上 下
43 / 66

43

しおりを挟む
 初めてリュカの父と母に会う。どんな人だろう、お兄さんは2人居て、長男のオルカ様にはこないだ会った、セブルカさんの想い人。結婚式を上げる前に番になってしまって、良く思われないかも。

 リズの不安の入り交じった緊張を感じ取って、リュカはぎゅっと手を握る。怖いことなんかないって、俺がいるから大丈夫って、言葉にしなくても、気持ちが流れてくる。そうだ、自分にはもうリュカという番がいるのだ。

「大丈夫です、リュカさん」

「ん、緊張しなくて良いから」

扉を開けようとしているメイドさん達の目を盗むように、ちゅと、髪に口付けされ、整えた心が乱される。

「リュカさーーん」
「ハハッ、ごめん、真面目な顔が可愛くて」

なにそれ、真面目な顔は可愛くなんてないです。小声で文句を言っていたら、緊張をする暇もなく、扉が開き、中へと招かれた。

中央に豪華な食卓があり、正面に年配の男性と、その右に美しい黒髪の女性、リュカに似てる。左右の席にオルカさんと、もう1人、オルカさんを小柄にした感じの真っ赤な髪の青年が座っている。
正面の年配の男性が、席を立った。


「やぁ、リズさんはじめまして、リュカの父のセルカ·サリザーラだ、以後お見知り置きを、こちらは妻のリュリュ、長男のオルカ、次男のティシュカ、さぁ、どうぞ席について下さい」

紹介を受けた順に、妻のリュリュはにこりと微笑み、優しい瞳でリズをみつめて、オルカは良かったねという顔で見守るみたいな眼差しで、ティシュカは、ムスっとしていた。

(え、次男さんなんか怒ってない!?)

少し戸惑ったが、リズは、キチッと頭を下げた。それをみて、リュカも頭を下げた。リュカは、普段はしない挨拶をリズのために、きちんとすることにした。

「おはようございます、父上、母上、兄上、こたびの祝宴をありがとうございます、こちらが我が伴侶となったリズ·カリルです」

「サリザーラ伯爵、並びにご家族の皆様、ご挨拶が遅れたにも関わらずこのような温かな席に招いて下さり感謝いたします、わたくしは、クライスから軍医として参りました、リズ·カリルです、このたび、勝手ながらご子息であらせられるリュカさんと、番となりました、事後報告になりましたこと許し下さい」

リズのきちんとした態度に、サリザーラ伯爵は満面の笑みを浮かべた。

「リュカは素晴らしい伴侶を得たな、おめでとう、さぁ、リズさんこちらへ座って、もっと話をしましょう」

「はい」

リュカと共に用意された豪華な席に着く。伯爵は、ワインを注ぐように、メイドさん達に指示をだし、タプタプとつがれたワイングラスを片手に掲げた。キラキラと、照明に輝くそれを高らかに。

「我が息子の善き伴侶に乾杯しよう」

「善き伴侶に」「可愛い伴侶に」「……」「我が番に」
「僕の番に」

「「「「「カンパーイ」」」」

ゴクッと飲むと、口の中に葡萄の甘い香りとこくが広がって、うっとりするくらい美味しかった。

「さぁ、サリザーラ邸の自慢のシェフが作った料理だ、食べなさい」

「はい、いただきます」

前菜の野菜を啄むように口にして、ちらりと視線を伯爵へ向けると、伯爵は上機嫌で、人参を妻の皿へいれている。

「我が妻は人参が大好きでね、この人参は、特別な肥料で作った我が領土の特産品なんだ、甘くて美味しい」

「ほほ、騙されないで、この人、人参を食べれないんですの、本当に美味しいのに」

「……あ、はい、人参美味しいです」

「もっと食べるすか?」

リュカまで、リズの皿に人参を乗せようとしてきて、大丈夫だと首をふる。

「仲が良くて妬けるね、僕も伴侶を持とうかな」

「おや、オルカ、とうとうセブルカを娶る気になったのかい」

「父さん、やめてくださいよ、いない人を話題にするなんて、良くないですよ」

「リズさんは、セブルカに会ったことあるのよね」

お母上が、人参を食べながらリズにたずねた。

「はい、本当に良くしてもらって、優しい楽しい方でした」


「私の母の妹の娘の息子なのよ、リュカに少し似てるでしょ」

「はい、最初に見た時、お兄さんなのかと思いました」

「まぁ、あながち間違いないじゃないな、オルカががんばれば」

「父さんっ!!」

真っ赤な顔になって、父を注意するオルカさんを見て、リズは、あれ?と思った。

(あれ?もしかして、もしかして、オルカさん、セブルカさんと両想いなのでは!?え、セブルカさんっっ!!両片想いとか、甘酸っぱい)

ちらりと、リュカに視線を送ると、リュカは頷く。

「あいつら、お互いを意識し過ぎて、ここ数年、一言も喋れなくなったんだ、家族一同見守り体勢にはいってる」

「はぁーーん、なんて甘酸っぱい」


「あのさ」

突然、次男のティシュカが、バンッとナイフとフォークを机に置いた。

「皆浮かれてるけど、僕のこと忘れてない!!」

「へ?」(父)
「あら」(母)
「おや」(兄)

「うるさ」(リュカ)
「エッ」(リズ)

「リュカが将軍職を辞退するって本当にそんなこと許すつもりなの!?そんで、僕が将軍になるって、そんなバカな話しある!!」

「あーー」
「仕方ないわよ」
「それかぁ」

「お前、兄だろ」
「エエっ」

「兄だろじゃ、ないだろ、リュカ!!なんで僕が将軍なんて、無理に決まってんだろ」

「大丈夫だよ、軍義にでて座ってるだけだから」

「んな訳ないだろ!!お前なんで、やめるんだよ、辞めんなよ」

「しょうがないじゃん、リズと一緒にいたいんだから、俺も新人騎士部隊に入るって決めたんすわ」

「決めたんすわじゃねーわ、ダメに決まってるだろ!!何いってんの、まじで、父さん、こいつ、頭イカれてるよ、リズさんも伴侶として叱ってよ」

「えええっ、りゅ、リュカさん、何がどうして」
「ん?将軍職だとやること多くてそばに居られないから、辞めちゃおうと思って、あとちょっとヤることあるし、ちょうど、ティシュカが空いてたからねじ込んどいた」

「軽い!!」


リズは、青ざめた。何がどうして、こんなことにと。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...