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僕を抱き抱える昴に向かって、お母様は僕と昴を引き離そうとした。近づいてこないで、僕から昴を取らないで。

「昴さん、貴方の不自由は申し訳なく思っているわ、だけどこの研究は全アルファのための」

「父さんがオメガと浮気したから、母さんは僕を作ったんだよね」

昴の冷たい言葉に、お母様は、目を見開いて固まった。そして尚、昴は言いつのった。

「アルファの為のとか嘘だ、母さんは、父さんが許せなかった、だから、全部のアルファがフェロモンに左右されない薬もしくは遺伝子を書き換えられる術が欲しかった、僕は母さんの嫉妬でずっと縛られてきた、その上、僕が選んだ最愛の人まで僕から取り上げようとするの?」

「昴さん……私を恨んでいるのね」

「可哀想な人だと思ってる、恨む程の感情は貴女に抱けない、僕が嫌なのは、飛羽を、僕から奪うことだ」


そう言った昴の怒りが、威嚇フェロモンに急に切り替わった。強い強烈な威嚇が他のアルファを圧する。リビングにいたカテリーナさんが、真っ青になって踞った。

お母様も、真っ青だ、頭を押えて、必死に耐えてる。

「昴さ……いけないわ、オーバーヒートよ、やめな、さい」

パチパチと静電気が昴の周りに火花を散らす、僕は何が起こってるのか解らなかったが、昴の命が削られてるような気がして、必死で昴に抱きすがった。

「すばる!!やめて、ねぇ、やめてよ!!」
「僕から飛羽を奪うヤツは許せない」

「僕はお前のそばにいる!!居たいから居るんだ、ずっとだ、昴の事が好きだからいるんだ、他の理由なんかどうでもいい!!すばるがいれば良い」

僕は昴の口に自分の口を押し付けた。腰が痛い身体が痛い首が痛い、でもそれ以上に昴が苦しいのは嫌だ。

「と、ばね」
「正気に戻って昴、威嚇をやめて」

「ぼく……」
「良いんだ、ゆっくり、座って、そう、いいこ」

昴は、僕を抱き締めながら、ゆっくりと床に座った。僕は昴の頭を抱きかかえながら、離れた所で踞っているお母様をみた。

「昴のお母様、すみません、僕は昴の嗅覚が戻らなくても昴のツガイでいたいです」

ぽろっと涙がでた。本当は嫌だ、昴には何も欠けて欲しくない。だけど、離れるのは嫌だ。酷いことをもうしないで、昴の気持ちを否定しないで、自分達の為に昴を利用しないで。

「昴と僕は離れません」

ぽろぽろ涙を流しなら、必死で声を出した。お母様は、青ざめたまま、こくりと静かに頷いた。

「昴が刃向かうなんて……昴には貴方が必要……なのね、解ったわ、飛羽さん、数々の無礼を許してください」

「謝るのは僕にじゃありません」

「ええ、勿論、昴には……申し訳なく思っているわ、ごめんなさい、謝って済むことではないわね、私、何てことをしていたのかしら、心が氷っていたの、あの時から、復讐に囚われて、あぁ」

プライドの高い人だ、頭を下げるのは、まして自分の非を認めるのは辛いだろう。それでも、僕は糾弾せずにいれなかった。

「人のして良いことじゃなかったです」

「えぇ、そう、ね」

「これは虐待です、お母様はずっと、お父様へ本来ぶつける怒りを形を変えて昴にぶつけてきました」

「あぁ、そう、だわ、その通りだわ、私、何てことをずっと……ごめんなさい、昴」

「僕は昴を傷つけた貴方を許せません、でも、昴はきっと許すでしょう、何故ならば昴は、優しい人だからです、本当に、こんな環境で育ってなんでこんなに優しい人ができるのか、昴は、優しいんです、お母様、知ってください、昴は優しくて凄く素敵な人です、僕は、昴には嗅覚が戻って欲しい、この人から何も奪いたくない、でも、離れる選択肢はありません、僕達はまだ正式にツガイではありませんが、もう心はとっくにつがってるんです、お母様とお父様が、強く結び付いていたら、きっとこんな風に昴を育てなかったはずです、愛してるなら、話し合ってください、自分の形を変えてください、求めるだけじゃだめです、僕達は変われるんです」

言いたいこと言えてるか、わからない、賢い人達に無学な僕が言える言葉は少ない。でも、どうか解って欲しい。

大切な人を失いたくないなら、自分の形に気づいて欲しい。ツンツン尖ってばかりいないか、ボコボコ受け入れてばかりいないか、さらっと受け流してばかり、ビョンと反発してばかり、心の形を、どうか、相手にあわせて変えて欲しい。

変われるって信じてる、僕は変われた、これこらも変わっていく、考えて考えて、時には依存して依存されて、支えあって、尊敬しあって、愛するひとを大切にしたいから。




威嚇フェロモンを散々まき散らしたあと、昴は少しぼうっとしていたが、僕とお母様のやり取りを聞いて、気持ちを立て直したようだった。

「昴、大丈夫?」
「うん、ごめん」
「謝らなくていい、良かった僕、お前が死んじゃうんじゃないかと思って怖かった、あんなの初めてみたから」

昴の周りだけ異常な空気だった。それだけ今まで押えてたフェロモンを大量に撒き散らしたってことだ。

「あのね、飛羽」
「うん?」

「飛羽のフェロモンホントに感じるんだけど」
「えっ!?」
「甘い香り、凄く良い香り」

すんすんと、首筋を嗅がれて、ぶぁっと感情が高まる。

「僕、フェロモン出てるの?本当に?」
「うん」
「うっ、うぁ、ううっ、うわーーん」

僕は昴の胸にしがみついて大泣きした。きっとお母様は、呆れてるね、でも、泣かせて。嬉しいんだ。昴の嗅覚が戻るのが、こんなに嬉しいんだ。僕のことなんてどうだって良いけど、昴だけは、幸せになって欲しいから。


僕がそばに居ることで昴の何かを奪うなんて本当は凄く嫌だった。恐かった。嬉しい、嬉しい。嬉しいよぉ、すばるぅ。

「ずいぶん可愛らしい子なのね、あなたのツガイは」

お母様が昴に話し掛けた。昴は、頷く。

「うん、凄く可愛い、出会った時から可愛かったけど、今はずっともっと可愛い、もしこれが、かぁさんの実験の結果なら、僕はかぁさんをなじれない、たった1人を愛せるようにしてくれて、ありがとう」

「うっ、すばる」

お母様は口を押えて、嗚咽を漏らし、涙を流した。ほらね、言ったでしょ、昴は凄く優しくていいこなの。あなたの子供なんだよ?誇りに思った方が良いよ。



















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