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音楽の国、イストワール
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ご機嫌よう。リンネアル・サント・エルドラドです。昨日はなんと、聖女に認定されてしまいました。今日はみんなと一緒に聖女としての初のお仕事、イストワールの闇の沼地の浄化をしに行きます!
イストワールは別名音楽の国ともいわれる、音楽に特化した国です。世界的に有名な音楽家は、ほとんどイストワール出身だったりします。しかしこの二十年、闇の沼地が首都ズィルベに突如現れたため、首都は閉鎖され、音楽に時間をかける余裕もなくなり、いつも魔獣に怯えて過ごしていると聞きます。
聖女になってしまったものは仕方がないので、みんなと協力して、ズィルベを救いイストワールに音楽を取り戻してみせます!頑張ります!
「リンネ。気をつけて行ってこい」
「うん。ティラン兄様、頑張ってくるね」
「…ターブルロンドのご子息。ヴァイス。宮廷魔術師。護衛騎士。ファータのご令嬢。これだけいれば大丈夫か」
「ノブルです。国王陛下が心配なさることはありません」
「そうです、私達が王女殿下を必ずお守りします!」
「魔力供給なら俺に任せてよ」
「僕もリンネに魔力供給してあげる。僕とレーグルとノブルとミレア嬢で力を合わせればさすがに魔力の枯渇で倒れることはないからね」
「はい!」
フォルスはヴァイス様の言葉に少し悔しそうに俯きます。
「…俺には魔力がないんで、その辺では役に立てません。…でも」
フォルスは顔を上げます。
「絶対絶対、王女殿下をお守りしますから!」
そんなフォルスに勇気付けられます。私も、頑張って聖女としての役割を果たしてみせる!
「じゃあ、そろそろ時間だな。ズィルベへの転移魔法を許可する」
「はーい、行ってきます!」
私達はズィルベへ転移魔法で移動します。…すると、そこは二十年前まで栄えていたとは思えないほど朽ち果てていました。魔獣は転移魔法を使った時に驚いて逃げたのか、物陰に隠れています。…が、私達を見て獲物だと思ったのかじりじりと迫ってきます。
「じゃあ、始めるよ!」
「はい!」
「任せてよ」
「魔獣との遭遇は久しぶりですね」
「おや、ノブルは魔獣と遭遇したことがあるんだね」
「前衛は任されましたんで、やっちゃってください!」
みんなと声をかけあい、魔力を私に回してもらいます。私はシュパリュへ魔力を回しつつ、シャパリュに命令をします。
「怪猫シャパリュ。妖精の王。…すべての妖精の力を束ね、魔獣どもを殺しなさい。…屠れ」
シャパリュは私の命令に、間髪いれずににゃおーんと返します。そして、今度はズィルベ全体に響くようににゃおーんと大声を出します。すると、妖精の生息しないはずのズィルベは、闇の沼地から出た瘴気を癒すように暖かな光で満たされます。…シャパリュの妖精召喚です!
「…やっぱり、怪猫はすごいな。僕の魔力をリンネに注いでいるのに、リンネが魔力過多にならないなんて」
「シャパリュは力がある分、魔力の消費量も半端ではないですから」
「無駄口叩いてる暇があるならリンネに魔力を供給してよね!」
「おや、天才宮廷魔術師殿はもう限界なのかい?」
「バカ言わないでよ!このくらい余裕なんだから!」
「もう、ヴァイス王太子殿下、あまりレーグルさんをからかわないでください」
「レーグルはこのくらい煽らないと余裕かまして本気を出さないんだからほっといていいよ」
「ちょっとノブルそれどういう意味!?」
「俺は迫り来る魔獣相手に苦戦してるのに…っ!皆さん余裕ですね!」
いらついたように吐き捨て、そのまま迫り来る魔獣を斬り殺すフォルス。本当に強くなったなぁ。
シャパリュはそのまま、四方八方に駆けていきます。そして、ズィルベ全体から魔獣たちの悲鳴、絶叫が聞こえ、シャパリュとフォルスのおかげで魔獣が粗方片付いた頃には、妖精達の光は眩いほどのものになります。そして…。
「…闇の沼地が消えたな」
「妖精達がリンネ様の聖力を最大限に引き出したようです」
朽ち果てていた街並みもすっかり綺麗になっています!
