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それでも彼は決してめげない
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アナベル・マイア・ルイス。公爵令嬢である彼女には、前世の記憶というものがあった。そしてその記憶では、この世界に非常に酷似した設定の乙女ゲームと呼ばれる遊戯があった。
大好きなゲームの世界。しかし彼女が転生したのはヒロインではなく悪役令嬢。それもよりにもよって、キャラの中でも一番人気の王太子であるブライアン・ガブリエル・イグレシアス殿下の婚約者である。もしヒロインが王太子ルートを選べばボロ雑巾のように捨てられる。
そして一番人気の彼はおそらく確実に狙われる。アナベルの中ではそんな確信があった。そんなことはアナベルにとって絶対に許せない。せっかく大好きなブライアンの婚約者になれるのに、ぽっと出のヒロインなんかに渡したくない。しかもアナベルの最後は他の攻略対象の婚約者よりひどく、最終的には命まで落とす。絶対にそれは避けたい。
だから、彼女は考えた。
ーブライアンのプライドをへし折ってやると!
彼女はちょっとアホの子かもしれない。
だが一応理由はある。
ブライアンがアナベルを嫌い、ヒロインに傾く理由はずばりそのプライドの高さ。いつも正論で自分を諭してくる生意気な公爵令嬢よりも、自分をいつもすごいすごいと持ち上げて、そのままの貴方でいいのですと甘い言葉を囁いてくる可憐な少女の方が可愛いのだ。少なくともアナベルはそう考察している。
だからといってブライアンを甘やかしては彼の為にならない。ならば、早いうちからブライアンのプライドをへし折って、きちんと助言を受け入れられる良い男にしてしまえばいい。彼女はそう考えた。
そして作戦はスタートする。
ー…
彼女の五歳の誕生日。殿下との初対面の日。
「ブライアン殿下、チェスで遊びませんこと?」
「いいけど、俺は強いぞ」
「まあ、それは楽しみ」
ブライアンとチェスで一戦交えるアナベル。プライドの高いブライアンは、俺は強いぞと踏ん反り返っていたが所詮は子供。中学生の時お遊戯部(別名ボードゲーム部)に所属していた中身は大人のアナベルには勝ち目はない。
「お、俺が負けた…」
「ふふ。私の方が一枚上手でしたわね?」
今まで大人達に手加減をされて俺は大人より賢いんだと勘違いしていたブライアンはそれはもう可哀想なくらいにプルプル震えて顔を真っ赤にしていた。泣くのを堪えていたのだ。
「まぐれだ!もう一度勝負しろ!」
「ええ、もちろんですわ」
しかし何度挑もうとアナベルの勝ちは変わらない。ズタボロに傷ついたブライアンはそれでも昼から夕方まで粘った。一度も勝てなかったが。そしてうるうると潤んだ瞳で次は絶対勝つ!と捨て台詞を吐いて帰っていった。アナベルはそんな婚約者を愛おしく感じた。
その後一ヶ月が経つと、ブライアンがアナベルの元へ遊びに来た。
「さあ、勝負しろ!」
「もちろんですわ」
ブライアンは前回と打って変わってものすごく強くなっていた。中身は大人のアナベルも舌を巻くほどである。勝負の結果は十勝九敗。さすがは完璧超人俺様王子系になる予定のブライアンである。どうだ、と踏ん反り返るブライアン。
ここに来てブライアンのプライドをへし折る計画が頓挫してしまうと焦ったアナベル。そこで彼女はブライアンを褒めちぎってからこう言った。
「では次は馬の早駆けで勝負ですわ!」
「いいけど、俺は馬の扱いも上手いぞ」
プライドの高いブライアンは偉そうに踏ん反り返っていたが所詮は子供。大学生の時乗馬クラブに所属していた中身は大人のアナベルには勝ち目はない。
今まで大人達に煽てられて、俺は大人より馬の扱いが上手いんだと勘違いしていたブライアンはいつぞやと同じく、青い瞳をうるうると潤ませていた。
「も、もう一回だ!」
「もちろんですわ」
しかし何度挑もうとアナベルの勝ち。ズタボロに傷ついたブライアンはそれでも昼から夕方まで粘る。アナベルの圧勝だったが。そしていつぞやと同じく次は絶対勝つ!と捨て台詞を吐いて帰った。
その後一ヶ月が経つと、ブライアンがアナベルの元へ遊びに来た。
「さあ、勝負しろ!」
「あらまあ、すごい自信ですわね」
ブライアンは前回と打って変わってものすごく馬の扱いが上手くなっていた。勝負の結果は十勝九敗。どうだ、と踏ん反り返るブライアンにアナベルは焦る。考えて考えて次の勝負を仕掛けた。
そんなこんなであの手この手でブライアンのプライドをへし折ってへし折ってへし折ってへし折りまくるアナベルと、それでも歯を食いしばって食らいついてくるブライアンの攻防は十五歳…学園生活が始まるまで続いた。
ー…
乙女ゲームは学園生活が舞台。ふとアナベルは不安になる。
「学園生活が始まって早三年。そろそろ転入生…ヒロインさんが入学してくる頃ですわ」
「アナベル、何を考えている?」
「ブライアン殿下!すみません、少し考え事をしておりましたの」
「だめだろう。お前は俺のものなのだから、他のことに気を回すな」
無事俺様王子系に育ったブライアンは、はたから見れば分かりやすいほどにアナベルを溺愛している。知らぬは本人だけである。
「…わかりましたわ」
「…ふん。なんだ、何を悩んでいる?言ってみろ」
「えっと…ブライアン殿下が他の方に取られてしまわないか心配で」
「はっ!そんなことか。安心しろ、俺はお前以外に興味なんぞない」
「ふふ。嬉しいですわ、ありがとうございます。私、とても幸せですわ」
アナベルの安心した柔らかな表情に、ブライアンは思わず見惚れる。そんなブライアンに首をかしげるアナベルに、ブライアンは悩殺された。
結局。ヒロインは転入してきたがアナベルの恐れるようなことにはならなかった。ヒロインは明らかに逆ハーレム狙いで攻略対象全員にアプローチをし、その結果攻略対象達から蛇蝎の如く嫌われて事態を重く見た学園から退学処分を受ける。
ちなみにブライアンはアナベル以外に興味がないので存在自体認識していなかった節まである。少しヒロインが不憫にも思える。
他の攻略対象達もむしろヒロインという障害を乗り越えて、よりそれぞれの婚約者との仲が深まったように見える。ヒロイン以外丸く収まって何よりである。
とりあえず全力疾走で体当たりしてぶつかっていく。それも一つの選択肢かもしれない。
大好きなゲームの世界。しかし彼女が転生したのはヒロインではなく悪役令嬢。それもよりにもよって、キャラの中でも一番人気の王太子であるブライアン・ガブリエル・イグレシアス殿下の婚約者である。もしヒロインが王太子ルートを選べばボロ雑巾のように捨てられる。
そして一番人気の彼はおそらく確実に狙われる。アナベルの中ではそんな確信があった。そんなことはアナベルにとって絶対に許せない。せっかく大好きなブライアンの婚約者になれるのに、ぽっと出のヒロインなんかに渡したくない。しかもアナベルの最後は他の攻略対象の婚約者よりひどく、最終的には命まで落とす。絶対にそれは避けたい。
だから、彼女は考えた。
ーブライアンのプライドをへし折ってやると!
彼女はちょっとアホの子かもしれない。
だが一応理由はある。
ブライアンがアナベルを嫌い、ヒロインに傾く理由はずばりそのプライドの高さ。いつも正論で自分を諭してくる生意気な公爵令嬢よりも、自分をいつもすごいすごいと持ち上げて、そのままの貴方でいいのですと甘い言葉を囁いてくる可憐な少女の方が可愛いのだ。少なくともアナベルはそう考察している。
だからといってブライアンを甘やかしては彼の為にならない。ならば、早いうちからブライアンのプライドをへし折って、きちんと助言を受け入れられる良い男にしてしまえばいい。彼女はそう考えた。
そして作戦はスタートする。
ー…
彼女の五歳の誕生日。殿下との初対面の日。
「ブライアン殿下、チェスで遊びませんこと?」
「いいけど、俺は強いぞ」
「まあ、それは楽しみ」
ブライアンとチェスで一戦交えるアナベル。プライドの高いブライアンは、俺は強いぞと踏ん反り返っていたが所詮は子供。中学生の時お遊戯部(別名ボードゲーム部)に所属していた中身は大人のアナベルには勝ち目はない。
「お、俺が負けた…」
「ふふ。私の方が一枚上手でしたわね?」
今まで大人達に手加減をされて俺は大人より賢いんだと勘違いしていたブライアンはそれはもう可哀想なくらいにプルプル震えて顔を真っ赤にしていた。泣くのを堪えていたのだ。
「まぐれだ!もう一度勝負しろ!」
「ええ、もちろんですわ」
しかし何度挑もうとアナベルの勝ちは変わらない。ズタボロに傷ついたブライアンはそれでも昼から夕方まで粘った。一度も勝てなかったが。そしてうるうると潤んだ瞳で次は絶対勝つ!と捨て台詞を吐いて帰っていった。アナベルはそんな婚約者を愛おしく感じた。
その後一ヶ月が経つと、ブライアンがアナベルの元へ遊びに来た。
「さあ、勝負しろ!」
「もちろんですわ」
ブライアンは前回と打って変わってものすごく強くなっていた。中身は大人のアナベルも舌を巻くほどである。勝負の結果は十勝九敗。さすがは完璧超人俺様王子系になる予定のブライアンである。どうだ、と踏ん反り返るブライアン。
ここに来てブライアンのプライドをへし折る計画が頓挫してしまうと焦ったアナベル。そこで彼女はブライアンを褒めちぎってからこう言った。
「では次は馬の早駆けで勝負ですわ!」
「いいけど、俺は馬の扱いも上手いぞ」
プライドの高いブライアンは偉そうに踏ん反り返っていたが所詮は子供。大学生の時乗馬クラブに所属していた中身は大人のアナベルには勝ち目はない。
今まで大人達に煽てられて、俺は大人より馬の扱いが上手いんだと勘違いしていたブライアンはいつぞやと同じく、青い瞳をうるうると潤ませていた。
「も、もう一回だ!」
「もちろんですわ」
しかし何度挑もうとアナベルの勝ち。ズタボロに傷ついたブライアンはそれでも昼から夕方まで粘る。アナベルの圧勝だったが。そしていつぞやと同じく次は絶対勝つ!と捨て台詞を吐いて帰った。
その後一ヶ月が経つと、ブライアンがアナベルの元へ遊びに来た。
「さあ、勝負しろ!」
「あらまあ、すごい自信ですわね」
ブライアンは前回と打って変わってものすごく馬の扱いが上手くなっていた。勝負の結果は十勝九敗。どうだ、と踏ん反り返るブライアンにアナベルは焦る。考えて考えて次の勝負を仕掛けた。
そんなこんなであの手この手でブライアンのプライドをへし折ってへし折ってへし折ってへし折りまくるアナベルと、それでも歯を食いしばって食らいついてくるブライアンの攻防は十五歳…学園生活が始まるまで続いた。
ー…
乙女ゲームは学園生活が舞台。ふとアナベルは不安になる。
「学園生活が始まって早三年。そろそろ転入生…ヒロインさんが入学してくる頃ですわ」
「アナベル、何を考えている?」
「ブライアン殿下!すみません、少し考え事をしておりましたの」
「だめだろう。お前は俺のものなのだから、他のことに気を回すな」
無事俺様王子系に育ったブライアンは、はたから見れば分かりやすいほどにアナベルを溺愛している。知らぬは本人だけである。
「…わかりましたわ」
「…ふん。なんだ、何を悩んでいる?言ってみろ」
「えっと…ブライアン殿下が他の方に取られてしまわないか心配で」
「はっ!そんなことか。安心しろ、俺はお前以外に興味なんぞない」
「ふふ。嬉しいですわ、ありがとうございます。私、とても幸せですわ」
アナベルの安心した柔らかな表情に、ブライアンは思わず見惚れる。そんなブライアンに首をかしげるアナベルに、ブライアンは悩殺された。
結局。ヒロインは転入してきたがアナベルの恐れるようなことにはならなかった。ヒロインは明らかに逆ハーレム狙いで攻略対象全員にアプローチをし、その結果攻略対象達から蛇蝎の如く嫌われて事態を重く見た学園から退学処分を受ける。
ちなみにブライアンはアナベル以外に興味がないので存在自体認識していなかった節まである。少しヒロインが不憫にも思える。
他の攻略対象達もむしろヒロインという障害を乗り越えて、よりそれぞれの婚約者との仲が深まったように見える。ヒロイン以外丸く収まって何よりである。
とりあえず全力疾走で体当たりしてぶつかっていく。それも一つの選択肢かもしれない。
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