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裏切られたんだから見捨てたっていいよね?

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…こんな国なら、滅びてしまえばいい。

はじめまして、ご機嫌よう。私、聖女ミレーヌ・サントと申します。ただいま、この時を以って教会から逃げ出そうと思います。

理由は単純。婚約者である王太子オーバン・イディオ殿下の裏切りを知ってしまったからです。殿下は平凡な平民、ナデージュ・シャグランを愛してしまわれたようです。今日、聖女としてのお祈りがいち段落して久々に学園に行ってみたら、人目も憚らずいちゃいちゃしていました。そして、誰もそれを咎めませんでした。…つまりはずっと私は裏切られていたということです。

私は、物心ついた頃からこれまで、ずっとずっと聖女として扱われてきました。それは、決していいことばかりではなく、むしろ平民の方がよほど良い暮らしをしていると言っても過言ではないものでした。衣食住に困ることはないけれど、毎日大量のお仕事に目が回るようでした。お祈り、信者達一人一人への祝福、魔獣達が国内に入り込まないように結界も張り、亡くなった者には次の生での幸せを祈り、生まれてきた者には今世での幸せを祈り。毎日、それを一人でこなすのは苦痛でした。自由な時間すら、ほとんどありませんでしたから。それでも、それを耐えられたのは。…オーバン様に、本気で恋をしていたから。いつか、オーバン様と結婚出来る日を夢見て、私は…私は…!

だから、もういいのです。…私一人を犠牲にして、みんなが幸せになるようなこんな国、滅びてしまえばいい。…私は、もう逃げ出します。聖女なんて懲り懲りです。

そうして私は、着の身着のまま飛び出しました。

ー…

国外へと逃亡して、教会から逃げ出して早三年。結局、私が元いた国…ラマンタスィヨンは滅びました。祝福と結界がなくなったことで大地は痩せ、経済は回らなくなり、政も上手くいかず、さらに魔獣達が国内に入り込んでしまったため多くの人が犠牲になったといいます。私を逃してしまった教会と王家は真っ先に革命軍の標的となり、特にオーバン殿下とその浮気相手であるナデージュは斬首され晒し首にされたとか。他の王族方も斬首されたそうです。

私は今、隣国のルコネッサンスで平民として生きています。名前も、ミレイユに改名しました。姓はどうせ孤児なのでなくてもいいかなと思っていたのですが。

「ミレイユ!迎えにきたよ。まったくもう、一人でこんなところまできたら危ないだろう?」

「ジョシュア!」

オーバン殿下の死を知った後出会った、平民の男性、ジョシュア・グラチチュードと結婚して、今はミレイユ・グラチチュードという名前で生活しています。

「向こうにある国境を越えたら魔獣達の巣に入ってしまうよ?まあ、騎士団の人達が見守ってくれてるから大丈夫だとは思うけど…これからはもうこんなところに来ちゃダメだよ」

そう。今はラマンタスィヨンは魔獣達の巣になってしまいました。ですが私は、そこになんの感傷もありません。…元々、私一人を犠牲にして成り立っていた国ですもの。

「それに、今は君一人の身体じゃないんだから」

そう、私は今、ジョシュアの子供を身籠っています。

「わかったわ。気をつける」

「そうしてくれると助かるよ」

私はこれからは、聖女ではなく母として。国ではなく家庭を守っていこうと思います。
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