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その3 魔窟=森=楽しいところです
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幾多の凶暴且つ強力な魔物が闊歩するこの世の地獄と称される、“魔窟”
特に夜はかの生物達にとっては起床時間、獲物を狩る時間であり、一般の野生動物達は皆見つからないよう狩られぬようにと息を殺す時間。
だというのにどうしてどうして。
そんな物騒極まりない文字通り魔窟のしんと静まり返った深い闇の中に、軽快な足音と共に陽気な鼻歌が。
その発生源は勿論。
言わずと知れた(?)レイブン伯爵家長女・ルシェルディア。
ゆったりと長く伸びた翠色の長髪をふわふわと揺らし、軽快にスキップで森の中を進んでいる。
(いやぁ~。なんとも静かで涼しくて。正しく天国ですねぇ!)
現在季節は秋に近いとはいえ未だ暑さの去らぬ夏。
正直、貴族でさえなければ暑苦しい布地たっぷりのドレスなど御免被りたい!!というのがこの少女の本音中の本音。であるからして、鬱蒼と高い樹々の生い茂ったこの森の涼しさを彼女は全力で満喫していた。
(まぁ、お爺様やお父様も家や出先ではいつもシャツ袖を千切って涼しい格好をしてましたし…私がそうしても問題ないですよね!)
そういって機嫌良く自身を納得させて肯定した彼女の現在の格好はといえば、
世の貴族令嬢の正装に照らし合わせれば、中々に奇抜な格好となっていた。
森に入る前まであったフリルの付いた長袖は肩の縫い口を境に取り払われ肩にかけた麻袋の中、ロングスカートもたくし上げられた上に腰元で結ばれ、すらりとした色白の両脚も露わ。
この際、はっきり言おう
この時代に照らし合わせて彼女の格好は、大変はしたないと言われるものだった。
が。誰の目もない、というより凶暴な魔物や野生動物と自然しか生息しないこの場で彼女の破廉恥な格好を注意する者は、残念ながら皆無(彼女にとっては幸運だろうか?)
兎にも角にも、冤罪を着せられ死地と評される場所へと捨てられたにも関わらず、世の人々のように絶望したり悲壮感に苛まれることすらなく。
喜色に満ち満ちた様子で夜の森中を移動し続けるこの少女は、
誰がどう考えても“普通”ではない。
いや、異常である。
そうして幸か不幸か一匹の魔物にすら会う事なく森を進み続けたルシェルディアは、一際巨大な樹の根元へと辿り着いて漸くその足を止めた。
「ふむふむ……立派な寝ぐらになりそうですね!」
むん!と意味なく低身長の割に発達した胸を張り、いそいそと身を寄せたのはその大樹の根本に存在する大きなうろ。成人男性がまるっと2人以上は立って入りそうなそのうろに入り、地面も程よく乾燥していることに気をよくすると、ごろりとその場に寝転がる。
(明日は起きてから焚き火用の小枝集めと、木の実・食料探し。久しぶりに狩りをしてみても良いですねぇ。それからそれから………)
そんな明日の予定を呑気に考えている内に、まるで周囲を警戒することも怯えることもなく。
ある意味非常識な翠色の髪と瞳を持つ少女は、夢の園へと旅立っていった。
====================================================
(野生動物にとっては)奇声を上げながら森の中を駆けていたその少女に、勿論元からの住人達ー…魔物達は気付いていた。
どころか視認すらしていた。
なのに何故、彼女を襲わなかったのか?
普通に考えれば彼女という生物は彼らにとっていいカモ、手頃且つ手っ取り早く仕留められる獲物に過ぎないはず。
しかし。
原因は、少女が見た目通りの“普通”ではないことにこそあった。
少しばかり少女・ルシェルディアを視界に捉えた飢えた魔物達の声に耳を傾けてみるとしよう……
魔物A『ぬ?…おお、手頃な獲物!小腹の足しにはなる、か?
……な、なんだこの禍々しい気は!?』
魔物B『へ!なぁにをグダグダと!!
あのような小さなモノに何をそう怯えて、って……ぇぇえええええ!!?
何あれ怖ッッ怖すぎるッッヤバすぎんだろぉおッッ!!?』
魔物C『あ、あああれはきっと新種の魔物……っ!
いや、新たな森の主様に違いない!!
あのような魔王の如きオーラ!分かる、分かるぞ!!
人間の童子のようななりをしているが!同胞達の血の匂いがこびり付いておる!!』
魔物ABC『………』
魔物D『……触らぬ魔物に祟りなし』
魔物ABC『異議なし!!解散ーーー!!』
と、こういった会話があったとかなかったとか……。
ひしめく魔物達をも怯えさせるその理由とは?
まぁそれはいずれ明らかになるかもしれないが、兎にも角にも。
魔窟に身を投じた令嬢のこの日の夜は、平和且つ静かに更けていった。
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