20 / 28
20 緊張
しおりを挟む
馬車の中で、まるで蝋人形のようにガチガチに緊張して固まっているニャリスを、膝の上に抱っこしながら、ラクロアは気遣わしげにその小さな黒い頭を撫でた。
「大丈夫か?ニャリス」
「うん」
「そんなに緊張しなくてもいいんだぞ」
「うん」
「エクリーヌは動物好きだから、馬や……猫も飼ってたと思うし」
「うん」
「ニャリス?こら、そんなに緊張ばかりするな、困ったな、今日は俺も付いていくから、本当に嫌だったらすぐに帰っていいから」
「うん」
駄目だこれはと、ラクロアはカチコチになってしまっているニャリスを抱き締めて、頭の上にあごを置いた。こんな手と足が一緒に出そうなほど緊張している子を置いて仕事になんか行けない。今日はずっと一緒にいよう。
「もうすぐ王宮に着くぞ」
「うん」
カラカラと馬車の滑車が回る音がやがて、緩やかに止み、馬が歩みを止めて、馬車は王宮の前に止まった。行者が、馬車の扉を開けて跪く。ラクロアは、ニャリスの手をひき、馬車から降りた。ニャリスの足はふにゃふにゃしていて、これは抱っこしながら歩いた方が良いだろうかと考え、だが、これからは一人で東の宮へ通わないといけないのだし、抱き上げることを我慢した。
「ニャリス、王とエクリーヌは東の宮で待っているそうだ、いくぞ?」
「はい」
多少、外聞をきにして、うんから、はいに変わった返事で、カチコチと歩き出す。そういえば、自分も騎士学校へ初めて通う日などは緊張をしたかもしれない。遠い記憶だが。
ラクロアがゆっくり歩く後を、ニャリスはカチコチとついてくる。緊張が移って、こちらまで胃が痛いような気がしてきた。自分の事は煮られようが焼かれようがどうでも良いが、愛すべき愛し子が、怖い目にあったり、辛い目にあったりするのは吐き気がする程嫌なもので、ニャリスの気持ちを思うと、ラクロアは、胃から苦い胃液がせりあがって、うぇっとえずきたくなった。
(こんなんでニャリスは、王と仲良く勉強できるのか?)
エクリーヌの子、現王は今年で12の男子だ。俺には従順な態度をとるが、果たして自分よりも身分の下の弱いものに優しくできるかどうか、まぁ、エクリーヌがいるのだから無体なことはされないと思うが、エクリーヌも結構沸点の高いヤツだしな。
(どうしよう、心配しかない)
チラッ、チラッと後ろを何度も振り返り歩く様は、水辺を目指す鴨の親子みたいで、冷徹な総帥のそんな姿に王宮内の騎士達はざわめかずにいられなかった。
「大丈夫か?ニャリス」
「うん」
「そんなに緊張しなくてもいいんだぞ」
「うん」
「エクリーヌは動物好きだから、馬や……猫も飼ってたと思うし」
「うん」
「ニャリス?こら、そんなに緊張ばかりするな、困ったな、今日は俺も付いていくから、本当に嫌だったらすぐに帰っていいから」
「うん」
駄目だこれはと、ラクロアはカチコチになってしまっているニャリスを抱き締めて、頭の上にあごを置いた。こんな手と足が一緒に出そうなほど緊張している子を置いて仕事になんか行けない。今日はずっと一緒にいよう。
「もうすぐ王宮に着くぞ」
「うん」
カラカラと馬車の滑車が回る音がやがて、緩やかに止み、馬が歩みを止めて、馬車は王宮の前に止まった。行者が、馬車の扉を開けて跪く。ラクロアは、ニャリスの手をひき、馬車から降りた。ニャリスの足はふにゃふにゃしていて、これは抱っこしながら歩いた方が良いだろうかと考え、だが、これからは一人で東の宮へ通わないといけないのだし、抱き上げることを我慢した。
「ニャリス、王とエクリーヌは東の宮で待っているそうだ、いくぞ?」
「はい」
多少、外聞をきにして、うんから、はいに変わった返事で、カチコチと歩き出す。そういえば、自分も騎士学校へ初めて通う日などは緊張をしたかもしれない。遠い記憶だが。
ラクロアがゆっくり歩く後を、ニャリスはカチコチとついてくる。緊張が移って、こちらまで胃が痛いような気がしてきた。自分の事は煮られようが焼かれようがどうでも良いが、愛すべき愛し子が、怖い目にあったり、辛い目にあったりするのは吐き気がする程嫌なもので、ニャリスの気持ちを思うと、ラクロアは、胃から苦い胃液がせりあがって、うぇっとえずきたくなった。
(こんなんでニャリスは、王と仲良く勉強できるのか?)
エクリーヌの子、現王は今年で12の男子だ。俺には従順な態度をとるが、果たして自分よりも身分の下の弱いものに優しくできるかどうか、まぁ、エクリーヌがいるのだから無体なことはされないと思うが、エクリーヌも結構沸点の高いヤツだしな。
(どうしよう、心配しかない)
チラッ、チラッと後ろを何度も振り返り歩く様は、水辺を目指す鴨の親子みたいで、冷徹な総帥のそんな姿に王宮内の騎士達はざわめかずにいられなかった。
345
お気に入りに追加
685
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶のみ失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる