45 / 54
その37 露見(前)
しおりを挟む
(Side:アルフ)
伯爵家令息、カールの精神支配が解けたことを彼の眼差しから理解した俺は、準備が整ったことに内心ほくそ笑んだ。
兄の魔道具は正常に作動、騎士団員らの配置も万全。
そして最後の懸案事項であった、強い洗脳状態にあったカール青年の
支配脱却もこれで完了した。
これでいつでもこの煩わしさ満点の女を捕縛出来る。
お誂え向きに、時刻は丁度ファーストダンスが始まる頃合い。
兄も密かにそろそろかとファーストダンスの為に壇上から降りる気配を見せている。
(では、そろそろこの茶番を終わらせるとするか)
そうでなくばせっかくの夜会、
強引にパートナーに仕立てたルシェルディアと踊れない。
俺が堕ちたと完全に勘違いしているおめでたい屑の処分を、
俺はようやく開始した。
※ ※ ※
(Side:ソフィア)
会場に音楽隊が準備を始めたのを見て取り、
「さぁアルフ様!!ともに参りましょう?」
少しばかり強引にアルフレッドの腕を引きながら、
ファーストダンスのために壇上を降ろうと促す。
私の誘いに拒否を示すことなく笑顔で動き出した彼の側をちらりと確認すれば、
状況が理解できていないのか、ただただボーッと突っ立っている翠髪の女が。
(ふん…目の前で自分の男をまた奪われかけているってのに随分と間抜けな。
まぁそのまま突っ立ってればいいわ)
こんな極上品はあんたには相応しくないのよ
一段一段勿体ぶって壇上から降りながら、彼と腕を組んで余裕たっぷりに周囲を見回す。
嫌悪を示す者、戸惑う者、歯噛みする者と様々な視線を一心に受け、
しかしそれこそに堪らなく優越感を刺激される。
最早ここまで来れば当然、自身の元パートナーに興味のかけらもなく。
壇上に放置してから既に存在すら忘れていた。
壇上から降りきり、この広いホールの中心に足を進め……
「っえ?」
「………」
そのまま中心を通り過ぎて出入り口へと向かうアルフレッドの行動に、
初めて戸惑いを覚えた。
腕を強めに引いてみてもびくともせず、ズンズンと歩く彼の歩みを止めることができない。
それどころか巻きつけている手首を脇で挟まれ、先ほどとは逆に自分が引き摺られそうになり何度もタタラを踏む。
1人滑稽なタップダンスをしながら移動しているような間抜けさに、
周囲からはあからさまな嘲笑が上がり、カッと血の気が上る。
「ね、ねぇ、アルフ様!?」
「………」
「あの!手が痛いので離して…」
「………」
「っ離してって言ってるでしょ!?」
無言で自分を引き摺るようにして歩く王弟に苛立ち、
周囲の耳目すら気にせず荒げた声の音量が上がっていく。
そうこうしている間に出入り口付近へと到達してしまった!
「一体どういうつもりなの!?
アルフ様は淑女にこんな乱暴な!」
カシャン…
「え」
「はいどうぞ。
お望み通りに手を離しましたよ、あー…レディ?」
さもレディと呼称するのを躊躇う表情がかなり腹立たしかったが、
解放された手首には美しい宝石の嵌まった繊細な細工の腕輪が。
途端に機嫌が浮上する。
「あ、あら。アルフ様ったら!
こんな素敵なプレゼントを私に贈りたいがためにここまで?」
「ー…ああ」
「ふふっ!こんな場所でサプライズだなんて…案外悪戯好きですのねぇ?」
「そう、だな」
私の言葉ににっこりと微笑みながら言葉を返してくれる彼。
(やはり私のものになるべくしてなるのだわ、この男は!!)
恥ずかしげに頬を染めて見せ、ありがとうございますと礼を言えば、
彼の笑顔も深まる。
あとはダメ押しにファーストダンスを!
「折角素敵な頂き物をしたのですもの、さぁ、今から共にダンスを」
「ああ、その必要はない」
「ー…は?」
機嫌よく、再び彼の腕に手を絡めようとし…
冷めた声とともにパン!とその手を叩き落とされた。
伯爵家令息、カールの精神支配が解けたことを彼の眼差しから理解した俺は、準備が整ったことに内心ほくそ笑んだ。
兄の魔道具は正常に作動、騎士団員らの配置も万全。
そして最後の懸案事項であった、強い洗脳状態にあったカール青年の
支配脱却もこれで完了した。
これでいつでもこの煩わしさ満点の女を捕縛出来る。
お誂え向きに、時刻は丁度ファーストダンスが始まる頃合い。
兄も密かにそろそろかとファーストダンスの為に壇上から降りる気配を見せている。
(では、そろそろこの茶番を終わらせるとするか)
そうでなくばせっかくの夜会、
強引にパートナーに仕立てたルシェルディアと踊れない。
俺が堕ちたと完全に勘違いしているおめでたい屑の処分を、
俺はようやく開始した。
※ ※ ※
(Side:ソフィア)
会場に音楽隊が準備を始めたのを見て取り、
「さぁアルフ様!!ともに参りましょう?」
少しばかり強引にアルフレッドの腕を引きながら、
ファーストダンスのために壇上を降ろうと促す。
私の誘いに拒否を示すことなく笑顔で動き出した彼の側をちらりと確認すれば、
状況が理解できていないのか、ただただボーッと突っ立っている翠髪の女が。
(ふん…目の前で自分の男をまた奪われかけているってのに随分と間抜けな。
まぁそのまま突っ立ってればいいわ)
こんな極上品はあんたには相応しくないのよ
一段一段勿体ぶって壇上から降りながら、彼と腕を組んで余裕たっぷりに周囲を見回す。
嫌悪を示す者、戸惑う者、歯噛みする者と様々な視線を一心に受け、
しかしそれこそに堪らなく優越感を刺激される。
最早ここまで来れば当然、自身の元パートナーに興味のかけらもなく。
壇上に放置してから既に存在すら忘れていた。
壇上から降りきり、この広いホールの中心に足を進め……
「っえ?」
「………」
そのまま中心を通り過ぎて出入り口へと向かうアルフレッドの行動に、
初めて戸惑いを覚えた。
腕を強めに引いてみてもびくともせず、ズンズンと歩く彼の歩みを止めることができない。
それどころか巻きつけている手首を脇で挟まれ、先ほどとは逆に自分が引き摺られそうになり何度もタタラを踏む。
1人滑稽なタップダンスをしながら移動しているような間抜けさに、
周囲からはあからさまな嘲笑が上がり、カッと血の気が上る。
「ね、ねぇ、アルフ様!?」
「………」
「あの!手が痛いので離して…」
「………」
「っ離してって言ってるでしょ!?」
無言で自分を引き摺るようにして歩く王弟に苛立ち、
周囲の耳目すら気にせず荒げた声の音量が上がっていく。
そうこうしている間に出入り口付近へと到達してしまった!
「一体どういうつもりなの!?
アルフ様は淑女にこんな乱暴な!」
カシャン…
「え」
「はいどうぞ。
お望み通りに手を離しましたよ、あー…レディ?」
さもレディと呼称するのを躊躇う表情がかなり腹立たしかったが、
解放された手首には美しい宝石の嵌まった繊細な細工の腕輪が。
途端に機嫌が浮上する。
「あ、あら。アルフ様ったら!
こんな素敵なプレゼントを私に贈りたいがためにここまで?」
「ー…ああ」
「ふふっ!こんな場所でサプライズだなんて…案外悪戯好きですのねぇ?」
「そう、だな」
私の言葉ににっこりと微笑みながら言葉を返してくれる彼。
(やはり私のものになるべくしてなるのだわ、この男は!!)
恥ずかしげに頬を染めて見せ、ありがとうございますと礼を言えば、
彼の笑顔も深まる。
あとはダメ押しにファーストダンスを!
「折角素敵な頂き物をしたのですもの、さぁ、今から共にダンスを」
「ああ、その必要はない」
「ー…は?」
機嫌よく、再び彼の腕に手を絡めようとし…
冷めた声とともにパン!とその手を叩き落とされた。
0
お気に入りに追加
2,638
あなたにおすすめの小説
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
猫不足の王子様にご指名されました
白峰暁
恋愛
元日本人のミーシャが転生した先は、災厄が断続的に人を襲う国だった。
災厄に襲われたミーシャは、王子のアーサーに命を救われる。
後日、ミーシャはアーサーに王宮に呼び出され、とある依頼をされた。
『自分の猫になってほしい』と――
※ヒーロー・ヒロインどちらも鈍いです。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~
待鳥園子
恋愛
若き侯爵ジョサイアは結婚式直前、愛し合っていたはずの婚約者に駆け落ちされてしまった。
急遽の結婚相手にと縁談がきた伯爵令嬢レニエラは、以前夜会中に婚約破棄されてしまった曰く付きの令嬢として知られていた。
間に合わせで自分と結婚することになった彼に同情したレニエラは「私を愛して欲しいなどと、大それたことは望んでおりません」とキッパリと宣言。
元々結婚せずに一人生きていくため実業家になろうとしていたので、これは一年間だけの契約結婚にしようとジョサイアに持ち掛ける。
愛していないはずの契約妻なのに、異様な熱量でレニエラを大事にしてくれる夫ジョサイア。それは、彼の元婚約者が何かおかしかったのではないかと、次第にレニエラは疑い出すのだが……。
また傷付くのが怖くて先回りして強がりを言ってしまう意地っ張り妻が、元婚約者に妙な常識を植え付けられ愛し方が完全におかしい夫に溺愛される物語。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる