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20 緊張

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 馬車の中で、まるで蝋人形のようにガチガチに緊張して固まっているニャリスを、膝の上に抱っこしながら、ラクロアは気遣わしげにその小さな黒い頭を撫でた。

「大丈夫か?ニャリス」
「うん」
「そんなに緊張しなくてもいいんだぞ」
「うん」
「エクリーヌは動物好きだから、馬や……猫も飼ってたと思うし」
「うん」
「ニャリス?こら、そんなに緊張ばかりするな、困ったな、今日は俺も付いていくから、本当に嫌だったらすぐに帰っていいから」
「うん」

駄目だこれはと、ラクロアはカチコチになってしまっているニャリスを抱き締めて、頭の上にあごを置いた。こんな手と足が一緒に出そうなほど緊張している子を置いて仕事になんか行けない。今日はずっと一緒にいよう。

「もうすぐ王宮に着くぞ」
「うん」

カラカラと馬車の滑車が回る音がやがて、緩やかに止み、馬が歩みを止めて、馬車は王宮の前に止まった。行者が、馬車の扉を開けて跪く。ラクロアは、ニャリスの手をひき、馬車から降りた。ニャリスの足はふにゃふにゃしていて、これは抱っこしながら歩いた方が良いだろうかと考え、だが、これからは一人で東の宮へ通わないといけないのだし、抱き上げることを我慢した。

「ニャリス、王とエクリーヌは東の宮で待っているそうだ、いくぞ?」
「はい」

多少、外聞をきにして、うんから、はいに変わった返事で、カチコチと歩き出す。そういえば、自分も騎士学校へ初めて通う日などは緊張をしたかもしれない。遠い記憶だが。

ラクロアがゆっくり歩く後を、ニャリスはカチコチとついてくる。緊張が移って、こちらまで胃が痛いような気がしてきた。自分の事は煮られようが焼かれようがどうでも良いが、愛すべき愛し子が、怖い目にあったり、辛い目にあったりするのは吐き気がする程嫌なもので、ニャリスの気持ちを思うと、ラクロアは、胃から苦い胃液がせりあがって、うぇっとえずきたくなった。

(こんなんでニャリスは、王と仲良く勉強できるのか?)

エクリーヌの子、現王は今年で12の男子だ。俺には従順な態度をとるが、果たして自分よりも身分の下の弱いものに優しくできるかどうか、まぁ、エクリーヌがいるのだから無体なことはされないと思うが、エクリーヌも結構沸点の高いヤツだしな。

(どうしよう、心配しかない)

チラッ、チラッと後ろを何度も振り返り歩く様は、水辺を目指す鴨の親子みたいで、冷徹な総帥のそんな姿に王宮内の騎士達はざわめかずにいられなかった。








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