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医術の国、ラスカース
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ご機嫌よう。リンネアル・サント・エルドラドです。今日はラスカースの闇の沼地を浄化しに行きます!
ラスカースは別名医術の国ともいわれる、医術に特化した国です。世界的に珍しい、治療術師ではなく医師に頼る国です。しかしこの十年、闇の沼地が医師を目指す者が多く集まる街、アールツトに突如現れたため、新しい医師の確保が難しい状況のようです。そんな中で、アールツトは閉鎖され、アールツト以外の地区は問題なく暮らしているといいますが、アールツトの近隣の地区はいつも魔獣に怯えて過ごしていると聞きます。
今回もみんなと協力して、アールツトを救いラスカースの医術を取り戻してみせます!頑張ります!
「リンネ。怪我はするなよ」
「うん。ティラン兄様、ありがとう。フォルスがいるから大丈夫だよ!行ってきます!」
「いってこい。待ってる」
転移魔法で、ラスカース国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、ラスカース国王陛下はすぐに私の元へ駆け寄ります。そしてお辞儀をします。
「あのエルドラドの百合姫様が我々を救いに来てくださるなんて、こんなに有り難いことはありません!ありがとうございます、聖女様」
ラーイ国王陛下に続いて、臣下の皆さん達が跪きます。
「聖女様!どうかラスカースをお救いください!」
「はい、みんなで協力して頑張ります!」
「なんと頼もしい…。ヴァイス王太子殿下も来てくださったのですね、ありがとうございます」
「愛する婚約者をひとりで行かせるわけにはいきませんから」
二人は固い握手をします。
「失礼ですが、他の皆様は…?」
みんなを紹介します。
「こちらは我がエルドラドのターブルロンド辺境伯令息の、ノブルです」
「ラスカース国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ええ、ありがとうございます」
「こちらは我がエルドラドのファータ男爵令嬢の、ミレアです」
「ラスカース国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ご機嫌よう。お嬢さん、我がラスカースのためにありがとう」
「こちらは我がエルドラドの宮廷魔術師のレーグルです」
「ラスカース国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「宮廷魔術師殿が!?ありがとうございます!」
「こちらは私の護衛騎士のフォルスです」
「おお、護衛騎士ですか。我がラスカースにはない役職ですな。さぞ腕が立つのでしょう」
「いえ、俺はまだまだです」
「では、皆様、我がラスカースのアールツトをよろしくお願いします」
「はい!」
私達はアールツトへ転移魔法で移動します。…すると、そこは十年前まで栄えていたとは思えないほど朽ち果てていました。魔獣はいつもと同じで物陰に隠れています。そして、いつもと同じで私達を獲物だと思ったのかじりじりと迫ってきます。
「じゃあ、始めるよ!」
「はい、王女殿下!」
「さっそく魔力を供給しますね」
「俺もたまには魔法で吹っ飛ばしたりしたいんだけどね」
「そんなことしてたら魔力供給が追いつかないよ」
「前衛は任せてください!」
みんなと声をかけあい、魔力を私に回してもらいます。私はシュパリュへ魔力を回しつつ、シャパリュに命令をします。
「怪猫シャパリュ。妖精の王。…すべての妖精の力を束ね、魔獣どもを殺しなさい。…屠れ」
シャパリュは私の命令に、間髪いれずににゃおーんと返します。そして、今度はアールツト全体に響くようににゃおーんと大声を出します。すると、妖精の生息しないはずのアールツトは、闇の沼地から出た瘴気を癒すように暖かな光で満たされます。…シャパリュの妖精召喚です!
「…妖精の王、怪猫シャパリュか。いずれリンネと共に我がハイリヒトゥームに来るんだよね。…扱いきれるだろうか」
「不安なら婚約者辞退したら?リンネには俺もいるし」
「おや、殴られたいのかな?」
「レーグル、頼むから後にしてくれ」
「もう、ヴァイス王太子殿下、本気にしちゃダメですよ!」
「俺は本気なんだけど!」
「皆さん!…っ!今回は魔獣の数が異様に多いです、気をつけて!」
迫り来る魔獣を斬り殺すフォルス。ですが、そのフォルスの反対側から魔獣が私に向かって襲いかかってきます。
「…っ!王女殿下!」
俊敏な動きで駆け寄り私を守ってくれたフォルス。でもその代わりに。
「フォルス!腕が…っ!」
フォルスの左腕が、食い千切られます。このままじゃあフォルスが死んじゃう!死ななくても、もう護衛騎士としては…。
「王女殿下!こっちはなんとかするんで今は浄化に集中してください!」
「…ごめんなさい!」
一度止めてしまった魔力供給を再開すると、シャパリュはそのまま、四方八方に駆けていきます。そして、アールツト全体から魔獣たちの悲鳴、絶叫が聞こえ、シャパリュと満身創痍のフォルスのおかげで魔獣が粗方片付いた頃には、妖精達の光は眩いほどのものになります。そして…。
「…闇の沼地が消えた!」
「フォルス!大丈夫!?」
朽ち果てていた街並みもすっかり綺麗になっていますが、今はそれどころではありません。
「フォルスさん!」
「フォルス、ちょっとごめんね!」
フォルスの左腕を拾って元の位置にくっつけます。
「ヒーリング!ヒーリング、ヒーリング、ヒーリング!」
目を閉じて、祈りに集中します。お願い、くっついて!
「ヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリング!」
「…王女殿下」
フォルスに名前を呼ばれてそっと目を開ける。腕は…!
「くっついてる!」
「ありがとうございます、王女殿下のおかげです。なんなら、ヒーリングの重ね掛けでめっちゃ元気ですよ」
「…っ!フォルス!」
フォルスに抱きつきます。
「お、王女殿下…!?」
「よかった、本当によかった!…わ、私っ…フォルスが死んじゃうって…生きててももう一緒にはいられないかもって…ぐすっ」
泣かないようにと思っていたのに、一気に緊張が解けたせいでつい泣いてしまいます。
「王女殿下…すみません、もう、こんなヘマしないんで」
「うん、うん!」
ー…
しばらく経ってから落ち着いた私は反省中です。
「ご、ごめんね、取り乱して」
「いえいえ、そんな…」
「フォルス」
「はい」
がっ…!と音がします。フォルスがいきなりヴァイス様に殴られました。
「ヴァイス様!?」
「リンネを泣かせた罰。僕は嬉し泣き以外でリンネを泣かせた奴は許さないって決めてるから」
「はい。すみませんでした」
「じゃあ俺からも一発」
今度はレーグルまで!思いっきり痛そうな音してるし!
「二人とも!」
「いいんです、王女殿下」
「でも!」
「フォルス、喜べ。私は君を殴らない」
にっこりと笑うノブル君。
「その代わり、このことはティラン国王陛下に伝えておく」
「ちょっと!やめてくださいよ!」
「フォルスさん」
「はい」
まさかミレアさんまで!?
