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「何故私から離れていく?」
何故も何も、貴方に愛されないからなんですが。
「絶対逃がさない」
…なんで?
私は、公爵家の末っ子。美しいお姉様やかっこいいお兄様と比べると、大分平凡。それでも、自慢の家族から大切に愛されて育ったので不満はない。むしろ幸せ。
そんな幸せな私の唯一の悩みは、婚約者との仲。
同じ年に生まれた皇太子殿下と生まれながらの婚約者となった私だけれど、皇太子殿下は私のことを愛してはくれない。
「…虚しいなぁ」
色々努力はしてきた。積極的に話しかけたり、手作りのものをプレゼントしたり、デートに誘ったり。彼はそれらを決して嫌がりはしないけれど、楽しんでいる様子もない。
そんな彼に周りも気付き、私はいつしか皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と影で蔑まれるようになった。
そして最近、そんな彼に男爵令嬢が近寄ってきている。彼も拒絶していない。彼らの身分差を考えれば、私を捨てて結婚とはならないはず。けれど、公妾になる可能性がある。私はそれに耐えられるだろうか。
「なんかもう、面倒くさいなぁ」
私は彼を愛している。だからこそ辛かった。そして、辛いを通り越すと何もかもが面倒くさくなった。
今まで散々追いかけ回していた皇太子殿下から意図的に距離をとることにした。
最初の一ヶ月。彼を追い掛け回さなくなった私に周りが興味を持ったらしく、親切のフリをして根掘り葉掘り聞き出そうとしてくる子達がいた。
けれど私が寂しさを隠さずこう言えば、周りはいつからか嘲笑ではなく同情を向けてくるようになる。
「あの男爵家の可愛らしい駒鳥さんと過ごすお時間を、邪魔なんて出来ません」
手のひらを返すように私の味方になってくれる人のなんと多いことか。あの駒鳥さんは、いつしか皇太子殿下と私の仲を引き裂く悪女だと有名になった。
二ヶ月目。私の周りには、私が悲しむ暇もないようにとたくさんの人が集まって次々と楽しいお話をしてくれる。
可哀想だからと集まって来た人々は、けれどいつしか本当に仲良くしてくれるようになった。
「皆様と過ごすお時間が、とても幸せです」
私がそう微笑むと、みんな優しく笑ってくれた。
三ヶ月目。今まで近寄って来なかった駒鳥さんが私の周りの人を押しのけて、私の前に出てきた。
「皇太子殿下との仲を嫉妬するのはわかりますが、イジメなんて卑怯です!」
どうやら駒鳥さんは気付かないうちに、私の周りの人たちからイジメられていたらしい。知らんがな。
「私は別に何もしていませんわ。むしろ貴女と皇太子殿下とのお時間を邪魔しないように、皆様と楽しく過ごしていましたのよ。みんな証明してくださいますわ。ねぇ?」
私の言葉に、みんなが私を庇うように駒鳥さんに立ち塞がる。駒鳥さんはピーピー鳴いていたが、やがて逃げ帰った。
四ヶ月目。皇太子殿下が私の元に来た。駒鳥さんの件かなと思ったら違った。
「何故私から離れていく?」
そう彼に問われた。何故も何も、貴方に愛されないからなんですが。
「絶対逃がさない」
…なんで?
ぽかんとする私。同じくぽかんとするみんな。
「何故今更?駒鳥さんは?」
「駒鳥さん?」
「あの男爵令嬢」
「あれは、お前に対して中々素直になれないことを相談して練習相手になってもらっていただけだ」
「練習相手?」
皇太子殿下は頬を染めて目を逸らして言う。
「お前とのデートが楽しいとか、プレゼントが嬉しいとか、話を聞いているだけで楽しいとか。表に出すのが苦手だから、その練習相手になってもらっていただけだ。相手も理解してくれていた」
なるほど。なるほど…?
「え、じゃあ皇太子殿下は私と一緒にいるのを楽しんでくださっていたのですか?」
「当たり前だ、こんなに可愛い婚約者との時間だぞ?幸せだ。だから、最近来てくれなくて寂しかった」
「…はぁ」
「な、なんだ。せっかくやっと素直になれたのにため息なんて」
なんか、脱力。でも、やっぱり嬉しい。
「皇太子殿下。あの駒鳥さんはそれを利用して貴方の公妾になろうとしていましたのよ?」
「え?」
「最初は練習相手でも、少しずつ距離を詰めるつもりだったのでしょう」
「…俺はお前に一途なつもりなんだが。彼女もそれをわかっていたはずだ」
「でも、せっかくのチャンスですからものにしたかったのでしょう」
皇太子殿下は困ったような顔をする。
「つまり、お前が最近側にきてくれなかったのは彼女のせいか」
「まあ」
「縁を切る。もう二度と近寄らないし近寄らせない。だから、側にいてくれ。愛してるんだ」
「それを最初から言ってくれていれば、問題なかったでしょうに」
私がそう言えば、周りにいたみんなもウンウンと頷く。彼はそれでも私にすがる。
「これからはちゃんと素直になる。大切なんだ。お前しかいらない。もう一度チャンスをくれ」
「…」
「頼むよ…」
すがってくれる彼が嬉しくて、私はポーカーフェイスを維持するのが大変だ。
「もう浮気しちゃダメですよ」
「浮気じゃない。けれど、もう疑われることはしない」
「ならいいです。…私も、愛しています」
そう言って彼の頬に口付けをすれば、彼の顔は真っ赤になる。ああ、本当に愛されているのだとやっと自覚できた。周りのみんなは私達を祝福してくれた。
あの後、駒鳥さんはいつのまにか学園から姿を消していた。彼に聞いても知らぬ存ぜぬ。多分、何かしたんだろう。
彼とは学園の卒業後結婚。今では子宝にも恵まれている。そして、彼は浮気などする暇もないほど私の側を離れず、毎日愛を囁いてくれる。
「愛してる」
「私も愛しています」
駒鳥さんがどうなったのかは知らないけれど、今では私は彼女に感謝している。彼女もどこかで、幸せになってくれていると良いのだけど。
何故も何も、貴方に愛されないからなんですが。
「絶対逃がさない」
…なんで?
私は、公爵家の末っ子。美しいお姉様やかっこいいお兄様と比べると、大分平凡。それでも、自慢の家族から大切に愛されて育ったので不満はない。むしろ幸せ。
そんな幸せな私の唯一の悩みは、婚約者との仲。
同じ年に生まれた皇太子殿下と生まれながらの婚約者となった私だけれど、皇太子殿下は私のことを愛してはくれない。
「…虚しいなぁ」
色々努力はしてきた。積極的に話しかけたり、手作りのものをプレゼントしたり、デートに誘ったり。彼はそれらを決して嫌がりはしないけれど、楽しんでいる様子もない。
そんな彼に周りも気付き、私はいつしか皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と影で蔑まれるようになった。
そして最近、そんな彼に男爵令嬢が近寄ってきている。彼も拒絶していない。彼らの身分差を考えれば、私を捨てて結婚とはならないはず。けれど、公妾になる可能性がある。私はそれに耐えられるだろうか。
「なんかもう、面倒くさいなぁ」
私は彼を愛している。だからこそ辛かった。そして、辛いを通り越すと何もかもが面倒くさくなった。
今まで散々追いかけ回していた皇太子殿下から意図的に距離をとることにした。
最初の一ヶ月。彼を追い掛け回さなくなった私に周りが興味を持ったらしく、親切のフリをして根掘り葉掘り聞き出そうとしてくる子達がいた。
けれど私が寂しさを隠さずこう言えば、周りはいつからか嘲笑ではなく同情を向けてくるようになる。
「あの男爵家の可愛らしい駒鳥さんと過ごすお時間を、邪魔なんて出来ません」
手のひらを返すように私の味方になってくれる人のなんと多いことか。あの駒鳥さんは、いつしか皇太子殿下と私の仲を引き裂く悪女だと有名になった。
二ヶ月目。私の周りには、私が悲しむ暇もないようにとたくさんの人が集まって次々と楽しいお話をしてくれる。
可哀想だからと集まって来た人々は、けれどいつしか本当に仲良くしてくれるようになった。
「皆様と過ごすお時間が、とても幸せです」
私がそう微笑むと、みんな優しく笑ってくれた。
三ヶ月目。今まで近寄って来なかった駒鳥さんが私の周りの人を押しのけて、私の前に出てきた。
「皇太子殿下との仲を嫉妬するのはわかりますが、イジメなんて卑怯です!」
どうやら駒鳥さんは気付かないうちに、私の周りの人たちからイジメられていたらしい。知らんがな。
「私は別に何もしていませんわ。むしろ貴女と皇太子殿下とのお時間を邪魔しないように、皆様と楽しく過ごしていましたのよ。みんな証明してくださいますわ。ねぇ?」
私の言葉に、みんなが私を庇うように駒鳥さんに立ち塞がる。駒鳥さんはピーピー鳴いていたが、やがて逃げ帰った。
四ヶ月目。皇太子殿下が私の元に来た。駒鳥さんの件かなと思ったら違った。
「何故私から離れていく?」
そう彼に問われた。何故も何も、貴方に愛されないからなんですが。
「絶対逃がさない」
…なんで?
ぽかんとする私。同じくぽかんとするみんな。
「何故今更?駒鳥さんは?」
「駒鳥さん?」
「あの男爵令嬢」
「あれは、お前に対して中々素直になれないことを相談して練習相手になってもらっていただけだ」
「練習相手?」
皇太子殿下は頬を染めて目を逸らして言う。
「お前とのデートが楽しいとか、プレゼントが嬉しいとか、話を聞いているだけで楽しいとか。表に出すのが苦手だから、その練習相手になってもらっていただけだ。相手も理解してくれていた」
なるほど。なるほど…?
「え、じゃあ皇太子殿下は私と一緒にいるのを楽しんでくださっていたのですか?」
「当たり前だ、こんなに可愛い婚約者との時間だぞ?幸せだ。だから、最近来てくれなくて寂しかった」
「…はぁ」
「な、なんだ。せっかくやっと素直になれたのにため息なんて」
なんか、脱力。でも、やっぱり嬉しい。
「皇太子殿下。あの駒鳥さんはそれを利用して貴方の公妾になろうとしていましたのよ?」
「え?」
「最初は練習相手でも、少しずつ距離を詰めるつもりだったのでしょう」
「…俺はお前に一途なつもりなんだが。彼女もそれをわかっていたはずだ」
「でも、せっかくのチャンスですからものにしたかったのでしょう」
皇太子殿下は困ったような顔をする。
「つまり、お前が最近側にきてくれなかったのは彼女のせいか」
「まあ」
「縁を切る。もう二度と近寄らないし近寄らせない。だから、側にいてくれ。愛してるんだ」
「それを最初から言ってくれていれば、問題なかったでしょうに」
私がそう言えば、周りにいたみんなもウンウンと頷く。彼はそれでも私にすがる。
「これからはちゃんと素直になる。大切なんだ。お前しかいらない。もう一度チャンスをくれ」
「…」
「頼むよ…」
すがってくれる彼が嬉しくて、私はポーカーフェイスを維持するのが大変だ。
「もう浮気しちゃダメですよ」
「浮気じゃない。けれど、もう疑われることはしない」
「ならいいです。…私も、愛しています」
そう言って彼の頬に口付けをすれば、彼の顔は真っ赤になる。ああ、本当に愛されているのだとやっと自覚できた。周りのみんなは私達を祝福してくれた。
あの後、駒鳥さんはいつのまにか学園から姿を消していた。彼に聞いても知らぬ存ぜぬ。多分、何かしたんだろう。
彼とは学園の卒業後結婚。今では子宝にも恵まれている。そして、彼は浮気などする暇もないほど私の側を離れず、毎日愛を囁いてくれる。
「愛してる」
「私も愛しています」
駒鳥さんがどうなったのかは知らないけれど、今では私は彼女に感謝している。彼女もどこかで、幸せになってくれていると良いのだけど。
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