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加護を拒否されてしまった

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あのキューケンという娘は、本当に僕の代わりにあの子に謝ってくれた。

庇ってくれたし、夢の世界に来れるくらいの魂とはいえ可愛い良い子だとは思う。

だから、加護を与えてやろうと思った。

そして愛し子に認定しようと思った。

けれど、押し付けがましいのは嫌だから本人の意思を聞くことにする。

「キューケンのおかげで僕も成長できたということかな」

再びのバッドコミュニケーションは回避できたように思うのだがどうだろうか。

勝手に加護を与えないようになったのは、押し付けがましいのを嫌うらしい人間視点で見れば良かったと思うのだけど。

キューケンを夢の世界に呼び出して、少しの間ムーンリットを部屋の外に出す。

キューケンは単刀直入に「今日も御用ですか」 と聞いてくる。

「きょとんとする様子も可愛らしかったな」

なるほどあの子が気にいるわけだ。

あんなに見た目も仕草も愛らしい娘もそうそういない。

僕も恋愛感情は皆無とはいえ、とても惹かれる。

そんなキューケンに「どんな加護が欲しい?」と聞いたが思った反応とは違った。

『加護を受け取るの前提で話を進めないでください』

そう言われて驚いた。

嫌がられるなんて思ってもみなかった。

「キューは加護は要りません」ときっぱり断られて戸惑う。

『私はパラディース教のトップである兄様とは違って、ただの妹ポジションですから』

そう言われたのを思い出してまたも首をかしげる。

キューケンの帰って静まり返った部屋で、ムーンリットはそんな僕に首をかしげる。

それを笑って「なんでもないよ」と返すが、まだ納得はいかない。

そういうものなのだろうか。

便利な力はいくらもらっても嬉しいのではないのか。

『そういうものかい?』

『そういうものです』

断固拒否、という気配を察してそれ以上言うのはやめた。

僕の愛し子にしたかったのになぁ。

それでも何かしらのものはあげたいから、「代わりに欲しいものはあるかい?」と聞いてみる。

『うーん…してほしいことならありますけど』

そう言われてワクワクして聞いたら、結構厳しいことを言われた。

『もう、余計なお世話はダメです』

『死んじゃいそうなところを助けるとか、困ってるのを助けるとかなら全然いいですけど。なにも困ってないのに施しはしないようにしてください』

僕はしゅんとする。

別に誰彼構わず加護を与えてはいない。

お気に入りにだけだ。

だが彼女は、そんな僕に対してまだ気になることがあるらしい。

『私と兄様の色が似てるのとか、私が前世の記憶持ちなのってお狐様がしたのですか?だとしたら感謝しかないですが』

そう言われてちょっと困る。僕ではなく、創世の神とかの手によるものだと思うな。

神とは勝手なモノだから、この子には今後その神は関わってこないだろう。

今後この子に深く関わるのは、おそらくは僕やあの子だけ。

そんな慢心をしていたら、きつい言葉をもらった。

『まあそういうことで、これからはこうやって私を神隠ししたりもしないでくださいね』

『必要な時だけでお願いします。あとはやく兄様の元に返してください』

釣れない子だ。

僕はまだキューケンとお話ししていたかったのに。

ともかく、彼女をあの子の元へ返した。

今は静まり返った夢の屋敷が広がるばかり。

ムーンリットは退屈する僕に、ブラッシングをして毛並みを整えてくれた。
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