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その24 お祭りなのです?

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「収穫祭、ですか?」

「ああ」


擦ったもんだのまこと締まりのない昼食を終えた後。
アルフ様や国王様に聞かされたそれを復唱し、
頭上に?を浮かべる現在満腹満足なルシェルディアです!

盛大に腹を鳴らし、辛抱堪らずアルフ様や国王様の仕事部屋である執務室に突入してからこっち、随分と温い眼差しを方々から浴びせられ続けているような気がしますが……
きっと気のせいです!!
気のせいなのです!!
何故なら人間とは、否、生物そのものが最も生きるために優先するのが食だから!

とまぁ、腹の虫を御しきれなかった自分を一人で弁護してみたものの。
馴染みのない祭事の名に首を傾げずにはいられない。

曰く、それが自分に何か関係あるのか、と。

空気の抜けたぽやん顔で2人、途中入室してきた宰相様を含め3人を見上げていると。
説明を求めていることを真っ先に察知してくれた宰相様がにこりと笑んだ。


「ああ、帝国貴族出身のルシェルディア様には
あまり馴染みのない祭事ですかね。
文字通り国の収穫事情が豊かであり続けますようにと願掛けする祭りです。
海にも接しているスレイレーン王国だからこそこの王都で行いますが、
基本内陸諸国では地方ー…農地や耕作地帯を多く持つ都以外の地方領地で各々行うものですから。

…前夜祭、当日祭と2日に分かれたこれには毎年王族総出で城下の代表や貴族家それぞれと挨拶を交わす習わしなのです」

「はぁ……。そうなのですか」

「王族総出で、です」

「そうなんですねぇ(何故に2度いう必要が?)」


にこにこと邪気のない笑顔で妙な念押しをされて戸惑っていると、
彼の隣に佇む国王様が眉を寄せて深妙な顔で頭を横にゆるゆる振った。

「ところがその祭事で毎年困ることがあってなぁ…。
パートナーとの同伴が必須なんだ」

「は?」

「私は来年結婚を控えている婚約者が。
ロキは妻がいるし、そもそも王族ではないので問題はないのだが。
アルフには誰もいないのだ」

「へ」

「毎年、毎年、毎年毎年毎年!!
適当な貴族令嬢でいいからともに出席するパートナーを見繕ってくれと懇願しているというのにこの愚弟は!!
貴族達にもパートナーを伴って出席するよういい含めているのに
自分だけ女からのらりくらりと逃げ続け、当日は単身で出席する始末!
いつまでもこれでは王族の一員としてあまりに情けない、
そうは思わないかルシェルディア嬢!?」

「ふぇっ!?ま、まぁ、そうです、かね??」

「そうだろうそう思うだろう!
君なら私の意見にちゃんと賛同してくれると信じていた!」


困惑している内に一気にたたみ掛けられ思わずその場限りの生返事を返せば、なんとまぁ殊更大仰にうんうんと頷かれる。
そして得たり、としたり顔で国王陛下より一言。


「てな訳で。
ルシェルディア嬢、アルフのパートナーとして参加してね」

「なんと!?」


はい決定~!と笑顔の宰相様と華麗にハイタッチを決めた国王様。
肝心のアルフ様でさえ、

「まぁそういう訳だ。
面倒な行事ではあるが、同伴を頼んだぞルーシェ」


いやぁ~、今回はギリギリと言えども
全員ちゃんと同伴相手が決まって良かったなぁ!!

そんな言葉で満足そうに盛り上がる3人を前に、
さしもの非常識少女も唖然と口を開いたまま固まったのだった。


結局そのもう話は済んだ感はその後消えることもなくー…

私・ルシェルディア、数日後の収穫祭へアルフ様とご一緒に出席決定。


(はれ??)


どうしてこうなった??




※  ※  ※


(Side:アルフ)





立て板に水が如くわざと意図を判り難く祭りについての説明と説得をし、
俺達に強引に祭りへの参加を決定されたルシェルディアが若干ふらつきながら執務室を退室していったその後。

本当は彼女をちゃんと部屋まで送って行きたいのを我慢してその場に留まったのは、
まだ兄とロキとで話すことがあるからだ。

「これでいいんだな、弟よ」

「…ああ、助かった」

「まさか婚約より先にお披露目を済ませようとは…
やれやれ殿下には恐れ入りました」

「あのな」

「冗談ですよ?」

「………」


収穫祭へのパートナーを伴っての出席。
スレイレーン王国王族にとっては確かに恒例行事、しかし。
彼女を傍らに伴っての参加は、決してお披露目などといった浮ついたものではないことをこの場の人間は皆知っている。
本当の目的、それはー…

「にしても、確かなんだなアルフ?
例の魔法の使い手が絶対に挨拶に現れるというのは」

「ああ、おそらく間違いなくやってくるだろう。
ギルドで魔法の影響を受けていた男達の中に何人も見知った貴族家の次男、三男がいたのを確認しているからな。誰ぞ適当に堕としてパートナーとして同伴してくるに決まっている。
あんな目立つ場所であからさまに獲物を選り好みしていたんだ。

俺がギルドを去る際のこちらへの粘着質な視線といい、
ルーシェの婚約者を奪って彼女に冤罪を平気で被せる腐った性根といい、
……絶対により条件の良い男を漁るはず」


魅了魔法の使い手、それもそれが女だった場合。
総じて皆プライドが異様に高いし無意味に自信過剰なのだ。
であるからして、絶対に人混みに紛れての暗躍はない。
来るなら貴族令嬢として堂々とが定石だろと断言すると、俺の言葉に兄が嫌そうに顔を歪めた。


「で、婚約者はあれども正式に正妃を迎えていない俺と、
未だ決まった相手のいないとなお前はその性悪にとっては格好の的、と。
いよいよ堪らんな」

「わざわざ冤罪を被せてまでルシェルディア嬢を国から追放したというのに何故我が国に身を置いているかは……まぁ、想像つきますが。
あまり歓迎できる事態ではありませんね」

これに関しては3人が3人とも同意だ。
何せ奴が手を出したのはあのレイブン家の一人娘なのだ。
帝国で奴が人を陥れた罪を問われているかは定かではないが、
主犯の1人であるその女をあの家の者達が放置しておく筈がない。
もしも逃亡してきたのだとすれば、最悪レイブン家がここスレイレーンへと憤怒の形相で雪崩れ込んで来かねない。
だというのに身すら隠さず呑気に男漁りとは、呆れてものも言えない。


「その女、帝国では子爵令嬢なのだろう?
帝国も自国の貴族統制がなってない、と切って捨てたいところだがさて。
ルシェルディア嬢の話ではその令嬢、
国では使い手であることを隠していたのだろう?」

「どうもそうらしい。
国に報告された危険な魔法の使い手……特に強力な魅了魔法となれば、
各国に名を通達される決まりなはずだからな…。
全く、男漁りなら他でやってくれ」

「全くです。それで、出てきたら即刻捕らえて良いのですか?」

「…いや。
まずはその女が間違いなく魅了魔法を行使していると公衆の面前で証明する必要がある。
暴く手はちゃんとあるから安心してくれ」


ロキに視線で大丈夫ですかと問われ、軽く鼻で笑ってみせる。
ルーシェや彼女の化け物家族ほど魔力が膨大ならいざ知らず、
実際ギルドで目にしても不快感以外感じなかったのが良い証拠で、
あの程度では俺になんら影響はないと確信している。
あれ以上強く行使できるとしても

(おそらくルーシェが隣にいる限り問題にもならないだろうな…)

そして国王である兄・ダンテに至っては、魅了魔法を含む精神作用系の魔法を無効化する魔道具を常に身につけているから同様に。


「前夜祭、当日祭ともに騎士の配置にだけは気を配ってくれ。
主に魔法抵抗力の強い者で優先して会場を囲んで欲しい」

「委細承知しております」


頼んだぞ、と言い残し、自身も執務室を辞す。

ルーシェを陥れ、あまつさえわが国にまで害を為そうとしている女
粘つく眼差しで舐めるように自分を見つめた、恥を知らない屑女
罪悪の欠片も抱かずに他人の精神を侵す、害悪

どこをとっても嫌悪しか感じ得ない存在が、
よりにもよってルーシェの前に再び姿を現したのだ。

(確か、ソフィアといったか。
我が国俺の縄張りで、これ以上好き勝手出来ると思うなよ)


厄はさっさと取り除いた方が良い。
その際少しばかり、陥れられたルーシェに代わって手を下せれば、なお良いな。


さてどう料理し処分してくれようかと口を歪め、自室への道のりを歩んだ。



===================================================


※(訂正のご報告)


“その8のあと  レイブン伯爵家最強(?)、始動”で、ルーシェの母・リリムと祖母・カルマの名が入れ違い、祖父の名もグリムがダンテに入力し間違えてました。
読者の方々、大変失礼致しました:(;゙゚'ω゚'):

諸々修正しましたが、
あれ?と他にも見つけることがありましたらご報告頂ければ作者、すっごく助かります!!

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