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兄様のことを好きな女の子から殺されかけた

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お寺に、クリンゲという新たな教徒が増えた。

増えたのはいいけれど、私ことキューちゃんをめちゃくちゃ不穏な顔で見つめてくる。

ボディーガードの彼がいるから大丈夫だと思うけど。

そして、本来なら助けを求めて縋る相手の兄様にもよくわからない感情を持っているらしい。

特に兄様からは何も聞いてないけれど、クリンゲの複雑そうな顔で察した。

「兄様に愛されたいタイプの教徒かな。まあそのうち治まる…と、思いたい」

そんなこんなでクリンゲとの接触は極力避けて数日。

「クリンゲ。廊下の飾りが少し増えていたのだけど、もしかして君がやったのかな」

「あ、は、はい天主様…」

「君は手先が器用なんだね」

「い、いえ。そのお父様がなんでも出来るように色々教えてくれていて…見捨てられてしまいましたけど」

「そうか…だが、とても美しいよ」

クリンゲが兄様を睨む。

一体何があったのだろう。

けれど兄様はその鋭い視線を笑って流した。

「君はきっと、心が美しいのだろう。だから見た目も、作り出すものも美しい」

「…」

「君にはきっと、誰かのために生きる人生より自分のために生きる人生が似合うよ」

そしてクリンゲとすれ違う兄様。

兄様の隣にいる私も当然すれ違う。

小さな声で、なんで今更と言ったのが聞こえた。

本当に、何をしたんだ兄様。















その後もクリンゲはしばらく、ぬちゃぬちゃした仄暗い感情を私と兄様に向けてきた。けれど兄様がそれをさらっと流して優しく振る舞うたびに、混乱している様子だった。

さらにしばらくすると、兄様には仄暗い感情より恍惚と呼んでもいいほどの何かを感じ始めている様子が見て取れた。

別の意味でやべぇとは思ったが、兄様に実害はないので放置。

その代わり、私への感情は変わらない。ただ、私にはボディーガードの彼がいるから大丈夫。

そう思っていた。

「キューケン様」

「あ、えっと、クリンゲさん」

「名前、覚えていてくださったのですね」

「え、はい」

「そうですよね、それは敵うわけないですよね」

急になんだろう。

嫌に冷静で、なんの感情も読めない彼女に逆に困惑する。

「キューケン様は、私なんかよりお美しくて…あのキツネの編みぐるみもキューケン様作なんですよね」

「どうしてそれを…?」

「天主様、私に言ってくださったじゃないですか。『君はきっと、心が美しいのだろう。だから見た目も、作り出すものも美しい』って」

「あ、はい」

一字一句覚えてるの…?

「それってきっと、キューケン様のことを思いながら言ったんですね」

「いやそれは…」

さすがにシスコンな兄様といえど、ないと思う。

ただ、誤解されやすかったかな…。

…いや冷静に考えてそんなこともないというか、クリンゲの発想の飛躍がすごくないか?

「きっと、私ではキューケン様に敵わない」

「いやいやいや」

思わずキューちゃんの皮を脱いで普通に反応してしまう。

「だから、キューケン様がいると天主様は私を好きになってくれない」

「それはないと思いますけど」

なんかこの子思い込みも激しい。

「天主様は言ってくださいましたよね、『君にはきっと、誰かのために生きる人生より自分のために生きる人生が似合うよ』って」

「そ、そうですね…?」

本当に一字一句覚えてるタイプだこれ。

兄様はどうしてムーンリットやクリンゲみたいな思い込み激しい激重系女子から愛されるのか。

いや、ある意味私も同類か…?

でも兄様に対する愛情の種類は違うからセーフかな。

セーフだよね?

「だから私、天主様に好いてもらおうと思って」

「へ、へぇ…そうですか」

「はい。だから、キューケン様が邪魔なんです」

怖!

重いよ!

これが世に言うヤンデレか!

「死んでください」

そう言って彼女が取り出したのは…魔鉱石。

これはこの世界特有の鉱石で、とても綺麗だが少なくともこの国では取引は禁じられている。

何故なら、水をかけるとあっという間に爆発するから。

それをクリンゲは私に向かって投げて、ご丁寧に超高性能な水鉄砲で水をぶっかけてくれた。

脳内にはこれは避けようがないなぁ、なんて冷めたことを思う私とイヤー死ぬー!とパニクる私が二人いて、ボディーガードの彼に庇うように抱きしめられたが閃光と爆発音と共に吹っ飛ばされて頭を打って気絶した。
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