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 ゼクスのいる王都まで、中継地の街で1泊するが、街の警備は新国にしては、万全だった。ドラクロン側らも兵が派遣され、それらは街を取り囲むように配置され、ネズミ1匹検問にかける厳重さであった。つまり早い段階で軍を掌握し、動かせたということだ。

「指揮系統がだいぶしっかりととれてるな、思った以上にゼクスは適任だったみたいだ」

リュカは、一緒にきている、将軍達と話をしている。前回、軍義の席にいた、引退した将軍の多くは、ドラクロンの件が片付くと、しれっと、元の鞘に戻ったらしい。今回、同行するのは、戻らなかった2名で、元クラーク領将軍と、元トルクスタン領将軍だ、クラーク領は、王都クライスの北西部山岳地積雪の多い土地で、トルクスタンは、その横の北東農業が盛んな盆地、クライスを挟んで南がリズの故郷海辺のミルルのあるカリル領、そして西の砂漠全土のサリザーラ領。つまり、領地が近く、仲がよいのだ。

リズは、元クラーク将軍とも、元トルクスタン将軍とも挨拶をしたが、二人とも硬派なおじ様といった感じで、落ち着いた大人の風格を漂わせて、リズに紳士的で優しい。ただ少しリュカに対する見解の違いは否めない。

 リュカが席を外している時にふと、二人が話しかけてきた。

「そういえば、リズ君、リュカは君を大切にしてくれている?あいつは殺伐とした軍の中で育ったから、都会っ子のリズ君を喜ばせる様なこと一言も言えないだろうなぁ」

「誠に、人にそもそも興味がなさそうですし、美しい人が話しかけても平気で、臭いからどっか行けとか言っちゃうんですからねぇ、デリカシーと言うものが欠落しておる、あれじゃぁ、怖がって誰も近づかない、リズ君に気の効いたこと言えてるきがしないな」

二人は、やれやれと、若い将軍の愚行を嘆いているが、リズは、いつものリュカとはまるで違う話で、逆に戸惑う。

「リュカさんは、とっても優しいですし、僕のこといつも大切にしてくださいます、好きって沢山言ってくれるし」

ポッと頬を染めたリズを、みて、元将軍達はおののく。

「あのリュカが!?」
「なんと、どの口で好きなんて」

「そろそろ、リズを、返して下さい、あんたらのクダラナイ話にリズを、巻き込まないでください」

リュカがずんずんと近づいてきて、リズの手を引っ張って、連れて行こうとすると、おじ様達は、まるで乙女の様に目を耀かせて、去り行く二人を見つめていた。

「あのリュカが、憎まれ口しか叩かない、あの朴念仁のリュカが手をつないでる」

「人は変わるものなのだな、あの子に夢中どころか、眼中に入れそうなくらいの独占欲だ、あんな激しいヤツに好かれたリズ君、大変だろうて」

渋いおじ様騎士達は、それでも、心のなかでは喜んでいた。殺伐とした世界でリュカは誰にも関心なく生きているとばかり思っていたから。執着は弱点にもなるが、執着があるから生きたいと思うのも事実、リュカは向こう見ずなところがあるし、良いストッパーになる伴侶がいるのは良いことだ。

「あれはもしや初恋じゃないのか?」
「遅い初恋か、良いのう、初が来ないまま、わしらみたいに成るかと思ってたわ、ははは」

しかし、彼らは知らない。実は10年も想い続けた末の恋だということを。初恋とかそんな甘い想いはとっくに通り越して、執着の終着の呪縛みたいな恋である。初もここまでくればもはや熟練、そしてその想いはどんどんつのるばかりで、今なおリュカの心の大半を占め続けている。


