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墓穴を掘り続けヤバいものを目覚めさせたお話
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「おいこら逃げるな、そこに正座しろ…はい、正座!!!」
「…はい」
「で、どういうことなわけ?」
にっこり笑う愛おしい人に血の気が引く。
ごめんよ…色々。
本当に色々。
事の発端は、前世の記憶を思い出したこと。
私は前世、日本という国の女子高生だった。愛読書の「可愛らしいお姫様」という小説を飽きもせず毎日読んでいた。
病気になってからもそれは変わらず、助からないと知った時にはこの小説の世界に転生したいなぁなんて馬鹿げたことを思ったものだ。
…まあ、死ぬのが怖くて現実逃避していたのが本音なのだがまさか叶ってしまうとは。だったら病気が治りますように、を叶えてくれよ。
まあ、うん、結局はそう、今世の私は「可愛らしいお姫様」に出てくるヒロインちゃんのライバルキャラクター…所謂悪役令嬢という奴である。
『ローラン様、ローラン様!』
『しつこいな君は!』
『だって好きなんですもの!』
とこのようにローラン様…最推しである婚約者、ヒロインちゃんの愛する人を追いかけ回す迷惑な女なわけである。
精一杯良い言い方をすれば…嫉妬深いし寂しがりな甘えたがりの女で、明け透けに言うならばメンヘラなとっても地雷の面倒な女だ。
小説ではヒロインちゃんを暗殺しようとして断罪され、最終的にローラン様直々に首を切られた。
…でも、よりによってヒロインちゃんとローラン様が出会いましたよってタイミングで前世を思い出した!!!
せめてその前なら対策のしようもあったのに!
『…ローラン様、あの子をどう思いました?』
『ニア、もしもあの子に手を出したら許さない』
ちょっと聞いただけでこの反応だよ…完全に詰みだよ…。
ヒロインちゃんに惹かれてるんだろうし、私に信用ゼロ!
ハイ終わり!
こうなったら命を落とさないためにも、こちらから身を引くしかない…。
となって作戦を立てたのが三ヶ月前のこと。
『作戦一、ローラン様と接触を断つ』
うん、簡単だった。
ローラン様から連絡が来ることはないので、近寄らないだけで済んだ。
『作戦二、ヒロインちゃんとの接触を断つ』
ヒロインちゃんと万が一にも接触しないようにした。
ヒロインちゃんに嫌われたり、ローラン様から睨まれたらたまらない。
そのために私は「外に出ない」ことを選んだ。
『作戦三、一人で生きていけるようにする』
ヒロインちゃんとローラン様が出会ってから三年で二人はゴールインだ。
人気すぎて超長編作品だったので仕方がない。
なのでヒロインちゃんとローラン様が出会ってから二年目くらいの日を目安に、出奔しようと思ってる。
前世の知識と今世の知識…だけでは正直不安なので、平民の生活を理解を深めるためと言って勉強している。
お勉強はヒロインちゃん対策で外に出ないための言い訳にもなる。
「…ローラン様は前世の最推し、今世の愛おしい婚約者。諦めるのは心苦しいけど、殺されるよりマシ」
我慢だ。
正直今すぐ顔を見たいが我慢だ。
そう思ってたのに。
ローラン様が今日になって、私を訪ねていらしたのだ。
会わないわけにもいかず、先に中庭で待つという彼のもとへ行く。
「で?」
開口一番、彼はそう言った。
「え…」
「何企んでるの」
「何も企んでいません」
悲しい…信用がない…!
くそぅ過去の自分が恨めしい!
「ならなんで会いに来ないの」
「必要がないので…」
私の言葉が気に入らないのか、彼は眉をひそめる。
「…必要がない?」
「はい…」
だって私、貴方にとって要らない子なので。
「あんなに毎日付きまとってたくせに?」
「すみません、もうしません…身を引きます」
「…は?」
遠回しに決別を宣言して、部屋に逃げ帰ろうとしたのだが。
「おいこら逃げるな、そこに正座しろ…はい、正座!!!」
「…はい」
「で、どういうことなわけ?」
にっこり笑う愛おしい人に血の気が引く。
ごめんよ…色々。
本当に色々。
「その、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。もう付きまといません」
「…あのさ」
「はい」
「その心変わりの理由はなに?」
なんだかとても逆らっちゃいけない空気を感じる。
とはいえ前世の話なんてできないし。
「その…好きな人が」
ローラン様に好きな人が出来たようなので身を引きます、なんて逆に重い気がする。
その先が口から出てくれない。
「好きな、人…?」
驚愕に目を見開いた彼は、正座する私のためにわざわざ膝をついて私の肩を掴む。
いつも迷惑がりながらも紳士的な彼。
でも、今は私の肩を掴む力が尋常じゃない。暴力的なくらいだ。
「は、え、いつ…?どこで知り合ったの…?え?」
聞いていない、とうわ言のように言い始めた彼になんだか不安になる。
様子がおかしいが、大丈夫だろうか。
「あの、ローラン様」
「ニア。浮気は有り得ないと思うんだけど」
「え」
浮気とはなんぞや。
むしろそれはこちらのセリフでは。
「…まあ、いいや。あのさ、婚約は解消してやらないからね」
「え」
「家同士の約束なんだ。君に覆せるはずがない。好きな人がいようがいまいが、君は僕のモノになる他ない。出奔しようが、どうせすぐに見つかるから無駄だよ。わかった?」
にっこり、また笑った彼はどこか吹っ切れた表情に。
しかしそれではまずい。
つまり、家同士の約束のためにローラン様とヒロインちゃんの幸せが潰される…!
こ、こうなったら、私が犠牲になってでも致命的な…婚約破棄に繋がる行動をせねば!
でも暗殺未遂はさすがに怖いから嫌。もっと穏便な方法で…そうだ!私の醜聞を垂れ流せばいい!
「僕はもう帰るけど、馬鹿なことは考えないでね。今更逃がさないよ」
そうだよね、こっち有責の婚約破棄でもないと手放せないよね!
悲しいけど、ローラン様のため…汚名を被ろう!
でも実際醜聞って…結婚前からの不貞とか?
「…よし!」
心当たりが一人だけいる!
なんとかなる!
「…ローランと婚約破棄したいから、協力しろ?」
「そう!人前で私と浮気してるふりして!」
「別にいいっすけど」
「話がわかるー!」
ローラン様の従兄のヴィルジール様。
この人は昔から私に甘いので頼りになるのだ。
彼は理由があってローラン様以外の親族と縁を切って自立して生活していて、婚約者とかもいないので他の人に協力させるのと比べればそこまで迷惑はかけないだろう。
「けどなんで俺なんすか」
「頼れる人が他にいないから!」
「そっすか。じゃあ、行きましょうか?姫君」
「え?」
「人前で浮気しているフリをするんでしょ」
差し伸べられた手を取る。
外に、デートに出かけた。
「ニアさん、見てくださいっす。これ、すげーの」
「え、パフェでかっ…」
「油断しました。一緒に食べてくださいっす」
「あいあい」
二人で一つのパフェを食べたり、時々あーんとかしたり。
手を繋いで歩いたり、一緒に気安く遊んだり。
今までの人生で初めての楽しいデートになって、ちょっと困惑。
嫌々付いてきてくださったローラン様を引っ張り回すだけのデートしかしたことなかった。
そして前世ではデート自体経験がなかった。
「あの…」
「はいっす」
「デートって、なんか…楽しいんだね…?」
困惑する私に、ヴィルジール様はちょっと驚いて…微笑んだ。
「あいつが大切にしてくれなかったなら、俺が大切にしてあげますよ」
「え」
「俺を選んで欲しいっす」
…これは、フリ?
本音?
ときめく胸は、どうやって落ち着かせればいいのだろう。
「あ、えっと…」
「はい、そこまで」
冷たい声が響いた。
「え」
「ゲームオーバー」
そう言って私の肩を抱き寄せるのはローラン様。
「婚約者にバレないように、愛する人と逢瀬を?無理無理、人の口に戸は立てられないんだよ。実際こうしてすぐに迎えに来れた」
声に怒りが滲んでいて、顔をまともに見れない。
ただ、抱き寄せられた肩が痛い。
「しかし…まさか浮気相手がヴィルジールとは。意外だね、君身分差は理解してたはずなのに」
「…一応俺もあんたの従兄なんすけど」
「勘当されておいてよく言う…泥棒猫。こいつは返してもらうから」
「…あの、ローラン様」
「お前は黙ってろ」
めちゃくちゃ怒ってる…でもローラン様の幸せのためには必要なことなのに。
「そうやってあんたがニアさんを大事にしないからここまで拗れたんでしょうが」
「は?最大限大事にしてる」
「愛してるって言いました?好きって伝えました?相手の喜ぶことをしてあげようとしました?」
「…」
「出来ないのなら俺にくださいっす」
ヴィルジール様がそう言った瞬間、ローラン様は魔術で攻撃を仕掛けた。
ヴィルジール様はスレスレのところで避ける。
「魔術も使えない半端者が、大口を叩かないでくれる?」
「…そっすね。でも、これ以上ニアさんがあんたに苦しめられるのは見たくないっす」
「ぐちゃぐちゃとうるさいな…従兄だからと加減したが、本気で殺してやろうか」
ああ、これ以上ヒートアップするのはまずい。
「ご、ごめんなさいローラン様っ…」
「謝られてもさぁ」
「お願い、もうしませんから…」
「…じゃあ、今日から俺の部屋に監禁していい?それならヴィルジールのことは許してあげる」
コクコクと頷く。
ヴィルジール様は止めようとしてくれたけど、結局私はローラン様に連れられて部屋に入れられた。
ここまで大ごとになると思わず軽率にヴィルジール様を巻き込んでしまったので、申し訳ない…でもとりあえず無事で済んでよかった。
「…で?」
「はい」
「あいつのどこが良かったの?」
…えっと。
「デートが…楽しかったです…?」
「どうして」
「優しくしてくれて、歩み寄ってくれて…大切にされてるみたいで…」
私がそう言うと、ローラン様は舌打ちをした。
と、思ったら優しく私を抱きしめた。
「え」
「ほら…僕も君を大切にしてるよ」
「え」
離してくれたと思ったら顔中にキスを落とされる。
「好きだよ、好き、好き」
「え、あ、え」
「愛してる…」
…これはどういうことだろうか。
「だから、ここでずっと僕に監禁されてね。逃げる事は今度こそ許さないよ」
「ローラン様、あの」
「愛してる。どうかこれ以上僕を狂わせないで」
ヒロインちゃんは?
とはもう聞けなかった。
僕の婚約者は僕をイラつかせる天才だ。
最愛の人、病弱な幼馴染を亡くして俺は自殺した。目が覚めたら幼馴染のお気に入りの小説の設定に酷似した世界で、ヒロインのお相手役の男に転生していた。
馬鹿みたいな展開に頭を抱えていたが、その後神に感謝した。何故って、婚約者である小説の悪役令嬢が…幼馴染そのものだったから。
見た目こそ悪役令嬢の姿だが、ふとした仕草があいつそのもので。悪役令嬢のニアならしないような慈悲深い言動で人々から愛されていた。だから、あいつだと確信したのだ。
けれどあいつは前世のことなど思い出さない。俺を好きだと宣うくせに思い出さない。あいつが好きなのは「ローラン様」だけ。俺じゃない。
だから俺は、「ローラン様」になりきった。あいつは僕を心から愛した。
なのに、ヒロインと僕が接触した頃からあいつは僕に近寄らなくなった。
ヒロインには微塵も興味がなかったが、あいつに見せつけるように接触してやったのが良くなかったのか。
前世のことを思い出したのかと思って、整理する時間も与えようと放置したのが間違いだった。
あいつは浮気をしていたらしい。愛おしいその口から、僕への拒絶や「好きな人が…」なんて言葉が出た時には気が狂うかと思った。
おまけに浮気相手が、僕と一番仲の良い従兄だと知ってもう限界だった。
連れ帰って、部屋に監禁した。
「好き」とか「愛してる」とか、今まで言えなかった言葉を必死に紡ぐが届いているのか怪しい。
ヒロインであるあの子には適当な男をあてがった。案外すんなり靡いたから楽だった。
従兄はしつこくあいつを解放しろというが、知ったこっちゃない。
あいつは、僕だけの…俺だけの可愛らしいお姫様なんだから。
「…はい」
「で、どういうことなわけ?」
にっこり笑う愛おしい人に血の気が引く。
ごめんよ…色々。
本当に色々。
事の発端は、前世の記憶を思い出したこと。
私は前世、日本という国の女子高生だった。愛読書の「可愛らしいお姫様」という小説を飽きもせず毎日読んでいた。
病気になってからもそれは変わらず、助からないと知った時にはこの小説の世界に転生したいなぁなんて馬鹿げたことを思ったものだ。
…まあ、死ぬのが怖くて現実逃避していたのが本音なのだがまさか叶ってしまうとは。だったら病気が治りますように、を叶えてくれよ。
まあ、うん、結局はそう、今世の私は「可愛らしいお姫様」に出てくるヒロインちゃんのライバルキャラクター…所謂悪役令嬢という奴である。
『ローラン様、ローラン様!』
『しつこいな君は!』
『だって好きなんですもの!』
とこのようにローラン様…最推しである婚約者、ヒロインちゃんの愛する人を追いかけ回す迷惑な女なわけである。
精一杯良い言い方をすれば…嫉妬深いし寂しがりな甘えたがりの女で、明け透けに言うならばメンヘラなとっても地雷の面倒な女だ。
小説ではヒロインちゃんを暗殺しようとして断罪され、最終的にローラン様直々に首を切られた。
…でも、よりによってヒロインちゃんとローラン様が出会いましたよってタイミングで前世を思い出した!!!
せめてその前なら対策のしようもあったのに!
『…ローラン様、あの子をどう思いました?』
『ニア、もしもあの子に手を出したら許さない』
ちょっと聞いただけでこの反応だよ…完全に詰みだよ…。
ヒロインちゃんに惹かれてるんだろうし、私に信用ゼロ!
ハイ終わり!
こうなったら命を落とさないためにも、こちらから身を引くしかない…。
となって作戦を立てたのが三ヶ月前のこと。
『作戦一、ローラン様と接触を断つ』
うん、簡単だった。
ローラン様から連絡が来ることはないので、近寄らないだけで済んだ。
『作戦二、ヒロインちゃんとの接触を断つ』
ヒロインちゃんと万が一にも接触しないようにした。
ヒロインちゃんに嫌われたり、ローラン様から睨まれたらたまらない。
そのために私は「外に出ない」ことを選んだ。
『作戦三、一人で生きていけるようにする』
ヒロインちゃんとローラン様が出会ってから三年で二人はゴールインだ。
人気すぎて超長編作品だったので仕方がない。
なのでヒロインちゃんとローラン様が出会ってから二年目くらいの日を目安に、出奔しようと思ってる。
前世の知識と今世の知識…だけでは正直不安なので、平民の生活を理解を深めるためと言って勉強している。
お勉強はヒロインちゃん対策で外に出ないための言い訳にもなる。
「…ローラン様は前世の最推し、今世の愛おしい婚約者。諦めるのは心苦しいけど、殺されるよりマシ」
我慢だ。
正直今すぐ顔を見たいが我慢だ。
そう思ってたのに。
ローラン様が今日になって、私を訪ねていらしたのだ。
会わないわけにもいかず、先に中庭で待つという彼のもとへ行く。
「で?」
開口一番、彼はそう言った。
「え…」
「何企んでるの」
「何も企んでいません」
悲しい…信用がない…!
くそぅ過去の自分が恨めしい!
「ならなんで会いに来ないの」
「必要がないので…」
私の言葉が気に入らないのか、彼は眉をひそめる。
「…必要がない?」
「はい…」
だって私、貴方にとって要らない子なので。
「あんなに毎日付きまとってたくせに?」
「すみません、もうしません…身を引きます」
「…は?」
遠回しに決別を宣言して、部屋に逃げ帰ろうとしたのだが。
「おいこら逃げるな、そこに正座しろ…はい、正座!!!」
「…はい」
「で、どういうことなわけ?」
にっこり笑う愛おしい人に血の気が引く。
ごめんよ…色々。
本当に色々。
「その、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。もう付きまといません」
「…あのさ」
「はい」
「その心変わりの理由はなに?」
なんだかとても逆らっちゃいけない空気を感じる。
とはいえ前世の話なんてできないし。
「その…好きな人が」
ローラン様に好きな人が出来たようなので身を引きます、なんて逆に重い気がする。
その先が口から出てくれない。
「好きな、人…?」
驚愕に目を見開いた彼は、正座する私のためにわざわざ膝をついて私の肩を掴む。
いつも迷惑がりながらも紳士的な彼。
でも、今は私の肩を掴む力が尋常じゃない。暴力的なくらいだ。
「は、え、いつ…?どこで知り合ったの…?え?」
聞いていない、とうわ言のように言い始めた彼になんだか不安になる。
様子がおかしいが、大丈夫だろうか。
「あの、ローラン様」
「ニア。浮気は有り得ないと思うんだけど」
「え」
浮気とはなんぞや。
むしろそれはこちらのセリフでは。
「…まあ、いいや。あのさ、婚約は解消してやらないからね」
「え」
「家同士の約束なんだ。君に覆せるはずがない。好きな人がいようがいまいが、君は僕のモノになる他ない。出奔しようが、どうせすぐに見つかるから無駄だよ。わかった?」
にっこり、また笑った彼はどこか吹っ切れた表情に。
しかしそれではまずい。
つまり、家同士の約束のためにローラン様とヒロインちゃんの幸せが潰される…!
こ、こうなったら、私が犠牲になってでも致命的な…婚約破棄に繋がる行動をせねば!
でも暗殺未遂はさすがに怖いから嫌。もっと穏便な方法で…そうだ!私の醜聞を垂れ流せばいい!
「僕はもう帰るけど、馬鹿なことは考えないでね。今更逃がさないよ」
そうだよね、こっち有責の婚約破棄でもないと手放せないよね!
悲しいけど、ローラン様のため…汚名を被ろう!
でも実際醜聞って…結婚前からの不貞とか?
「…よし!」
心当たりが一人だけいる!
なんとかなる!
「…ローランと婚約破棄したいから、協力しろ?」
「そう!人前で私と浮気してるふりして!」
「別にいいっすけど」
「話がわかるー!」
ローラン様の従兄のヴィルジール様。
この人は昔から私に甘いので頼りになるのだ。
彼は理由があってローラン様以外の親族と縁を切って自立して生活していて、婚約者とかもいないので他の人に協力させるのと比べればそこまで迷惑はかけないだろう。
「けどなんで俺なんすか」
「頼れる人が他にいないから!」
「そっすか。じゃあ、行きましょうか?姫君」
「え?」
「人前で浮気しているフリをするんでしょ」
差し伸べられた手を取る。
外に、デートに出かけた。
「ニアさん、見てくださいっす。これ、すげーの」
「え、パフェでかっ…」
「油断しました。一緒に食べてくださいっす」
「あいあい」
二人で一つのパフェを食べたり、時々あーんとかしたり。
手を繋いで歩いたり、一緒に気安く遊んだり。
今までの人生で初めての楽しいデートになって、ちょっと困惑。
嫌々付いてきてくださったローラン様を引っ張り回すだけのデートしかしたことなかった。
そして前世ではデート自体経験がなかった。
「あの…」
「はいっす」
「デートって、なんか…楽しいんだね…?」
困惑する私に、ヴィルジール様はちょっと驚いて…微笑んだ。
「あいつが大切にしてくれなかったなら、俺が大切にしてあげますよ」
「え」
「俺を選んで欲しいっす」
…これは、フリ?
本音?
ときめく胸は、どうやって落ち着かせればいいのだろう。
「あ、えっと…」
「はい、そこまで」
冷たい声が響いた。
「え」
「ゲームオーバー」
そう言って私の肩を抱き寄せるのはローラン様。
「婚約者にバレないように、愛する人と逢瀬を?無理無理、人の口に戸は立てられないんだよ。実際こうしてすぐに迎えに来れた」
声に怒りが滲んでいて、顔をまともに見れない。
ただ、抱き寄せられた肩が痛い。
「しかし…まさか浮気相手がヴィルジールとは。意外だね、君身分差は理解してたはずなのに」
「…一応俺もあんたの従兄なんすけど」
「勘当されておいてよく言う…泥棒猫。こいつは返してもらうから」
「…あの、ローラン様」
「お前は黙ってろ」
めちゃくちゃ怒ってる…でもローラン様の幸せのためには必要なことなのに。
「そうやってあんたがニアさんを大事にしないからここまで拗れたんでしょうが」
「は?最大限大事にしてる」
「愛してるって言いました?好きって伝えました?相手の喜ぶことをしてあげようとしました?」
「…」
「出来ないのなら俺にくださいっす」
ヴィルジール様がそう言った瞬間、ローラン様は魔術で攻撃を仕掛けた。
ヴィルジール様はスレスレのところで避ける。
「魔術も使えない半端者が、大口を叩かないでくれる?」
「…そっすね。でも、これ以上ニアさんがあんたに苦しめられるのは見たくないっす」
「ぐちゃぐちゃとうるさいな…従兄だからと加減したが、本気で殺してやろうか」
ああ、これ以上ヒートアップするのはまずい。
「ご、ごめんなさいローラン様っ…」
「謝られてもさぁ」
「お願い、もうしませんから…」
「…じゃあ、今日から俺の部屋に監禁していい?それならヴィルジールのことは許してあげる」
コクコクと頷く。
ヴィルジール様は止めようとしてくれたけど、結局私はローラン様に連れられて部屋に入れられた。
ここまで大ごとになると思わず軽率にヴィルジール様を巻き込んでしまったので、申し訳ない…でもとりあえず無事で済んでよかった。
「…で?」
「はい」
「あいつのどこが良かったの?」
…えっと。
「デートが…楽しかったです…?」
「どうして」
「優しくしてくれて、歩み寄ってくれて…大切にされてるみたいで…」
私がそう言うと、ローラン様は舌打ちをした。
と、思ったら優しく私を抱きしめた。
「え」
「ほら…僕も君を大切にしてるよ」
「え」
離してくれたと思ったら顔中にキスを落とされる。
「好きだよ、好き、好き」
「え、あ、え」
「愛してる…」
…これはどういうことだろうか。
「だから、ここでずっと僕に監禁されてね。逃げる事は今度こそ許さないよ」
「ローラン様、あの」
「愛してる。どうかこれ以上僕を狂わせないで」
ヒロインちゃんは?
とはもう聞けなかった。
僕の婚約者は僕をイラつかせる天才だ。
最愛の人、病弱な幼馴染を亡くして俺は自殺した。目が覚めたら幼馴染のお気に入りの小説の設定に酷似した世界で、ヒロインのお相手役の男に転生していた。
馬鹿みたいな展開に頭を抱えていたが、その後神に感謝した。何故って、婚約者である小説の悪役令嬢が…幼馴染そのものだったから。
見た目こそ悪役令嬢の姿だが、ふとした仕草があいつそのもので。悪役令嬢のニアならしないような慈悲深い言動で人々から愛されていた。だから、あいつだと確信したのだ。
けれどあいつは前世のことなど思い出さない。俺を好きだと宣うくせに思い出さない。あいつが好きなのは「ローラン様」だけ。俺じゃない。
だから俺は、「ローラン様」になりきった。あいつは僕を心から愛した。
なのに、ヒロインと僕が接触した頃からあいつは僕に近寄らなくなった。
ヒロインには微塵も興味がなかったが、あいつに見せつけるように接触してやったのが良くなかったのか。
前世のことを思い出したのかと思って、整理する時間も与えようと放置したのが間違いだった。
あいつは浮気をしていたらしい。愛おしいその口から、僕への拒絶や「好きな人が…」なんて言葉が出た時には気が狂うかと思った。
おまけに浮気相手が、僕と一番仲の良い従兄だと知ってもう限界だった。
連れ帰って、部屋に監禁した。
「好き」とか「愛してる」とか、今まで言えなかった言葉を必死に紡ぐが届いているのか怪しい。
ヒロインであるあの子には適当な男をあてがった。案外すんなり靡いたから楽だった。
従兄はしつこくあいつを解放しろというが、知ったこっちゃない。
あいつは、僕だけの…俺だけの可愛らしいお姫様なんだから。
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ローラン様サイドありがとうございます!
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感想ありがとうございます。楽しんでいただけて嬉しいです!
好きなお話ですー!
ローラン様サイドも読んでみたいです♪
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