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幕間 番外編

いつか思い出す日々 中編

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「パンダ可愛い……尻が丸い……!」

 フラッシュ無しなら写真撮影可だったから、ガラスの向こうをのすのす歩くパンダを連写する。

「ほらレイン見てごらん、尻尾が白いよ」
「刹那、すっかり親の顔に戻っているな」
「おお竹食ってるなあ……すげえ……熊だなあ……」
『私もパンダを齧ったことくらいありますし……』
「ベス、パンダ齧ったの!?」
『縄張りを争った仲です』
「そっか……日本では仲良くしてな……そうだ写真撮ろう一緒に」

 頭の上からベスを降ろしてレインに渡し、パンダと一緒にフレームに入る位置に立ってもらう。

 するとレインがつかつかやってきて撮ろうとしていた俺のスマホを奪い、近くにいたスタッフに渡した。

「撮ってくれ」
「はい!」
「刹那、あなたはこっちだ」
「えっ照れるな……」
「俺も一緒に撮る!」
「私もー」
「僕も僕も」

 頭の上にベスが戻され、レインに肩を抱かれ一緒にパンダの部屋の前に並ぶ。
 すると周囲の子らもわらわらと寄ってきた。

「はい、チーズ!」

 スタッフがどうにか全員入るように撮ってくれた写真を確認すると、人の隙間からパンダの尻だけが覗いている。

「撮り直しますか?」
「尻かわいいなあ……」
「このままで良さそうだ。ありがとう」
「良かったです、楽しんで下さい」

 パンダを見た後は道なりに園内を巡る。
 連れてきた子らは皆そこかしこで楽しそうに過ごしていて、俺たちを見かけると挨拶をしてくれた。

 ベスも構われそうになったが『今日は休日なので』という体勢でふかふかしていると皆静かにする。教育のたまものだった。

「おっフラミンゴだって。すごいな片足で立ってる」
『私も無足で立てますよ』
「それは飛ぶっていうんだよベス。あっハシビロコウ。ちょっとレインに似てるな」
「そうか?」

 灰黒のハシビロコウと黒が似合うレインでツーショットを撮りたくなる。
 並んでもらうと、丁度よくハシビロコウがお辞儀するように頭を下げた。

「あはは、可愛いのが撮れた……ん、レイン今俺撮った?」
「撮った」
「一言言えよ……恥ずかしいじゃん」

 笑っているとシャッター音が聞こえ、何かと思えばレインが自分のスマホを構えていた。
 大真面目な顔で操作して保存している。
 なんだかむしょうに気恥ずかしくなった。

「可愛かったからな」
「口説くなよお……」

 軽く睨む俺に気づき甘やかに微笑んだレイン。
 直視できず視線を外すと、くすぐるように髪を撫でられた。
 優しい指先に、気温のせいじゃなく頬が熱くなる。

「刹那、あなたは――」
『ペンギンのご飯タイムはじまりまーす!』
「ペンギン!? 行こうレイン、ベス!」
「……ああ」





「うわー可愛い……! ほら見てごらんレイン、ペンギンがヨチヨチ歩いてるよ」
「すぐ親の顔に戻るな刹那は」
「水に入るとあんなに早く泳ぐのか。すごいなあ」
『ペンギンですか……あいつら私のこと勝手に群れの一員扱いしてきたんですよ』
「えっなにそれいいなあ……」

 ペンギンの餌やりはちょっとしたショーになっていて、前列は子どもたちに譲り俺たちは後ろから見ていた。
 とはいえ身長が高い子も多いからと、ベスが俺を掴んで飛んで見せてくれる。

 芸をしてから魚を貰うペンギンに、子ども達から歓声が上がった。
 それを見ているだけで俺も嬉しくなってしまう。

「いやー楽しかったなあ。次どこ行く?」
「刹那」
『刹那』

 パンフレットを広げて尋ねると、レインに腕を、ベスに頭をがしっと掴まれた。

「次はあなたの食事タイムだ」
「あっ」





 パラソル下のテーブルに、こんもりと食事が並べられている。

「こんなに食べれないって……」
「食べられる分だけでいい」
『卵はデザートですからね』

 『超持久力』の能力を持っていた改造人間時代と違い、今の俺の体は同じ19歳でも更に貧弱だった。
 量を受け付けないのだ。
 あまり良い食事と量を摂っていなかった頃まで若返らされた体は、胃が弱く小さかった。

 それでもレインやベス、なぜか時折食事を奢ってくれる久寿米木(くすめぎ)によってかなり改善されたのだが、皆が言うにはまだまだ食べなさすぎらしい。

 胃が小さくてもベスの卵さえ食べていれば健康に問題は無いのに。
 ベスですら卵ではなく食事を摂れと言ってくる。

「もうお腹いっぱい……」
「あとこれだけでも飲め」
「うー……」

 ハンバーガーを齧って膨らんだ腹を撫でていると、レインにスムージーを渡された。

「……俺の食事をそんなに見つめなくても……」

 胃腸が強いレインは残った食事をぺろりと平らげ、ストローをがじがじと齧る俺を楽しそうに眺めてくる。

「パンダより熱心に眺めてないか?」
「パンダか。あれは良かったな」

 あまりに熱烈な視線につい茶化してみたら、レインは唇の端を上げた。
 その瞬間――昼の動物園にあるまじき夜の色気が滲み出す。

「檻の中で無防備に眠り、与えられた食事を疑うこと無く食べる姿は魅力的だった」
「――パンダの話だよな?」
「そうだな」

 レインの手が伸びてきて、なぜか反射的に身を竦めてしまった。
 手は頬についていたらしいパンくずを払い落としたあと、俺の頭を撫でる。

「尻も可愛い」
「パンダの話だよな!?」
「……」
「そうだって言えよお……!!」





 心臓に悪い昼食を摂った後、再び園内を回ったが動物達の様子がなんだかおかしかった。
 眠りこけていたライオンは飛び起きて腹を見せるし、象は膝を折ってかしずく。

 その対象は常にレインだ。
 そそくさと檻から離れ、木陰で耳打ちする。

「レイン、支配者オーラ抑えて」
「そうは言っても普段から意識しているわけではないからな……ひとつ方法が無いわけでもないが」
「じゃあそれやろう」
「あなたに負担を強いることになるが」
「……? わからんけどいいよ」
「言ったな。後悔するなよ」

 騒ぎになる前に、と焦って促せばレインは腕を開き抱きしめてきた。

「……ん!?」
「俺の腕の中であなたが大人しくしていれば、落ち着く」
「そんな馬鹿な……」
『本当みたいですよ。威圧感が消えました』
「なっ……!」

 まだ日は高く、集合時間である夕方は遠い。
 そんな中レインに抱かれながら園を練り歩くなんて無理だ。
 いくら全員身内でも恥ずかしすぎる。

 どうにか、どうにか他に方法は――
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