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 塔で収穫が何もなかったので、仕方なく、街へ戻り、今度はかつて大賢者だった、リーンの家へ向かう。


デニールさんもまだ、付いてきてくれていて、僕とアルを馬車に乗せたあと、後ろから馬に乗って護衛してくれている。

「アルは時間大丈夫なの?デニールさんがいるし、王宮に戻っても」

「いや、夜に戻れば間に合うようにしてきたから気にするな、デニールは屋敷の外に待機させないと」

「まぁ、確かに、てか、鍵魔法が掛かってるような気がするんだけど、アルは解けないんだよね?」

「解けない、そなたに何度閉じ込められたか」

ギロリと睨まれ、トラウマほじくっちゃったと、後悔。そうね、いつも僕はアルを肝心な時に閉じ込めてるね。


「まぁ、もしかしたら、身体が覚えてるかもだし」

邸宅前について、玄関ののぶに、チョンと触れると、バチバチっと強い静電気のような衝撃を受けた。

「イタッ!!」

「鍵魔法だ、リーン大丈夫か」

「めちゃ、地味に嫌な魔法だな……静電気には確か、えーっと、地面に手をついて、下に電気を放電しつつ」

僕はもう一度、ノブに手をかけた。すると、今度は、カチャリと、鍵が回る音がして、扉はあっさりと開いた。

「やった!!」
「なんだ、どうやったんだ、リーン、それは私にもできるのか、教えてくれ」

「いやもう、僕は貴方を閉じ込める魔法が使えないから覚えなくていいですよ」


教えろ教えろと煩いので、手を地面について開ければ空くと教えといた。アルはこれでもうリーンに閉じ込められないと喜んでいるが、そもそも僕はもう魔法が使えないからね。


扉の中に入ると、薄暗い玄関ホール、まるでお化け屋敷だ。どこかに灯りを灯すものを探したが何もない。しまった、ランプを持ってくるべきだった。

仕方なく、できるだけ窓にかかった、カーテンを引っ張って日の光を入れると、なんとそこは、廃図書館かと思うような、書籍の山。

「うっわーー汚な、え、僕、生活能力ゼロじゃないですか」

「リーン、そなた、塔の中では何でもできたが、もしや、掃除が苦手なのか」

「苦手というか、やってなくないですか、これは、え、ここに住んでたんですよね」

ホコリがこんもりたまった、本棚には、新しい物から古い物までありとあらゆる本がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、至るところで本雪崩を起こしている。


ここから何を見付けろと?自分の家ながら、ドン引きである。

「えっと、エントランスでさえ、この有り様ってことは、上の部屋はもっと酷い気がしてなりません」

「同感だが、一応確かめねば、前に、そなたに家に招いてくれと言ったことが有ったが、絶対いれてくれなかったのはこういうことか」

後半小声でぶつぶつ言ってるアルを先頭に、階段を上がっていく、怖いことに、階段の隅にも何冊も本が積み上がってて、ちょっと当たったら大惨事間違いない。慎重に、なるべく振動を与えず登っていくと、廊下にももちろん、賽の河原の如く、幾重にも本が積まれている。

本好きもここまでくると、迷惑というもので、これを大神殿でもやってたとしたら、追い出されるはずである。それとも神殿で押さえられていた欲望が、1人になったとたんに爆発したかのどちらかだ。

こんなの、大神官様に見せられないぞ。絶対説教くらうやつ。

しかも、僕はこれを片付ける気力はない。たぶん、ここへ帰ってきても、きっとこのままで、また新しい本を買ってしまって、置くところをさがして、たぶん、本の上に本を置く。ゾッとした。

あれ、これ、僕が確かにやった事かもしれない。


「アル……秘密守れますよね?」
「えっ、あぁ、勿論だ、そなたの家がごみ屋敷……いや、ゴホンっ、本だらけで有ることは口外せぬと誓おう」

ごみ屋敷って言ったな、まぁ、その通りですけど。

2階には5つ部屋があって、端から開けようとするも、どうやら扉の前の本が崩れたようで、隙間から見るに、中は玄関の比では無いくらいの本が天井付近までつみあがってた。怖すぎる。

「アル、だめだ、危険だ」

「そなた、これは、幾らなんでも、メイドの1人でも雇うべきだぞ」

「たぶん、その雇ったメイドに注意されるのが嫌で雇わなかった気がしてます」

「それはまぁ、、しかし」

リーンは、この家は確かに落ち着く、落ち着くが、ここではもう暮らせない事だけは、理解した。1人で入るのでさえ危ない。

きっと、貴重な本や資料があるに違いないが、それをどうやって見つければ良いのか。

「アル、諦めよう、どうせ他の部屋も一緒だよ」

「うむ……しかし、せっかく来たのだ、とりあえず隣の部屋も見てみよう、あ、だめだ、ここもか」

もはや一度開ければ、本がドアに挟まって閉まらない、僕たちはそれを何度か繰り返し、中ではトドドと本のタワーが崩れる音が聞こえ、どこの本が崩れたのか、もう直す気にもならず、本を踏まないように、もと来た道を引き返した。

「とりあえず、大神殿とこの家の情報からは、僕が本好きということしか解りませんでした」

「本好きのレベルなのだろうか」

「かなりの本好き、でしょうかね、はぁ、全くもって役に立たない、こんなことなら街で本を買ってきて部屋で読んでれば良かった」

「リーン……」


嘆かわしいといった目で、アルに見つめられる。解ってます、解ってます。

「ええっと、まぁ、僕はちょっと、溜め込み癖があるようですね、本を買うときはこれからは注意します」

「あぁ」

「さて、僕の情報が本当に手に入りませんね、この調子では、おそらく仲良くしてる人も少なそうです、殆どの時間ここで1人で本を読んでいたことは、安易に想像できます」

「で、あろうな」


「そういう訳ですから、街で僕の情報を聞いて回ったとしても、本をよく買ってる以上の情報は得られないでしょう」

「うむ」

「まぁ、最初に言いました通り、僕は別に過去の自分の事がどうしても知りたいわけではありません、これからは、気持ちを切り替えて、自分の中に何が残ってるかの方を探ろうと思います」

目につく本を拾って、冒頭を読む、何となく知ってるなと思う。

「ここにある本はおそらく、僕の頭に残ってるような気もします、だけど、どれがどこに書いてあったかまではわからない、本を開いて数行を読むと、たぶんこんなことが書いてあるなと、粗筋のようなものが浮かびます」

「つまり知識量はそんなに変わってない、ということは、魔法関連ももう一度さわりをみれば使えるような気がします」

「なるほど」

「魔法は、本から覚えるのですか?」

「いや、回復系の魔法なら神殿か、戦闘系なら魔術師協会の訓練所か、日常魔法なら平民が通う学校か、貴族はそれらを全て貴族魔法学園で学ぶ、そなたは、賢者神殿にいたから、回復魔法ができたはずだが、なぜか、戦闘魔法も、日常魔法も使っていたな」

「なるほど」

つまり僕は何らかの方法で、回復魔法の他の魔法も手に入れていたと。

「貴族魔法学園にかよってた訳ではないのですよね?」

「そなたは、神殿の賢者候補だったから、両立はできないはずだ、魔法学園は、貴族でなければ入れぬし、一応調べておくが」

「お願いします」

外でまっていたデニールさんを連れて、僕たちはまた、湖の古城へ引き返し、アルは、そして王宮へと蜻蛉帰りしていった。送らなくて良かったのに。






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