「私は殴らないです。その代わり、もう二度と王女殿下を泣かせないでください」
「はい」
重く頷くフォルス。
「リンネはフォルスに文句無いの?」
「えっ…フォルスが無事ならそれでいいよ」
「そう。リンネは優しいね」
ヴァイス様が私の頭を撫でます。
「さて、今回は医術の国だ。せっかくだし医術というのがどういうものなのか見ていこうか」
「いいですね、勉強になります」
「俺は、今回迷惑かけたんで付き合います」
「俺も医術っていうの見てみたいな」
「じゃあ、ラスカース国王陛下のところに行っちゃおうか」
転移魔法で、ラスカース国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、ラスカース国王陛下はすぐに私の元へ駆け寄り、手を握ってきます。
「ラスカース国王陛下」
「聖女様!闇の沼地の浄化が上手くいったのですよね!?」
ラスカース国王陛下に続いて、臣下の皆さんも跪きます。
「聖女様!アールツトを、ラスカースをお救いくださりありがとうございました!」
「聖女様万歳!」
「万歳!」
「ラスカース万歳!」
「万歳!」
「アールツト万歳!」
「万歳!」
みんな大盛り上がりです。
「聖女様…本当に、本当にありがとうございます!」
ラスカース国王陛下はそのまま私の手を両手で握りしめ、涙を流して喜びます。…役に立てて良かった。
「いえ、みんなが手伝ってくれたからです」
「皆様も、本当にありがとうございます」
ラスカース国王陛下は、みんなと固い握手を交わします。
「ところで、ラスカース国王陛下」
「はい、なんでしょうか?」
「是非我々に『医術』というものを見せていただきたいのですが、どうでしょうか?」
一瞬きょとんとするラスカース国王陛下。そして。
「もちろんですとも。医術の真髄をお見せします」
笑顔で引き受けてくれました。
ー…
ということで、私達は今病院に来ています。前世のおかげで病院を知っている私はともかく、みんなは見慣れない施設に興味津々です。
「ここが『病院』…」
「ふーん。確かに清潔だね」
「真っ白ですね…」
「なんか、背筋が伸びます」
「私の領の治療術師にも見習わせた方がいいかもしれないな…」
「ふふ。初めての病院はなんとなく緊張するでしょう」
そしてラスカース国王陛下の案内で、手術衣に着替えます。
「これから皆様には『手術』というものを見ていただきます。あまり血に慣れていない皆様にはショックが強いかもしれないので、無理だと思ったら言ってください」
「はい!」
「今回の手術は、体内の『癌』と呼ばれるものを取り除く手術です。お前たち、よろしく頼む」
「お任せください、国王陛下!…では、皆様、今から体を開いて癌を取り除き、縫い合わせますのでお覚悟を」
「え?なに?」
「体を…開く?」
「縫い合わせるって、体を?」
みんなが戦々恐々とします。知らないと恐怖だよね、わかる。
でも、落ち着いているお医者様の様子にみんな不思議とごくりと喉を鳴らしつつも興味津々に見つめている。
お医者様は、患者さんに改めて麻酔の説明をし、投与します。
「ますいって何?」
「話を聞く限り、意識を朦朧とさせ手術を円滑に進めるためのもの…のようだ」
「意識がある状態で体を開かれるとか冗談じゃないですからね」
「では始めます」
ー…
手術は無事終了しました。はい、お見事です。
「…俺、最初こそ吐きそうになったけど途中から見入っちゃった」
「とてつもない速さで体を開いたと思ったら、癌をあっという間に取るんだもんな」
「でもその手に人の命がかかっていると思うと…『医師』という存在に、敬意を払わずにはいられない」
「かっこよかったです…!」
「やはり私の領でも…医師の導入を考えるべきなのか…?」
「治療術師さんももちろん素晴らしい仕事だけど、それと同じくらいお医者様も素晴らしい仕事だよね」
「そう言っていただけると光栄です」
「今日は勉強になりました、ありがとうございました!」
そうして私達は、医術について少し学んだ後、ルリジオンの教皇様の元へ転移魔法で移動します。
「教皇猊下!ラスカースの闇の沼地、浄化出来ました!」
「さすがは百合姫様。ありがとうございました。では、今週いっぱい休んでいただいて、来週にはグナーデの闇の沼地を浄化してください。…忙しくて、申し訳ない。これも全ては世界中の民のため。よろしくお願い致します」
「はい!頑張ります!」
そうして報告も終えた私達は、転移魔法でエルドラドに戻りました。
「…戻ったか」
「ティラン兄様!聞いて聞いて!」
「ああ、はいはい。詳しくはティータイムにな」
「国王陛下、報告が」
「なんだ?」
「フォルスがリンネ様を守り負傷し、リンネ様を泣かせました」
「…そうか。護衛騎士」
「はい」
「よくリンネを守ってくれた」
「はい」
「…だが。もう二度と、リンネを泣かせるな」
ティラン兄様は、フォルスの頭を思い切り殴ります。
「…はい」
「…俺はこれからリンネとティータイムだから、お前たちは好きにしろ」
そんなこんなで、今日もなんとかなりました!…フォルスは、一時はどうなることかと思いましたが、ヒーリングが効いてくれて本当によかったです。
ラスカースは別名医術の国ともいわれる、医術に特化した国です。世界的に珍しい、治療術師ではなく医師に頼る国です。しかしこの十年、闇の沼地が医師を目指す者が多く集まる街、アールツトに突如現れたため、新しい医師の確保が難しい状況のようです。そんな中で、アールツトは閉鎖され、アールツト以外の地区は問題なく暮らしているといいますが、アールツトの近隣の地区はいつも魔獣に怯えて過ごしていると聞きます。
今回もみんなと協力して、アールツトを救いラスカースの医術を取り戻してみせます!頑張ります!
「リンネ。怪我はするなよ」
「うん。ティラン兄様、ありがとう。フォルスがいるから大丈夫だよ!行ってきます!」
「いってこい。待ってる」
転移魔法で、ラスカース国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、ラスカース国王陛下はすぐに私の元へ駆け寄ります。そしてお辞儀をします。
「あのエルドラドの百合姫様が我々を救いに来てくださるなんて、こんなに有り難いことはありません!ありがとうございます、聖女様」
ラーイ国王陛下に続いて、臣下の皆さん達が跪きます。
「聖女様!どうかラスカースをお救いください!」
「はい、みんなで協力して頑張ります!」
「なんと頼もしい…。ヴァイス王太子殿下も来てくださったのですね、ありがとうございます」
「愛する婚約者をひとりで行かせるわけにはいきませんから」
二人は固い握手をします。
「失礼ですが、他の皆様は…?」
みんなを紹介します。
「こちらは我がエルドラドのターブルロンド辺境伯令息の、ノブルです」
「ラスカース国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ええ、ありがとうございます」
「こちらは我がエルドラドのファータ男爵令嬢の、ミレアです」
「ラスカース国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ご機嫌よう。お嬢さん、我がラスカースのためにありがとう」
「こちらは我がエルドラドの宮廷魔術師のレーグルです」
「ラスカース国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「宮廷魔術師殿が!?ありがとうございます!」
「こちらは私の護衛騎士のフォルスです」
「おお、護衛騎士ですか。我がラスカースにはない役職ですな。さぞ腕が立つのでしょう」
「いえ、俺はまだまだです」
「では、皆様、我がラスカースのアールツトをよろしくお願いします」
「はい!」
私達はアールツトへ転移魔法で移動します。…すると、そこは十年前まで栄えていたとは思えないほど朽ち果てていました。魔獣はいつもと同じで物陰に隠れています。そして、いつもと同じで私達を獲物だと思ったのかじりじりと迫ってきます。
「じゃあ、始めるよ!」
「はい、王女殿下!」
「さっそく魔力を供給しますね」
「俺もたまには魔法で吹っ飛ばしたりしたいんだけどね」
「そんなことしてたら魔力供給が追いつかないよ」
「前衛は任せてください!」
みんなと声をかけあい、魔力を私に回してもらいます。私はシュパリュへ魔力を回しつつ、シャパリュに命令をします。
「怪猫シャパリュ。妖精の王。…すべての妖精の力を束ね、魔獣どもを殺しなさい。…屠れ」
シャパリュは私の命令に、間髪いれずににゃおーんと返します。そして、今度はアールツト全体に響くようににゃおーんと大声を出します。すると、妖精の生息しないはずのアールツトは、闇の沼地から出た瘴気を癒すように暖かな光で満たされます。…シャパリュの妖精召喚です!
