上 下
29 / 50
出会い〜ツガイ編

27話

しおりを挟む
「良いっすかギルマス?!
終わったら即!即ギルド長室直行ですよ!?
承認書類山積みで待ってますからね!?
そのままコーキ君と一緒にバッくれ…直帰しないで下さいよ!!?」

「へいへい。だからギルマス代理、な」

「本当に分かってんですか!?
…ったくただでさえ仕事が溜まっているのに!!
いくら僕が優秀だからって各書類の最終的な承認と確認はギルマスの仕事なんすからね!!」

「だぁから分かったっつってんだろクソウサ。
あと、代理だって何度言やぁわかんだよお前!
それで優秀だとかほんと…」

「ヴォーグだ、い、りぃ!?これで宜しゅうございますかねぇ!?」

「はぁ……ほんとコイツうるせぇ……」


(こういうの、なんて言うんだっけ?
え、と……割れ鍋に綴じ蓋…?)←ちょっと違う

ーー自分のスキルの危険性を知り、酷い悪夢から覚めて。
ジレウスの腕の中でぐっすりと眠り直し、すっきりとした目覚めを迎えたその翌々日。

僕はジレウスと一緒に、冒険者ギルドへとやってきていた。
といって、今いる場所は、以前のギルド長室ではなく、
1階の受付前だ。
目の前では現在、うざったそうに顔を顰めて耳をホジホジしているジレウスと、彼にギャンギャンと噛み付いて(?)いる声の煩いうさ耳さんことミルドさんがオロオロする受付のお姉さんそっちのけで会話をしている。

場所以上に前回とガラリと違う点を挙げるとするなら、
僕とジレウスの格好だろうか。
僕は先日ジレウスに山のように買ってもらった服の中から股下に若干の余裕がありつつもフィット感のあるズボンと緩めで裾長めなポケット(複数)付きの長袖シャツ。
背には同じくジレウスに買ってもらった採集道具などを収めたやや大きめなバックパックを背負っている。

そしてジレウスはというと、完全にベテラン冒険者スタイル。
シンプル且つぴったりフィットなシャツの上に、何らかの魔物の皮で出来た柔軟性のありそうな防具を身につけ、腰には大凡小型とは言い難いナイフが数本に背中には彼の高い背より若干丈の短い大剣を背負っている。
使い込んでいそうなレザーパンツのベルト部分にはナイフの他にも革製のポーチ。
中身を聞いたところ、中には簡単な救急道具やポーションの類いが入っているらしい。

彼の威圧感たっぷりな雰囲気にマッチして、
只者じゃない感がぷんぷんしているように感じるのは僕の勘違いだろうか?

(でも、凄くかっこいい……)

堂々たる彼の冒険者としての風格に、同じ男として以上に目を輝かせてしまう。
同時に、少しどころでない申し訳なさも抱いてしまうのだ。
何せ、このフル装備で。
彼が挑むのが、難易度の高い魔物討伐でも、大商人の筆頭護衛でもなくーー
初心者の僕が挑む薬草採取の護衛、だから。

改めてその事実にしょんぼりとしていると、その様子をどう勘違いしたのか、
ジレウスが身を屈めて頭をわしゃわしゃとまでてきた。

「待たせて悪いなコーキ。
クソウサがまた煩かっただろ?」

「?ううん。あんまり聞いてなかったから平気」

「ははっそうか。
じゃ、行くかぁ~!」

それでもやっぱり申し訳ないという気持ちが隠せず、

「でも本当に…良いの?」

「?何がだ」

「僕の、薬草採取なんかにつ、付き合わせちゃって。
ジレウスって凄い冒険者、なんでしょう……?」

今更初心者のお守りなんて面倒くさいんじゃ?
おずおずと下から彼を見上げる。
僕の言葉に僅かに目を見開くと、直後にハハッッ!!と実に爽やかに笑った。

「寧ろ一緒に行かなかった方が心配で仕事なんざ手につかねぇよ!
それに俺なんざそう大層な冒険者でもねぇからそんな気にすんな」

精々壁役としてこき使ってくれと笑う彼の後ろで、
彼が『大層な冒険者じゃない』と言った瞬間から、中堅所っぽい冒険者の男性数人がブンブン!と千切れんばかりの勢いで首を横に振っているのがいやに気になる。

(本当にいいのかなぁ…?)

結局遠慮が消えはしなかったけれど。

「いいですかコーキ君!
なんとしてもギルマ……ヴォーグ代理を依頼完了後にここへ連れてきて下さいね!?
何ならそのままギルド長室でにゃんにゃんしてても良いですから!
いや、絵面的には完全にアウトでしょうが
兎にも角にも彼をギルドへ帰還させて下さいね!!
絶対っすよ!?」

「ジレウス、にゃんにゃんってどういう意味?
猫さんいるの??」

「っああなんでもねぇよ!?
ほらほらコーキ、折角の初依頼だ、さっさと行くぞ!!」

「?う、うん分かった。
うさ耳さ…ミルドさん、行ってきます!
……ギルドの中であんまり騒いじゃ、駄目だよ?」

「ぐはぁッッ」

「ったく、ほらコーキ」

(ミルドさんの言葉にやや顔を痙攣らせつつ)からりと笑いながら僕の背中を押してギルドからの退出を促す彼に身を任せながら、初めて、それも他ならぬ彼と出かける初めての冒険に。
僕は密かに心を躍らせ足を前に進めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

処理中です...