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新人騎士団の団長である、モーガンも本来なら出陣する予定だったが、急遽、リズの護衛を任され、ホフマン共にオアシスに留まる事となった。
「どうですかね、外の様子は」
ホフマンがチラリとモーガンを見た。リズを落ち着かせるために、作戦本部へと戻ってきた三人、重い沈黙を切ったのはホフマンだった。
「勝てますかね……てか、リュカ将軍は、本気で1人で仕留めるなんてできるんですかね」
「もしもの時のために我々はこうしてここに待機しているんだ」
渋い顔で、モーガンが答える。リザードベアは、この国で一二を争う獰猛な獣だ。その体重は300キロも、越える巨体で、繰り出す爪は鋭利な刃物よりも鋭く獲物を切り裂く。執着心が強く一度狙った獲物は仕留めるまで追い掛ける。群れで獲物を追い詰め、いたぶって遊んだりもする残忍な生き物。
一匹仕留めるのでさえ、犠牲を出さずに出来ることが少ない。
「10頭か……もし、本当にそんな事ができるなら、一度手合わせを願うなど、恐ろしくて口が裂けても言えないな」
「将軍に手合わせを頼むつもりだったんですか?」
「まぁ、戯れの一環だとしても、一度くらいこの国の将軍と剣を交わしてみたいだろう?」
「将軍?」
リズが、モーガンとホフマンの会話に疑問符を投げた。
さっきから将軍と、リュカの事を呼んでいるのは何故なのか。
「将軍って、リュカさんの事ですか?」
「え?」
モーガンと、ホフマンはつい、間抜けな面で、ぽかんとした。
「や、まさか、カリル医師は……まさか、御存じでは?」
「何をですか?」
「彼は……貴方の」
許嫁ではと、口を滑らせそうになって、慌てて、モーガンは手で己の口を押さえた。
(まてよ、秘密にしているのか?おいおい、どこまで喋っていいんだ?迂闊なことをこの子に吹き込んだら後でどんな目に合わされるか)
モーガンは、チラリとホフマンに助けを求める様に視線を投げた。
(いやいや、こっちに振られても無理っすよ)
ホフマンが露骨に嫌な顔で首をふる。リズは、ずいっと、モーガンへ近づいた。
「リュカさんは、将軍なんですか?なぜ僕の護衛を?ねぇ様はなぜ、リュカさんに頼んだのですか?」
「いや、く、詳しくは解らないが、きっと深い何か理由があるのだろう、ぐ、軍義機密かもしれないから」
伝家の宝刀軍義機密を、出すと、リズは、自分に聞く権限が無いと思ったのか、ムッと眉を寄せた。
「でも、皆さん、リュカさんの事を将軍って呼んでましたよね、将軍って、偉い人なんじゃないんですか?」
「偉い、と言うか、まぁ、国防の要ではあるような」
「モーガン隊長よりも偉いんですか?」
「いや、比べ物にならない、我々は砂漠都市サララについたら、一番下っ端の部隊に所属される、将軍なんて話す事もできない」
「リュカさんが、将軍……将って、大将の将ですか?軍のトップって事ですか?」
「サリザーラ軍にとっては、恐らくはそうだと」
「国に将軍って、何人居るんですか?」
「クライス王国には、現時点で7名だ其々が、領地の軍を率いている」
「国で7人……将軍……あのっ、将軍って、いくらで雇えますか?」
「へっ!?」
モーガンが、予想外のリズの質問に驚く。将軍を金で雇うなんて聞いたことがない。だが、リズは真剣な面持ちで聞いている、冗談の類いでは無いようで、モーガンはやもえず答えた。
「将軍程の人を雇えるとしたら、それは国王及び王族でもないと……お金の問題では無いかと」
「王族にならないと……雇えない……確かに、そうですね、なら何故」
ならば、何故リュカは、姉に金で雇われた等と嘘を言ったのか。
てっきり、庶民の出で出稼ぎに騎士として砂漠都市からやって来たのだと思っていた。
しかし、思い起こせば、不遜な態度、判断力の的確さ、頭の回転の速さ、異様な運動神経、鍛えぬかれた身体、深い知識、鋭い洞察力、旅馴れ、リザードベアの倒し方、人に命令することも躊躇わない。総合的に考えて、リュカが某かの身分にある事は確かだ、将軍と皆が呼ぶのならば、将軍なのだろう。
「僕、王族に嫁ぐことは可能でしょうか?」
「「ハァッ!?」」
「じゃないと、リュカさんを雇えないじゃないですか、将軍なんて聞いてないし、もう終身雇用の約束しちゃいましたし、僕、腐っても身分だけは公爵三男ですし、伝も有りますし、ねぇ様に頼めば、第一王子の妾とかなれませんかね」
「か、カリル医師、落ち着いて」
その時、ドアが物凄い勢いで開いた。
「リズ……なんだって?」
ドアを開けたのは、まさに今しがた話題にしていた将軍その人である。
不穏な雰囲気を纏ったリュカの表情は、前髪で隠れて読み取れないが、喜んで無いことだけは解る。
これは恐ろしい事になったと、モーガンとホフマンはその場で泣きたくなった。だが、入り口に立っている魔王の様なリュカのせいで、部屋から逃げ出すこともできない。
「どうですかね、外の様子は」
ホフマンがチラリとモーガンを見た。リズを落ち着かせるために、作戦本部へと戻ってきた三人、重い沈黙を切ったのはホフマンだった。
「勝てますかね……てか、リュカ将軍は、本気で1人で仕留めるなんてできるんですかね」
「もしもの時のために我々はこうしてここに待機しているんだ」
渋い顔で、モーガンが答える。リザードベアは、この国で一二を争う獰猛な獣だ。その体重は300キロも、越える巨体で、繰り出す爪は鋭利な刃物よりも鋭く獲物を切り裂く。執着心が強く一度狙った獲物は仕留めるまで追い掛ける。群れで獲物を追い詰め、いたぶって遊んだりもする残忍な生き物。
一匹仕留めるのでさえ、犠牲を出さずに出来ることが少ない。
「10頭か……もし、本当にそんな事ができるなら、一度手合わせを願うなど、恐ろしくて口が裂けても言えないな」
「将軍に手合わせを頼むつもりだったんですか?」
「まぁ、戯れの一環だとしても、一度くらいこの国の将軍と剣を交わしてみたいだろう?」
「将軍?」
リズが、モーガンとホフマンの会話に疑問符を投げた。
さっきから将軍と、リュカの事を呼んでいるのは何故なのか。
「将軍って、リュカさんの事ですか?」
「え?」
モーガンと、ホフマンはつい、間抜けな面で、ぽかんとした。
「や、まさか、カリル医師は……まさか、御存じでは?」
「何をですか?」
「彼は……貴方の」
許嫁ではと、口を滑らせそうになって、慌てて、モーガンは手で己の口を押さえた。
(まてよ、秘密にしているのか?おいおい、どこまで喋っていいんだ?迂闊なことをこの子に吹き込んだら後でどんな目に合わされるか)
モーガンは、チラリとホフマンに助けを求める様に視線を投げた。
(いやいや、こっちに振られても無理っすよ)
ホフマンが露骨に嫌な顔で首をふる。リズは、ずいっと、モーガンへ近づいた。
「リュカさんは、将軍なんですか?なぜ僕の護衛を?ねぇ様はなぜ、リュカさんに頼んだのですか?」
「いや、く、詳しくは解らないが、きっと深い何か理由があるのだろう、ぐ、軍義機密かもしれないから」
伝家の宝刀軍義機密を、出すと、リズは、自分に聞く権限が無いと思ったのか、ムッと眉を寄せた。
「でも、皆さん、リュカさんの事を将軍って呼んでましたよね、将軍って、偉い人なんじゃないんですか?」
「偉い、と言うか、まぁ、国防の要ではあるような」
「モーガン隊長よりも偉いんですか?」
「いや、比べ物にならない、我々は砂漠都市サララについたら、一番下っ端の部隊に所属される、将軍なんて話す事もできない」
「リュカさんが、将軍……将って、大将の将ですか?軍のトップって事ですか?」
「サリザーラ軍にとっては、恐らくはそうだと」
「国に将軍って、何人居るんですか?」
「クライス王国には、現時点で7名だ其々が、領地の軍を率いている」
「国で7人……将軍……あのっ、将軍って、いくらで雇えますか?」
「へっ!?」
モーガンが、予想外のリズの質問に驚く。将軍を金で雇うなんて聞いたことがない。だが、リズは真剣な面持ちで聞いている、冗談の類いでは無いようで、モーガンはやもえず答えた。
「将軍程の人を雇えるとしたら、それは国王及び王族でもないと……お金の問題では無いかと」
「王族にならないと……雇えない……確かに、そうですね、なら何故」
ならば、何故リュカは、姉に金で雇われた等と嘘を言ったのか。
てっきり、庶民の出で出稼ぎに騎士として砂漠都市からやって来たのだと思っていた。
しかし、思い起こせば、不遜な態度、判断力の的確さ、頭の回転の速さ、異様な運動神経、鍛えぬかれた身体、深い知識、鋭い洞察力、旅馴れ、リザードベアの倒し方、人に命令することも躊躇わない。総合的に考えて、リュカが某かの身分にある事は確かだ、将軍と皆が呼ぶのならば、将軍なのだろう。
「僕、王族に嫁ぐことは可能でしょうか?」
「「ハァッ!?」」
「じゃないと、リュカさんを雇えないじゃないですか、将軍なんて聞いてないし、もう終身雇用の約束しちゃいましたし、僕、腐っても身分だけは公爵三男ですし、伝も有りますし、ねぇ様に頼めば、第一王子の妾とかなれませんかね」
「か、カリル医師、落ち着いて」
その時、ドアが物凄い勢いで開いた。
「リズ……なんだって?」
ドアを開けたのは、まさに今しがた話題にしていた将軍その人である。
不穏な雰囲気を纏ったリュカの表情は、前髪で隠れて読み取れないが、喜んで無いことだけは解る。
これは恐ろしい事になったと、モーガンとホフマンはその場で泣きたくなった。だが、入り口に立っている魔王の様なリュカのせいで、部屋から逃げ出すこともできない。
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