はじめてのラブホは同性と

陽花紫

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はなちゃんへの片思い

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高校でも、私と華ちゃんが同じクラスになることはなかった。ただ、週に何回かある選択授業でついに一緒になる時がきた。 「物理選んどいてよかったー。」 「私も、知らない子ばっかでどうしようかと思った。」 永倉、永崎で席も前後になり、私はことあるごとに華ちゃんにちょっかいをかけていた。 「永倉、前向けー。ついでにこれ答えろー。」 「はーい。化石です。」 「おっけー。」 中高一貫校の悪い部分は、中学から誰一人としてメンバーが変わらないという点だ。クラス替えをしてもほとんどの子が知り合いで、教師陣も皆ゆるゆる。中には授業中に携帯をいじる子や、早弁をする強者、お昼寝する子もいれば隠れてゲームの通信対戦をする集団もいた。私はというと、アニ研のほかに小説部にも入って、日夜小説を書いては妄想の世界を広げていた。 妄想の世界では何もかもが自由で、私は華ちゃんのような見た目をした少女や、華ちゃんのような性格をした女の子を登場人物にしてはにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。 「真由ちゃん、授業終わったよ?」 「あ、やばっ!書いてない!」 「私のノート見る?」 「ごめん、かして!すぐ返すから。」 そう理由をつけて華ちゃんのノートを借りることもしばしば。華ちゃんはその字体すらも小さくて自信のなさが表れているようでとても可愛かった。 アニ研では、活動内容は中学の頃とさほど変わらず、むしろ男同士の同性愛を描いたBL本やBLアニメがブームになっていた。同性同士の愛に切なさを感じたり、自分自身を重ねてみたりもしたけれど、やけに性描写のあるその本ははじめあまり好きにはなれなかった。けれども、華ちゃんがやけに興味を示したので、私もおすすめの本を作ろうといろんな本を漁っては濃厚で熱いその未知の世界に赤面した。 「あのね、私…百合のほうがすきみたい。」 ある日、そう華ちゃんがぽそりと私に教えてくれた。聞けば、すでに百合専門の月刊漫画雑誌を買うほど、華ちゃんははまってしまったらしい。おまけに、SNSの掲示板を使って遠く離れた顔も知らないような人ともその内容を語り合っているというものだから私は思わずそのサイトの名前を聞いてすぐに検索、掲示板に書き込みをした。 なかには、本当に同性を愛する人もいて彼女を探している、セフレをさがしているという募集もあったことに私は驚いた。物語の世界だけじゃなかったんだと思うと同時に、私のほかにも同性に恋をしたり、同性が好きな人がいるということに少しだけ安心をおぼえた。 かれこれ私は小学校を卒業して以来、男子と触れ合っていない。お兄ちゃんは別として、学校の先生は別として、同世代の男の子と話をしたことがなかった。 中学時代もはじめは塾に通っていたけれど、私のあまりの不真面目さに両親が金の無駄だとあきらめて塾には行かなくなってしまった。一回だけ、クラスの仲も良くない子に、数合わせとして他校の男子校の男子と一緒に動物園に行ったこともあるけれど、あまりにも男子が小学生過ぎて呆れて女子だけで帰ったこともある。 それくらい私は男子に耐性がなかったのだ。 そうか、SNSを使っていろんな人と交流する手もあるのか。そう気付いた私は中学から引きずっているこの悩ましい片思いを同じような境遇の人に相談するべく、掲示板で募集をかけた。 すると、同じように同性に片思いをしているという一つ年上の女の子から連絡がきた。同じようにアニメのメガプリも好きで、話が合いそうだった。すぐに日にちを合わせて、学校帰り、私服に着替えてから待ち合わせ場所へと急いだ。 「みみちゃん?私、アンナ。」 みみちゃんとは、私が使ったハンドルネームで、相手はアンナさんといった。アンナさんはヴィジュアル系バンドのおっかけをしていて、目の周りを真っ黒に囲んで、ばさばさと音がするくらいつけ睫毛をして、見るからにパンクな格好をしていた。黒いチェックのシャツに赤と黒のチェックのミニスカート。髪は黒いものの、耳にはピアスがついていた。無地の黒いワンピースを着た私は、その迫力に怖気づいてしまったものの、話をするとメールでやりとりしていた通りの優しいアンナさんだということがわかるとすぐさまファミレスへと向かった。 「ドリンクバーと、あとデザートとか食べる?」 「あ、だいじょうぶです。飲み物だけで。」 「そう?私パフェたべよっかなー。」 そう言ってアンナさんはチョコパフェを食べながら、まずは私の話が聞きたいとその目をばさばさと瞬かせた。 私はこれまでのことをしどろもどろになりながら話していると、アンナさんが急に私にスプーンを向けてきた。 「で、告白はしたの?」 私はそんなことを考えたことがなかったため、目を丸くした。 「告白したほうが楽になるんじゃない?そんなうじうじ悩んでたら、いつか苦しくなって潰れちゃうよ?」 そしてまたもくもくとパフェを食べ始めるアンナさんをみて、私はこれまで片思いばかりに夢中になって、自分が華ちゃんとどうなりたいかについては一度も考えたことがなかったということに気付かされた。 パフェを食べ終わったアンナさんは、今度は私の番ねとゆっくり話し始めた。 「私はバイト先の先輩なんだけどさ、二十三の。めちゃ美人でなんでもできて、すごい憧れてんの、でもたまにできないことがあってアンナちゃんお願いって言われると喜んでー!ってかんじなの。わかる?バイトも高校入ってからすぐはじめてさ、いろいろ先輩たちも辞めてったり新しい人が入ってきたりするんだけど、今は私のこと知ってるの先輩しかいなくって、で、こんな見た目だからビビる子もいるのね?でも先輩はアンナちゃんはしっかりもので、頼りになるいい子だよー、っていってくれてさ。実際私頭もいいのね、自慢じゃないけど。普段はこんな格好してないよ?ピアスはしてるけど、これは趣味なの。バンド好きだし。で、先輩もバンド好きで、よくライブも行ったりするの。ライブの時の先輩もちょーかわいくて、いつもは制服なんだけどライブの時はツアーTとか来ちゃってさ、で胸もでっかいの。たまに肩組んだりしてドキドキするんだけどさ、先輩はフツーだからなんとも思ってないんだろうけどさ、私はドキドキしてんの。わかる?私は先輩と付き合いたいしすることもしたい、よくGL、とか百合とか言ってくるやつもいるけどさ、そういうこと抜きにして私は先輩が好きなの。女の子全員が好きかどうかはわからないけどさ、先輩だけが好きなだけなのかもしれないけどさ、でも告白して気持ち悪がられたりとかさ、先輩にもそういうレズとか百合の疑惑がかかって迷惑になるもの嫌だしさ、逆にオッケーもらっても信用できないっていうかさ、ノリなのかな、とか私に無理して合わせてるのかなとか思うと悲しくなってくるじゃん?だから今のままでいいのかなって思ったり、でも先輩に彼氏ができるのも嫌だなって思ったりするわけよ…ってなんで泣いてるの?」 私はアンナさんの話を聞いて目が熱くなった。ものすごく辛くて、ものすごく切ないことを私もしているんだなって思った。 そしてめちゃくちゃ不毛だなって思った。けれども私はアンナさんと同じくらい華ちゃんが好きだし、かといって付き合いたいわけでもないことはない、振られて嫌われるのも嫌だし、周りに自分が同性愛者だと知られることも嫌だし、華ちゃんに迷惑がかかるのも嫌だ。けれども華ちゃんに彼氏ができるのも嫌だ。 私はなんてことをしているんだろう、と客観的に自分がしていることを見たような気がした。
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