「…妖精の王、怪猫シャパリュか。いずれリンネと共に我がハイリヒトゥームに来るんだよね。…扱いきれるだろうか」
「不安なら婚約者辞退したら?リンネには俺もいるし」
「おや、殴られたいのかな?」
「レーグル、頼むから後にしてくれ」
「もう、ヴァイス王太子殿下、本気にしちゃダメですよ!」
「俺は本気なんだけど!」
「皆さん!…っ!今回は魔獣の数が異様に多いです、気をつけて!」
迫り来る魔獣を斬り殺すフォルス。ですが、そのフォルスの反対側から魔獣が私に向かって襲いかかってきます。
「…っ!王女殿下!」
俊敏な動きで駆け寄り私を守ってくれたフォルス。でもその代わりに。
「フォルス!腕が…っ!」
フォルスの左腕が、食い千切られます。このままじゃあフォルスが死んじゃう!死ななくても、もう護衛騎士としては…。
「王女殿下!こっちはなんとかするんで今は浄化に集中してください!」
「…ごめんなさい!」
一度止めてしまった魔力供給を再開すると、シャパリュはそのまま、四方八方に駆けていきます。そして、アールツト全体から魔獣たちの悲鳴、絶叫が聞こえ、シャパリュと満身創痍のフォルスのおかげで魔獣が粗方片付いた頃には、妖精達の光は眩いほどのものになります。そして…。
「…闇の沼地が消えた!」
「フォルス!大丈夫!?」
朽ち果てていた街並みもすっかり綺麗になっていますが、今はそれどころではありません。
「フォルスさん!」
「フォルス、ちょっとごめんね!」
フォルスの左腕を拾って元の位置にくっつけます。
「ヒーリング!ヒーリング、ヒーリング、ヒーリング!」
目を閉じて、祈りに集中します。お願い、くっついて!
「ヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリングヒーリング!」
「…王女殿下」
フォルスに名前を呼ばれてそっと目を開ける。腕は…!
「くっついてる!」
「ありがとうございます、王女殿下のおかげです。なんなら、ヒーリングの重ね掛けでめっちゃ元気ですよ」
「…っ!フォルス!」
フォルスに抱きつきます。
「お、王女殿下…!?」
「よかった、本当によかった!…わ、私っ…フォルスが死んじゃうって…生きててももう一緒にはいられないかもって…ぐすっ」
泣かないようにと思っていたのに、一気に緊張が解けたせいでつい泣いてしまいます。
「王女殿下…すみません、もう、こんなヘマしないんで」
「うん、うん!」
ー…
しばらく経ってから落ち着いた私は反省中です。
「ご、ごめんね、取り乱して」
「いえいえ、そんな…」
「フォルス」
「はい」
がっ…!と音がします。フォルスがいきなりヴァイス様に殴られました。
「ヴァイス様!?」
「リンネを泣かせた罰。僕は嬉し泣き以外でリンネを泣かせた奴は許さないって決めてるから」
「はい。すみませんでした」
「じゃあ俺からも一発」
今度はレーグルまで!思いっきり痛そうな音してるし!
「二人とも!」
「いいんです、王女殿下」
「でも!」
「フォルス、喜べ。私は君を殴らない」
にっこりと笑うノブル君。
「その代わり、このことはティラン国王陛下に伝えておく」
「ちょっと!やめてくださいよ!」
「フォルスさん」
「はい」
まさかミレアさんまで!?
