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その20 いいの、見つけた! Side:ソフィア
しおりを挟む(スレイレーン王国・冒険者ギルド内の酒場)
(どいつもこいつも、ろくな顔してない。全員不合格よ!
せめて顔だけでもデルギス並の男はいないの!?)
自分を囲んで褒めそやす男達にフードの下から笑みと甘い囁きを返しながら、
ローブの女ー…帝国から脱出した元子爵令嬢・ソフィアは苛ついていた。
あまりにもいい男がいないのだ。
いくら腕っ節が立とうとも、無骨なあらくれ冒険者。
裕福な商人の息子であろうとも、貴族男性であろうとも、全てが次男以下で跡継ぎではない。
これではその男を籠絡しても家の金を好きに使えないではないか!と内心で己の周りに侍る男達を罵倒した。
冒険者ギルド内の酒場に根を張り5日。
(そろそろここで根を張るのも限界ね。
こうなったら適当に1人、完全に堕として場所を移して再開するのがいいかしら?)
そんな考えを苛立つ内心でぼやきつつ、ソフィアはここに到着した日のことを思い返していた。
※ ※ ※
6日前の夜、ぼろい乗り合い馬車の荒い運転に尻を痛めつつなんとか到着した、
帝国の隣国・スレイレーン王国。
真っ先に家から掠め取ってきた宝石類を換金しようと宝石店と質屋の両方の門を叩いたものの。
着衣が平民服に姿を隠すようなローブ、しかも女とあって、どこぞの屋敷から盗みを働いたのでは?と疑いをかけられかけ、断念。
乗合馬車へと乗るための乗車賃やその間に食べる質素極まる非常食で僅かに持っていた金は残り安宿一晩分のみ、資金面であてにしていた宝石も換金できない。
これでは宿も取れないと苛々と街中を歩いていて目に映った冒険者ギルド。
貴族の令嬢だった自分が野蛮な冒険者として平民に混じって稼ぐなど!と唾を吐きかけ、寸でのところでそれを飲み込んだ。
(そうよ、思わず失念していたけれど私には魅了魔法があるじゃない!!
保護者が見つかるまで稼いでる冒険者共に貢がせれば良いじゃない。
野蛮な平民とはいえそこそこ稼いでるのもいるだろうし、
依頼しに貴族とか商人とかくるでしょ)
うんうんと自分を納得させてギルドへと入りかけ、しかしあまりの人の多さとむせ返る獣などの血の匂いに素早く扉を閉める。
(くっさ!!それに何あの人の多さ!!
あんな中で探すなんて冗談じゃないわ!!)
その場で地団駄を踏んで、翌日早朝に出直すことを決意。
ぼろさ際立つ安宿で屈辱の一晩を過ごした。
そして満を辞して、というより背水の陣で訪れたギルドにはー…人がほとんどいなかった。
なんで!!?と愕然とするソフィアだが。
いくらギルドが24時間空いているからといって、常に人がいるわけではない。
早朝にいるのはそれこそ遠出の依頼のために早朝から依頼主と待ち合わせる冒険者か、依頼を終えて早朝に街へと帰ってきた冒険者くらい。
冒険者や街に住まう者にとってはある意味常識ともいえることなのだが、
冒険者や平民を野蛮だ下賤だと常日頃から宣っていたソフィアに知る由もなく、また納得できることではない。
ましてや今日の宿がかかっている!と、野宿する気などさらさらないソフィアは、
深く被ったフードの下で、目を血走らせてギルド内を凝視する。
(女なんかには要はないのよ!!引っ込んでなさいブス!!)
そのあからさま過ぎる物色するような眼差しを気味悪そうにチラチラと窺う女性職員など知ったことか。
どころかその容姿を悪し様に内心で罵りつつ視線を彷徨わせ、一点で止まる。
ギルド内奥、酒場で朝っぱらから飲み食いしているいかにも荒くれ者といった風貌の冒険者のパーティー。
座って飲み食いする彼らの中でも一際仕草も態度も体格も大きな男を視線に収め、ニタリと笑う。
(取り敢えず、あれで良いわ)
今は選り好みしていられないと極力静かに歩み寄り、
腕に胸を押し当てながら魅了魔法を発動。
不遜にも文句を言いかけていた男達は、あっさりと魔法に掛かった。
(ふん、当然の結果ね!
まぁこれで当座の宿と食事の心配は無くなったし。
案外幸先いいんじゃない?)
こいつらを侍らせて、明日からもっと身なりも容姿も優れた男を捕まえるわよ!と機嫌よく男達が貢いだ食事と宿にありついたソフィアだった。
がー…
※ ※ ※
回想を終え、5日経っても未だ“合格者”は見つからない。
同時にこの男達にも飽きがきたなと頬杖をついたところで、ギルドの扉が開く音が妙に耳についた。
そういえばさっきも開く音がしたんだったかと興味なさげに鼻を鳴らし、それよりもこの中のどの男を完堕ちさせようかと思案しながら見回すと。
(ッッ!!)
瞬間、身体に衝撃が走った!
扉の外へと出て行く男。
閉まりゆく扉の向こうで背中を向ける一瞬前に垣間見えた端正で色気溢れる横顔。
長身に引き締まった体躯、艶やかな黒髪
一瞬見ただけでも強く頭に残る、涼やかな空色の瞳
服装も簡素な冒険者風を装っていたが、ひどく上質な物に見え。
腰には使い込んだような長剣、それも装飾の良い………
欲の深い両親や商人達、貴族社会に長年身を置いていたから分かる。
あれは、最高級の良いモノだ。
扉が閉まりきるその時まで、いや、閉まりきってからも暫くの間。
じっとりと熱の篭った眼差しで男の姿を舐って脳裏に焼き付けていたソフィアは。
(みぃ~つけた)
先ほどまで退屈で苛つきを宿していた瞳は、
今では獲物を前にした獣が如く、欲にギラついていた。
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