上 下
1 / 1

転生ヒロインがこれは酷い

しおりを挟む
突然ですが、転生しました。

いや、いきなりなんだと思いますが私もたった今前世の記憶を思い出してちょっと困惑しています。

なので整理していきましょう。

まずは現在の私の状況から。

今世の私の名前はリリム。

前世とは異なる世界に生まれ、大国の貴族の娘として生まれる。

しかし実母が亡くなると父が後妻を連れてくる。

結果幼くして継母に虐待され泣き暮らす日々を送っていた。

今継母のお腹には女の子が宿っているという。

典型的ドアマットヒロインのスタートラインじゃないですかやだー。

「ここまで典型的だと笑える」

だが、ここでさらに前世のことを整理させて欲しい。

今しがた思い出した記憶によると。

前世の私は『可哀想な私症候群』だったらしい。

つまりは不幸な自分が一番好きなダメ人間ということである。

慰められて優しくされて嬉しいとか通り越して、不幸であることそのものに快感を感じていた。

結果前世の私は超がつくほどのブラック企業でいいように扱われ、体を壊して早くに亡くなったのだが。

それも快感に感じていたのだから始末に負えない。

で、今現在。

記憶は前世今世共にあるが、意識のほとんどが混ざり合い前世の性格の方が強いと見える。

つまり。

「この状況、美味しいのでは?」

ということで、ドアマット扱いを思う存分楽しんできます。










「リリム!アンタは本当に醜いわね!」

「お、お義母様酷いわ…」

「うるさいわね!お黙り!そんなうるさい口はこうだよ!」

「痛いっ、お義母様やめてぇ!」

この継母、幼子相手に容赦ない。

はっきり言って最&高。

好き。















「お義母様、なにするの!」

「うるさい!いつまでも前の母親の形見なんて大事にしやがって!こんなものこうしてやる!」

「きゃー!!!」

今世の私の魂が泣き叫ぶのがわかる。

でもその心の痛みが…快感。

涙が溢れて止まらないこの感覚がたまらない。

「うっ…ぐすっ…」

「ふんっ…泣いたって壊れたものは戻りゃしないよ!」

「うぅううううう…」

ああ、お義母様…貴女、最っ高です!!!












そんなこんなでお義母様に虐げられ、生まれてきた妹にも虐げられ、実父には庇ってももらえないどころかスルーされる毎日。

お嬢様どころか下働きも同然の扱いを受け、使用人にすら虐げられる日々。

…ああ、私の人生はこんなにも快感に満ちている!!!

下手に純粋無垢な子供の、今世の記憶と自我が混ざってくれたことでちょっとしたことにも傷つく事ができる。

傷つくと快感を感じる。

最&高!!!

我が人生はこんなにも美味しい!!!

…と、悦に浸っていたのが良くなかったのか。

唐突にその日は来た。

「リリム」

「え、貴方は?」

キラキラした王子様みたいな男の子が、屋敷に現れた。

そして両親でも妹でもなく下働きの格好をした私に話しかけて、慈愛深い笑みを向けて手を差し伸べてくる。

「王子殿下、なにをっ」

「うるさい、姉を虐げるような性悪が僕に話しかけるな。耳が腐る」

あ、王子様みたいじゃなくて本当に王子様だった。

口が悪い王子様だなぁ。

「どうして王子殿下がそれをっ」

「まさかリリム、アンタチクったのかい!?」

いやいやまさか。

こんな最高な日々を自ら捨てるような真似しませんとも。

でもその憎悪のこもった目、最高。

とても今世の私のガラスハートが傷ついて、結果混ざり合った私に快感を生む。

ありがとう、愚母と愚妹に恵まれて私は幸せです。

「リリムはそんなことをしていません。そもそも、リリムと僕が会ったのは貴女がリリムの継母になる前の一度だけですから。リリムは僕と会ったことすら覚えていない様子ですし」

「それなら何故!」

「僕がリリムに会いたいと何度言っても叶えられることはなく、リリムが公の場に出ることさえない。不審に思うのは当然のことでしょう」

「ぐうっ…」

義母が唸る。

「リリム。僕は君を助けに来たんだ」

「王子殿下!」

「僕と共に行こう。君は公爵家の娘として相応しい扱いを受けるべきだ」

なんだろう。

隠居した祖父母の元にでも連れて行って公爵家の娘ごっこをさせて、ついでに婚約者にでもしようって腹づもりですか?

でもそんなの誰も望んでないんですよぉ~。

「お断りします」

「え?リリム?」

「私はお父様とお義母様、妹を心から愛しています。みんなで暮らしていける今が一番幸せなんです」

だって虐げてもらえるからね。

「リリム…アンタ…」

「お姉様…?」

「…」

なんだか愚父と愚母、愚妹が感動したような目や困惑する目を向けてくるが本心だよ本心。

君らが思うような意味じゃないけどね!!!

「…参ったな。相変わらず、君は心が綺麗すぎる」

「いやそういうことじゃないです」

「ならば、こうしよう。君のご両親と妹に相応しい罰を用意していたがそれは無しにする。だから、大人しく僕の言うことを聞いてくれないか」

え、なにこいつ。

爽やかイケメンの皮を被った鬼か。

でも…これでも一応真っ当ではない意味ではあるが深く愛する両親や妹と無理矢理引き離される…私の今世の自我による純粋な部分も、若干の名残惜しさや悲しさは感じてる…。

実質、両親や妹を人質に取られたこの状況…。

うん、思ったより良い!!!

快感を確かに感じる!!!

「わかりました…」

「ありがとう。お前たち、リリムに感謝するように」

「リリム…」

「お姉様…」

「…」

はいはいそんな感動的な場面じゃありませんよー。

「では、行こうか」

「はい」

で、結局私はお父様に代を譲って隠居していた祖父母の元に送られて公爵家の娘ごっこをさせられた。

前世の記憶と今世の記憶のチート状態のおかげで、勉強なんてしてない虐げられた子供時代にもかかわらずそれなりにすぐにマナーや教養は身についた。結果公爵家の娘ごっこは王子様の満足がいくほどに様になった。

で、案の定婚約者にされた。

でも、この人はこの人でそれなりの快感を与えてくれるから許す。

あの私に快感をくれていた大好きな家族との接触禁止とか、無理矢理な婚約とか地味に私の純粋な部分は傷ついてくれるからもう快感。

ある意味王子様大好き。

「リリム、愛しているよ。君を幸せにする」

「…私も王子殿下が、大好きかもしれません」

「ふふ、いつかはちゃんと大好きだって言わせて見せるよ」

キラキラ王子様な見た目やキザなところは癪に触るものの、快感をくれるならば目をつぶってやろう。

さあ、もっともっと快感を私に!!!

ところで…いつかくる、出産の痛みとかも快感になるんだろうか。

「王子殿下」

「なに、リリム」

「やっぱり私、はやく王子殿下と結婚したいです。王子殿下との愛の結晶をこの手に抱きたいです」

「…リリム、可愛すぎて抑えが効かなくなるからあんまり煽らないでくれ」

めちゃくちゃ強い力でぎゅっと抱きしめられる。

痛い痛い、でもそれが快感。

うん、やっぱりこの人とはやく結婚したいな!

これからは押せ押せで行こう!

行こう!!!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

miyabi
2024.06.13 miyabi

なんて素敵な自家中毒(笑)
このヒロイン好きです!

下菊みこと
2024.06.13 下菊みこと

感想ありがとうございます。だいぶぶっ飛んだ子ですがその分面白い子ですよね!

解除
Mサコ
2024.05.30 Mサコ

面白かったです。ドアマットヒロインあまり好きでは無いのですが、ドMヒロインにツボりました

下菊みこと
2024.05.30 下菊みこと

感想ありがとうございます。このくらいはっちゃけた方が人生楽しそうですよね!

解除
にいな
2024.05.02 にいな

面白かったです☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
Mヒロイン✨アイデアに脱帽です✨✨

下菊みこと
2024.05.02 下菊みこと

感想ありがとうございます。たまにはぶっ飛んだヒロインが書きたくなってやらかしました笑笑

解除

あなたにおすすめの小説

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

アマチュア小説家として成長しつつ、お小遣い稼ぎ~目指せ一石二鳥~

雨宮 徹
エッセイ・ノンフィクション
アマチュア小説家が夢見る「小説を書きつつ、お小遣い稼ぎ」を目指すノンフィクション。創作論、インセンティブのお話です。たまに公募向けの話も。カクヨムでも執筆中なので、そちらとの比較もします。一種の日記でもあります。

やっぱり貴族なんてのはクソだった。唯一の宝物を壊された平民は、彼等の真実を公にする。

下菊みこと
恋愛
理由があっても立場が己より上の人にであろうとも虐めはダメ絶対 とはいえ性悪にはそれなりの目にあってもらうお話。小説家になろう様でも投稿してます。

【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから

すだもみぢ
恋愛
伯爵のトーマスは「貴族なのだから」が口癖の夫。 伯爵家に嫁いできた、子爵家の娘のローデリアは結婚してから彼から貴族の心得なるものをみっちりと教わった。 「貴族の妻として夫を支えて、家のために働きなさい」 「貴族の妻として慎みある行動をとりなさい」 しかし俺は男だから何をしても許されると、彼自身は趣味に明け暮れ、いつしか滅多に帰ってこなくなる。 微笑んで、全てを受け入れて従ってきたローデリア。 ある日帰ってきた夫に、貞淑な妻はいつもの笑顔で切りだした。 「貴族ですから離婚しましょう。貴族ですから受け入れますよね?」 彼の望み通りに動いているはずの妻の無意識で無邪気な逆襲が始まる。 ※意図的なスカッはありません。あくまでも本人は無意識でやってます。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

まあまあよくある人生でしたので、二度目はドアマットやめます。

下菊みこと
恋愛
全然悪役令嬢じゃないのに悪役令嬢扱いされた女の子の、よくあるやり直しのお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 アルファポリス様でも投稿しています。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。