1 / 3
1.異世界プロジェクト
しおりを挟む
2050年、アメリカNASAが開発した異世界転生プログラムが全世界を狂わせた。
異世界転生プログラムとはその名の通りの事であり、VRゲームを応用した技術を使い空想上の世界に入り込むことが出来るのだ。しかし入り込むとは言っても身体ごと異世界に持っていくことは出来ず、専用ヘルメットを被り、所謂夢を見ている感覚で異世界体験をすることが出来る。
期間は約一ヶ月であり、その間病院で経管栄養を行いながら横になっておく。身体に異常をきたせば専用ヘルメットから警告アラームがなり医者が診断するが、その間も異世界体験は続行したままである。
一ヶ月経った後でも、身体に特に変化がなく副作用もない。
安心で安全なプロジェクトなのである。
安心で安全…、一体このフレーズを何度テレビで聞いただろうか。もう今年の流行語大賞これで決まりだろ、てくらい社会に浸透していて、ツイッターのトレンドはいつまで経っても消えない。
僕は調べていた異世界プロジェクトのページを閉じ、ツイッターを開いた。
そして検索欄に異世界転生プログラムと打ち込み、更新して世間の反応を読む。
『マジで皆異世界いってみ!人生変わるぜ』
『初回は結構安値で出来るから、一回くらいやったほうがいいと思う。人生経験にもなるし』
『異世界で彼女出来た草草』
『お前ら行く前に説明書読めよ。禁止されてるからここでは言えないが』
『皆異世界依存症にはなるなよwww←とかいう俺依存症ですwwwもう三回体験しました。明日から四回目ww』
プロジェクトが日本で実施され始めたのは、アメリカが実施し始めてから二ヶ月後の四月。今はもう七月も終わりを迎え、異世界体験が可能になってから約四ヶ月も経ち、僕の知り合いも何人かすでに体験していて既に身近な存在となっていた。
ツイッターでも一秒で何件も更新され各々感想を述べたり、人生観を語ったりしている。
「異世界か…」
確かに興味はあるし、いつかは行って見たいとは思う。だが、行ったところで現実世界をないがしろにしているようで変な罪悪感もある。確かに貴重な経験をすることが出来るだろうが、いろんなリスクを考えると踏みとどまってしまう。
だが、明日から長い長い大学の夏休み。彼女見なければ友達もいない僕にとって、夏休みとはただ暇な毎日を送る意味のない日々のことだ。ぼんやりと夏休みを過ごすくらいなら、いっそのこと異世界に行ってみるのもいいかもしれない。
冷房の効いていない真夏の真昼に僕はスマホの画面を見つめながら考えを巡らす。
そしてすぐ横に置いてあった茹でたそうめんにつゆをつけて、思いっきし啜った。
頭が固まったような気がした。
「行こう」
有り得ないくらい異世界へのメリットデメリットを考えつつ、やはり半信半疑で行く事を阻んでいた数秒前の脳裏にはもはや異世界の好奇心でしか埋まっていなかった。
僕は時計を見る。
午後一時ちょうど。
「思い立ったが吉日だ」
まるで大事な試合の前に気合いを入れるかのように発したこの言葉を合図にして、僕は急いで風呂に入り着替えを済ませ、近くのコンビニでありったけのお金を下ろして、異世界プロジェクトが行われている病院へと向かった。
病院に着くと受付が二つあり、普通の診断用と異世界転生用とに分けられており、後者の方には三人ほど並んでいた。
僕は受付に行って少し並んで、問診票を書いて渡すと、小さな部屋に案内された。
「ここが桐谷翔太さんのお部屋110号室となります。採血の準備をしますのでその間説明書を読んでいてください。この説明書は必ず読むように」
若い看護師に念を押され、少し動揺したが用意された椅子に座りスマホを取り出した。
ーーー僕もとうとう異世界デビューか。
僕は興奮を抑えきれず、ツイッターを開き今の心境をツイートしてみた。
『今から異世界行ってきます笑』
落ち着いた風を装い、端的に綴られたこの文章には、まるで小学生の時に初めて飛行機に乗ったワクワク感を想起させる。
溢れるほどの好奇心がそこにはあった。
僕はしばらくの間ツイッターに夢中になっているとさっきの看護師が注射器を持って現れた。
「それでは採血します。じっとしていてください」
僕は左腕を伸ばしじっとしていた。
すると注射器に取り付けられた小さなスクリーンに緑色で正常というマークが現れた。
「血圧、体温、臓器環境、健康状態全て大丈夫ですね。それでは早速ベットに横になっていただきます」
看護師が淡々と言い、僕はあまりの手順の早さに驚いた。実際もっと時間をかけていろんな検査やら書類を書くのだと思っていた。
僕は言われるがままにベットに横になると、テレビで何百回もみた青いヘルメットを被らされた。
「痛くないですか?」
「は、はい」
ヘルメットの側には巨大な機械があり、CPUの過剰な働きによる熱の発生を防ぐためのファンの回る音が聞こえる。
「点滴を打ちますね」
看護師はそう言うと手早く僕の左腕に針をさす。
痛みは感じなかった。
「目を瞑ってください」
僕が言われるがままに従う。
心臓の拍動が秒針の速度を追い越して、自分の体を温めている。
「それではプロジェクトを開始します」
そう言うと、看護師が何やらスイッチを入れたのかヘルメットに熱が帯びてきている。少しだけ頭がクラクラしてくる。
まるで二日酔いの時に感じる胸苦しさを覚え、僕は吐き気を催した。
しかし、次の瞬間そんなことなどどうでも良くなるほどの眠気が僕を襲い、いつの間にか気を失っていた。
「良い異世界生活を」
