82 / 108
兄様のことを好きな女の子から殺されかけた
しおりを挟む
お寺に、クリンゲという新たな教徒が増えた。
増えたのはいいけれど、私ことキューちゃんをめちゃくちゃ不穏な顔で見つめてくる。
ボディーガードの彼がいるから大丈夫だと思うけど。
そして、本来なら助けを求めて縋る相手の兄様にもよくわからない感情を持っているらしい。
特に兄様からは何も聞いてないけれど、クリンゲの複雑そうな顔で察した。
「兄様に愛されたいタイプの教徒かな。まあそのうち治まる…と、思いたい」
そんなこんなでクリンゲとの接触は極力避けて数日。
「クリンゲ。廊下の飾りが少し増えていたのだけど、もしかして君がやったのかな」
「あ、は、はい天主様…」
「君は手先が器用なんだね」
「い、いえ。そのお父様がなんでも出来るように色々教えてくれていて…見捨てられてしまいましたけど」
「そうか…だが、とても美しいよ」
クリンゲが兄様を睨む。
一体何があったのだろう。
けれど兄様はその鋭い視線を笑って流した。
「君はきっと、心が美しいのだろう。だから見た目も、作り出すものも美しい」
「…」
「君にはきっと、誰かのために生きる人生より自分のために生きる人生が似合うよ」
そしてクリンゲとすれ違う兄様。
兄様の隣にいる私も当然すれ違う。
小さな声で、なんで今更と言ったのが聞こえた。
本当に、何をしたんだ兄様。
その後もクリンゲはしばらく、ぬちゃぬちゃした仄暗い感情を私と兄様に向けてきた。けれど兄様がそれをさらっと流して優しく振る舞うたびに、混乱している様子だった。
さらにしばらくすると、兄様には仄暗い感情より恍惚と呼んでもいいほどの何かを感じ始めている様子が見て取れた。
別の意味でやべぇとは思ったが、兄様に実害はないので放置。
その代わり、私への感情は変わらない。ただ、私にはボディーガードの彼がいるから大丈夫。
そう思っていた。
「キューケン様」
「あ、えっと、クリンゲさん」
「名前、覚えていてくださったのですね」
「え、はい」
「そうですよね、それは敵うわけないですよね」
急になんだろう。
嫌に冷静で、なんの感情も読めない彼女に逆に困惑する。
「キューケン様は、私なんかよりお美しくて…あのキツネの編みぐるみもキューケン様作なんですよね」
「どうしてそれを…?」
「天主様、私に言ってくださったじゃないですか。『君はきっと、心が美しいのだろう。だから見た目も、作り出すものも美しい』って」
「あ、はい」
一字一句覚えてるの…?
「それってきっと、キューケン様のことを思いながら言ったんですね」
「いやそれは…」
さすがにシスコンな兄様といえど、ないと思う。
ただ、誤解されやすかったかな…。
…いや冷静に考えてそんなこともないというか、クリンゲの発想の飛躍がすごくないか?
「きっと、私ではキューケン様に敵わない」
「いやいやいや」
思わずキューちゃんの皮を脱いで普通に反応してしまう。
「だから、キューケン様がいると天主様は私を好きになってくれない」
「それはないと思いますけど」
なんかこの子思い込みも激しい。
「天主様は言ってくださいましたよね、『君にはきっと、誰かのために生きる人生より自分のために生きる人生が似合うよ』って」
「そ、そうですね…?」
本当に一字一句覚えてるタイプだこれ。
兄様はどうしてムーンリットやクリンゲみたいな思い込み激しい激重系女子から愛されるのか。
いや、ある意味私も同類か…?
でも兄様に対する愛情の種類は違うからセーフかな。
セーフだよね?
「だから私、天主様に好いてもらおうと思って」
「へ、へぇ…そうですか」
「はい。だから、キューケン様が邪魔なんです」
怖!
重いよ!
これが世に言うヤンデレか!
「死んでください」
そう言って彼女が取り出したのは…魔鉱石。
これはこの世界特有の鉱石で、とても綺麗だが少なくともこの国では取引は禁じられている。
何故なら、水をかけるとあっという間に爆発するから。
それをクリンゲは私に向かって投げて、ご丁寧に超高性能な水鉄砲で水をぶっかけてくれた。
脳内にはこれは避けようがないなぁ、なんて冷めたことを思う私とイヤー死ぬー!とパニクる私が二人いて、ボディーガードの彼に庇うように抱きしめられたが閃光と爆発音と共に吹っ飛ばされて頭を打って気絶した。
増えたのはいいけれど、私ことキューちゃんをめちゃくちゃ不穏な顔で見つめてくる。
ボディーガードの彼がいるから大丈夫だと思うけど。
そして、本来なら助けを求めて縋る相手の兄様にもよくわからない感情を持っているらしい。
特に兄様からは何も聞いてないけれど、クリンゲの複雑そうな顔で察した。
「兄様に愛されたいタイプの教徒かな。まあそのうち治まる…と、思いたい」
そんなこんなでクリンゲとの接触は極力避けて数日。
「クリンゲ。廊下の飾りが少し増えていたのだけど、もしかして君がやったのかな」
「あ、は、はい天主様…」
「君は手先が器用なんだね」
「い、いえ。そのお父様がなんでも出来るように色々教えてくれていて…見捨てられてしまいましたけど」
「そうか…だが、とても美しいよ」
クリンゲが兄様を睨む。
一体何があったのだろう。
けれど兄様はその鋭い視線を笑って流した。
「君はきっと、心が美しいのだろう。だから見た目も、作り出すものも美しい」
「…」
「君にはきっと、誰かのために生きる人生より自分のために生きる人生が似合うよ」
そしてクリンゲとすれ違う兄様。
兄様の隣にいる私も当然すれ違う。
小さな声で、なんで今更と言ったのが聞こえた。
本当に、何をしたんだ兄様。
その後もクリンゲはしばらく、ぬちゃぬちゃした仄暗い感情を私と兄様に向けてきた。けれど兄様がそれをさらっと流して優しく振る舞うたびに、混乱している様子だった。
さらにしばらくすると、兄様には仄暗い感情より恍惚と呼んでもいいほどの何かを感じ始めている様子が見て取れた。
別の意味でやべぇとは思ったが、兄様に実害はないので放置。
その代わり、私への感情は変わらない。ただ、私にはボディーガードの彼がいるから大丈夫。
そう思っていた。
「キューケン様」
「あ、えっと、クリンゲさん」
「名前、覚えていてくださったのですね」
「え、はい」
「そうですよね、それは敵うわけないですよね」
急になんだろう。
嫌に冷静で、なんの感情も読めない彼女に逆に困惑する。
「キューケン様は、私なんかよりお美しくて…あのキツネの編みぐるみもキューケン様作なんですよね」
「どうしてそれを…?」
「天主様、私に言ってくださったじゃないですか。『君はきっと、心が美しいのだろう。だから見た目も、作り出すものも美しい』って」
「あ、はい」
一字一句覚えてるの…?
「それってきっと、キューケン様のことを思いながら言ったんですね」
「いやそれは…」
さすがにシスコンな兄様といえど、ないと思う。
ただ、誤解されやすかったかな…。
…いや冷静に考えてそんなこともないというか、クリンゲの発想の飛躍がすごくないか?
「きっと、私ではキューケン様に敵わない」
「いやいやいや」
思わずキューちゃんの皮を脱いで普通に反応してしまう。
「だから、キューケン様がいると天主様は私を好きになってくれない」
「それはないと思いますけど」
なんかこの子思い込みも激しい。
「天主様は言ってくださいましたよね、『君にはきっと、誰かのために生きる人生より自分のために生きる人生が似合うよ』って」
「そ、そうですね…?」
本当に一字一句覚えてるタイプだこれ。
兄様はどうしてムーンリットやクリンゲみたいな思い込み激しい激重系女子から愛されるのか。
いや、ある意味私も同類か…?
でも兄様に対する愛情の種類は違うからセーフかな。
セーフだよね?
「だから私、天主様に好いてもらおうと思って」
「へ、へぇ…そうですか」
「はい。だから、キューケン様が邪魔なんです」
怖!
重いよ!
これが世に言うヤンデレか!
「死んでください」
そう言って彼女が取り出したのは…魔鉱石。
これはこの世界特有の鉱石で、とても綺麗だが少なくともこの国では取引は禁じられている。
何故なら、水をかけるとあっという間に爆発するから。
それをクリンゲは私に向かって投げて、ご丁寧に超高性能な水鉄砲で水をぶっかけてくれた。
脳内にはこれは避けようがないなぁ、なんて冷めたことを思う私とイヤー死ぬー!とパニクる私が二人いて、ボディーガードの彼に庇うように抱きしめられたが閃光と爆発音と共に吹っ飛ばされて頭を打って気絶した。
700
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
【完結】全力告白女子は、今日も変わらず愛を叫ぶ
たまこ
恋愛
素直で元気が取り柄のジュディスは、無口で武骨な陶芸家ダンフォースへ、毎日飽きもせず愛を叫ぶが、ダンフォースはいつだってつれない態度。それでも一緒にいてくれることを喜んでいたけれど、ある日ダンフォースが、見たことのない笑顔を見せる綺麗な女性が現れて・・・。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます
下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。
悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。
悪役令嬢は諦めも早かった。
ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる