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ばっくれます
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え?私、悪役令嬢なんですの?
初めまして、ご機嫌よう。私、シャーロット・ターフェルルンデと申します。公爵令嬢です。突然ですが、私、高熱を出して倒れた影響で前世の記憶を思い出しました。
前世の私は日本という恵まれた国に生まれて、幸せに生きていました。そして、その国では異世界転生というジャンルの小説があり、それらは私の愛読書でした。そんな私は道路で轢かれそうになった少年を助けた代わりに命を落としました。それを見ていた天使様が私に異世界転生をさせてくださったのです。そしてそれは、大好きな乙女ゲームによく似た世界でした。しかし、私はどうやらヒロインではなく悪役令嬢に転生してしまったようです。それも、今の今まで前世の記憶を失っていました。
そして、今。学園生活…すなわち乙女ゲームの舞台が始まる直前になってそのことを思い出したのです。
正直戸惑っています。私は前世の記憶が戻ってももう前世の自分ではなく、シャーロット・ターフェルルンデです。それに『悪役令嬢シャーロット』の設定では両親からは顧みられず、兄妹からは虐められて、それで捻くれた傲慢な令嬢になるはずが、『私』は皆から愛されてすくすくと健やかに成長できたので悪役令嬢になんてなる理由もありません。
…でも、確かに婚約者であるリカルド・ハリー・ウインザー王太子殿下をヒロインさんに取られてしまったら、嫉妬してしまうかも。リカルド様と私は政略結婚とはいえ、穏やかに関係を育んで来ましたもの。今更ぽっと出の平民に取られたくはありません。
…よし、決めた。
学園生活をばっくれましょう!
そう決心したところで私の寝室のドアがノックされます。
「どうぞ」
「シャル、大丈夫かい?」
「お父様。お医者様のおかげで大分良くなりましたわ」
「おお、それは良かった」
お父様でした。ちょうどよかった。
「しかし、シャルは体が弱いな…やはり、寄宿舎に入れるのは心配だ…」
「お父様…私も考えたのですけれど…やっぱり、お父様やお母様と離れて寄宿舎に入るなんて無理ですわ…」
「ううむ…しかし、学園に通うのは貴族の娘としての義務だ。どうしたものか…」
「大好きな家族と引き離されたら余計に具合が悪くなってしまいます」
「シャル…」
「お願いです、お父様。せめてもうちょっと時間をいただきたいのです」
「…それはどのくらい?」
「一年ほど…」
「ううむ…一年…いや、しかし…」
「お勉強はしっかり頑張りますわ。来年飛び級して二年生から始められるように。だからどうか、私が病弱だということを理由に、一年だけ時間をくださいませ。滅多にない私のわがままですのよ?それに嘘ではありませんもの、ね?」
「…どうしてもかい?」
「ええ、どうしても」
「…一年だけだよ。ちゃんと勉強も頑張って飛び級すること。ただし体調には人一倍気を遣いなさい。いいね?」
「お父様!ありがとう!」
思わずお父様に飛びつきます。抱きとめてくれたお父様は「はしたないよ」と窘めながらも頭を撫でてくださいました。
何故、学園をばっくれる選択をしたか。それは、もしもリカルド様がヒロインさんに魅了されてしまった場合、何をやっても逆効果だと思ったからですわ。それに、リカルド様との仲は今のところ良くも悪くもないのです。病気の婚約者がいる身で浮気をするほどリカルド様が屑とは思っておりませんもの。これから先のことを考えるとちょっと悪手な気もしますけれど、リカルド様との関係が変に拗れるよりよっぽどいいはずですわ。
幸い、前世の記憶を思い出したことで勉強はむしろ周りより進んでいるレベルのはず。この世界はそんなに科学や算術は進んでいませんから。コネなら元々いくらでもありますしね。
ということで、毎日勉強と称して本を読んでゆっくりと過ごしたいと思います!
ー…
数ヶ月が経ちました。リカルド様がお見舞いに来てくださいましたわ。
「シャル。久しぶりだな」
「リカルド様!お久しぶりですわ!」
「体調の方はどうだ?」
「療養に努めたので、だいぶ楽になっていますわ」
「そりゃあ良かった」
うん、浮気している様子はありませんわね?
「リカルド様、学園のお話をしてくださいませ」
「ん、シャルは学園への入学を楽しみにしていたものな。来年、シャルが入ってくるのが楽しみだ」
「うふふ」
「そうだなぁ…変わったご令嬢が入ってきたぞ」
「まあ。どんな方?」
「毎日のように僕に付き纏い、言い寄ってくるんだ」
「…あら、まあ」
やっぱりヒロインさんはいるのね。しかもリカルド様狙いとは…。
「そんな顔をするな。僕はシャルしか見ていない。現に、ちゃんとお誘いは断っているだろう?シャルに正直に話すのがいい証拠じゃないか」
「リカルド様…はい。信じますわ」
「病弱だがとても愛らしい婚約者がいると言ってもしつこくてなぁ。普通、婚約者がいる相手に粉をかける真似はしないと思うんだがな」
「それは…すごい方ですわね」
「だろう?珍獣を見ているようで面白い」
「まあ、リカルド様ったら」
クスクス笑い合う。ヒロインさんは珍獣扱いされているようで安心しました。
「しかもな、自分で教科書をぐしゃぐしゃにしたり、荷物をばら撒いたり、水浴びをしたりした後必ずシャルの名前を出して虐められたと言ってくるんだ。シャルは病弱だから休学していると言っても、取り巻きのご令嬢を使って虐めてくるのだと言い張る。そもそも自分で色々やっているシーンを同級生達に見られているのにな」
「心外ですわ。私、そんなこと致しません」
「わかっているさ。事態を重く見た学園長が、三年間の謹慎を命じられたよ。だからシャルが学園に入ってきて卒業するまでの間は彼女は来ない。皆シャルの味方だし、安心するといい」
私の頭をそっと撫でてくださるリカルド様。リカルド様との距離もなんとなく縮まったようですし、休学した甲斐がありますわ。
それにしてもヒロインさんはもう少し上手く立ち回ることが出来なかったのかしら?まあ、相手が楽で助かりますけれど。婚約者がいる相手に粉をかけるから謹慎処分になるんですわ。反省してくださいませ。
初めまして、ご機嫌よう。私、シャーロット・ターフェルルンデと申します。公爵令嬢です。突然ですが、私、高熱を出して倒れた影響で前世の記憶を思い出しました。
前世の私は日本という恵まれた国に生まれて、幸せに生きていました。そして、その国では異世界転生というジャンルの小説があり、それらは私の愛読書でした。そんな私は道路で轢かれそうになった少年を助けた代わりに命を落としました。それを見ていた天使様が私に異世界転生をさせてくださったのです。そしてそれは、大好きな乙女ゲームによく似た世界でした。しかし、私はどうやらヒロインではなく悪役令嬢に転生してしまったようです。それも、今の今まで前世の記憶を失っていました。
そして、今。学園生活…すなわち乙女ゲームの舞台が始まる直前になってそのことを思い出したのです。
正直戸惑っています。私は前世の記憶が戻ってももう前世の自分ではなく、シャーロット・ターフェルルンデです。それに『悪役令嬢シャーロット』の設定では両親からは顧みられず、兄妹からは虐められて、それで捻くれた傲慢な令嬢になるはずが、『私』は皆から愛されてすくすくと健やかに成長できたので悪役令嬢になんてなる理由もありません。
…でも、確かに婚約者であるリカルド・ハリー・ウインザー王太子殿下をヒロインさんに取られてしまったら、嫉妬してしまうかも。リカルド様と私は政略結婚とはいえ、穏やかに関係を育んで来ましたもの。今更ぽっと出の平民に取られたくはありません。
…よし、決めた。
学園生活をばっくれましょう!
そう決心したところで私の寝室のドアがノックされます。
「どうぞ」
「シャル、大丈夫かい?」
「お父様。お医者様のおかげで大分良くなりましたわ」
「おお、それは良かった」
お父様でした。ちょうどよかった。
「しかし、シャルは体が弱いな…やはり、寄宿舎に入れるのは心配だ…」
「お父様…私も考えたのですけれど…やっぱり、お父様やお母様と離れて寄宿舎に入るなんて無理ですわ…」
「ううむ…しかし、学園に通うのは貴族の娘としての義務だ。どうしたものか…」
「大好きな家族と引き離されたら余計に具合が悪くなってしまいます」
「シャル…」
「お願いです、お父様。せめてもうちょっと時間をいただきたいのです」
「…それはどのくらい?」
「一年ほど…」
「ううむ…一年…いや、しかし…」
「お勉強はしっかり頑張りますわ。来年飛び級して二年生から始められるように。だからどうか、私が病弱だということを理由に、一年だけ時間をくださいませ。滅多にない私のわがままですのよ?それに嘘ではありませんもの、ね?」
「…どうしてもかい?」
「ええ、どうしても」
「…一年だけだよ。ちゃんと勉強も頑張って飛び級すること。ただし体調には人一倍気を遣いなさい。いいね?」
「お父様!ありがとう!」
思わずお父様に飛びつきます。抱きとめてくれたお父様は「はしたないよ」と窘めながらも頭を撫でてくださいました。
何故、学園をばっくれる選択をしたか。それは、もしもリカルド様がヒロインさんに魅了されてしまった場合、何をやっても逆効果だと思ったからですわ。それに、リカルド様との仲は今のところ良くも悪くもないのです。病気の婚約者がいる身で浮気をするほどリカルド様が屑とは思っておりませんもの。これから先のことを考えるとちょっと悪手な気もしますけれど、リカルド様との関係が変に拗れるよりよっぽどいいはずですわ。
幸い、前世の記憶を思い出したことで勉強はむしろ周りより進んでいるレベルのはず。この世界はそんなに科学や算術は進んでいませんから。コネなら元々いくらでもありますしね。
ということで、毎日勉強と称して本を読んでゆっくりと過ごしたいと思います!
ー…
数ヶ月が経ちました。リカルド様がお見舞いに来てくださいましたわ。
「シャル。久しぶりだな」
「リカルド様!お久しぶりですわ!」
「体調の方はどうだ?」
「療養に努めたので、だいぶ楽になっていますわ」
「そりゃあ良かった」
うん、浮気している様子はありませんわね?
「リカルド様、学園のお話をしてくださいませ」
「ん、シャルは学園への入学を楽しみにしていたものな。来年、シャルが入ってくるのが楽しみだ」
「うふふ」
「そうだなぁ…変わったご令嬢が入ってきたぞ」
「まあ。どんな方?」
「毎日のように僕に付き纏い、言い寄ってくるんだ」
「…あら、まあ」
やっぱりヒロインさんはいるのね。しかもリカルド様狙いとは…。
「そんな顔をするな。僕はシャルしか見ていない。現に、ちゃんとお誘いは断っているだろう?シャルに正直に話すのがいい証拠じゃないか」
「リカルド様…はい。信じますわ」
「病弱だがとても愛らしい婚約者がいると言ってもしつこくてなぁ。普通、婚約者がいる相手に粉をかける真似はしないと思うんだがな」
「それは…すごい方ですわね」
「だろう?珍獣を見ているようで面白い」
「まあ、リカルド様ったら」
クスクス笑い合う。ヒロインさんは珍獣扱いされているようで安心しました。
「しかもな、自分で教科書をぐしゃぐしゃにしたり、荷物をばら撒いたり、水浴びをしたりした後必ずシャルの名前を出して虐められたと言ってくるんだ。シャルは病弱だから休学していると言っても、取り巻きのご令嬢を使って虐めてくるのだと言い張る。そもそも自分で色々やっているシーンを同級生達に見られているのにな」
「心外ですわ。私、そんなこと致しません」
「わかっているさ。事態を重く見た学園長が、三年間の謹慎を命じられたよ。だからシャルが学園に入ってきて卒業するまでの間は彼女は来ない。皆シャルの味方だし、安心するといい」
私の頭をそっと撫でてくださるリカルド様。リカルド様との距離もなんとなく縮まったようですし、休学した甲斐がありますわ。
それにしてもヒロインさんはもう少し上手く立ち回ることが出来なかったのかしら?まあ、相手が楽で助かりますけれど。婚約者がいる相手に粉をかけるから謹慎処分になるんですわ。反省してくださいませ。
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