「私は殴らないです。その代わり、もう二度と王女殿下を泣かせないでください」
「はい」
重く頷くフォルス。
「リンネはフォルスに文句無いの?」
「えっ…フォルスが無事ならそれでいいよ」
「そう。リンネは優しいね」
ヴァイス様が私の頭を撫でます。
「さて、今回は医術の国だ。せっかくだし医術というのがどういうものなのか見ていこうか」
「いいですね、勉強になります」
「俺は、今回迷惑かけたんで付き合います」
「俺も医術っていうの見てみたいな」
「じゃあ、ラスカース国王陛下のところに行っちゃおうか」
転移魔法で、ラスカース国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、ラスカース国王陛下はすぐに私の元へ駆け寄り、手を握ってきます。
「ラスカース国王陛下」
「聖女様!闇の沼地の浄化が上手くいったのですよね!?」
ラスカース国王陛下に続いて、臣下の皆さんも跪きます。
「聖女様!アールツトを、ラスカースをお救いくださりありがとうございました!」
「聖女様万歳!」
「万歳!」
「ラスカース万歳!」
「万歳!」
「アールツト万歳!」
「万歳!」
みんな大盛り上がりです。
「聖女様…本当に、本当にありがとうございます!」
ラスカース国王陛下はそのまま私の手を両手で握りしめ、涙を流して喜びます。…役に立てて良かった。
「いえ、みんなが手伝ってくれたからです」
「皆様も、本当にありがとうございます」
ラスカース国王陛下は、みんなと固い握手を交わします。
「ところで、ラスカース国王陛下」
「はい、なんでしょうか?」
「是非我々に『医術』というものを見せていただきたいのですが、どうでしょうか?」
一瞬きょとんとするラスカース国王陛下。そして。
「もちろんですとも。医術の真髄をお見せします」
笑顔で引き受けてくれました。
ー…
ということで、私達は今病院に来ています。前世のおかげで病院を知っている私はともかく、みんなは見慣れない施設に興味津々です。
「ここが『病院』…」
「ふーん。確かに清潔だね」
「真っ白ですね…」
「なんか、背筋が伸びます」
「私の領の治療術師にも見習わせた方がいいかもしれないな…」
「ふふ。初めての病院はなんとなく緊張するでしょう」
そしてラスカース国王陛下の案内で、手術衣に着替えます。
「これから皆様には『手術』というものを見ていただきます。あまり血に慣れていない皆様にはショックが強いかもしれないので、無理だと思ったら言ってください」
「はい!」
「今回の手術は、体内の『癌』と呼ばれるものを取り除く手術です。お前たち、よろしく頼む」
「お任せください、国王陛下!…では、皆様、今から体を開いて癌を取り除き、縫い合わせますのでお覚悟を」
「え?なに?」
「体を…開く?」
「縫い合わせるって、体を?」
みんなが戦々恐々とします。知らないと恐怖だよね、わかる。
でも、落ち着いているお医者様の様子にみんな不思議とごくりと喉を鳴らしつつも興味津々に見つめている。
お医者様は、患者さんに改めて麻酔の説明をし、投与します。
「ますいって何?」
「話を聞く限り、意識を朦朧とさせ手術を円滑に進めるためのもの…のようだ」
「意識がある状態で体を開かれるとか冗談じゃないですからね」
「では始めます」
ー…
手術は無事終了しました。はい、お見事です。
「…俺、最初こそ吐きそうになったけど途中から見入っちゃった」
「とてつもない速さで体を開いたと思ったら、癌をあっという間に取るんだもんな」
「でもその手に人の命がかかっていると思うと…『医師』という存在に、敬意を払わずにはいられない」
「かっこよかったです…!」
「やはり私の領でも…医師の導入を考えるべきなのか…?」
「治療術師さんももちろん素晴らしい仕事だけど、それと同じくらいお医者様も素晴らしい仕事だよね」
「そう言っていただけると光栄です」
「今日は勉強になりました、ありがとうございました!」
そうして私達は、医術について少し学んだ後、ルリジオンの教皇様の元へ転移魔法で移動します。
「教皇猊下!ラスカースの闇の沼地、浄化出来ました!」
「さすがは百合姫様。ありがとうございました。では、今週いっぱい休んでいただいて、来週にはグナーデの闇の沼地を浄化してください。…忙しくて、申し訳ない。これも全ては世界中の民のため。よろしくお願い致します」
「はい!頑張ります!」
そうして報告も終えた私達は、転移魔法でエルドラドに戻りました。
「…戻ったか」
「ティラン兄様!聞いて聞いて!」
「ああ、はいはい。詳しくはティータイムにな」
「国王陛下、報告が」
「なんだ?」
「フォルスがリンネ様を守り負傷し、リンネ様を泣かせました」
「…そうか。護衛騎士」
「はい」
「よくリンネを守ってくれた」
「はい」
「…だが。もう二度と、リンネを泣かせるな」
ティラン兄様は、フォルスの頭を思い切り殴ります。
「…はい」
「…俺はこれからリンネとティータイムだから、お前たちは好きにしろ」
そんなこんなで、今日もなんとかなりました!…フォルスは、一時はどうなることかと思いましたが、ヒーリングが効いてくれて本当によかったです。
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ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
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