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あれっ?!
しおりを挟む北条勢の陣
北条勢は草原を切り開いて方陣を組み部隊を展開している。
「氏時様、武田を攻めませぬのか?」
「ああ、我等は18000おるが、武田の数も様子も解らんのじゃ。ただ、いずれ江戸城を攻めておる上杉勢は撤退する。さすれば、領内各地から援軍が来て我軍は数倍の兵数となる。その時が勝ちを収めるときじゃ」
「なるほど、解りましてござります。しかしながら、しきりと木を切る音がしまするなぁ。武田勢の目的は何にござりましょうな?」
「上杉の江戸城攻めと時期を合わせておるから、普通に考えれば上杉への援軍であろうのぅ。ただ、これで解ったことが一つある」
「何でござりましょうや?」
「各所に旗が立って居る故、来ておる武将は誰か解る。しかし、旗はあるが信虎は来ておるまい。来ておれば兵数に関わりなく突っかけて来る筈じゃからのぅ」
「あの暴れ虎が来ておらぬのなら、尚の事攻めれば良いのでは?」
「そこよ!先程そなたが木を切る音がする、と言っておったであろう。あの林の向こうの村を広げる開拓団も同行している筈じゃ。となれば、村にもかなりの数の武田勢がいる事は間違いあるまい。恐らく、あの入り口の軍勢は我等を引きずり込む撒き餌じゃよ。一刻も早く我等を叩き潰して開拓に専念したいのであろうが、そうも簡単に相手の思惑に付き合ってやる必要もあるまい?」
「なるほど、言われて見ればその通りにございまするな。では我等は腰を据えて待つことになる訳で?」
「そうじゃ、ハハハその通りじゃ」
数日後の北条氏時の陣
「もうすぐ昼餉か、西からの風があると煙がきついのぅ・・・」
「あいや暫く!氏時様、煙が変でござる。黒い煙が混ざっておりまする」
「ん、そうじゃな。地響きもする。各隊に伝えい!敵襲じゃ!準備を致せい!」
暫くすると兵士達の悲鳴が聞こえてきた。
「申し上げます!氏時様、わが軍の全面に多数のクマの群れが突っ込んでまいりましてございます。」
「よし!昼餉の邪魔をしたクマ共を討ち取るのじゃ。夕餉はクマ鍋とする」
武田勢、板垣の陣
「じぃ、草原の視界は如何程開けた?」
「弩の射程程は火が進んだかと」
「では、昼餉の後、全軍一斉に炎と間合いを保ちながら前進する。以上、各部隊に伝達」
北条勢は西からの強風によって吹き込む煙に苦労しながらも一刻(2時間)近くもクマの群れと闘っていた。
部隊内で交代を続け、槍襖を作って一頭ずつ包囲牽制しながら弓を射かけて討ち取っていった。
しかし、戦闘の初めにクマに接近を許し、弓を使える体制を整えるまでに時間が掛かり過ぎた為、死に物狂いのクマを真面に相手にして、死者こそ出ていないものの、重軽傷者合わせて一万人近くに達していた。
総大将の北条氏時もクマに爪を引っ掛けられてしまい、左の二の腕を負傷していた。
やがて北条勢を包む煙が晴れた頃、北条勢の前に武田勢が現れた。
「義叔父上、敵将との口上はこの様にお願い致し申す」
「ほぅ・・・そなた本当に御館様の子か?頭できが全然違うのぅ」
北条氏時の陣
「申し上げます!氏時様、武田から軍使が来ており申す」
氏時は伝令から受け取った小山田からの書面を読んでニッと笑った。
「面白い!陣の前面で小山田と口上を交わそう!」
武田勢の前面には小山田信有(越中守)その両脇に源太郎と板垣が出てきた。
北条勢の前面には氏時一人が出てきた。
「氏時殿、我が願い聞き届け頂き、かたじけのうござる」
「なんの!此度の武田勢、不思議な事ばかりで、話してみとうなったのよ」
「そうでござるか。紹介いたし申す。我が右手におるは、主君信虎様の嫡子にて我が妻の甥、源太郎信義様。左手におるは、その守役板垣信方殿にござる」
「ご丁寧にいたみ入る。なぜ紹介を?」
「此度、源太郎信義様は初陣を飾る筈であった。されど、クマ共に初陣を汚されてしまった様である。後見する立場の者としては、キチンとした戦にて初陣を飾って頂とうござる。ここは手打ちと致しませぬか?」
「なんと?!一戦も交えずに手打ちとは!戦さの倣いからは外れておりますな」
「このまま戦さに突入しても好うござるが、総大将たるソナタまでもが、その様な手傷を負っておる軍勢と戦うてもこちらの誉れとはなり申さん。それでも戦うとあらば、確実にそなたの兵達は壊滅いたし申す・・・となれば最早これは戦さではござらん。戦さにも礼儀や嗜みはあり申す」
「我等に情けをかけると申されるのか?」
「情けではござらん。嗜みにござる。」
「して、手打ちの条件は?」
「今宵、クマ鍋のご相伴に預かりたい。明日、同時に陣を引き申そう」
「ハハハ、随分と安い条件よのう。少々お待ち頂きたい。我が部下達と諮り申す」
と言って氏時は後ろを向き、部下たちに相対して大声で諮った。
「皆の者~!今、武田より手打ちを申し込まれた~!戦い足りぬものはおるか~?!今すぐ武田と戦いたい者はおるか~?!返事が無くば手打ちを受ける事とする!そして今宵は武田勢とクマ鍋で宴会じゃ~!」
暫く時が経った後
「「「「「「「「「「御大将のお心のままに」」」」」」」」」」
「皆の者~!将として感謝する~!」
氏時が武田勢の方へ向き直った。
「御覧の通りでござる。手打ちを申し入れて頂き、感謝申し上げる」
それを見ていた源太郎が氏時に言った。
「北条様、素晴らしき兵達にござりまする。北条様のお人柄が兵達の資質を押し上げているに相違ござりませぬ。それがし、本日の北条様を手本の一人と致しとうござります」
「ハハハ、武田の次世代は他人を乗せるのが上手そうだ。ガッカリされぬ様、それがしも精進せねば。若殿様、手本の一人として頂き感謝申し上げる」
その夜は武田・北条双方が、敵勢である事を忘れて、終始和やかに宴会に興じた。
翌朝、武田・北条双方は約条通りに陣を払い、それぞれの本拠へ向かった。
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