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オアシス南の門から、新人騎士14人を連れて出たリュカは、肩に止まった鷹に何かを命令した。
鷹は、優雅に羽を大きく広げると、何度か翼をはためかせ浮き上がり、空高くへ登って、旋回を数回繰り返すと、岩場の方角へと向かった。
騎士達は一様に緊張し出す。いよいよ、リザードベアとの戦闘が始まるのだ。
騎士の中には生唾を何度も飲み込む者もいて、リュカはチラリと全員に目を向けた。
「そう、気を張るな、お前達は逃げる事を優先して、決して戦おうなんて思うな、安心しろ、お前らが乗ってる馬は賢い、扱いに困ったときは、その鬣にしがみついてればいいさ、勝手に逃げてくれる」
リュカにそう言われれば、確かにそうだと、皆の顔色が戻る。
「見くびらないで下さい、私たちは、これでも馬術大会では上位者揃いです」
「そうか、ならその腕前、期待している、では行くぞ」
はっ、と鞭をふるい、何のためらいもなく馬を走らせたリュカに、皆がついていく。
砂漠の砂上の乗馬は普段よりも重力を感じる、暑さで馬がバテるのも早い。早期戦だ。
空を旋回していた鷹は、大きく嘶いた。
「そろそろベアの縄張りに入るぞ、1頭づつ、引き付けろ、行け!!」
砂山から顔を出したベアに1人が近づき、ベアのロックオン状態をさそう、走り出したと、同時に、横に逃げる、追い付くかつかないかの絶妙な位置で、逃げる。
「よし、うまいぞ、さぁ、次々来るぞ」
1人があけば、もう1人、次々とベアを引き離していく。
10頭をうまく離したところで、鷹はまず1頭に近づき、リュカの方へ誘う。
真っ直ぐに、リュカの方へかけてくる騎士とリザードベア、騎士がリュカの隣をすれ違った時、リュカはザンッと剣を砂につけ、馬を走らせた。
シャァァっと、砂と剣が擦れ会う。ベアがリュカに気付き、目標を定めかけてくる、リュカは絶妙なタイミングで剣をふり、ベアの目に砂を、そしてすぐに切り返して方目を切った。ベアの目から血がほとばしり、獰猛な爪が空を切る。頭を下げた瞬間に、リュカはベアの首の付け根へ剣を突き刺し、馬上からベアを蹴り倒した。
すれ違った騎士が後ろを振り返った時にはもう、リザードベアは息絶え、ドオッと、その巨体は砂のうえに倒れた。
「え……?」
リュカは、ブンッと剣についた、砂と血をふりはらうと、今度は右方向で、鷹がなき、直ぐにそちらへと馬を走らせて行った。
新人騎士は、目を見開いたまま、動けなかった。余りの、速さに、驚きすぎて、そして倒れたリザードベアの大きさに、改めて気付き、今更ながら、冷や汗がつぅっと、背中に流れ落ちた。
(あの人は、本当に強すぎる)
とても、真似出来るものではなかった。騎士として鍛練を積んできたつもりだったが、遠く及ばないものがあることを知った。
◇◇◇
有言実行とは、正にこの事で、リュカは次々とリザードベアを難なく倒してしまう。1頭、2頭とその屍が積み上がる程に、新人騎士達は、違う恐怖を感じた。明らかに、リュカは、殺すことに慣れていた。
その剣には躊躇いなく、的確に命を奪っていく暗黒の剣を振り回す死神の様な姿に、新人騎士達は、歓喜よりも恐怖で、言葉を発することが出来なかった。
とうとう、最後の1頭を、倒してしまったリュカは、息すら上がっておらず、その不似合いな静寂さに、新人騎士達は、無言で、依り集まった。
誰も言葉を発しない。普通ならば、1頭仕留める度に歓喜し、咆哮を上げ喜び合うような場面だ。
圧倒的な力の差に、騎士としての誇りは打ち砕かれ、逃げるだけで精一杯だった己らの技量の無さを無言で恥じた。心細そうにいつの間にか集まっている新人騎士達をみて、リュカは小首を傾げた。
「どうした?」
リュカが、騎士達に、問いかけると、1人の新人騎士は、真剣な面持ちで答えた。
「リュカ将軍、我々は何も役に立てず」
うつ向く騎士に、リュカは、経験の差だとあっさりと告げた。
「別に恥じることはない、経験はこれから積めば良い、生き残る事が大事なんだ、戦いは今日の1勝を次に繋いでの繰り返しさ、リザードベアは群れで動く、お前達がいたから勝てた、誰1人怪我もせず、使命を全うした、それで良い」
そうなのかもしれない、でも、恐らくは幾ら経験を積んだとしても遥かに及ばない。生き残れたのはリュカの功績だと誰もが知っている。
この歴然の差が、高い壁が、新人騎士達の心に刻まれ、それは終わりのない研鑽の日々へと彼等を誘うのだ。
リュカは不意に、オアシスの方へ顔を向け、ぽそりと呻いた。
「……それぞれでいい、自分の卑屈さに負けなくていい」
あの子は負けなかった。一生懸命努力をした。どんなに周りに高い壁が有ろうと必死で踠いて、医者になった。
「さ、帰るぞ、戦勝なんだ宴の準備で忙しくなる」
リュカがそう言うと、やっと、緊張の糸が解れた騎士達が、おおおおっと、喜びの声を上げた。
オアシスへ、報告へ行くもの、岩場の調査をするもの、戦利品のリザードベア10体と、薬草になる苔、これまで犠牲になった人の骨をひろい、墓を作り、大きな満月が、砂漠を照らす頃に、リュカ達はオアシスへと帰ってきた。
