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儀式から・・・
しおりを挟む結縁灌頂の儀式から数日後に、次郎の元服が執り行われる事となった。
この日は信虎も為景も列席すると言ってきた。諏訪から大次郎頼経も来るゆえ、約2年振りに当代武田家の一同が勢揃いする事となる。
諏訪からの到着早々、式に先駆けて諏訪満隣・大次郎・己斐姫が源太郎の自室へ挨拶に来ていた。
「「「御館様、お久しゅうございます。此度は次郎殿の元服式へのお招き感謝申し上げます」」」
「お三方ともお久しゅうござる。遠路お越し頂き感謝申し上げる」
と挨拶が済むと己斐姫が源太郎のチョコンと膝の上に座って来た。
「源太兄上、噂によりますと『妖魔様』から『烏景様(うけいさま)』へと呼び名が変わられたそうにござりまするな?」
「ハハハそうじゃ・・・そなたまでワシを呼び名で呼ぶか」
「呼び名など他人行儀な事は致しませぬ。それがしは太郎兄上みたいに切り替えが利きませぬ」
「ハハハ、呼び名が他人行儀か?その流儀、そなたらしいのぅ」
「当代になってから領民の間にも、当主を呼び名にて話す事が浸透し始めておるそうにて、源太兄上は寛大と言うか・・・懐の深さが父上とは違いまするなぁ」
「父上からの相続と思うて諦めておるのよ・・・呼び名が始まったのも、武田家の場合、元はと言えば陰口とは言え父上の所為じゃからのぅ。広まってしもうては、誰であろうと最早、手の打ちようがあるまい?」
「『暴虐の人食い虎』から『捻くれいじけ虎』への解脱の件にござりますか」
「そうじゃ・・・その様な呼び名を放っておいたは父上であるからのぅ。ワシもいつの間にやら呼び名を頂戴した訳じゃ・・・どこぞからのぅ」
「なるほど・・・」
暫く雑談をしたのち、「では・・・元服式で」と宿泊している部屋へと戻って行った。
元服の日の当日
武田家と関係を持つ領主が増えた事によって、次郎の元服式には晴信の時よりも更に多くの人が来た。その多くは新たに誼を結んだ信濃や越後の諸将である。
「各々方、本日は我が弟・次郎の元服を祝いに来訪頂き、心より深く感謝申し上げる。これより式移転を執り行い申す」
源太郎が式典の開会を宣言した。今回は晴信の時の様な事は無く平穏無事に式典は進んでいく。
「次郎、本日よりそなたは信繁と名乗るが好かろう。武田信照入道(しんしょうにゅうどう)信繁じゃ!」
「はっ!領民達の平穏を守る為に粉骨砕身、精進致しまする!」
その時、ドタドタと激しく足音を鳴らしながら門衛からの伝令が大広間の入り口に来た。
「式典中申し訳ござりませぬ!」
「構わぬ!何じゃ?」
「はっ!只今早馬にて、今川と北条が示し合わせて国境の砦を攻めておる由にござります!」
伝令が言い終わらないうちに
「おおっ!式典が平穏に進んで面白う無かったところよ!為景殿、ワシは今川の方へ行くぞ!そなたは如何なされる?!」
「信虎殿!ワシは北条の方へ行き申す!」
二人はスクッと立つが早いか、消えるかのように大広間からいなくなった。
「次郎、済まぬ。元服の式典はお開きじゃ。各々方、ご列席感謝申し上げる。これより武田家は出陣致しまする!」
「「御館様、それがしも元服が済みました故、お連れ下さりませ!」」
頼経と信繁が頭を下げた。
「連れて行かぬ訳が無かろう!ワシは父上と違い人使いが荒いからのぅ。覚悟しておくのじゃ!晴信、そなたは勝沼の叔父と小山田の義叔父と共に為景殿が突っ込み過ぎぬよう監視しつつ国境を守るのじゃ。侵入して参ったら一気に叩け、差配は任せた。頼経と信繁はワシと共に今川に当たる。じぃは館を頼む」
「「「「ははっ!」」」」
「諸将の各々方は今川・北条の謀略に備え、先ずは領内の安堵をお願い致す!」
大広間にいた面々はそれぞれに散っていった。
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