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悪役令嬢になろうとしたけれどいつのまにか王太子攻略していました。

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悪役令嬢に生まれ変わってしまったので、役割を全うしますわ!

はじめまして、ご機嫌よう。私、アロガン・ユートピーと申します。公爵令嬢ですわ。そして…この乙女ゲームの世界の悪役令嬢ですの!

あ、待ってくださいまし。冗談ではありませんわ。私には、前世の記憶がありますの。

私は、『日本』という恵まれた国に生まれたごく普通の平民の子供でしたの。平民といっても、かなり恵まれた環境にいましたわ。その世界ではそれが普通でしたの。そして『高校』という場所に通っていましたの。この世界でいう学園ですわね。

そこでハマっていた『乙女ゲーム』。王太子や貴公子達と異世界から来た少女がらぶらぶになるゲームがあったのですが、私、前世では不慮の事故で亡くなってしまいまして、気付いたら赤ちゃんになっていましたの。そして、その乙女ゲームの世界の悪役令嬢に異世界転生したのが発覚しましたの。

悪役令嬢、アロガン・ユートピー。王太子の婚約者にして、王太子にとってのトラウマ。それが私ですわ。そして、公爵家の人間として、とにかく権力、財力、地位に恵まれた令嬢ですの。

いくら前世が恵まれた環境だったとはいえ、前世では考えられなかった素晴らしいお金持ち生活に私は溺れましたわ。もちろん、その分義務は果たしておりますわよ?勉強も、令嬢として必要な社交もちゃんとこなしておりますわ。

ですが私は悪役令嬢。そちらの役割も担っていかねばなりません。そうしなければ、誰も幸せになれませんもの。

ということで、もう十年も前に遡りますけれど、ちゃんと王太子の婚約者になりましたわ。

あれは八歳の『王妃様主催のお茶会』という名の王太子…この時にはまだ第一王子だったシャルルー・シエル殿下の婚約者を定める場でのことでした。シャルルー殿下にもっとも相応しいのは公爵令嬢たる私だとごり押しして婚約者の座を勝ち取りましたの。

「はじめまして。ご機嫌よう、レディー。君のような美しい方が自ら婚約者になってくれるなんて、光栄だな」

そう言って、私を婚約者として認めてくれたシャルルー殿下。不覚にもその綺麗な笑顔に一目惚れしてしまいました。私は、振られる当て馬役なのにね。…でも、それでも私は、貴方の幸せのために悪役令嬢になりますわ。

「改めてはじめまして、シャルルー殿下。私を婚約者にしていただけますか?」

「もちろん。光栄だと言っただろう?」

「ありがとうございます!」

どうせ私は当て馬役、という悲しみをひた隠し、私は蕩けるような笑みを浮かべます。シャルルー殿下は何故かお顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまいます。私、なにか気に触るようなことをしたかしら?でも、都合がいいわね。私は、これからこの方に嫌われなければならないのだから。

それからは、毎日第一王子の婚約者としてお城で教育を受けました。そして、私はその忙しい間の隙間を縫って、シャルルー殿下にありとあらゆる嫌がらせをしました。

会うたび会うたび、私の成績の優秀さを自慢し、シャルルー殿下がひとりで黙々と第一王子としての仕事をこなしていれば邪魔をしに行き、お友達と遊んでいるシャルルー殿下を見つけては手を引いてその輪から引き摺り出し、虫を捕まえては虫が苦手なシャルルー殿下にプレゼントし、私の使い古した中古のおもちゃを『お下がり』として与え、城に行く日は必ず私の下手くそな手作り弁当を持参して無理矢理食べさせました。これでトラウマになったことでしょう。

さて、後は異世界転移してくる主人公を待つだけ。私の初恋は儚く散るのです。私もそろそろ、きちんとしたお相手を見つけなければ。

ということで最近はお城にはできる限り行かず、夜会やお茶会、殿方との出会いがある場所には全部行きました。しかし、私は一応まだ婚約者のいる身。あまり派手なことはできません。せいぜい、いいなと思う男性と『お友達』になる程度。ですが、主人公とシャルルー殿下がくっついたあかつきには私も自由の身。その時のための布石にはなるはずですわ。

ー…

ある日のこと。ついに聖女…主人公が異世界転移してきました。そして何ヶ月か経ち、そろそろ婚約破棄の話が来るのかなと思っていた日。ついにシャルルー殿下が私を訪ねてきました。…ああ、ついにこの日が来てしまったのですね。

「久しぶりだね、アロ」

「シャルルー殿下…」

嫌だな。聞きたくないな。

「何かご用事ですか?」

「…うん。僕達にとっての大事な話」

…ああ、やっぱり。

「…どうしても、ですか」

「うん。どうしても」

「…そうですわよね。私が至らないばかりにすみませんでした」

「いや、そこまで追い詰められていた君に何もできなかったのは僕だ」

…え?

「あの、シャルルー殿下。一体なんの話です?」

「なにって…最近君が城での妃教育を放棄していることについてだよ?」

「え?でも、私達は婚約破棄するのですよね?」

「は?」

「え?」

重い沈黙が流れている。なんだろう、辛い。

「…どうやら、僕達はちょっとお話をする必要があるね」

「え、ええ」

なに?もしかして。主人公はシャルルー殿下のルートを選ばなかったの?一番人気だったのに?

「…まず。妃教育を放棄したのはなぜ?」

「どうせ婚約破棄されるしいいやと思って…」

「…」

シャルルー殿下の無表情と無言が怖い!

「…なんで婚約破棄されると思ったの?」

「だって…聖女様が…」

「うん。…あー、うん。確かに彼女には言い寄られたけど、ちゃんと躱してるし公爵令息のアーロンに投げたから。婚約破棄なんてしないよ」

嘘。シャルルー殿下は主人公より私を選んでくれたってこと?

「でも、聖女が現れるより前から婚約破棄されるって思っていたってことだよね?僕、なにか不安にさせるようなことした?」

ぎくり。

「…だって私、シャルルー殿下に迷惑をかけてばかりで」

「そんな。君なりの愛情表現だったんだろう?」

「え」

そんな風に見えてたの?私の渾身の意地悪。

「とりあえず、僕は君とこれからも婚約者でいたいし、行く行くは結婚したい。だめかい?」

「…い、いいえ。光栄ですわ」

「では、もう馬鹿なことは考えてはいけないよ」

…猛省します。

「愛しているよ、アロ」

「私も…ずっとお慕いしておりました。シャルルー殿下」

こうして私達は、すれ違いも乗り越えてらぶらぶカップルになれたのでした。
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