1 / 1
小さな頃からの一途な恋
しおりを挟む
ジョセフィーヌ・イアサント第一王女殿下。女王による統治を代々行ってきたイアサント王国の将来の女王である。派手なドレスよりも騎士服を愛する彼女は、男装の麗人として貴族令嬢のみならず平民の女性達からも支持を集めていた。
そんな彼女の隣にはいつも嫋やかな印象の男性が一人。フェリシアン・イアサント。ジョセフィーヌの旦那様である。彼は詩を愛し、花を愛し、そして何よりジョセフィーヌを愛している。
ジョセフィーヌは、そんなフェリシアンのことを誰よりも愛している。これはそんな二人がお互いを深く愛するようになるまでのお話である。
「ジョセフィーヌ様」
「はい」
「落馬するということは、馬に信頼されていないと同時に舐められている証拠です。もっと堂々と、馬を自分の支配下に置くイメージで!」
「は、はい!」
この日ジョセフィーヌは、乗馬の練習をしていた。ジョセフィーヌは将来女王になる。普通の女の子のように詩や花や殿方に夢を見るのは、ジョセフィーヌの仕事ではなかった。男性にも負けないくらい強く逞しく賢くならなければならない。
「…今日は婚約者となったフェリシアン様との顔合わせの日でしたね。ここまでと致します」
「ありがとうございました」
「ジョセフィーヌ様には女王になる資質がお有りです。あとはもっと頑張りましょうね」
「…はい。頑張ります」
本当は。自分だって、他の女の子に混じって楽しくお茶会をしたい。でも、それは許されない。悔しい。そんな気持ちがぐるぐると頭を回る中で、ジョセフィーヌはフェリシアンと出逢った。
「ジョセフィーヌ・イアサントです」
「フェリシアン・ウスターシュです!よかったぁっ!」
「え?」
フェリシアンは開口一番によかったという。何が良かったのか。
「僕のお嫁さんはとっても可愛いね!僕嬉しいな!ねえねえ、好きな花はある?今度持ってくるよ!ケーキは好きかな?今日おすすめのケーキを持って来たんだけど一緒に食べてくれる?あ、僕の愛する詩集を持ってきたんだけど、良かったら読んでくれる?」
フェリシアンのマシンガントークにジョセフィーヌは一瞬戸惑う。けれどそのおかげで緊張と、嫌な気持ちは吹き飛んだ。ジョセフィーヌはフェリシアンに好感を持つ。
「…うん!一緒に食べよう!詩集も時間がある時に読むね!花はあんまり詳しくないんだけど、強いて言うなら白百合が好きだよ!」
「百合いいよね!わかった、今度持ってくるね!紅茶を淹れるね!」
「え、そんなの使用人に頼めばいいのに」
「僕が、君のために淹れてあげたいの」
そう言ってにっこり笑ったフェリシアンに、ジョセフィーヌは心を奪われた。
「射撃訓練を行います。狩りにも、戦いにも必要な技術です。ジョセフィーヌ様、しっかりと身につけてくださいね」
「はい」
「では、先程お教えした通りに。狙いを定めて」
銃声が響く。残念ながら的には当たっていない。
「…ダメですね。いずれは馬上での射撃訓練に移行するのです。ここで躓いてはいけません」
「申し訳ありません」
「さあ、もう一度!手本を見せますので…」
「ジョセフィーヌー!」
「フェリシアン!?」
フェリシアンがジョセフィーヌの元に駆け寄る。
「ジョセフィーヌ、サプライズで会いにきたよ!驚いた?」
「う、うん。あ、お花…白百合持ってきてくれたんだ」
「うん!美味しいクッキーも、僕のお手製だよ!一緒に食べよう!ねえ、えーっと、家庭教師の先生!休憩していい?」
「もちろんです」
フェリシアンのおかげで、ジョセフィーヌは一度休憩を挟めた。
「ジョセフィーヌ、君は本当に美しいね」
「え、そうかな」
「うん。努力する姿がかっこいいんだ!」
「…かっこいいかぁ」
好きな人には、可愛いと言って欲しかった。
「じゃあ、早速クッキーいただきます!」
「召し上がれ!」
「…うん、美味しい!」
思わず笑顔になるほど美味しい。手作りの割にクオリティーが高いが、やはり所々焦げてはいる。でも、それもまた味わい深いとジョセフィーヌは思った。そんなジョセフィーヌに、フェリシアンは見惚れていた。
「…フェリシアン?どうしたの?」
「僕のお手製のお菓子を、そんな風に食べてくれるのは君が初めて。男らしくないと怒られてばかりだもの。しかもそんな可憐で素敵な笑顔で。僕、胸がドキドキして苦しい。ジョセフィーヌ、大好きだよ」
フェリシアンはそう言うと、ジョセフィーヌの頬に軽くキスをした。ジョセフィーヌは頬を押さえて真っ赤になる。
「そんな表情も可愛いね、ジョセフィーヌ。僕の愛するお嫁さん、早く結婚したいな」
「…うん、私もフェリシアンと早く結婚したい」
「じゃあ、お互いお勉強とか色々頑張って早く大人に認められようね!」
「うん!」
この日からジョセフィーヌは、仕方なくやっていた勉強や鍛錬に力を入れるようになった。
「ジョセフィーヌ様」
「はい」
「教養が良く身についています。上の年代の子供たちよりずっと優秀だと言えます。この調子で頑張りましょう」
「はい!」
きちんと勉強に向き合うようになると、ジョセフィーヌは驚異的なスピードで教養が身についた。それだけではなく、鍛錬にも磨きをかけるジョセフィーヌ。
「一本!お見事です、ジョセフィーヌ様!また歳上の男の子に勝てましたね」
「私は女王になって、フェリシアンと結婚しますので。自分自身も、ちょっとだけなよっとしているフェリシアンも守れる強さを身につけないと」
「良い覚悟です。ですが、そのためにはまず女王として臣民を守る必要がありますよ」
「わかっています。臣民にとって良い女王を目指します」
「素晴らしい!」
ジョセフィーヌは、次期女王に相応しい王女に成長した。
ある日、ジョセフィーヌとフェリシアンは同じ神輿に乗ってパレードに参加した。そこで事件は起こった。
「ジョセフィーヌ!」
「フェリシアン…?」
何かに気付いた様子のフェリシアンが、ジョセフィーヌを庇うように抱きしめる。次の瞬間、銃声が響いた。
「フェリシアン…!今の!」
「大丈夫だよ、ジョセフィーヌ」
「大丈夫じゃない!すぐに治癒魔法を!」
「…うん、さっきのスナイパーは逃げたみたいだし、お願いするよ」
ジョセフィーヌはフェリシアンに治癒魔法をかける。場は一時騒然としたが、フェリシアンがすぐにジョセフィーヌによって怪我を回復したこともありすぐに落ち着いた。少しごたついたが、それでもパレードは続く。
「フェリシアン、もうあんな無茶はしないで」
「愛する君を守ることこそ僕の幸せだもの。無茶なんていくらでもするよ」
ジョセフィーヌは決めた。もっともっと鍛錬を重ねて、フェリシアンを今度こそ守ると。
そして二人は結婚して、今は二人の時間を楽しんでいる。
「ねえ、フェリシアン」
「なに?ジョセフィーヌ」
「二人の時間も幸せだけど、そろそろ子供も欲しいね」
フェリシアンは目を瞠る。が、次の瞬間にはものすごい笑顔を見せる。
「ジョセフィーヌとの子供、きっと可愛いんだろうなぁ」
「ふふ、楽しみだね!」
「うん!…ジョセフィーヌ」
「なに?」
「愛してるよ」
ジョセフィーヌの返事は、もちろん決まっている。
「私もフェリシアンを愛してる!」
そんな彼女の隣にはいつも嫋やかな印象の男性が一人。フェリシアン・イアサント。ジョセフィーヌの旦那様である。彼は詩を愛し、花を愛し、そして何よりジョセフィーヌを愛している。
ジョセフィーヌは、そんなフェリシアンのことを誰よりも愛している。これはそんな二人がお互いを深く愛するようになるまでのお話である。
「ジョセフィーヌ様」
「はい」
「落馬するということは、馬に信頼されていないと同時に舐められている証拠です。もっと堂々と、馬を自分の支配下に置くイメージで!」
「は、はい!」
この日ジョセフィーヌは、乗馬の練習をしていた。ジョセフィーヌは将来女王になる。普通の女の子のように詩や花や殿方に夢を見るのは、ジョセフィーヌの仕事ではなかった。男性にも負けないくらい強く逞しく賢くならなければならない。
「…今日は婚約者となったフェリシアン様との顔合わせの日でしたね。ここまでと致します」
「ありがとうございました」
「ジョセフィーヌ様には女王になる資質がお有りです。あとはもっと頑張りましょうね」
「…はい。頑張ります」
本当は。自分だって、他の女の子に混じって楽しくお茶会をしたい。でも、それは許されない。悔しい。そんな気持ちがぐるぐると頭を回る中で、ジョセフィーヌはフェリシアンと出逢った。
「ジョセフィーヌ・イアサントです」
「フェリシアン・ウスターシュです!よかったぁっ!」
「え?」
フェリシアンは開口一番によかったという。何が良かったのか。
「僕のお嫁さんはとっても可愛いね!僕嬉しいな!ねえねえ、好きな花はある?今度持ってくるよ!ケーキは好きかな?今日おすすめのケーキを持って来たんだけど一緒に食べてくれる?あ、僕の愛する詩集を持ってきたんだけど、良かったら読んでくれる?」
フェリシアンのマシンガントークにジョセフィーヌは一瞬戸惑う。けれどそのおかげで緊張と、嫌な気持ちは吹き飛んだ。ジョセフィーヌはフェリシアンに好感を持つ。
「…うん!一緒に食べよう!詩集も時間がある時に読むね!花はあんまり詳しくないんだけど、強いて言うなら白百合が好きだよ!」
「百合いいよね!わかった、今度持ってくるね!紅茶を淹れるね!」
「え、そんなの使用人に頼めばいいのに」
「僕が、君のために淹れてあげたいの」
そう言ってにっこり笑ったフェリシアンに、ジョセフィーヌは心を奪われた。
「射撃訓練を行います。狩りにも、戦いにも必要な技術です。ジョセフィーヌ様、しっかりと身につけてくださいね」
「はい」
「では、先程お教えした通りに。狙いを定めて」
銃声が響く。残念ながら的には当たっていない。
「…ダメですね。いずれは馬上での射撃訓練に移行するのです。ここで躓いてはいけません」
「申し訳ありません」
「さあ、もう一度!手本を見せますので…」
「ジョセフィーヌー!」
「フェリシアン!?」
フェリシアンがジョセフィーヌの元に駆け寄る。
「ジョセフィーヌ、サプライズで会いにきたよ!驚いた?」
「う、うん。あ、お花…白百合持ってきてくれたんだ」
「うん!美味しいクッキーも、僕のお手製だよ!一緒に食べよう!ねえ、えーっと、家庭教師の先生!休憩していい?」
「もちろんです」
フェリシアンのおかげで、ジョセフィーヌは一度休憩を挟めた。
「ジョセフィーヌ、君は本当に美しいね」
「え、そうかな」
「うん。努力する姿がかっこいいんだ!」
「…かっこいいかぁ」
好きな人には、可愛いと言って欲しかった。
「じゃあ、早速クッキーいただきます!」
「召し上がれ!」
「…うん、美味しい!」
思わず笑顔になるほど美味しい。手作りの割にクオリティーが高いが、やはり所々焦げてはいる。でも、それもまた味わい深いとジョセフィーヌは思った。そんなジョセフィーヌに、フェリシアンは見惚れていた。
「…フェリシアン?どうしたの?」
「僕のお手製のお菓子を、そんな風に食べてくれるのは君が初めて。男らしくないと怒られてばかりだもの。しかもそんな可憐で素敵な笑顔で。僕、胸がドキドキして苦しい。ジョセフィーヌ、大好きだよ」
フェリシアンはそう言うと、ジョセフィーヌの頬に軽くキスをした。ジョセフィーヌは頬を押さえて真っ赤になる。
「そんな表情も可愛いね、ジョセフィーヌ。僕の愛するお嫁さん、早く結婚したいな」
「…うん、私もフェリシアンと早く結婚したい」
「じゃあ、お互いお勉強とか色々頑張って早く大人に認められようね!」
「うん!」
この日からジョセフィーヌは、仕方なくやっていた勉強や鍛錬に力を入れるようになった。
「ジョセフィーヌ様」
「はい」
「教養が良く身についています。上の年代の子供たちよりずっと優秀だと言えます。この調子で頑張りましょう」
「はい!」
きちんと勉強に向き合うようになると、ジョセフィーヌは驚異的なスピードで教養が身についた。それだけではなく、鍛錬にも磨きをかけるジョセフィーヌ。
「一本!お見事です、ジョセフィーヌ様!また歳上の男の子に勝てましたね」
「私は女王になって、フェリシアンと結婚しますので。自分自身も、ちょっとだけなよっとしているフェリシアンも守れる強さを身につけないと」
「良い覚悟です。ですが、そのためにはまず女王として臣民を守る必要がありますよ」
「わかっています。臣民にとって良い女王を目指します」
「素晴らしい!」
ジョセフィーヌは、次期女王に相応しい王女に成長した。
ある日、ジョセフィーヌとフェリシアンは同じ神輿に乗ってパレードに参加した。そこで事件は起こった。
「ジョセフィーヌ!」
「フェリシアン…?」
何かに気付いた様子のフェリシアンが、ジョセフィーヌを庇うように抱きしめる。次の瞬間、銃声が響いた。
「フェリシアン…!今の!」
「大丈夫だよ、ジョセフィーヌ」
「大丈夫じゃない!すぐに治癒魔法を!」
「…うん、さっきのスナイパーは逃げたみたいだし、お願いするよ」
ジョセフィーヌはフェリシアンに治癒魔法をかける。場は一時騒然としたが、フェリシアンがすぐにジョセフィーヌによって怪我を回復したこともありすぐに落ち着いた。少しごたついたが、それでもパレードは続く。
「フェリシアン、もうあんな無茶はしないで」
「愛する君を守ることこそ僕の幸せだもの。無茶なんていくらでもするよ」
ジョセフィーヌは決めた。もっともっと鍛錬を重ねて、フェリシアンを今度こそ守ると。
そして二人は結婚して、今は二人の時間を楽しんでいる。
「ねえ、フェリシアン」
「なに?ジョセフィーヌ」
「二人の時間も幸せだけど、そろそろ子供も欲しいね」
フェリシアンは目を瞠る。が、次の瞬間にはものすごい笑顔を見せる。
「ジョセフィーヌとの子供、きっと可愛いんだろうなぁ」
「ふふ、楽しみだね!」
「うん!…ジョセフィーヌ」
「なに?」
「愛してるよ」
ジョセフィーヌの返事は、もちろん決まっている。
「私もフェリシアンを愛してる!」
46
お気に入りに追加
47
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
薬屋の一人娘、理不尽に婚約破棄されるも……
四季
恋愛
薬屋の一人娘エアリー・エメラルドは新興領地持ちの家の息子であるカイエル・トパーヅと婚約した。
しかし今、カイエルの心は、エアリーには向いておらず……。
好きな人から可哀想な子と思われていたようです
下菊みこと
恋愛
優しい人だと思ってたら割と酷い男だったし、面倒なことになってるお話。
ご都合主義のSS、相変わらずお相手の男性が拗らせまくってます。
小説家になろう様でも投稿しています。
獣人族のマヌルネコの姫君、人族の国に嫁ぐ
下菊みこと
恋愛
獣人族の姫君の結婚のお話。
人族の国に嫁いだ獣人族の姫君、マヌル。初っ端から人族に偏見まみれの陰口を聞こえよがしに叩かれて、怒りのあまり獣化してしまったのだが、肝心の旦那様は話してみると意外とマヌルや獣人族に好意的な人だった。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】婚約破棄からの絆
岡崎 剛柔
恋愛
アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。
しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。
アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。
ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。
彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。
驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。
しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。
婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。
彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。
アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。
彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。
そして――。
こうして虐げられた姫君は、戦勝国の王に嫁いだ
下菊みこと
恋愛
虐げられた姫君が敵国の王に嫁ぐお話。
リゼットは願う。誰か、自分を攫ってはくれないかと。母は亡くなり、宮廷ではいじめられる毎日にいい加減飽き飽きしていたのだ。そこに現れたのは敵国の王。どうやら、いつの間にやら父王は降伏していたらしい。
小説家になろう様でも投稿しています。
決闘を申し込みますわ!
下菊みこと
恋愛
決闘を高らかに宣言する公爵令嬢のお話。ざまぁ展開あり。
ルーヴルナは、自らの名誉の為「自らの婚約者の恋人」であるアナに手袋を投げつけた。民衆はもちろんルーヴルナの味方である。ルーヴルナの今後は果たしてどうなる?
小説家になろう様でも投稿しています。
公爵家のわがままなお姫さまは、いかにして隣国の王子を射止めたか。
下菊みこと
恋愛
ただの馴れ初め話。身分差のある両片思い。
レティシアは公爵家の末っ子長女。兄達三人に守られて育ったわがままなお姫様。そんな彼女は、侍従のラファエルを気に入っている。だが、ラファエルは侍従として線を引いて接してくる。
レティシアの恋はどうなるだろうか?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる