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婚約者の弟が記憶を失ってしまいました
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学園でノアと二人きりになる。ノアが人気物なので、学園で二人きりになるのは珍しいことだったりする。二人きりで何を話すのかというと、先日のアベル様の件。
「ユリア、アベルが君に盛ろうとした毒なんだけど」
ノアが真剣な表情を浮かべる。一体どんな毒だったんだろう。
「身体的には大したことないんだ。せいぜいお腹を下すくらい」
「…そうなの?」
どうやらアベル様に殺意はなかったらしい。よかった。
「ただ、精神的な影響が大きいんだ。…愛する人を忘れてしまうらしい」
衝撃だった。アベル様はそこまで私達に結婚して欲しくなかったのだろうか?そこまで私達のことを嫌っていたのだろうか?
「…そう」
そうとしか返せなかった。あまりにも悲しかったから。
「…ユリア、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
まだ何かあるのだろうか?
「アベルがその毒を飲んだ。それで…僕とユリアのことをすっかり忘れてしまったらしい」
「…え?」
どういうこと?アベル様は私達を嫌っていたのではないの?
「もしかしてアベル様は私達のことを嫌ってなんてなかったの…?」
「それどころか僕達のことが大好きだったらしいね。捻くれた奴。全然気が付かなかったよ」
…なんてことだろう。まさか私達を慕ってくれていたなんて。しかもその記憶を無くしてしまうなんて。私がもっとアベル様に寄り添っていればこんな悲しいことにならなかったかもしれないのに…ごめんなさい、アベル様。
「…ユリア、そんな思い詰めたらだめだ。ユリアは何も悪くない。勝手に思い悩んで勝手なことをしたのはアベルだし、兄のくせにあいつの気持ちに気付いてやれなかったのは僕だ。ユリアは何も悪くないんだよ」
私と目を合わせて、私の頭を撫でながら優しくそう言い聞かせてくれるノアも、なんだか辛そうで。私達は一体どこですれ違ってしまったのかしら。
「それで、ユリアに相談なんだけど」
「なあに?ノア」
「アベルにはもう僕達の記憶がないんだ。だから今のあいつは何も悪くない。今度こそ、あいつを弟として可愛がってやりたいと思ってる。ユリアも、アベルと仲良くしてやってくれないかな?」
この人は何を当たり前なことを言っているんだろう?
「そんなの当たり前よ!むしろこちらからお願いしたいくらいよ!」
「ユリアは本当に優しいね、ありがとう。ほら、ユリアナもこう言ってるし出てきなよ、アベル」
そういうとノアがちょいちょいと手招きをする。アベル様が壁の影から出てきた。アベル様、ずっとそこにいたの?全然気付かなかった。
「えっと。お義姉様、はじめまして?」
そこには、どこか憑き物が落ちたような穏やかな表情のアベル様。不覚にもアベル様のお義姉様呼びにぐらっときた。
「ご機嫌よう、アベル様。これから改めてよろしくお願いします」
「えっと、記憶を失う前、なんだか迷惑をかけちゃったみたいでごめんなさい。これから仲良くなれたら嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします」
可愛い!アベル様がすごく可愛い!と思っているとノアが面白くなさそうな顔で割って入ってくる。
「アベル、お義姉様じゃなくて義姉上。それと僕以上にユリアナと仲良くなっちゃダメだってば」
「じゃあ、お兄…兄上がもっともっと義姉上と仲良しになってください!」
「そんなの当たり前だ!」
終始笑顔のアベル様とヤキモチを焼きつつもアベル様を可愛がるノア。以前では想像も出来なかったことだ。微笑ましく思うと同時に、本当に記憶を失ってしまったのだと、悲しいような切ないような気持ちになる。せめて、以前の分まで少しでも距離を縮められたらいいなと思う。
「ユリア、アベルが君に盛ろうとした毒なんだけど」
ノアが真剣な表情を浮かべる。一体どんな毒だったんだろう。
「身体的には大したことないんだ。せいぜいお腹を下すくらい」
「…そうなの?」
どうやらアベル様に殺意はなかったらしい。よかった。
「ただ、精神的な影響が大きいんだ。…愛する人を忘れてしまうらしい」
衝撃だった。アベル様はそこまで私達に結婚して欲しくなかったのだろうか?そこまで私達のことを嫌っていたのだろうか?
「…そう」
そうとしか返せなかった。あまりにも悲しかったから。
「…ユリア、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
まだ何かあるのだろうか?
「アベルがその毒を飲んだ。それで…僕とユリアのことをすっかり忘れてしまったらしい」
「…え?」
どういうこと?アベル様は私達を嫌っていたのではないの?
「もしかしてアベル様は私達のことを嫌ってなんてなかったの…?」
「それどころか僕達のことが大好きだったらしいね。捻くれた奴。全然気が付かなかったよ」
…なんてことだろう。まさか私達を慕ってくれていたなんて。しかもその記憶を無くしてしまうなんて。私がもっとアベル様に寄り添っていればこんな悲しいことにならなかったかもしれないのに…ごめんなさい、アベル様。
「…ユリア、そんな思い詰めたらだめだ。ユリアは何も悪くない。勝手に思い悩んで勝手なことをしたのはアベルだし、兄のくせにあいつの気持ちに気付いてやれなかったのは僕だ。ユリアは何も悪くないんだよ」
私と目を合わせて、私の頭を撫でながら優しくそう言い聞かせてくれるノアも、なんだか辛そうで。私達は一体どこですれ違ってしまったのかしら。
「それで、ユリアに相談なんだけど」
「なあに?ノア」
「アベルにはもう僕達の記憶がないんだ。だから今のあいつは何も悪くない。今度こそ、あいつを弟として可愛がってやりたいと思ってる。ユリアも、アベルと仲良くしてやってくれないかな?」
この人は何を当たり前なことを言っているんだろう?
「そんなの当たり前よ!むしろこちらからお願いしたいくらいよ!」
「ユリアは本当に優しいね、ありがとう。ほら、ユリアナもこう言ってるし出てきなよ、アベル」
そういうとノアがちょいちょいと手招きをする。アベル様が壁の影から出てきた。アベル様、ずっとそこにいたの?全然気付かなかった。
「えっと。お義姉様、はじめまして?」
そこには、どこか憑き物が落ちたような穏やかな表情のアベル様。不覚にもアベル様のお義姉様呼びにぐらっときた。
「ご機嫌よう、アベル様。これから改めてよろしくお願いします」
「えっと、記憶を失う前、なんだか迷惑をかけちゃったみたいでごめんなさい。これから仲良くなれたら嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします」
可愛い!アベル様がすごく可愛い!と思っているとノアが面白くなさそうな顔で割って入ってくる。
「アベル、お義姉様じゃなくて義姉上。それと僕以上にユリアナと仲良くなっちゃダメだってば」
「じゃあ、お兄…兄上がもっともっと義姉上と仲良しになってください!」
「そんなの当たり前だ!」
終始笑顔のアベル様とヤキモチを焼きつつもアベル様を可愛がるノア。以前では想像も出来なかったことだ。微笑ましく思うと同時に、本当に記憶を失ってしまったのだと、悲しいような切ないような気持ちになる。せめて、以前の分まで少しでも距離を縮められたらいいなと思う。
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