4 / 19
4
しおりを挟む
さて、鷹雪が苦手な歌作りに悩んでいる頃、出良は、違う事で悩んでいた。
「やべぇ姫様の櫛買うの忘れた」
出良が、今日祭りに行ったのは、蔵人様の一の姫に、可愛い飾りか、櫛を買ってきてと命令されたからだった。
女物の櫛を選んでいた所で、あの少年達に絡まれ逃げるうちすっかり忘れてしまったのだ。
(まずい怒られるかもしんない)
出良は頭を抱えた。下働きの者にとって上の者の命令は絶対だ。もう一度戻って買ってくるかと、悩んでいると、そこへ、家人の壱也がやってきた。
「おい、出良、一の姫様のお付きの女房の貞子さまが、お前を呼んでたぜ」
タイミングがいいのか悪いのか、なんかしたのか?と呑気に聞くので出良は舌打ちしたくなった。壱也は悪い奴ではないがいささか、人の気持ちを介さない。のんびり草の葉っぱを咥えながら人には早く行けよなんて言う。出良は、腕組みさながら、うーんと唸った。
「うーん。櫛を買ってくるように頼まれたんだよ、でもさ、俺、変な奴等に絡まれてさ、逃げてるうちに迷って、買ってる暇なかったんだよ、これって、まずいよなぁ?なんとかならない?はーー怒られるかな」
どうせ壱也に言ってもしかたなかろうと思うものの、なにも手が浮かばない出良は、事情を話した。ふ~んと、壱也は人ごとのような相槌をうったが、ほれと懐から、藤の花が彫ってあるなかなか綺麗な櫛を取り出し、出良に渡した。
「妹にやろうと思って買ったんだけど、やるよ」
「え!?まじ?いいのか壱也!すげぇ、助かったぜ」
別に。といいつつ、頬を赤らめる壱也。出良より三つ年上の彼は、出良を憎からず想っていた。
その櫛も、本当は出良に渡そうと、お金をかき集めて買ってきたものだった。そんな事はつゆ知らず出良は大喜びをした。
(いつもはあんまり関わりたくないと思ってたけど、良い奴だった!!)
「じゃ、俺、貞子様んとこ行ってくるなっ」
壱也の肩をポンと叩いて走っていった。取り残された、壱也はその後ろ姿にほぅと溜息をはく。
貞子が支える一の姫は、噂好きの女房達から、可愛い下働きの男の子がいると聞いていて、見たくてたまらなかった。色々と、出良の事を聞いて、出良を一目みたいと思っていた。だから、女房の貞子に、櫛を買ってこいと良いつけて出良を庭に呼んだのだ。
出良が一の姫の住まう庭先に壱也からもらった櫛を手にして行くと、端近くに女房頭の貞子が立っていた。
貞子が出良から櫛をもらいうける。その様子の一挙一動をこっそり御簾の奥から一の姫は見ていた。
(まぁ!本当になんて綺麗な子なのかしら、まるで絵物語にでてくる天女のようじゃない、凄く可愛いわ)
一目見て、出良を気に入った一の姫は、手に持つ扇を握りしめた。
(あの子に綺麗な着物を着せてお兄様に合わせたらどんな顔するかしら)
うふふと、一姫は口許を扇で押さえ、興奮が覚めやらない。
(禁断の恋なんて素敵じゃない!しかも身分違いの恋をしてしまうんじゃ、なんて素敵なの……はぁ、あんな綺麗なのだもの、きっと気に入るわ)
どんどん妄想に掻きたてられていく姫は、出良に似合う衣の色合いを考えだした。銀杏のような梔子色もあの明るい容姿似合うだろうし、でも真っ赤な紅葉の真紅もいい、露草色の重ね、青鈍、でもいっそ真っ白な白生絹ってのもいい。何でも似合う、素敵素敵素敵。
出良は貞子に、櫛を渡してそのまま待つように言われて庭でてもちぶたさにしていたが、なんとなく御簾から妙な視線を感じ、ぶるっと身震いをした。
「やべぇ姫様の櫛買うの忘れた」
出良が、今日祭りに行ったのは、蔵人様の一の姫に、可愛い飾りか、櫛を買ってきてと命令されたからだった。
女物の櫛を選んでいた所で、あの少年達に絡まれ逃げるうちすっかり忘れてしまったのだ。
(まずい怒られるかもしんない)
出良は頭を抱えた。下働きの者にとって上の者の命令は絶対だ。もう一度戻って買ってくるかと、悩んでいると、そこへ、家人の壱也がやってきた。
「おい、出良、一の姫様のお付きの女房の貞子さまが、お前を呼んでたぜ」
タイミングがいいのか悪いのか、なんかしたのか?と呑気に聞くので出良は舌打ちしたくなった。壱也は悪い奴ではないがいささか、人の気持ちを介さない。のんびり草の葉っぱを咥えながら人には早く行けよなんて言う。出良は、腕組みさながら、うーんと唸った。
「うーん。櫛を買ってくるように頼まれたんだよ、でもさ、俺、変な奴等に絡まれてさ、逃げてるうちに迷って、買ってる暇なかったんだよ、これって、まずいよなぁ?なんとかならない?はーー怒られるかな」
どうせ壱也に言ってもしかたなかろうと思うものの、なにも手が浮かばない出良は、事情を話した。ふ~んと、壱也は人ごとのような相槌をうったが、ほれと懐から、藤の花が彫ってあるなかなか綺麗な櫛を取り出し、出良に渡した。
「妹にやろうと思って買ったんだけど、やるよ」
「え!?まじ?いいのか壱也!すげぇ、助かったぜ」
別に。といいつつ、頬を赤らめる壱也。出良より三つ年上の彼は、出良を憎からず想っていた。
その櫛も、本当は出良に渡そうと、お金をかき集めて買ってきたものだった。そんな事はつゆ知らず出良は大喜びをした。
(いつもはあんまり関わりたくないと思ってたけど、良い奴だった!!)
「じゃ、俺、貞子様んとこ行ってくるなっ」
壱也の肩をポンと叩いて走っていった。取り残された、壱也はその後ろ姿にほぅと溜息をはく。
貞子が支える一の姫は、噂好きの女房達から、可愛い下働きの男の子がいると聞いていて、見たくてたまらなかった。色々と、出良の事を聞いて、出良を一目みたいと思っていた。だから、女房の貞子に、櫛を買ってこいと良いつけて出良を庭に呼んだのだ。
出良が一の姫の住まう庭先に壱也からもらった櫛を手にして行くと、端近くに女房頭の貞子が立っていた。
貞子が出良から櫛をもらいうける。その様子の一挙一動をこっそり御簾の奥から一の姫は見ていた。
(まぁ!本当になんて綺麗な子なのかしら、まるで絵物語にでてくる天女のようじゃない、凄く可愛いわ)
一目見て、出良を気に入った一の姫は、手に持つ扇を握りしめた。
(あの子に綺麗な着物を着せてお兄様に合わせたらどんな顔するかしら)
うふふと、一姫は口許を扇で押さえ、興奮が覚めやらない。
(禁断の恋なんて素敵じゃない!しかも身分違いの恋をしてしまうんじゃ、なんて素敵なの……はぁ、あんな綺麗なのだもの、きっと気に入るわ)
どんどん妄想に掻きたてられていく姫は、出良に似合う衣の色合いを考えだした。銀杏のような梔子色もあの明るい容姿似合うだろうし、でも真っ赤な紅葉の真紅もいい、露草色の重ね、青鈍、でもいっそ真っ白な白生絹ってのもいい。何でも似合う、素敵素敵素敵。
出良は貞子に、櫛を渡してそのまま待つように言われて庭でてもちぶたさにしていたが、なんとなく御簾から妙な視線を感じ、ぶるっと身震いをした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる