54 / 108
前世のこと、今世のこと
しおりを挟む
「けど、これから明日の朝になるまで何をして過ごそうか」
「兄様といられればそれでいいよ」
兄様は可愛いことをと言って私をぎゅっと抱きしめる。
兄妹でイチャイチャしていたらふと部屋の外が急に騒がしくなり、かと思えば静まり返った。
あ、これは完全にバレたなと悟る。
けれど予想通り、教徒たちは私の捕獲を早々に諦めたらしい。
あとでごめんなさいしなくては。
「バレたみたいだね、キュー」
「あとでごめんなさいする」
「兄様も一緒に行くね」
なんと優しい兄様だろうか。
「ところで、多分嫌だとは思うんだけどいいかな」
「なに?」
「前世と今世の、オレと出会うまでのお話を聞かせて欲しいんだ」
兄様からのお願いは少し意外で驚く。
とはいえ、こんな機会でもなければそうそう話すこともないだろう。
完全に二人きりの今だから話せるというものだ。
「…うん、いいよ」
「じゃあ、お願いしようかな」
私は、まず前世の話から始めた。
「前世のキューの両親は、教育熱心だったの」
「うん」
「お勉強しなきゃいけなくて、友達と遊ぶのもダメだった」
兄様はそれを聞いて悲しそうな顔になる。
「お家では成績が悪いと暴力もあったし、お外では付き合いの悪い子だって浮いてた」
「そっか…辛かったね」
「誰からも愛されなくて、限界で、家を飛び出して…その先で、とある工場に就職したの」
兄様は真剣に聞いてくれる。
「その工場は寮付きだったから暮らしていけた。そこでは色んな先輩がいたから可愛がってもらえた。深入りもされなかった。キューは初めて自由を得て、楽しかった」
「うん」
「でもそんな人生を謳歌し始めた時に通り魔に刺されたの。知らない人に殺されたの。痛かったし悔しかった。もちろん怖かったし…」
そう語る私をぎゅっと抱きしめる兄様に、ほっとする。
「話してくれてありがとう。辛いことを思い出させてごめんね」
「ううん。自分で思い出す分には怖いけどなんとかなる」
フラッシュバックはあれ以来ないけど、あれはさすがにキツかった。
ただ、普通に思い出す分には過呼吸にはならないので大丈夫。
「目が覚めたら赤ちゃんになってて、今世の見た目はこんな色だから忌み子扱い。でも、喋れるようになるとこんなだからもっと嫌われた」
「キューに嫌われる要素なんてないよ。見る目のない連中だっただけだよ」
兄様は優しい。
大好き。
「弟が生まれたら、弟が普通の子だから余計に嫌われた。弟は後継だったし、私は要らないから捨てられた」
またぎゅっとされる。
「ごめんね、もういいよ。辛かったね」
「兄様、ありがとう」
でも、兄様に聞いてもらえてスッキリした。そう言えば、兄様は微笑んでくれた。
「兄様といられればそれでいいよ」
兄様は可愛いことをと言って私をぎゅっと抱きしめる。
兄妹でイチャイチャしていたらふと部屋の外が急に騒がしくなり、かと思えば静まり返った。
あ、これは完全にバレたなと悟る。
けれど予想通り、教徒たちは私の捕獲を早々に諦めたらしい。
あとでごめんなさいしなくては。
「バレたみたいだね、キュー」
「あとでごめんなさいする」
「兄様も一緒に行くね」
なんと優しい兄様だろうか。
「ところで、多分嫌だとは思うんだけどいいかな」
「なに?」
「前世と今世の、オレと出会うまでのお話を聞かせて欲しいんだ」
兄様からのお願いは少し意外で驚く。
とはいえ、こんな機会でもなければそうそう話すこともないだろう。
完全に二人きりの今だから話せるというものだ。
「…うん、いいよ」
「じゃあ、お願いしようかな」
私は、まず前世の話から始めた。
「前世のキューの両親は、教育熱心だったの」
「うん」
「お勉強しなきゃいけなくて、友達と遊ぶのもダメだった」
兄様はそれを聞いて悲しそうな顔になる。
「お家では成績が悪いと暴力もあったし、お外では付き合いの悪い子だって浮いてた」
「そっか…辛かったね」
「誰からも愛されなくて、限界で、家を飛び出して…その先で、とある工場に就職したの」
兄様は真剣に聞いてくれる。
「その工場は寮付きだったから暮らしていけた。そこでは色んな先輩がいたから可愛がってもらえた。深入りもされなかった。キューは初めて自由を得て、楽しかった」
「うん」
「でもそんな人生を謳歌し始めた時に通り魔に刺されたの。知らない人に殺されたの。痛かったし悔しかった。もちろん怖かったし…」
そう語る私をぎゅっと抱きしめる兄様に、ほっとする。
「話してくれてありがとう。辛いことを思い出させてごめんね」
「ううん。自分で思い出す分には怖いけどなんとかなる」
フラッシュバックはあれ以来ないけど、あれはさすがにキツかった。
ただ、普通に思い出す分には過呼吸にはならないので大丈夫。
「目が覚めたら赤ちゃんになってて、今世の見た目はこんな色だから忌み子扱い。でも、喋れるようになるとこんなだからもっと嫌われた」
「キューに嫌われる要素なんてないよ。見る目のない連中だっただけだよ」
兄様は優しい。
大好き。
「弟が生まれたら、弟が普通の子だから余計に嫌われた。弟は後継だったし、私は要らないから捨てられた」
またぎゅっとされる。
「ごめんね、もういいよ。辛かったね」
「兄様、ありがとう」
でも、兄様に聞いてもらえてスッキリした。そう言えば、兄様は微笑んでくれた。
245
お気に入りに追加
1,829
あなたにおすすめの小説
転生令嬢はやんちゃする
ナギ
恋愛
【完結しました!】
猫を助けてぐしゃっといって。
そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。
木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。
でも私は私、まいぺぇす。
2017年5月18日 完結しました。
わぁいながい!
お付き合いいただきありがとうございました!
でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。
いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。
【感謝】
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。
完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。
与太話、中身なくて、楽しい。
最近息子ちゃんをいじってます。
息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。
が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。
ひとくぎりがつくまでは。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます
下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。
悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。
悪役令嬢は諦めも早かった。
ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる