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その28 前夜祭の夜には愛の告白を

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(Side:アルフ)


「ふあぁ……
沢山の出店、笑顔の人人人!!
とっっっても楽しかったですぅ!
もう食べれませぇん………」

「そりゃ、あんだけ食べりゃそうなんだろうよ…」


嫌な気配に晒されて一時醜態を晒してしまったものの、
なんとか滞りなく前夜祭から城へと帰還することが出来た。

宛てがわれた部屋への道のりをルンルンと愉快そうに歩くルシェルディアを見て、引きつった笑みを浮かべるアルフ。
なお、アルフは城に到着してすぐに獣化を解き人間の姿へと戻っていた。
明日の準備もあることだし、何より。
祭りでは獣化のまま過ごす他なかったのだから、
せめて1日の最後、部屋に送り届ける時ぐらいは元の姿でしたかったのだ。

(彼女の愛玩動物としてのポジションが欲しい訳ではないからな)

ようやく先だって、異性として意識してもらえたばかりなのだ。
このまま今日が終わってなるものか!と
彼女の後ろを歩きながら、アルフは無意識に握り込んだ拳に力を込めた。



※  ※  ※


(Side:ルシェルディア)



未だ今日の祭りの余韻に浸り身体を弾ませて移動を続けていると、
あっという間に部屋へと到着。

(むぅ…楽しい時間というのは何故こうも早く過ぎてしまうのでしょうか?)

念願の、“ペット(?)と一緒に1日中遊んで過ごす”が叶い、
喜色満面だったルシェルディアではあったが。
部屋に到着するとともに、まるで祭りは終わりだと告げられたようで一抹の寂しさを感じてしまう。
(なお、明日こそが祭りの本番であることを、ルシェルディアは完全に失念している)

あまりの名残惜しさに背後のアルフへ振り向いてもう少し、そして今一度獣化した状態で部屋で遊ばないかと持ちかけようとしたルシェルディアは。

「ほぇっ??」


突如アルフに素早い動きで軽々と横抱きにされて室内へと踏み入られ、
驚きに硬直した。
ずんずんと淀みない足取りで進んだ彼は、
そのままベッドへと乗り上げぼすん、と自分を横たえる。

「あの、アルフ、様……?」

のし……と上から覆いかぶさり自分を包むアルフに戸惑い、唐突に胸の鼓動が跳ね始める。
無言の彼、徐々に速まっていく鼓動、赤くなっていくのが分かる顔。
抵抗すれば確実に抜け出せるが、強引にそれをしてしまったら怪我をさせてしまうかも…。
妙な言い訳を立ててまで彼の下から逃げる気にならないのは何故か、と自分で自分の気持ちが分からず焦りが増す。

ただでさえ彼の容姿は心臓に悪いのだ。
決してこんな間近で見上げるべきでないのに……

次第に視線を彷徨かせ出したルシェルディアに、上から彼の声が降ってきた。


「今日は、楽しかったか」

「ふぇ!?は、はい楽しかったです、よ?」

「そうか。お前が楽しかったなら良かった。
しかしな」

「……しかし……?」


しかしと告げられ、知らず、眉がヘニョリと下がる。

(もしかしてアルフ様は楽しくなかったのでしょうか…)
思い返してみると、祭り巡り中アルフ様は殆ど私に抱えられたまま。
沢山回った出店も、飲み食いしていたのは殆ど自分だけだったし、気の向くままに彼を連れ回してしまったのだ。

「お、怒って」

「しかしだ。
一つ不満があるとするなら。
それは俺が人間の姿で一緒に参加出来なかったことだ。
……折角初めてのデートだったんだ、男が黒猫もどきじゃあ格好がつかないだろ?」

「へ?ででで、デートとはこれ如何に!?だってアルフ様と私は…っ」

「なんだ、デートだと思っていたのは俺だけなのか?
俺の気持ちを、お前は知っているはずだと思っていたのだが、な」

「そ、それはその!」


ん?と覗き込まれて無性に顔を覆い隠したくなるも、
ぴったりと身体を覆われ密着されてそれも出来ない。

確かに。
確かにアルフ様は以前、可愛すぎるとかくっついていられて好都合とか、“ずっとお前の側にいたかった”……とか。
心臓に負担を伴う恥ずかしいことを言われたり示唆されたことは多々ある。
加えて発言の後には必ずかなり追い回された覚えも。

(でも、でもそれって……!?)

そしてそんな風に言葉を囁かれて全く嫌ではない、
寧ろ密かに喜んでいた自分にも、気付いてはいた(何となくだが)。
しかしその気持ちを明確に言葉にしたことがなかったのだ、自分もアルフ様も。
だから、聞いてみることにした。


「あ、アルフ様は私のことが……す、好き、なのです……?」

「お前は?ルーシェ」

「え、それはずるいです!!
き、聞いているのは私の方なのですよ!!
大体アルフ様はいつもいつも急にっ」

「好きだ。愛している、ルーシェ」

「!!?あ、あぅぅ………っっ」

「いつから、と語る程長く時間を共にしたわけでもない。
魔窟で出会った時にはなんて非常識極まりない女なんだと目を向いたし、
事実常識が抜けているし。
だがこの国にたどり着く頃にはもう、かなり気に入っていた。
それからはお前が何をしようと言おうと、笑っただけで可愛くて仕方がない」

「…重症ですね。お医者様に目を見てもらった方が…」

「生憎と視力はかなり良い方だ。だが重症というのは正解かも知れん。
お前が猫とか小動物に飢えていることを知っていたから獣化も頻繁にした。
明日の当日祭・夜会、強引にパートナーとしてお前を捻じ込んだのも、結局はお前を俺の宝だと周囲の貴族共に見せびらかしたかったのかも知れんな。
一度くらいお前を、ルーシェが俺のだと…素の姿のままで自慢したかったんだ。


………嫌、か?」

(うう…その顔!……っやっぱりアルフ様はずるい人なのです!!)

悲しそうに眉を下げて綺麗な空色の瞳を揺らす、美しい男。
婚約者もいた身で、第2皇子にも愛妾にと迫られ、それでもこれほど自分に心を砕いてくれる優しく美しい男に、ルシェルディアは免疫がない。
免疫がない、それはつまり……完全に、ハートを撃ち抜かれてしまった。
この短い時間に、言葉と行動を持ってして。

「嫌では、ありません」

往生際悪く遠回しにに伝えようと試みたが、生憎とアルフ様も今回ばかりは逃してはくれないようで。


「では、おれの事を好き…か?
いつもはっきりと気持ちを表すお前の口から今夜ははっきりとした返事が、答えが欲しい」

「……っ」

「ルーシェ……」

逃げ場を失い、この夜。


「わ、私も、……好きです、よ?」

顔を真っ赤に染めて
恥ずかしそうに俯いたまま
遂にルシェルディアは、王弟・アルフレッドに陥落させられたノックアウトされたのだった。


=================================================

※遂に想いが通じた2人!!作者としても喜ばしい限りッ!!
いよいよ大詰め、当日祭編が次話より始まります。
長い1日、いや夜になりそうです(((o(*゚▽゚*)o)))
お楽しみに~♪
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