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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第59話 過去にあった未来 その始まり

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リヴァイアさんごと次元の壁を渡り、大地に降り立ち、戦士ちゃんに次元の壁を閉じてもらう。
万が一お互いの世界の住人が行き来する事態になったら大変だからな…。
死者もこの世界にいるって言うし…。

「ここが天上界…。所謂あの世って奴になるんだよな…。
空の上に浮かぶ島…。そんな感じか…。地平線の向こうには雲が見えるし。
こんな状況じゃなきゃ、ゆっくりと色々と見て回りたいところだけども…。」
「確かに不思議な空間だね…。
みんな、体に異常はないかい?本来なら魂のみで訪れる世界だからね…。
違和感を生じても不思議ではないんだけど…。」
「違和感どころか、想像で補えば空中浮遊もできるのか…。俺は特に異常はなさそうだ。」

他のみんなも問題なく、ふつうに動き回れている様子だ。
特に身体が崩壊したりとかそんなこともなくいたって普通だった。

「ひとまず、魔族の血を継いでる私達含めて異常がないなら問題はなさそうだね。
さて…。ひとまずどう行動していくか…。
前族長が本当にいればある意味気が楽だったんだけどね…。」
「そこにおるゴブリンのような奴がよもや前族長ではなかろうな?ほら、そこの木の陰に隠れてこちらの様子を見ておるが…。」
「敵の可能性は否定できないでしょ?
ある意味、今私達は敵の本陣に来てるようなものよ。戦闘態勢に入っておくべきよ。
相手は、空の上からこっちを見ていたりもしたんでしょう?」

戦士ちゃんはヴァリアブルソードで小剣を、俺も同じくインフィニティブレードで短刀を生成し、魔女さんと妹ちゃんも杖を構え、勇者ちゃんと盗賊ちゃんもそれぞれ剣とナイフに手をかける。

魔王ズはそもそも武器を持たないが特別身構えてもいなかった。

「おい、そこのもの。顔を見せよ。なぁに…。貴様が我らに仇なす者ならば、我が闇で食い殺すまでよ…。」

マオちゃんがその背からズルリと無数の牙を持つ禍々しい闇の塊のようなものを顕現させる。

「ほひぃぃいっ!?魔女よ!ボクちゃんってわかってるよねぇ!?みんなして武器構えるのやめてぇっ!おじいちゃん、怖くて漏らしちゃうよっ!」
「はぁ…。本当に貴方…なのですね。お久しぶりです前族長様…。
尚、今回は私の肌に触れよう者ならこちらの大賢者様が許しませんので。どうぞ程々に。
あぁ、でも地上に居た時と同じ姿とは言え、敵の手に堕ちてる事も否定はしきれないしねぇ…。
やはり消しておくべきかなぁ?」
「ま、まぁじょさん!!そう言うね!恐ろしい冗談はね!爺さんね!いけないと思うの!うん!いけない!そう言うのだめっ!」

魔女さんが珍しく黒いオーラを纏いながら爺さんを手玉に取っている。

「マオちゃん。実は、眼力系のスキル多数保有してるでしょう君。どうなの?この人は危なさそう?」
「問題なかろう。禍々しい物がついておる気配もない。今時点ではただの天使族じゃ。
それに、お前が魔女にそのネックレスを与えた辺りから奴の視線もサッパリだ。
そのネックレスの目で、あっちも目をやられて折ったりしてのう~?」
「ぬふふほほほほほ!そんで、魔女よ!なんじゃお前、死んだのか?死ぬにはまだ早い歳だと思うのだが…。」
「その件については口から話すのも怖いので直接脳内へ流し込ませて貰いますね。」

そう言って、杖をコツンっとゴブリンのような体格の爺さんに当てる。

「なるほどの…。そう言った事情でこの世界に肉体ごと…か。そして、奴がこの天上界に戻ってきておるとは…。なかなかに恐ろしい話じゃのう…。」
「どうしたんだマオちゃん?さっきからキョロキョロと。」
「奴の気配を探っておったのだ。記憶伝いではあるが顔は把握していたし、奴の視線とその先にある魂も見ておったからのう。
だが、気配を感じぬのだ…。果たしてどんな力で隠れておるのやら…。」
「再び地上に降りた可能性とかは?」
「それはない。気配は感じぬが、奴の魂がこの天上界に居るのは察知できておる。
だが、どこにおるかまでがうまく見えぬのだ…。
おい、盗賊の娘よ。貴様の影を1人ワシに使わせてくれ。」

盗賊ちゃんがその身に影を纏い、それを1人分身させた。

「これで良いのか?」
「あぁ、構わぬ。この影に我が魔眼の力を付与した。後はひとまず犬のように自動追尾させておこう。奴を見つければ居場所を知らせてくれよう。」

影はズルリと地面の影に潜んで行きそのまま姿を消した。

「すげぇな…大魔王様ってのは…。オレの影にそんな力を容易く付与して操れちまうのか…。」
「お前自身に力を付与しても良いのだが、耐えきれず壊れるとワシらのご主人様が泣いてしまうだろう?だから影にだけ力を与えたのだ。
あっちに何かあったとしても本体であるお前に影響はないからのう。」
「ほぅ…。しかし、大魔王様にリヴァイアサンにケルベロス…。さらには新たな勇者まで従者に連れておるとは…今世の異世界人はなかなかの逸材のようじゃのう。そうじゃ、魔女よ。
奴がおるかどうかは分からぬが、死者が集まる都がある。
まずはそこに行ってみてはどうかのう?
転生を果たすまでは死者は皆そこの都で暮らしておる。お主の知り合いが居れば何かしら情報を得る事も出来うるやもしれぬだろう?」

死者の暮らす都か…。つまりそれは…。

「私のせいで死んだ者たちに、私はどんな顔して会えば良いと思う…?恨んでいる者の方が確実に多いだろうしね…。正直なところ、あの男に会うよりもそっちの方が私には恐ろしいよ…。」
「死者の暮らす都…。となるとそこにはもしかするとまだ…、俺がこの世界に来た直前に亡くなった人たちもいるって事じゃ…。」
「先輩冒険者や…下手したらお父様やお母様達が…。
ふふ…。きっと私達も会ったら説教物でしょうね。」
「でも、会えるなら会っておきたいです…。お父様とお母様に…。」
「っつーことは、前国王夫妻やドラゴスケイルの前ボスもいるかもって事か…。
まぁ…居たら挨拶していくかな…オレも…。
いくんだろう?ご主人様。」

皆の顔を見るが、不安と好奇が入り混じった顔だ。
死んだ人に会うなんて普通はできないからな…。
会えたとしたらきちんとお別れの言葉を直接言える…。
死と向き合って本当の決別ができる…。
そう考えたのだろうか…。

「魔女さんは…どうする…?」
「君が居るなら…安心かな…。君という異世界人がようやく現れた…。私達が死なせてしまった命達は…無駄には終わらずに済みそうだと…。
その上で私は謝罪し、あの男を倒すことでこの罪を償うよ…。」
「そうか…。ならば、行こうか。死者の都へ。」
「うむ。良く覚悟を決めた…。では、参るかのう。というか、ワシもそこ行かなきゃ行けなかったしのう。孫を見とったら魔女さんが来てるのが見えたのですっ飛んできたのじゃ。」

カッカッカッ!と声高らかに笑う爺さんは少し楽しそうで嬉しそうだ。

「やっぱり天から、自分の子供達を見守ったりするもんなんだな。なんかそれを聞くと、少し安心するな…。
俺の爺ちゃんや婆ちゃんも俺の世界のあの世から見守ってくれてるのかもって思うとさ。」
「ふぉふぉふぉ。ジジィはいくつになっても孫が可愛いもんじゃよ。わしゃあ孫が死ぬまでは天から見守りたいものじゃわい。」
「あれ?ちょっとまて。マオちゃん達魔族側の死者ってどうなるの?死んだ先代魔王達が天上界に居て、大暴れしてたら少なくともこんな平和な感じはないよね?」
「あぁ、それはなぁ。ほら、さっき言ったろう?天使の反対側。悪魔族の話。あっち側にいるんだよ。見えない次元を挟んだ地底の底にな。
お前の世界の言葉で言うならば地獄って奴だ。
きっとそこで地獄を支配する王の下で働いてるさ。」

マオちゃんは死んだ親に会いたいって思わないもんなのかな…。
案外ケロっとした顔してるけど…。

「ふと思うと、俺は死んだらどこへ行くんだろう…。元の世界のこの天上界みたいなところなのか、この世界の天上界なのか…。
でもそうなると…。死んだ後はマオちゃんやリヴァイアさん、ケロちゃんにイフリーちゃんとは離れ離れになっちゃうかもなのか…。」
「心配するな。お前の眷属になった時点で我らは主人であるお前が死んでも、共に歩めるのだ。
行き着く先は同じよ。」

ニカっとマオちゃんが微笑みかけてくる。

「ふぅむ…死後の世界か…。それを言うと大賢者!私はこの命が一度尽きた時、私たちの元の世界の黄泉の国の神の力で蘇生したのだったよな?
そうなると、もしや私達は死んだら元の世界の黄泉の国へと行ってしまって、この世界には残れないのではないか?」
「だったら、そうならないような方法でも死ぬ前に考えとくさ。
この天上界の一番偉い人にお願いしておくとかさ。」

勇者ちゃんの言葉で改めて気付かされる。
俺は確かにこの世界の住人ではない。
世界的には最初は異物だったんだ。
だからこそ、俺は魔力を使い果たした時に自分の世界へと強制帰還させられた。

その理屈なら、この身体がこの世界で天寿を全うしたら、なんとなく元の世界に戻されそうな気もしてくる。

そう考えるとこの世界で殺された場合も、おそらく俺は強制帰還させられる可能性もあるんじゃ…。

なるほど…。それを回避する為のセーブポイントか…。

セーブポイントがなければ、俺はそのまま強制帰還。

そしてまたこの世界に来るには、少なくともこの世界の転移石が必要になる。

俺が転移石を元の世界で手に入れたのは偶然にも俺の世界に転がり込んできたからだ。
ふと思えばそれも不思議な話なんだよな…。

どうやって俺の世界へ転がり込んで来たのか…。

そう言えば夢で見た、崩壊したこの世界を見せてきた未来の俺はだいぶおっさん化してたな…。

それだけの時間をかけてこの世界に帰還したが、どうしようもできず過去に戻ってはやり直してきた訳か…。
4万年近い途方も無い時間を思考錯誤しながら…。

「さて、話し込んでるうちに着いてしもうたな。
ここが死者の都じゃよ。」
「結構静かなんだな。都と言うからには住人が結構居たりして賑わってるもんと思ったけど。」

ズルリと俺たちの足元の影からさっき盗賊ちゃんが送り込んだ影が這い上がって出てくる。

「なるほどのう…。皆、戦闘態勢をすぐに取れ!
仕掛けてくるぞ!!酷なことをしてくれるな!
醜悪な堕天使めが!!」

ストリート沿いの家々からぞろぞろとこの都の住人がぬらりと顔を出す。

俺と勇者ちゃんと魔王ズはすぐに戦闘態勢に入った。

だが、魔女さんと妹ちゃん、盗賊ちゃんと戦士ちゃんは目を見開いて膝を震わせ、完全に戦意を喪失している…。

「ちぃっ…!見てしもうたようだの…。
おい、ご主人様よ!この都はまずい!一度皆を連れて離れるぞ!ケルベロス!!」

ケロちゃんが獣化し、戦意喪失した4人を器用に口に咥えて走り出す。
俺も爺さんを小脇に抱えて走り出し、その俺をマオちゃんが掴んで空を飛びながら都から離れようとする。

リヴァイアさんはいつの間にかケロちゃんの背中に乗っていた。

「逃すかよ…賊どもが!瞬速斬!!」

彼方に居た屈強な戦士が、剣を素早く振り衝撃波でこっちめがけて攻撃をしてくる。
リヴァイアさんがそれを水の盾で防いでくれた。

「今の技…まさか…。」

今度はその戦士の傍にいた女魔法使いが、杖に岩をパキパキと纏いながら、炎の魔法で加速してこちらめがけて突進をしてきた。

「喰らいなさい…。スレッジハンマー!!」

今度はマオちゃんが俺をとっさに空中に放り投げ、女魔法使いの放つ攻撃を素手で相殺する。

俺は空中でライトニングクォーツを発動させ雷帝モードに変身した。

「俺の前から逃げ果せるとは思わないことだぜ兄ちゃん達。スキル…王泥棒【キングオブヴァンディッド】!!」

空中に居た俺の足が見えない何かに掴まれ地面へと一気に引き寄せられる。

俺は受け身を取るのに失敗し、そのまま地面に叩きつけられた。

変身してなければ死んでただろう衝撃だ。

「逃す気はなさそうだのう…。
ワシらだけで交戦せねばならぬか…。」
「3人の使ってた技やスキル…、それにみんなのこの顔…。要はそう言うことだよな…。」

あの剣と杖は見覚えがある。
俺を助けるために溶けた剣と、妹ちゃんが普段から使ってる杖だ。
あっちの男は、スキル名が【王泥棒】…。

自分で名乗ってるようなもんだ…。

「死者のお出迎え…か。それにしたってこれは酷だろう…。
よりによって…敵として現れるってのか…!」
「堕天使め…。本当に趣味が悪い…。どんな外法を使ったかは知らぬが…死者を手駒にするとはな…!」
「あの男は…死霊魔術も天才だった…。
なんてことを…。この子達の親を…敵として差し向けてくるなんて…。」

さらに後ろからぞろぞろと住人が集まってくる。

「………! やめ…ろ…やめてくれ…そんな目で…私を…私を見ないでくれぇえっ!うぁぁあぁぁっ!!ごめんなさい…ごめんな…さい…ゆるして…いや…もういい…私も…殺してくれ…!殺してくれぇえっ!」

魔女さんの視界に入ったのは、写真にも写っていたかつての研究者達の姿だった…。
発狂するのも無理もない…。

だけど…、だけど!!

「魔女さん。戦うよ。魂だけの彼らの中にある邪悪なもの…わかる?それだけを弾き飛ばすんだ。
大丈夫、俺の力を貸す。死してなお利用されているみんなを…俺たちで救うんだ!!」
「うむ!行くぞ大賢者!私も君が分けてくれたこの力を使って共に戦おう!!」
「賢者くん…。私は…。」
「魔女さんは悪者じゃない…。本当に悪いのは、魔女さんの心を利用して苦しめたあの男だろう?
だったら、みんなで懲らしめてやろう!」

俺は魔女さんの手を取り、そして戦意を喪失してるみんなにも声をかける。

「みんな!しっかりしろ!!あれは君たちの大切な人だけど、中身はそうじゃない!
悪しき力にその魂を操られているだけだ!
みんなで開放するぞ!」

だが…皆は目を見開いたまま膝を降り、ただただそこに呆然とたち尽くすだけであった。

これが最悪のシナリオの序章である事を、俺は今から思い知るのだった。
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