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理不尽な刻印

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生き神なるオメガの俺の世話を、実に楽しそうにしてくれる黒の国の若き王であるクロトは、書棚から的確に俺の欲しい情報を引き出してくれた。

「渚さま、これが世界地図です」
「おお、ありがとう、ふーん、世界って一つ一つ島に別れてるんだな、陸続きじゃないんだ」
「はい、1つの王国は1つの島に他の王国へは不可侵というのがこの世界の理(ことわり)です、ですがその理を気にせず干渉できるのが渚さまなのです」
「え?そーーなの???」

「そうなんです!!渚様は何処の国にも言わばフリーパスで入れる凄い方なのです、そして其々の国に渚様に関わる宝物が保存されているそうです、それを集める事も大切な事です」

「へぇ、そうなんだ、俺の宝物ってなんだろな、そもそも俺自身がこの黒の国に居たのは何でなの?理由有るの?」

「それは、黒の国が始まりの国だからです他の国ができるよりも早くにこの国が始祖として立ち上がりました、そもそも渚様を守るために出来た都が大きくなり国になったのです、その次に白の国、青の国、緑の国、赤の国、黄の国、桃の国、茶の国、紫の国、灰の国と続きます、全ての国が渚様を守るためにあるのです」

「なんだってぇ!?全部?」
「そうです、渚様を護る為にこの黒の国ができ、それを護る為に白の国ができ、青の国がてきと連鎖的に繋がっております」
「えええ、なんか、大事だな」
「ですから、渚様の御身は誰よりも何よりも優先されるのです」
「なんか、思ってた以上に重いな……あれ?でもさ、4つの国が滅びかけてるて言わなかった?」

地図をみるに、下の方にある、灰、紫、茶、桃の国をじっと見詰めた。

「はい、魔族が進行し灰、紫、茶、桃の国はかなり厳しい状況下に置かれているとの情報がはいってきています、得に灰は……余談を許さない」

「え、あの、すぐにどうにかならないのか」

喉がカラカラに乾いた。国同士は不可侵だとクロトは言った、だから灰が滅んだとしてももしかして黒の国がどうこう出来ないのか。

「この世界では、他国に他国の者が踏み入ることはできないのです、かつて太古の時代に十の国ができたとき、其々の国を治める王は不可侵条約を結びました。ただし、そもそも国は渚様を守るために出来たものですから、渚様がお目覚めになり、この十の国を1つに纏める時がきたならば、私たちは1つの国になると信じてきました、それを世界の王といいます、それまではどんなに他国が苦しくとも軍勢を率いて踏み入る事はできません、しかし頂きに世界の王を掲げた時こそ、全ての国は1つとなり苦しんでいる国をお互いに救う事ができるのです」

「世界の王……って、つまり」
「渚様が選ばれた渚様のツガイです、そして魔族を完全に封印できるのはそのお子である女神だけなのだそうです」

「………」

絶句とはこの事だ。俺はどうやら寝てる間にどえらい世界の中心になっていた。冷や汗がたらりと、背中を流れた。

「急いだ方がいいんじゃ」
「はい、その通りなのです、渚様、僕を渚様のツガイ候補にしてくださいませんか、渚様のツガイ候補になれば渚様が他国へ行く際付いていくことができるのです」

「あ、それは是非ともだけど、どうやって」
「刻印を頂きたいです」
「刻印?」

クロトはサッと古い書物を開き、差し出した。そこには人の絵が書いてあり、6つの印がついていた。

「額、両手のこう、心臓、両太腿に其々刻印を」
「はんこでも押すのか?」

刻印と言うからには、何か印鑑みたいなものが有るのかと思って聞いてみたが、クロトの目が一瞬泳ぐ。

「どうしたクロト、刻印どうやってするの」
「く」
「く?」
「くち……」
「くち?」
「口付けを頂きたいと思います」
「口付け?あ……まさかのキスマーク!?」

刻印て、キスマークのこと!?なんて破廉恥な設定を考えたんだ直哉!!こんなうぶな子にそんなことしたら、犯罪だろ!!直哉のゲラゲラ笑ってる顔が思い浮かんで、額に青筋が立った。

「クロト、あのな、うーーん、ちょっと、そういうのはどうかな、うーーん、他に方法ないのかな」
「刻印がなければ、この大陸から出ることはできません、この国で渚様の刻印を受ける資格が有るのは僕だけです、従って渚様さえ良ければ、僕を連れていってください」

クロトは真剣に言ってけれているが、なんせこちとらまだ15歳のチェリーボーイだ、クロトは年下の可愛い黒猫ちゃんだけどそんな簡単にはできることじゃない。

「もちろんクロトに一緒に来て欲しい、だけどな、うーーん、どうなんだ、うーーん」
「僕ではご不満ですか」

目に見えてシンボリしてゆくクロトに、ブンブンと首を振る。

「いやいやいや、クロトに不満があるとかそういうことじゃないの、そうじゃなくて、論理的にというか、倫理的に?というか、あーー1種の契約と割り切ってやるものなのか、うーーん」

頭を抱えて考えるも、何も浮かばない。この国を出て早く番をみつけて、早く王の軍勢を作って、子供産んで魔族を滅ぼさないと国が滅んでいく訳で、従って、キスマークだの何だのと怖じけている場合ではないのだろうが。子供産むってそんな簡単にはいかないぞ!!直哉のやつ、絶対面白がってる。あいつは、俺が泣いたり困ったりするのが大好きなドSアルファだったからな、もーーーっ!!

壁に掛かっている古時計の針が妙に大きく聞こえ、一刻一刻を刻んで、早くしろ早くしろと急かされているような気がした。

「クロトは、クロトは本当に良いの?王様が俺についてきたら国に王が居なくなってしまうよ」
「国が滅べば王など意味もありません、灰の国が滅ぶ事は他人事ではないのです、魔族は自然に消えたりしないのです」

冷や水を浴びたような気がした。俺がキスマーク1つや2つで悩んでる時に、この子は国を憂いていた。滅びかけている灰の国を心配していた。

「ごめん、クロト、やるよ、いい?」
「はい、渚様、お願いいたします」

クロトは、はらりと、服を脱ぎ目を閉じて立った。俺はもう、迷わず、クロトの額にキスを一つ、手をとってその手のこうに其々、一つづつ、心臓の上に一つ、しゃがんで、クロトの太股に一つ、最後にもう一つのキスをした。

すると俺がキスをした箇所がまるで鉄印を押されたように黒くなり跡となった。

「クロト、色がついたけどこれで良いのか?」
「はい、書物にある通りの刻印です、これで私は渚様のツガイ候補になれました」

クロトは、さっと、膝をつき、俺の手に自分の唇をそっとよせた。

「黒の国のクロト、これより、渚様のツガイ候補として全力であなた様を御守り致しますことをここに誓約致します」

まるで円卓の騎士の誓いのように、それは厳かで神聖な誓いの言葉だった。

「うん、クロトよろしく」
「お任せ下さい」

俺は、黒の国で、理不尽な刻印によってまず1人目のツガイ候補を手に入れたのだった。

直哉この設定は怨むからな。

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