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神前式は二人きりで

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兄様が媚薬を盛られた事件以降は穏やかな日々が続いて、いよいよ結婚式の日になった。

結婚届を国教の教会に出して夫婦になったことを認められる。

宗教的に良いのかなと思うけどこの国では国教の教会はある意味役場みたいなものだからしょうがない。

お寺に戻ってくると衣装に着替える。我ながら白無垢姿がよく似合う。兄様も羽織袴姿がめちゃくちゃかっこいい。

自画自賛だけれど、お似合いの二人ではなかろうか。

「兄様かっこいい」

「キューも美しいよ」

神前式はお祈り用の部屋で二人きりで行なって、その後披露宴を教徒たちの前で盛大に行うらしい。

貴族も来るらしいが、大丈夫だろうか。

「キューには兄様がついてるから大丈夫だよ」

「うん」

まず二人でお祈り用の部屋に行く。

お狐様の像の前で、結婚を伝えてお祈りする。

…が、兄様は他の教徒が居ないのを良いことにいつもの調子。

「そういうわけだから、キューはオレの嫁だからね」

「お狐様、これからは兄様のお嫁様としてよろしくね」

視界の端に黄色い尻尾が見えて、お祝いしてくれているのだと安心した。

「さあ、キュー。次は披露宴だ」

「うん」

歩きづらい白無垢だが、兄様の支えで静々と歩いて宴会場に向かう。

最初にみんなが見ている前で神前式が無事済んだことを発表してから誓いの儀式であるらしいお酒を飲み、そして披露宴と言う名の宴会が始まった。

兄様の結婚式ということで特別に呼ばれた所縁ある貴族たちは慣れない形式の結婚式に戸惑うものの、地位にとらわれないお酒の席に次第に楽しそうな雰囲気になっていった。

そうして楽しい空間で、私も兄様も結婚を祝福される。

「おめでとうございます、ゴッドリープ様!」

「ありがとう」

「キューケン様、どうかお幸せに!」

「うん、ありがとう」

たくさんの人から祝福されるのは嬉しい。

兄様をちらっと見たら、やっぱり嬉しそうだった。

そして兄様もこちらを見て、微笑んでくれた。

お酒のせいではなく、それでも頬が染まるのを自覚しながら私も兄様に微笑む。

すると教徒たちから歓声が上がる。

「ゴッドリープ様万歳!キューケン様万歳!」

「ゴッドリープ様万歳!キューケン様万歳!」

「ふふ、みんなありがとう」

「皆に礼を言うよ、本当にありがとう。これからはキューと二人三脚で、このパラディース教を守っていくと誓うよ」

「みんなにたくさんの幸せがありますように」

私がそう言うと、黄色い尻尾が視界の端に見えた。

と思ったら不思議な光が会場に溢れた。

多分お狐様が雰囲気に酔って加護と祝福を振りまいてしまったのだろう。

「あらま…」

「クソギツネめ…」

小声でお狐様の加護と祝福に反応する私と兄様を他所に教徒たちはなんだなんだとざわめく。

「…あー、我らが神がここにいる者達へ加護と祝福をくださったよ。加護と祝福といえど微々たるものだけれど、特別なことだ。具体的にはここでいくら飲めや歌えやしても二日酔いにはならないし、トラブルも起こらないし、怒られもしないからどんちゃん騒ぎして良いってさ」

兄様の言葉に教徒たちは大盛り上がり。

一部の、兄様との繋がりが欲しいだけでパラディース教を疑ってかかっていたっぽい人達もこれには目を見開いていた。

そしてそのまま夜通し宴会をした後、深夜にお開き。

下山は明るくなってからってことで、普段お寺に泊まってない人達もお寺に泊めてあげた。

二日酔いが絶対にないからって、気持ちよく酔った酔っ払いさんたちを布団に寝かせてから、いよいよ兄様のお部屋で二人きりになった。
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