「私全然自分でやったって実感がないよ」
「何言ってるのさ君。リンネが頑張ってシャパリュを使ったからこうして闇の沼地を浄化出来たんでしょ」
「そうですわ!王女殿下はすごくかっこよかったです!」
「ありがとう。フォルスも、かっこよかったよ」
「…王女殿下をお守りすることが、俺の何よりの誇りですから」
そう言ってはにかむフォルスは可愛い。
「さて、ルリジオンの教皇様に報告に行かなきゃね」
「もう、ヴァイス王太子殿下!せっかくここまで来たんですもの。少し王女殿下とご一緒に観光するべきですわ!」
「え、いいのかな?」
「どうせこの国の国王様にも報告しなきゃいけないんだし、多少順番が逆転してもいいんじゃない?」
「俺は、王女殿下が危なくないならなんでもいいです」
「リンネ様とかの有名な音楽の国を楽しめるなら、私は文句はありません」
「じゃあ、もし怒られる時にはみんなで怒られようか」
「…ふふ、じゃあ、リンネと思う存分デートさせてもらおうかな」
転移魔法で、イストワール国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、イストワール国王陛下はすぐに私の元へ跪きます。
「あ、や、やめてください、イストワール国王陛下!」
「いえ、いいえ、大国エルドラドの百合姫様が我々を救いに来てくださったのです!こんなに有り難いことはない!」
イストワール国王陛下に続いて、惚けていた臣下の皆さんも跪きます。
「聖女様!どうかイストワールをお救いください!」
いやいや。いやいやいや。
「あの、そのことなんですけど…」
「はい!」
…。
「もう、ズィルベの闇の沼地、浄化しちゃいました…」
…。
「…えっと。今、なんと?」
…。
「浄化しちゃいました…」
皆さん惚けています。そりゃそうだ。次からはまずその国の国王陛下にご挨拶してから浄化しよう。
ー…
しばらく経って、ようやく状況を飲み込めた皆さんはズィルベを見に走っていきます。そして綺麗に浄化された闇の沼地跡と、同じく綺麗に浄化された街並みを見てうぉおおおお!と鬨の声を上げます。
「聖女様万歳!」
「万歳!」
「ズィルベ万歳!」
「万歳!」
みんな大盛り上がりです。
「聖女様…本当に、本当にありがとうございます!」
イストワール国王陛下は私の手を両手で握りしめ、涙を流して喜びます。…役に立てて良かった。
「いえ、みんなが手伝ってくれたからです」
「ヴァイス王太子殿下、ありがとうございます」
「いえ、僕はリンネに魔力供給しただけですので」
二人は固い握手をします。
「失礼ですが、他の皆様は…?」
みんなを紹介します。
「こちらは我がエルドラドのターブルロンド辺境伯令息の、ノブルです」
「イストワール国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「これはご丁寧に。我がイストワールを救ってくださってありがとうございます」
「こちらは我がエルドラドのファータ男爵令嬢の、ミレアです」
「イストワール国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ご機嫌よう。お嬢さん、我がイストワールを救ってくださってありがとう」
「こちらは我がエルドラドの宮廷魔術師のレーグルです」
「イストワール国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「宮廷魔術師殿まで!ありがとうございます!」
「こちらは私の護衛騎士のフォルスです」
「おお、あの魔獣どもから聖女様をお守りくださったのですね。どうもありがとう」
「いえ、それが俺の役目なので」
私達が和気藹々と話をしていると、平民の女の子がとことことやってきます。
「あの、聖女様」
「どうしたの?」
「こ、これ。この方は聖女様だ。いくら我がイストワールの臣下とはいえ、気軽に話しかけては…」
「あ、いいんです、国王陛下」
「…なんとお心の広い」
「あのね、ズィルベに元々住んでたみんなでね、聖女様にお礼がしたいの」
「え?」
「私は生まれた時からザイールに住んでたけど、ママもパパもズィルベに住んでたの。だから、音楽でお礼がしたいの」
音楽でお礼かぁ。雅だなぁ。
「いいの?じゃあお願いするね」
「聖女様、それなら我がイストワールの宮廷音楽家達に…」
「いえ、国王陛下。ぜひ皆さんの音楽を聞きたいんです」
国王陛下を止めて、みんなの音楽をぜひ聞かせて欲しいとお願いします。するとズィルベ出身と思われる皆が集まり、パイプ椅子を置いて私達を座らせてくれて、それぞれ得意な楽器を持ち寄って即興で演奏会を開いてくれました。
まず、一曲目。…一曲目で、私達は今までの『音楽』というものについての認識を改めさせられました。音楽とは、言葉の壁も信仰も、文化の違いも超える、素晴らしい叡智の結晶なのだと。ただダンスの際に彩りとして添えられるものではないのだと。
でも。だからこそ、私達はただ聞いているだけでは足りなくなってしまいました。二曲目が始まると、私達は我先にと立ち上がって、踊り出します。私とヴァイス様、ノブル君とミレアさん、レーグルとフォルスまで。手を繋いで、軽やかに難しいステップをくるくる、くるくると舞い踊ります。
二曲目の優しい音楽に合わせ、難しいステップだけれども表現がより豊かになるものを選び、演奏にちょっとしたタイミングのズレが出来れば、それも一つの表現として楽しみ、音が外れたところでも、笑顔で楽しく踊ります。
私達は、この素晴らしい演奏と私達のダンスが今、確かに一つの芸術として昇華されるのがわかりました。きっと、宮廷音楽家の誰とも違う、ズィルベの、本当に音楽を愛した民だからこそのこの演奏。
タイミングのズレがなんでしょう。音の外れがなんでしょう。きっと、今この瞬間のこの演奏に勝る音楽はありません!そう、音楽を愛した民の、愛する故郷に捧げる音楽。これこそが、音楽なのです!
そして私達のダンス。音楽の中の音楽に支えられて、心から楽しむダンスは、ステップの一つ一つがとても軽やかで、楽しい。見ている誰もを魅了するダンス。ただ美しいだけでも、ただ楽しいだけでもない、自由なダンス。
二曲目が終わる時には、私が聖女に認定された時以上の拍手と喝采に包まれていました。
次の、三曲目はちょっと特殊な曲でした。まるで自分達の故郷が突如として現れた闇の沼地に奪われた時の、激情を表現するかのような曲でした。
最初は、優しい、穏やかな午後の日常を表すような長閑な雰囲気。家族との時間、のんびりと農作業をする風景、友との語らい、鳥のさえずり、赤ん坊の泣き声、子供達の走り回る姿、老人達の井戸端会議、みんなの趣味の音楽の時間。
しかし曲調は突然変わります。闇の沼地の出現、魔獣達による徹底的な破壊。あるものは家族を失い、あるものは家を失い、みんなが故郷を失い、絶対的な絶望感が全てを支配します。
これをダンスで表現するのはかなり至難の業です。しかし、一度踊り出したからには、この音楽に応えたい。そう思いました。大胆なターン、鮮やかなステップ、背中の反らし方、指先の動き、体全体を使ってこの音楽を表現して見せます。
私達が音楽に応えれば応えるだけ、音楽に更に重厚さが増して、より深みが出ます。そしてそれに、また私達も全霊を掛けて応えます。
宮廷音楽家などお呼びではない。これは私達とズィルベの民だけの芸術。タイミングがズレようが、音を外そうが、この狂おしいほどの故郷への愛を表現するには、ズィルベの民の音楽こそが必要なのです。
…と、長いはずが短く感じる時間が終わり、三曲目も終わります。
しーん…と、静寂がその場を包みます。
そして…!
「ブラボー!」
「上手いぞ!」
「素晴らしい!」
拍手と歓声でズィルベが湧きます!
「国王陛下、ズィルベの皆様。最高の音楽をありがとうございました!」
「こちらこそ、最高のダンスをありがとうございます!」
「いつかまた、ご一緒したいです!」
「ええ、またいつか!」
こうして私達は、感動に心を震わせたままルリジオンの教皇様の元へ転移魔法で移動します。
「教皇猊下!イストワールの闇の沼地、浄化出来ました!」
「おや、もう終わりましたか。さすがは百合姫様。今代の聖女様は優秀ですね」
「えへへ…ありがとうございます」
「では、今週いっぱい休んでいただいて、来週にはラーイの闇の沼地を浄化してください。…忙しくて、申し訳ない。これも全ては世界中の民のため。よろしくお願い致します」
「はい!頑張ります!」
そうして報告も終えた私達は、転移魔法でエルドラドに戻りました。
「…戻ったか」
「ティラン兄様!あのね、すごかったんだよ!」
「ああ、はいはい。詳しくはティータイムにな。…お前たち、よくリンネを守ってくれた」
「はい!これからも頑張ります!」
「まあ俺にかかれば余裕です」
「僕はリンネの婚約者ですから、当然です」
「私も、リンネ様のお役に立てて光栄です」
「俺はただ、魔獣を斬っただけなんで…」
「そうか。ご苦労だったな。俺はこれからリンネとティータイムだから、お前たちは好きにしろ」
そんなこんなで、今日はなんとかなりました!…今後も上手く浄化出来ればいいな。
イストワールは別名音楽の国ともいわれる、音楽に特化した国です。世界的に有名な音楽家は、ほとんどイストワール出身だったりします。しかしこの二十年、闇の沼地が首都ズィルベに突如現れたため、首都は閉鎖され、音楽に時間をかける余裕もなくなり、いつも魔獣に怯えて過ごしていると聞きます。
聖女になってしまったものは仕方がないので、みんなと協力して、ズィルベを救いイストワールに音楽を取り戻してみせます!頑張ります!
