67 / 103
ナタリーに相談してみます
しおりを挟む
暗い気分のまま家に帰ります。家に帰るとエルが私に向かって猛烈なスピードで飛んできました。慌てて受け止めます。結構な衝撃でしたが、可愛いので問題ありません。
「おかえりなさいませ、お嬢様!今日も学園は楽しかったですか?お友達の皆様はお元気でしたか?」
「…クリス様もティナ様もジェシー様もお元気でした。安心しました。学園で過ごす時間は、今までと変わらずとても楽しいものです。でも、ナタリー。私は悪い子なのでしょうか…」
「ええええええ!?どうしたんですかお嬢様!?誰かに何か言われましたか?何かされました?」
「違うんですナタリー…全部私が悪くって…」
「と、とりあえずお部屋に戻りましょう!蜂蜜たっぷりのホットミルクをお持ちしますから、少しだけでも飲みませんか?」
「…はい」
「甘ーいホットミルクに癒されながら、たくさんお話してください。案外今とは別の答えが見つかるかもしれませんよ」
「ありがとう、ナタリー」
部屋に戻って、ナタリーに手伝ってもらって制服から着替える。その間に他の使用人がホットミルクを持ってきてくれた。一口飲むと優しい甘さが広がって、心が落ち着きます。
「それで、何があったんですか?」
「えっと…学園で今度ダンスパーティーがあるでしょう?」
「はい、存じ上げております」
「そのダンスパーティーのパートナー、私はまだ決まっていなくて」
「だ、大丈夫ですよ!パートナーが決まっていなくても参加できるそうですから!」
「ありがとう。でも、そこは一人でもいいやって思って気にしていなくて…お友達と楽しめればそれでいいし…」
「そ、そうなのですね…」
…自分で言っててちょっと悲しいです。
「それで、ダンスパーティーのパートナーとして誰を誘うか、クリス様に本当になんとなく聞いてみたんです」
「…なんとなくですか?」
「はい。そしたらクリス様は誰かは言えないけれど好きな子を誘うって仰られて…」
「…ふむぅ。それでお嬢様はどう感じられたのですか?」
「なんだかすごく辛かったんです。悲しくて、苦しくて、胸を刺すような痛みを感じて。クリス様は大切なお友達なのに、その恋を応援しなきゃいけないのに、私…すごく嫌な気持ちになってしまって…応援なんて、出来そうになくて…」
「…うーん、なるほど。お嬢様。本当に気付いてらっしゃらないのですか?」
「え」
ナタリーは真剣な表情で私を見つめて来ます。
「お嬢様。自分で自分の気持ちに蓋をしていませんか?考えないようにしていませんか?」
「何を…」
「お嬢様。お嬢様は以前のお嬢様とはもう違います。政略結婚のためだけに生かされていた、それだけに価値を見出されていたお嬢様ではありません。誰からも愛されて、必要とされる。それが今のお嬢様です。旦那様は、政略結婚よりもお嬢様の気持ちを尊重した恋愛結婚を望まれています。だから、ご自分の気持ちに正直になってもいいのですよ、お嬢様」
ナタリーの言葉がじわじわと心に染み込みます。
「自分の…気持ち…?」
「お嬢様はクリス様のことをどう思いますか?」
「大切なお友達…」
「それ以外で、どんなことでも構いません」
「優しくて、かっこよくて。一緒にいると温かくて、甘やかしてくださって、ほわほわして、頭を撫でてもらえるのが大好きで」
「はい」
「笑顔が素敵で、ティナ様とジェシー様に対するちょっと砕けた感じの付き合い方が少し羨ましくて、スキンシップ恐怖症を治してくださった方で、甘え方を教えてくださった方で、あの声が好きで…」
「はい」
「好き…そう、好きなんです。好き、好き…好き」
ああ、やっと気付いた。私は、クリス様が多分…。
「好きになってしまいました…」
涙がぼろぼろと溢れます。こんなに温かな気持ちを知れて幸せで、でもクリス様には好きな方がいらっしゃる。私の思いは届くはずもない。こんなにも幸せで、こんなにも辛い。ああ、ジェシー様の仰られていた〝その胸の痛みは、幸せなものに変わる〟とは、こういうことだったのですね。たしかに、これはすごく幸せです。でも、だからこそすごくすごく辛い。でも。
「気付けて良かった…」
…明日。クリス様をダンスパーティーのパートナーとしてお誘いしましょう。当たって砕けろです。そして、今度こそお友達としてクリス様の恋を応援しましょう。だから今だけは、この気持ちを大切にさせてください。この気持ちを伝えさせてください。それだけで、私は幸せなのです。
「お嬢様。もう大丈夫ですか?」
「はい。ありがとう、ナタリー。見ないようにしていた、大切なことに気付けました」
「お嬢様。ナタリーはいつだってお嬢様の味方ですからね!」
「はい。大好きです、ナタリー」
「私もお嬢様が大好きです!」