「あの人たちの言うこと……気にしなくて良いよ、俺が小さい頃から親父について戦場にいたから、人嫌いになったみたいに思ってるから、余計な世話焼こうとしてくる」

リズの手を引っ張り歩きながら、リュカはリズに言い訳するようにぶつぶつと、全く迷惑と言ってる。

「リュカさんて、あの、今まで、いい人って居なかったんですか?」

リズは、安心が欲しくてつい口にしたことを、あっと、手で押さえた。

「あ、えっと、リュカさん、モテただろなって、その、僕より前は、えっと」

ぴたっと、足を止め、リュカは、珍しいものをみるみたいな目で、リズを、シゲシゲと見詰めた。

「俺が?さっき、もてなかったって話してなかったか?だから、むかついて引き離したんだけど、あ、いや、だって、やだろ、リズに、もてないのに付きまとってるみたいなの、カッコ悪いから」

リュカは、カッァと、顔を赤らめ、視線を外す。何か勘違いが生じている。

「え?リュカさん、もてますよね」
「は?もてないからアイツら騒いでたんだろ、もてないのにリズに」

「リュカさん、あの、もてますよ、絶対にもてますってば、僕なんかじゃなくても、もっと素敵なオメガがいたら、リュカさんその人好きにならないですか?だってリュカさん、スゴイかっこいいし、僕、何にも良いところないし、いつかリュカさん……他のオメガの人好きに……なるかもって」

うるっと、瞳が濡れた。ありもしない起こってもいない先の未来の不安なんかをぶつけるべきじゃないのは解ってる。
だが、リュカは、リズの泣きそうな顔をみて、ワタワタと焦りだした。

「わ、リズ、どうした、リズより素敵なオメガ?なんそれ、俺、別にオメガだからリズが好きな訳じゃないよ、確かにオメガなのは俺にとって都合良かったけど、リズをツガイにできるなんて、オメガとアルファじゃないとできないから、そう言う意味では」

「じゃぁ、なんで僕を好きなんですか?」

「はっ!?や、そんなん、リズだから……へ、だから、全部、顔とかすげぇ可愛いし、性格も可愛いし、声も可愛いし、ご飯下手くそに食べてるとことか、駱駝のれなかったりとかどんくさいのもまた可愛いし、身長もちっこくて可愛いし、仕草もいちいち可愛いし、誠実なとことか、優しいとことか、すぐ泣くのも可愛い、てか可愛いしかないのすごいよな、まじでリズ、改めて考えると、ヤバイっすね、可愛いしか、ないじゃないすか、なんだこれ」

「うぁ、リュカさん…僕、駱駝乗れるようになったのに」

「あんな下手くそな乗り方見たことなくて、可愛いすぎて」

「………いじわる」

「あ、や、ごめ、怒るな、悪かった、もっと楽な乗り方教えるから、な、あーー参ったな、俺が悪かったすよ」

将軍で指揮を取る時はあんなに堂々としてるのに、目の前のリュカは本当にただの18歳の、恋人に振り回され困ってるリュカさんで、リズはリュカの手をぎゅっとにぎった。

「リュカさん、僕しか好きじゃないんですか?」

「へ?そりゃそうだよ、リズだけだろ、こんな気持ちがぐらぐらなんの、俺だってやだけど、どうしょうもないくらいリズだけだよ、責任とって」

「僕のせい!?」

「ん、惚れさせたんだから、歳上なんだろ?」

「そうです、僕の方がお兄さんです、だから一生責任とりますけど、一生で大丈夫ですか?あの、途中でやっぱだめとか、なったり」

チロッと上目遣いにみつめると、リュカは、破顔して、リズの両頬を手で包んだ。

「一生すよ、絶対に一生涯、約束」
「はい」

こんなに、こんなに喜んでくれるんだ、未来の不安なんかを感じさせないくらい生涯かけての約束をリュカは真っ直ぐな瞳でくれる。報いたいと思う。

こんな恋は生涯かけて1度きりだ。もう、こんな風に他の人を想ったりできない。この恋が燃え尽きたら、もう二度と同じ熱量の火はつかない。何故だろう、本当にそれだけは解る。短い人生しか生きてないけど、今から倍の倍生きていくけれど、こんな恋はもうできない。リュカもそうなのだろうか、そうだったら良いなとリズは愛しい人を抱き締めた。お互いの炎がずっとずっと燃え続く事を願って。









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