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貴方に嫌われていたとしても、どうか貴方のお側に

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私は公爵令嬢である。そのため大変恵まれている。衣食住に困ることはない。綺麗な流行りの高級ドレス、美味しくて栄養満点の食事、煌びやかで広いお屋敷と私室。さらに両親ともに美形でスタイルが良いお陰で私も美人でスタイル抜群。さらにそんな両親は私を溺愛してくれている。兄も非常に優秀だ。美形でスタイルの良い、優秀な後継の兄は所謂シスコンである。私自身も血筋のお陰かそれなりに優秀だ。王太子殿下の婚約者としての教育を受けているが、毒に慣らされる訓練以外は特に苦労していない。私は恵まれている。使用人たちも大変優秀だ。何も言わずともこちらの意図を汲んでくれる。お小遣いだって高額だ。欲しいものはなんでも手に入る。領民たちだって最高だ。父の領地経営がとても良いらしく、私達一家に感謝してくれている。私はとっても幸せ者だ。幸せ者なのに、一番欲しいモノだけが手に入らないの。

「リリー。いい加減婚約破棄してくれないか?私はロゼッタが好きだと言っているだろう」

酷い人。私が貴方を好きだと知っていながら、そんなことをおっしゃるなんて。

「私はシエル殿下が好きなのです。例えシエル殿下のお心が離れてしまっているとしても、それでもシエル殿下の婚約者で在りたいのです」

私は何度も告げられた言葉に、何度も告げた言葉を返す。シエル殿下は苦い顔をして去って行った。

シエル殿下は私の愛する婚約者。このシーンだけ見たらただの酷い人に見えるかもしれませんが、とても素敵な方でもあるのです。シエル殿下は、眉目秀麗でありながら文武両道。とても優秀で、カリスマ性に溢れる人望も厚い方。そしてなにより優しい方なのです。初めてお会いした時など、緊張しすぎて訳もなく泣いてしまった私を泣き止むまで抱きしめて背中をさすってくださり、もう二度と私が泣いてしまわないように守ってくださると約束してくれたのです。あの時の優しい笑顔に、私は幼いながら愛を感じ心の中の宝物としたのです。シエル殿下はロゼッタ様と出会うまでの間、誠実に私一人を大切にしてくださいました。私は幸せでした。

それが壊れたのは、平民のロゼッタ様とシエル殿下が貴族学院で出会ってから。珍しい闇の属性の魔法を使えるロゼッタ様は、特待生制度で貴族学院に通っています。そこでシエル殿下と恋に落ちたのです。私はそれをお兄様から聞いて泣いて過ごしました。私はシエル殿下の四歳下で、まだ貴族学院に通う年齢ではなくお兄様から聞くしか現状を知る術もなく、何かの間違いではないかと信じていましたが、最近ではシエル殿下が王太子妃教育を受ける私の元に現れて婚約者破棄を突きつけてくるようになりました。私は最初こそ目の前が真っ暗になりましたが、今はもうシエル殿下の愛は諦めています。しかし、婚約破棄などすればそれこそシエル殿下のお立場も危うい。それでなくてもお父様とお母様とお兄様がキレているのですもの。私がシエル殿下の手を離せばいつ何があるかわかりません。お父様とお母様とお兄様がまだ何もしないでくれているのも私からのおねだりのおかげですもの。だから、シエル殿下には申し訳ないのですが、婚約破棄は致しません。ロゼッタ様には妾となっていただきましょう。それか、何処かの貴族に養子にしていただけば側妃にもなれるかも知れません。私はこの日も、涙を堪えて屋敷へ戻り、眠りました。

ー…

「やあ、公爵家のお姫様」

ここは夢?貴方は誰?

「私はお節介な光の魔法使いさ。といっても、今は怖い魔女に睨まれていてあまり介入は出来ないんだけどね!」

怖い魔女?

「ああ。『ロゼッタ』さ」

え?

「あれはしがない平民の女の子じゃない。何百年と生きる闇の魔女さ」

そんな!ではシエル殿下は騙されているのですか?

「いいや?シエル君は全て知っているとも」

え?

「君を盾に脅されているのさ」

どういうことですか?

「ロゼッタはね、君を呪い殺されたくなければ、自分を王太子妃にしろとシエル君を脅したんだ。君を心から愛するシエル君は君を守るために君を傷付ける選択をした」

そんな!

「シエル君を救う方法は一つだけ。この光の短剣を、ロゼッタの方に向けておくれ。刺す必要はない。そうすれば、この短剣に貯めておいた僕の光の魔法がロゼッタを包みしばらく…そうだな、四百年はロゼッタは闇の魔法を使えなくなるよ。呪いも使えなくなるさ」

…!…わかりました。頑張ります。

「ロゼッタは馬鹿でわがままだけれど、一応何年も一緒にいた親友だからね。よろしく頼むよ」

は、はい!

ー…

目が覚めると、手元にはあの短剣。ただの夢ではなさそうです。

「お兄様…今日、私も一緒に貴族学院に向かわせてください」

「リリー?どうしてだい?」

「どうしても、ロゼッタ様とお話したいの」

「リリー…わかった。シエル殿下の話は校長先生の耳に入っているだろうし、いいよ」

「ありがとうございます、お兄様」

そうして校長室で、校長先生とお兄様同伴でロゼッタ様との話し合いの席が設けられた。シエル殿下は呼ばれなかった。

「初めまして、ロゼッタで…その短剣は!?」

私はロゼッタ様の挨拶を無視して短剣をロゼッタ様に向けた。お兄様と校長先生は一瞬私がロゼッタ様を害そうとしていると思い止めようとしたものの、短剣から光の魔法が現れてロゼッタ様を包むと誤解は解けたらしくそのまま見守ってくれた。

「おのれー!リアムの光の魔法か!闇の魔法を使えなくしたな!?この小娘め!」

ロゼッタ様は光の魔法に包まれた後、華奢で守ってあげなくてはと思うような容姿から一転、妖艶でドキドキしてしまうような美女となりました。そして私に襲いかかってきます。しかし闇の魔法を封じられたためか、お兄様と校長先生にすぐに取り押さえられました。

「リリー。話を聞かせてもらえるかな?」

「はい、お兄様」

そして昨日の夢のことをお兄様と校長先生に報告。すぐに王家の耳に入り、ロゼッタ様は兵によって捕らえられ牢獄へ。闇の魔女を殺すことは難しいと判断され何重にも封印を施され終身刑に。シエル殿下は国王陛下と王妃陛下から勝手に一人で判断したことを叱られましたがなんとか王太子位は守られました。そして私とシエル殿下は…。

「ごめん。幼い日、君を守ると言ったのに、君を傷付けた」

「いいんです、シエル殿下。私はシエル殿下にここまで愛されて幸せです」

「…こんな時にこんなことを言うものではないとは自分でも思うのだけれど」

「?」

「…今度こそ、幸せにする。もう一度、僕とやり直して欲しい」

「もちろんです!」

こうして仲直り致しました。今はとても幸せです。
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