「リンネ。気をつけて行ってこい」
「うん。ティラン兄様、頑張ってくるね」
「…ターブルロンドのご子息。ヴァイス。宮廷魔術師。護衛騎士。ファータのご令嬢。これだけいれば大丈夫か」
「ノブルです。国王陛下が心配なさることはありません」
「そうです、私達が王女殿下を必ずお守りします!」
「魔力供給なら俺に任せてよ」
「僕もリンネに魔力供給してあげる。僕とレーグルとノブルとミレア嬢で力を合わせればさすがに魔力の枯渇で倒れることはないからね」
「はい!」
フォルスはヴァイス様の言葉に少し悔しそうに俯きます。
「…俺には魔力がないんで、その辺では役に立てません。…でも」
フォルスは顔を上げます。
「絶対絶対、王女殿下をお守りしますから!」
そんなフォルスに勇気付けられます。私も、頑張って聖女としての役割を果たしてみせる!
「じゃあ、そろそろ時間だな。ズィルベへの転移魔法を許可する」
「はーい、行ってきます!」
私達はズィルベへ転移魔法で移動します。…すると、そこは二十年前まで栄えていたとは思えないほど朽ち果てていました。魔獣は転移魔法を使った時に驚いて逃げたのか、物陰に隠れています。…が、私達を見て獲物だと思ったのかじりじりと迫ってきます。
「じゃあ、始めるよ!」
「はい!」
「任せてよ」
「魔獣との遭遇は久しぶりですね」
「おや、ノブルは魔獣と遭遇したことがあるんだね」
「前衛は任されましたんで、やっちゃってください!」
みんなと声をかけあい、魔力を私に回してもらいます。私はシュパリュへ魔力を回しつつ、シャパリュに命令をします。
「怪猫シャパリュ。妖精の王。…すべての妖精の力を束ね、魔獣どもを殺しなさい。…屠れ」
シャパリュは私の命令に、間髪いれずににゃおーんと返します。そして、今度はズィルベ全体に響くようににゃおーんと大声を出します。すると、妖精の生息しないはずのズィルベは、闇の沼地から出た瘴気を癒すように暖かな光で満たされます。…シャパリュの妖精召喚です!
「…やっぱり、怪猫はすごいな。僕の魔力をリンネに注いでいるのに、リンネが魔力過多にならないなんて」
「シャパリュは力がある分、魔力の消費量も半端ではないですから」
「無駄口叩いてる暇があるならリンネに魔力を供給してよね!」
「おや、天才宮廷魔術師殿はもう限界なのかい?」
「バカ言わないでよ!このくらい余裕なんだから!」
「もう、ヴァイス王太子殿下、あまりレーグルさんをからかわないでください」
「レーグルはこのくらい煽らないと余裕かまして本気を出さないんだからほっといていいよ」
「ちょっとノブルそれどういう意味!?」
「俺は迫り来る魔獣相手に苦戦してるのに…っ!皆さん余裕ですね!」
いらついたように吐き捨て、そのまま迫り来る魔獣を斬り殺すフォルス。本当に強くなったなぁ。
シャパリュはそのまま、四方八方に駆けていきます。そして、ズィルベ全体から魔獣たちの悲鳴、絶叫が聞こえ、シャパリュとフォルスのおかげで魔獣が粗方片付いた頃には、妖精達の光は眩いほどのものになります。そして…。
「…闇の沼地が消えたな」
「妖精達がリンネ様の聖力を最大限に引き出したようです」
朽ち果てていた街並みもすっかり綺麗になっています!
「私全然自分でやったって実感がないよ」
「何言ってるのさ君。リンネが頑張ってシャパリュを使ったからこうして闇の沼地を浄化出来たんでしょ」
「そうですわ!王女殿下はすごくかっこよかったです!」
「ありがとう。フォルスも、かっこよかったよ」
「…王女殿下をお守りすることが、俺の何よりの誇りですから」
そう言ってはにかむフォルスは可愛い。
「さて、ルリジオンの教皇様に報告に行かなきゃね」
「もう、ヴァイス王太子殿下!せっかくここまで来たんですもの。少し王女殿下とご一緒に観光するべきですわ!」
「え、いいのかな?」
「どうせこの国の国王様にも報告しなきゃいけないんだし、多少順番が逆転してもいいんじゃない?」
「俺は、王女殿下が危なくないならなんでもいいです」
「リンネ様とかの有名な音楽の国を楽しめるなら、私は文句はありません」
「じゃあ、もし怒られる時にはみんなで怒られようか」
「…ふふ、じゃあ、リンネと思う存分デートさせてもらおうかな」
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「…聖女様!」
私達を見た途端、イストワール国王陛下はすぐに私の元へ跪きます。
「あ、や、やめてください、イストワール国王陛下!」
「いえ、いいえ、大国エルドラドの百合姫様が我々を救いに来てくださったのです!こんなに有り難いことはない!」
イストワール国王陛下に続いて、惚けていた臣下の皆さんも跪きます。
「聖女様!どうかイストワールをお救いください!」
いやいや。いやいやいや。
「あの、そのことなんですけど…」
「はい!」
…。
「もう、ズィルベの闇の沼地、浄化しちゃいました…」
…。
「…えっと。今、なんと?」
…。
「浄化しちゃいました…」
皆さん惚けています。そりゃそうだ。次からはまずその国の国王陛下にご挨拶してから浄化しよう。
ー…
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「聖女様万歳!」
「万歳!」
「ズィルベ万歳!」
「万歳!」
みんな大盛り上がりです。
「聖女様…本当に、本当にありがとうございます!」
イストワール国王陛下は私の手を両手で握りしめ、涙を流して喜びます。…役に立てて良かった。
「いえ、みんなが手伝ってくれたからです」
「ヴァイス王太子殿下、ありがとうございます」
「いえ、僕はリンネに魔力供給しただけですので」
二人は固い握手をします。
「失礼ですが、他の皆様は…?」
みんなを紹介します。
「こちらは我がエルドラドのターブルロンド辺境伯令息の、ノブルです」
「イストワール国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「これはご丁寧に。我がイストワールを救ってくださってありがとうございます」
「こちらは我がエルドラドのファータ男爵令嬢の、ミレアです」
「イストワール国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ご機嫌よう。お嬢さん、我がイストワールを救ってくださってありがとう」
「こちらは我がエルドラドの宮廷魔術師のレーグルです」
「イストワール国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「宮廷魔術師殿まで!ありがとうございます!」
「こちらは私の護衛騎士のフォルスです」
「おお、あの魔獣どもから聖女様をお守りくださったのですね。どうもありがとう」
「いえ、それが俺の役目なので」
私達が和気藹々と話をしていると、平民の女の子がとことことやってきます。
「あの、聖女様」
「どうしたの?」
「こ、これ。この方は聖女様だ。いくら我がイストワールの臣下とはいえ、気軽に話しかけては…」
「あ、いいんです、国王陛下」
「…なんとお心の広い」
「あのね、ズィルベに元々住んでたみんなでね、聖女様にお礼がしたいの」
「え?」
「私は生まれた時からザイールに住んでたけど、ママもパパもズィルベに住んでたの。だから、音楽でお礼がしたいの」
音楽でお礼かぁ。雅だなぁ。
「いいの?じゃあお願いするね」
「聖女様、それなら我がイストワールの宮廷音楽家達に…」
「いえ、国王陛下。ぜひ皆さんの音楽を聞きたいんです」
国王陛下を止めて、みんなの音楽をぜひ聞かせて欲しいとお願いします。するとズィルベ出身と思われる皆が集まり、パイプ椅子を置いて私達を座らせてくれて、それぞれ得意な楽器を持ち寄って即興で演奏会を開いてくれました。
まず、一曲目。…一曲目で、私達は今までの『音楽』というものについての認識を改めさせられました。音楽とは、言葉の壁も信仰も、文化の違いも超える、素晴らしい叡智の結晶なのだと。ただダンスの際に彩りとして添えられるものではないのだと。
でも。だからこそ、私達はただ聞いているだけでは足りなくなってしまいました。二曲目が始まると、私達は我先にと立ち上がって、踊り出します。私とヴァイス様、ノブル君とミレアさん、レーグルとフォルスまで。手を繋いで、軽やかに難しいステップをくるくる、くるくると舞い踊ります。
二曲目の優しい音楽に合わせ、難しいステップだけれども表現がより豊かになるものを選び、演奏にちょっとしたタイミングのズレが出来れば、それも一つの表現として楽しみ、音が外れたところでも、笑顔で楽しく踊ります。
私達は、この素晴らしい演奏と私達のダンスが今、確かに一つの芸術として昇華されるのがわかりました。きっと、宮廷音楽家の誰とも違う、ズィルベの、本当に音楽を愛した民だからこそのこの演奏。
タイミングのズレがなんでしょう。音の外れがなんでしょう。きっと、今この瞬間のこの演奏に勝る音楽はありません!そう、音楽を愛した民の、愛する故郷に捧げる音楽。これこそが、音楽なのです!
そして私達のダンス。音楽の中の音楽に支えられて、心から楽しむダンスは、ステップの一つ一つがとても軽やかで、楽しい。見ている誰もを魅了するダンス。ただ美しいだけでも、ただ楽しいだけでもない、自由なダンス。
二曲目が終わる時には、私が聖女に認定された時以上の拍手と喝采に包まれていました。
次の、三曲目はちょっと特殊な曲でした。まるで自分達の故郷が突如として現れた闇の沼地に奪われた時の、激情を表現するかのような曲でした。
最初は、優しい、穏やかな午後の日常を表すような長閑な雰囲気。家族との時間、のんびりと農作業をする風景、友との語らい、鳥のさえずり、赤ん坊の泣き声、子供達の走り回る姿、老人達の井戸端会議、みんなの趣味の音楽の時間。
しかし曲調は突然変わります。闇の沼地の出現、魔獣達による徹底的な破壊。あるものは家族を失い、あるものは家を失い、みんなが故郷を失い、絶対的な絶望感が全てを支配します。
これをダンスで表現するのはかなり至難の業です。しかし、一度踊り出したからには、この音楽に応えたい。そう思いました。大胆なターン、鮮やかなステップ、背中の反らし方、指先の動き、体全体を使ってこの音楽を表現して見せます。
私達が音楽に応えれば応えるだけ、音楽に更に重厚さが増して、より深みが出ます。そしてそれに、また私達も全霊を掛けて応えます。
宮廷音楽家などお呼びではない。これは私達とズィルベの民だけの芸術。タイミングがズレようが、音を外そうが、この狂おしいほどの故郷への愛を表現するには、ズィルベの民の音楽こそが必要なのです。
…と、長いはずが短く感じる時間が終わり、三曲目も終わります。
しーん…と、静寂がその場を包みます。
そして…!
「ブラボー!」
「上手いぞ!」
「素晴らしい!」
拍手と歓声でズィルベが湧きます!
「国王陛下、ズィルベの皆様。最高の音楽をありがとうございました!」
「こちらこそ、最高のダンスをありがとうございます!」
「いつかまた、ご一緒したいです!」
「ええ、またいつか!」
こうして私達は、感動に心を震わせたままルリジオンの教皇様の元へ転移魔法で移動します。
「教皇猊下!イストワールの闇の沼地、浄化出来ました!」
「おや、もう終わりましたか。さすがは百合姫様。今代の聖女様は優秀ですね」
「えへへ…ありがとうございます」
「では、今週いっぱい休んでいただいて、来週にはラーイの闇の沼地を浄化してください。…忙しくて、申し訳ない。これも全ては世界中の民のため。よろしくお願い致します」
「はい!頑張ります!」
そうして報告も終えた私達は、転移魔法でエルドラドに戻りました。
「…戻ったか」
「ティラン兄様!あのね、すごかったんだよ!」
「ああ、はいはい。詳しくはティータイムにな。…お前たち、よくリンネを守ってくれた」
「はい!これからも頑張ります!」
「まあ俺にかかれば余裕です」
「僕はリンネの婚約者ですから、当然です」
「私も、リンネ様のお役に立てて光栄です」
「俺はただ、魔獣を斬っただけなんで…」
「そうか。ご苦労だったな。俺はこれからリンネとティータイムだから、お前たちは好きにしろ」
そんなこんなで、今日はなんとかなりました!…今後も上手く浄化出来ればいいな。
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