鷹は、優雅に羽を大きく広げると、何度か翼をはためかせ浮き上がり、空高くへ登って、旋回を数回繰り返すと、岩場の方角へと向かった。
騎士達は一様に緊張し出す。いよいよ、リザードベアとの戦闘が始まるのだ。
騎士の中には生唾を何度も飲み込む者もいて、リュカはチラリと全員に目を向けた。
「そう、気を張るな、お前達は逃げる事を優先して、決して戦おうなんて思うな、安心しろ、お前らが乗ってる馬は賢い、扱いに困ったときは、その鬣にしがみついてればいいさ、勝手に逃げてくれる」
リュカにそう言われれば、確かにそうだと、皆の顔色が戻る。
「見くびらないで下さい、私たちは、これでも馬術大会では上位者揃いです」
「そうか、ならその腕前、期待している、では行くぞ」
はっ、と鞭をふるい、何のためらいもなく馬を走らせたリュカに、皆がついていく。
砂漠の砂上の乗馬は普段よりも重力を感じる、暑さで馬がバテるのも早い。早期戦だ。
空を旋回していた鷹は、大きく嘶いた。
「そろそろベアの縄張りに入るぞ、1頭づつ、引き付けろ、行け!!」
砂山から顔を出したベアに1人が近づき、ベアのロックオン状態をさそう、走り出したと、同時に、横に逃げる、追い付くかつかないかの絶妙な位置で、逃げる。
「よし、うまいぞ、さぁ、次々来るぞ」
1人があけば、もう1人、次々とベアを引き離していく。
10頭をうまく離したところで、鷹はまず1頭に近づき、リュカの方へ誘う。
真っ直ぐに、リュカの方へかけてくる騎士とリザードベア、騎士がリュカの隣をすれ違った時、リュカはザンッと剣を砂につけ、馬を走らせた。
シャァァっと、砂と剣が擦れ会う。ベアがリュカに気付き、目標を定めかけてくる、リュカは絶妙なタイミングで剣をふり、ベアの目に砂を、そしてすぐに切り返して方目を切った。ベアの目から血がほとばしり、獰猛な爪が空を切る。頭を下げた瞬間に、リュカはベアの首の付け根へ剣を突き刺し、馬上からベアを蹴り倒した。
すれ違った騎士が後ろを振り返った時にはもう、リザードベアは息絶え、ドオッと、その巨体は砂のうえに倒れた。
「え……?」
リュカは、ブンッと剣についた、砂と血をふりはらうと、今度は右方向で、鷹がなき、直ぐにそちらへと馬を走らせて行った。
新人騎士は、目を見開いたまま、動けなかった。余りの、速さに、驚きすぎて、そして倒れたリザードベアの大きさに、改めて気付き、今更ながら、冷や汗がつぅっと、背中に流れ落ちた。
(あの人は、本当に強すぎる)
とても、真似出来るものではなかった。騎士として鍛練を積んできたつもりだったが、遠く及ばないものがあることを知った。
◇◇◇
有言実行とは、正にこの事で、リュカは次々とリザードベアを難なく倒してしまう。1頭、2頭とその屍が積み上がる程に、新人騎士達は、違う恐怖を感じた。明らかに、リュカは、殺すことに慣れていた。
その剣には躊躇いなく、的確に命を奪っていく暗黒の剣を振り回す死神の様な姿に、新人騎士達は、歓喜よりも恐怖で、言葉を発することが出来なかった。
とうとう、最後の1頭を、倒してしまったリュカは、息すら上がっておらず、その不似合いな静寂さに、新人騎士達は、無言で、依り集まった。
誰も言葉を発しない。普通ならば、1頭仕留める度に歓喜し、咆哮を上げ喜び合うような場面だ。
圧倒的な力の差に、騎士としての誇りは打ち砕かれ、逃げるだけで精一杯だった己らの技量の無さを無言で恥じた。心細そうにいつの間にか集まっている新人騎士達をみて、リュカは小首を傾げた。
「どうした?」
リュカが、騎士達に、問いかけると、1人の新人騎士は、真剣な面持ちで答えた。
「リュカ将軍、我々は何も役に立てず」
うつ向く騎士に、リュカは、経験の差だとあっさりと告げた。
「別に恥じることはない、経験はこれから積めば良い、生き残る事が大事なんだ、戦いは今日の1勝を次に繋いでの繰り返しさ、リザードベアは群れで動く、お前達がいたから勝てた、誰1人怪我もせず、使命を全うした、それで良い」
そうなのかもしれない、でも、恐らくは幾ら経験を積んだとしても遥かに及ばない。生き残れたのはリュカの功績だと誰もが知っている。
この歴然の差が、高い壁が、新人騎士達の心に刻まれ、それは終わりのない研鑽の日々へと彼等を誘うのだ。
リュカは不意に、オアシスの方へ顔を向け、ぽそりと呻いた。
「……それぞれでいい、自分の卑屈さに負けなくていい」
あの子は負けなかった。一生懸命努力をした。どんなに周りに高い壁が有ろうと必死で踠いて、医者になった。
「さ、帰るぞ、戦勝なんだ宴の準備で忙しくなる」
リュカがそう言うと、やっと、緊張の糸が解れた騎士達が、おおおおっと、喜びの声を上げた。
オアシスへ、報告へ行くもの、岩場の調査をするもの、戦利品のリザードベア10体と、薬草になる苔、これまで犠牲になった人の骨をひろい、墓を作り、大きな満月が、砂漠を照らす頃に、リュカ達はオアシスへと帰ってきた。
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