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人の世

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「さあ、それでは早速下界に降りましょうか!」

「そうですね」

「ああその前に。君はどんな人間なのです?」

「どんな人間…?」

「それに合わせて擬態しましょう」

にっこりと笑って告げられる。

「私は…」

「ええ」

「児童擁護施設の前に捨てられていた赤子で、肉親がいるかどうかすらわかりません」

「ふむ」

「国にもらった名前は、岩瀬百合」

百合ですか、可愛い名前ではないですか!なんて彼は笑う。

「無垢、純粋。死にたがりの君には似つかわしくない花言葉ですがね」

「喧嘩を売ってますか」

「いいえ?似つかわしくないからこそ良い」

彼は私の頬を撫でた。

「そんな君だから、興味を持った。いずれ僕を満足させてくれれば、美味しく食べてあげますからね」

「…龍神様は、悪趣味です」

「ふふ、よく言われます。続けて?」

「今は児童擁護施設を出て、コンビニでアルバイトをしながら食いつないでいます」

「おやおや」

ニコニコ笑いながら彼は相槌を打つ。

「食べ物に好き嫌いはないです。あとは…誕生日は一応、四月一日…ということになっています」

「おや、エイプリルフール!君は誕生日まで面白いですね!」

「…疲れる」

「おや、何故ですか?」

「貴方のせいですが」

他に何がある。

「まあ良いでしょう。他に伝えておくべきことはありますか?」

「いえ」

「では、僕は君の幼馴染に擬態しましょう。児童擁護施設の頃から、そばにいた幼馴染。辰巳という名前にしましょうか」

「戸籍とかは?」

「適当に呪いでちょちょいのちょいですよ」

「わあ、神様って便利」

辰巳さんが指を鳴らした瞬間、私の中に存在しない記憶が流れた。

多分他の人はもっと強力に暗示をかけられている。

そして辰巳さんの手の中には戸籍入りの住民票。

「ついでにバイト先は君と一緒、シフトも必ず君と一緒なので」

「わぁ」

徹底してるなこの神様。

「ちなみに住む家も君と一緒なので」

「同棲中の幼馴染カップルの設定ですものね」

「あ、ちゃんと偽の記憶流れ込んでますね。よかった。君にだけは偽の記憶とわかるようにしていますが、他の人は本当の記憶だと思ってますから上手くやってくださいね」

ニコニコと言われるけれど、やめてほしい。

「どうしてまた同棲中の幼馴染カップルに?」

「君に興味があって君と一緒に下界に降りるのです。君に張り付く理由は必要でしょう?僕は君に首ったけで、いわゆるヤンデレ男子…ということにすれば、理由にはなります」

「最悪の理由ですけどね」

「まあまあ!せっかくですし楽しみましょうよ」

ニコニコと告げられて、仕方なく頷く。

まったく、しょうがない人だ。

人じゃないけど。
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