甘いホットミルクを飲み干して、この甘い気持ちを確かめる。甘くて苦い、初めての恋の味。これはきっと、たとえ当たって砕けても、生涯私の宝物になるのでしょう。
「おかえりなさいませ、お嬢様!今日も学園は楽しかったですか?お友達の皆様はお元気でしたか?」
「…クリス様もティナ様もジェシー様もお元気でした。安心しました。学園で過ごす時間は、今までと変わらずとても楽しいものです。でも、ナタリー。私は悪い子なのでしょうか…」
「ええええええ!?どうしたんですかお嬢様!?誰かに何か言われましたか?何かされました?」
「違うんですナタリー…全部私が悪くって…」
「と、とりあえずお部屋に戻りましょう!蜂蜜たっぷりのホットミルクをお持ちしますから、少しだけでも飲みませんか?」
「…はい」
「甘ーいホットミルクに癒されながら、たくさんお話してください。案外今とは別の答えが見つかるかもしれませんよ」
「ありがとう、ナタリー」
部屋に戻って、ナタリーに手伝ってもらって制服から着替える。その間に他の使用人がホットミルクを持ってきてくれた。一口飲むと優しい甘さが広がって、心が落ち着きます。
「それで、何があったんですか?」
「えっと…学園で今度ダンスパーティーがあるでしょう?」
「はい、存じ上げております」
「そのダンスパーティーのパートナー、私はまだ決まっていなくて」
「だ、大丈夫ですよ!パートナーが決まっていなくても参加できるそうですから!」
「ありがとう。でも、そこは一人でもいいやって思って気にしていなくて…お友達と楽しめればそれでいいし…」
「そ、そうなのですね…」
…自分で言っててちょっと悲しいです。
「それで、ダンスパーティーのパートナーとして誰を誘うか、クリス様に本当になんとなく聞いてみたんです」
「…なんとなくですか?」
「はい。そしたらクリス様は誰かは言えないけれど好きな子を誘うって仰られて…」
「…ふむぅ。それでお嬢様はどう感じられたのですか?」
「なんだかすごく辛かったんです。悲しくて、苦しくて、胸を刺すような痛みを感じて。クリス様は大切なお友達なのに、その恋を応援しなきゃいけないのに、私…すごく嫌な気持ちになってしまって…応援なんて、出来そうになくて…」
「…うーん、なるほど。お嬢様。本当に気付いてらっしゃらないのですか?」
「え」
ナタリーは真剣な表情で私を見つめて来ます。
「お嬢様。自分で自分の気持ちに蓋をしていませんか?考えないようにしていませんか?」
「何を…」
「お嬢様。お嬢様は以前のお嬢様とはもう違います。政略結婚のためだけに生かされていた、それだけに価値を見出されていたお嬢様ではありません。誰からも愛されて、必要とされる。それが今のお嬢様です。旦那様は、政略結婚よりもお嬢様の気持ちを尊重した恋愛結婚を望まれています。だから、ご自分の気持ちに正直になってもいいのですよ、お嬢様」
ナタリーの言葉がじわじわと心に染み込みます。
「自分の…気持ち…?」
「お嬢様はクリス様のことをどう思いますか?」
「大切なお友達…」
「それ以外で、どんなことでも構いません」
「優しくて、かっこよくて。一緒にいると温かくて、甘やかしてくださって、ほわほわして、頭を撫でてもらえるのが大好きで」
「はい」
「笑顔が素敵で、ティナ様とジェシー様に対するちょっと砕けた感じの付き合い方が少し羨ましくて、スキンシップ恐怖症を治してくださった方で、甘え方を教えてくださった方で、あの声が好きで…」
「はい」
「好き…そう、好きなんです。好き、好き…好き」
ああ、やっと気付いた。私は、クリス様が多分…。
「好きになってしまいました…」
涙がぼろぼろと溢れます。こんなに温かな気持ちを知れて幸せで、でもクリス様には好きな方がいらっしゃる。私の思いは届くはずもない。こんなにも幸せで、こんなにも辛い。ああ、ジェシー様の仰られていた〝その胸の痛みは、幸せなものに変わる〟とは、こういうことだったのですね。たしかに、これはすごく幸せです。でも、だからこそすごくすごく辛い。でも。
「気付けて良かった…」
…明日。クリス様をダンスパーティーのパートナーとしてお誘いしましょう。当たって砕けろです。そして、今度こそお友達としてクリス様の恋を応援しましょう。だから今だけは、この気持ちを大切にさせてください。この気持ちを伝えさせてください。それだけで、私は幸せなのです。
「お嬢様。もう大丈夫ですか?」
「はい。ありがとう、ナタリー。見ないようにしていた、大切なことに気付けました」
「お嬢様。ナタリーはいつだってお嬢様の味方ですからね!」
「はい。大好きです、ナタリー」
「私もお嬢様が大好きです!」
甘いホットミルクを飲み干して、この甘い気持ちを確かめる。甘くて苦い、初めての恋の味。これはきっと、たとえ当たって砕けても、生涯私の宝物になるのでしょう。
21
お気に入りに追加
3,308
あなたにおすすめの小説
この度、呪われてしまった騎士団長との婚約を我儘な姉から押し付けられまして
アルト
恋愛
ルシア・アルヴァルトには秘密にしている事があった。それは、己が前世『魔女』と呼ばれていた過去。国と民に尽くした偉大な魔法師は、膨れ上がる名声から謀反を危惧した王族と貴族諸侯によって『魔女』という忌むべき存在に仕立て上げられ、国を追われた。
そんなルシアはある日、姉から婚約話を押し付けられる事になる。
相手の名前はイグナーツ・ロドリゲス。
民を守る騎士団の長として、国に尽くしてきた傑物であったが、魔族との戦闘により、彼は呪いを受けてしまう。
そのせいでこれまでの貢献はなかったかのように誰もが手のひら返し。
呪いによって変貌した見た目のせいで、誰もが彼の存在を忌避するようになる。
だが、そんな彼の婚約者立場を姉から押し付けられたルシアは、かつての己と重なって見えたイグナーツを助けようと決めた。
【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。
櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。
才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。
敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。
新たな婚約者候補も…。
ざまぁは少しだけです。
短編
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
嫌われ王女はパン屋の娘
りう
恋愛
緑に囲まれ、肥沃な泉と精霊に守られる国があった。
その国の名をトリムルトと言う。
小国には、王子が三人、王女が二人いた。王子のそれぞれ賢明で民の誇りであったが、それとは別に王女は美しさで特に世間に知られていた。
それはそれは美しい王女が二人。
しかし、その二人それぞれの評判は異なる。
一人は「我儘王女」、もう一人は「聖なる王女」といわれていた。
我儘王女はある日、止むに止まれぬ事情で大国に嫁ぐ。
嫁ぎ先の王子は妹を愛していて、姉である彼女を嫌っていた。
「だからなんだって言うんですの? 私もおことわりよ」
王女の目的はただひとつ
「この婚姻が破棄された暁には、私正式にパン屋になれますの!」
利用されるだけの人生に、さよならを。
ふまさ
恋愛
公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。
アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。
アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。
──しかし。
運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
虐げられ令嬢、辺境の色ボケ老人の後妻になるはずが、美貌の辺境伯さまに溺愛されるなんて聞いていません!
葵 すみれ
恋愛
成り上がりの男爵家に生まれた姉妹、ヘスティアとデボラ。
美しく貴族らしい金髪の妹デボラは愛されたが、姉のヘスティアはみっともない赤毛の上に火傷の痕があり、使用人のような扱いを受けていた。
デボラは自己中心的で傲慢な性格であり、ヘスティアに対して嫌味や攻撃を繰り返す。
火傷も、デボラが負わせたものだった。
ある日、父親と元婚約者が、ヘスティアに結婚の話を持ちかける。
辺境伯家の老人が、おぼつかないくせに色ボケで、後妻を探しているのだという。
こうしてヘスティアは本人の意思など関係なく、辺境の老人の慰み者として差し出されることになった。
ところが、出荷先でヘスティアを迎えた若き美貌の辺境伯レイモンドは、後妻など必要ないと言い出す。
そう言われても、ヘスティアにもう帰る場所などない。
泣きつくと、レイモンドの叔母の提案で、侍女として働かせてもらえることになる。
いじめられるのには慣れている。
それでもしっかり働けば追い出されないだろうと、役に立とうと決意するヘスティア。
しかし、辺境伯家の人たちは親切で優しく、ヘスティアを大切にしてくれた。
戸惑うヘスティアに、さらに辺境伯レイモンドまでが、甘い言葉をかけてくる。
信じられない思いながらも、ヘスティアは少しずつレイモンドに惹かれていく。
そして、元家族には、破滅の足音が近づいていた――。
※小説家になろうにも掲載しています
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる