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「ねえ、百合」

「はい」

「君は恋をしたことはありますか?」

「まあそりゃあ…小さな頃は幼い恋心くらいは近くにいた男子に向けてましたけど」

「へぇ…ジェラシー、感じちゃいますね」

辰巳さんはそう言って笑う。

本気かどうかは読めない。

「辰巳さんは恋は?」

「僕はないですね。だから、これが初恋です」

「え」

いつも通り微笑んだまま、いつもの調子で告げられる。

本気かどうかはやはり読めない。

「まあぶっちゃけ、君と契約した時からこうなることは薄々感じてたんですけどね」

「え」

「龍ですから。運命的なものは、初めから感じるんですよ」

冗談。

それにしては、本気すぎる気がした。

「だから僕は怖い。この穏やかな日々を自分の手で終わらせるのが」

「辰巳さん」

「だからね」

辰巳さんは私の手を握る。

「君の身体を食べて胃液で溶かすだけじゃなくて、残った君の魂も取り込んでしまってもかまいませんか?」

「え」

「溶けて消えるなんて許さない。僕の血肉となるだけでなく、魂も永遠に僕に縛り付けられて?」

本気、なのだろうか。

私は消えたくて辰巳さんに願い事を託したのに、本末転倒だ。

でも。

「ずっと、辰巳さんと一緒にいられるなら」

「ええ、君が受け入れてくれるのならずっと一緒です」

「…いいですよ、魂も辰巳さんにあげます」

辰巳さんはちょっと驚いた表情をみせて、そのあと嬉しそうに、でも泣いてしまいそうな表情で笑った。

「ふふ、よかった」

「…辰巳さん」

「愛しています。できれば、こんな契約を破棄してしまいたいくらいには」

「辰巳さん」

「でも、君はそれを望まないでしょう?僕も、君と穏やかな日々を過ごしたい一方で君を食べてしまいたくてうずうずしていますし」

…嬉しい。

そんな風に思ってくれるなんて。

「だからせめて、魂ごともらいますね」

「…はい」

それは私にとっても、幸せだ。
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