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Ex1 狼さん、あっためて [1]

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「寒くなりましたね」
「そうだな」

 十二月。師走。ディッセンバー。
 世界中のサンタさんがプレゼント運びに勤しむ。そんな素敵な夜である。

 そして俺は現在、先輩とのんびりココアを飲んでいる。

「運動会以来、全然エッチなことができてませねー」
「…今言う事かよ」
「だって。ずーっと待ってるのに先輩全く手を出してこないなんて、狼の名が廃りますよ」
「獣染みた真似はしねぇよ。それに、無理させて死なせたら俺とて死んでも死にきれねぇよ」

 勘弁しろ、と怒られた。けど、口調も撫でる手も凄く優しくて温かい。お兄ちゃん通り越して、お父さんって感じだ。

 …お父さんって、こんな感じなのかな。

「…疾風?」

 先輩の冬毛に生え変わった尻尾がもふりと俺を包む。先輩の匂いに包まれて、心臓の音が穏やかで、俺は今先輩で満たされている。

「大好き、先輩」

 そう呟くと、小さく溜息をつかれた。

「俺をどうしたいんだ、お前は…」

 半分野性に近い瞳で見つめられた。それだけで一週間生きられそうな気分になる。でも、それを毎日されたら、俺どうなるんだろ?

―――――
 左膝の上にちょこん、と乗る疾風を左腕で支えつつ、ココアを一口。その度に思う。疾風の味は、これよりももっと中毒性のあるものなのだろうか、と。

 ふと、疾風が俺の体に自分の体を預け、子犬のように甘えてくる。

「先輩…」

 本来だったら尻尾を全力で振って、更に欲望に身を任せてしまうところなのだろうが。

 …こいつの身体の弱さは痛い程分かった。
 なのにこいつはとことん無理をしようとする。

 最近は自慰回数と頻度が増え、時間も長くなっていった。しかし疾風への渇望が幾度も湧いて、限度を知らず、その度に溢れないよう定期的に発散させているのだが、それすらも限界を迎えようとしていた。

 だめだ。傷つけてはいけない。壊してはいけない。

 なのに―――――。

 愛おしさの行き場を失った俺は、疾風を引き剥がそうとした。
 だが。

「先輩?」

 あぁ、物欲しそうな声で奴は鳴いた。

「ん?少しトイレに行こうと思ってな」
「先輩いないと寒いよ」

 ぎゅぅ、と抱き締められる。突撃された際にうっかり勃起していた俺の雄が、疾風の腹を見事に撫でた。

「あ…先輩。またエッチなこと考えてたでしょ」
「ばれたか…」

 こうなるとこいつが強いのは知っている。絶対折れようとはせず、あの手この手で誘惑してくる。…筈だった。

「…先輩、俺を選んで、幸せですか?」
「…はぁ?」

 突然の質問に俺は戸惑う。

「何言ってんだよ。幸せだよ。お前の作るメシは美味いし、いつもお前の笑顔に癒されるし、お前の声が無いと寂しく感じるし正直俺自身ここまで幸せだと後が怖いくらいだ」
「…先輩も一緒だったのかぁ」

 一緒?そう聞こうと思った瞬間だった。

 疾風の唇が、俺の唇にそっと触れた。

 その時間が、長い。

 枯れ枝が微かに揺れる音が聞こえるくらい、それは静かだった。

 今の口付けが、紛れも無く肉欲を越えた別の何かだと気付かされたのは、次の疾風の言葉で気付いた。

「俺も、ほんとはちょっと、怖かった。今の幸せ」

 まただ。また、消えそうな笑顔だった。

「なぁ、疾風」
「どうしたの?」

 俺はそっと疾風を抱き締めた。

「お前の心をしっかり、温められてるか?」
「…うん」
「苦痛とかじゃないよな?」
「先輩といると、苦しくも痛くもなくなるよ」

 疾風の言葉の一つ一つが、俺の胸を深く抉る。

「少しずつ、歩いていこうな、疾風」
「…うんっ」

 雪の日の疾風の髪はふわふわしていて、ほんのりパンの匂いがした。それから、疾風を親愛する人間たちの匂い。

 …疾風だけでなくて、疾風を愛する人間も守れたら。
 そんな、果てしないことが頭を過ぎる。
 今は、少しだけ夢を見させてくれ。

―――――

「クリスマスは、美味しい料理とお菓子!!」
「だからってこれは作り過ぎ。パーティーでもすんの?てか文化祭の時と運動会の時の件反省してないだろ
「えへへ~」
「俺は食えるならそれでいいけど。疾風の料理好きだし」
「流石にこの量は…俺の家族呼ぶか?」
「「「先輩の家族っ!?!?!?」」」
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