖父は腹違いの私の弟の存在を許さなかった。

「ラファエルも…辛いだろうに」

もう一人の弟。同じ腹から生まれた可愛いラファエル。

多感な時期に色々と見せられたあの子は、それでもサミュエルを助けたいと思っている。

ああいや、多感な時期にというならばラファエルとそう歳の変わらない私も同じか。

…精神的に、成長せざるをえなかった。それは否めないが。

「ああ…神は何故、私の弟達をこんなにも苦しめる」

ラジエル・イヴァン・アルテュール。それが私。第一王子で、いずれは王位を継ぐことを約束されている。

だというのに、離宮に隔離され冷遇される弟を助ける力すらない。

なんて無力なのか…。

「…ダメだな。兄として、王子として。もっと力をつけなければ」

そう。

力さえあれば、粗末な離宮から弟をこちらに連れて来られる。

そうすれば、私のこの手で弟を抱きしめてやれる。守ってやれる。慈しむことができる。

「…そんな当たり前のことさえ許されないなど、間違っているだろうに」

私やラファエルが声をあげても、大人は誰も動かない。

だから、力をつけなければ。

ああ、だけれど。

「あの世話係がサミュエルの側にいてくれるのは、有り難いな」

前にサミュエルについていた乳母は、サミュエルを大切にするあまり周り全てを敵だと認識していた。

結果、サミュエルと私やラファエルは会うことさえ許されなかった。

あの世話係は、その気配がない。サミュエルの意思を尊重しているように見える。

「たしか…アンナと言ったかな」

彼女は、私達の救いになるかもしれない。

…なんて、期待しすぎか。

ああでも、そのくらいは許してほしい。

私達兄弟には、縋れるものなんてそう多くはないのだから。

「…せめて毎日、顔を見に行こう」

どうか、それすら許さない世界ではないことを祈る。
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