異世界転生プログラムとはその名の通りの事であり、VRゲームを応用した技術を使い空想上の世界に入り込むことが出来るのだ。しかし入り込むとは言っても身体ごと異世界に持っていくことは出来ず、専用ヘルメットを被り、所謂夢を見ている感覚で異世界体験をすることが出来る。
期間は約一ヶ月であり、その間病院で経管栄養を行いながら横になっておく。身体に異常をきたせば専用ヘルメットから警告アラームがなり医者が診断するが、その間も異世界体験は続行したままである。
一ヶ月経った後でも、身体に特に変化がなく副作用もない。
安心で安全なプロジェクトなのである。
安心で安全…、一体このフレーズを何度テレビで聞いただろうか。もう今年の流行語大賞これで決まりだろ、てくらい社会に浸透していて、ツイッターのトレンドはいつまで経っても消えない。
僕は調べていた異世界プロジェクトのページを閉じ、ツイッターを開いた。
そして検索欄に異世界転生プログラムと打ち込み、更新して世間の反応を読む。
『マジで皆異世界いってみ!人生変わるぜ』
『初回は結構安値で出来るから、一回くらいやったほうがいいと思う。人生経験にもなるし』
『異世界で彼女出来た草草』
『お前ら行く前に説明書読めよ。禁止されてるからここでは言えないが』
『皆異世界依存症にはなるなよwww←とかいう俺依存症ですwwwもう三回体験しました。明日から四回目ww』
プロジェクトが日本で実施され始めたのは、アメリカが実施し始めてから二ヶ月後の四月。今はもう七月も終わりを迎え、異世界体験が可能になってから約四ヶ月も経ち、僕の知り合いも何人かすでに体験していて既に身近な存在となっていた。
ツイッターでも一秒で何件も更新され各々感想を述べたり、人生観を語ったりしている。
「異世界か…」
確かに興味はあるし、いつかは行って見たいとは思う。だが、行ったところで現実世界をないがしろにしているようで変な罪悪感もある。確かに貴重な経験をすることが出来るだろうが、いろんなリスクを考えると踏みとどまってしまう。
だが、明日から長い長い大学の夏休み。彼女見なければ友達もいない僕にとって、夏休みとはただ暇な毎日を送る意味のない日々のことだ。ぼんやりと夏休みを過ごすくらいなら、いっそのこと異世界に行ってみるのもいいかもしれない。
冷房の効いていない真夏の真昼に僕はスマホの画面を見つめながら考えを巡らす。
そしてすぐ横に置いてあった茹でたそうめんにつゆをつけて、思いっきし啜った。
頭が固まったような気がした。
「行こう」
有り得ないくらい異世界へのメリットデメリットを考えつつ、やはり半信半疑で行く事を阻んでいた数秒前の脳裏にはもはや異世界の好奇心でしか埋まっていなかった。
僕は時計を見る。
午後一時ちょうど。
「思い立ったが吉日だ」
まるで大事な試合の前に気合いを入れるかのように発したこの言葉を合図にして、僕は急いで風呂に入り着替えを済ませ、近くのコンビニでありったけのお金を下ろして、異世界プロジェクトが行われている病院へと向かった。
病院に着くと受付が二つあり、普通の診断用と異世界転生用とに分けられており、後者の方には三人ほど並んでいた。
僕は受付に行って少し並んで、問診票を書いて渡すと、小さな部屋に案内された。
「ここが桐谷翔太さんのお部屋110号室となります。採血の準備をしますのでその間説明書を読んでいてください。この説明書は必ず読むように」
若い看護師に念を押され、少し動揺したが用意された椅子に座りスマホを取り出した。
ーーー僕もとうとう異世界デビューか。
僕は興奮を抑えきれず、ツイッターを開き今の心境をツイートしてみた。
『今から異世界行ってきます笑』
落ち着いた風を装い、端的に綴られたこの文章には、まるで小学生の時に初めて飛行機に乗ったワクワク感を想起させる。
溢れるほどの好奇心がそこにはあった。
僕はしばらくの間ツイッターに夢中になっているとさっきの看護師が注射器を持って現れた。
「それでは採血します。じっとしていてください」
僕は左腕を伸ばしじっとしていた。
すると注射器に取り付けられた小さなスクリーンに緑色で正常というマークが現れた。
「血圧、体温、臓器環境、健康状態全て大丈夫ですね。それでは早速ベットに横になっていただきます」
看護師が淡々と言い、僕はあまりの手順の早さに驚いた。実際もっと時間をかけていろんな検査やら書類を書くのだと思っていた。
僕は言われるがままにベットに横になると、テレビで何百回もみた青いヘルメットを被らされた。
「痛くないですか?」
「は、はい」
ヘルメットの側には巨大な機械があり、CPUの過剰な働きによる熱の発生を防ぐためのファンの回る音が聞こえる。
「点滴を打ちますね」
看護師はそう言うと手早く僕の左腕に針をさす。
痛みは感じなかった。
「目を瞑ってください」
僕が言われるがままに従う。
心臓の拍動が秒針の速度を追い越して、自分の体を温めている。
「それではプロジェクトを開始します」
そう言うと、看護師が何やらスイッチを入れたのかヘルメットに熱が帯びてきている。少しだけ頭がクラクラしてくる。
まるで二日酔いの時に感じる胸苦しさを覚え、僕は吐き気を催した。
しかし、次の瞬間そんなことなどどうでも良くなるほどの眠気が僕を襲い、いつの間にか気を失っていた。
「良い異世界生活を」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語
青木 森
ファンタジー
原因不明の転落事故に見舞われた少年は、崖から落下中、時間が止まった世界で見目美しい女神と出会う。
しかし、一見おしとやか風の女神は少年の矢継ぎ早の質問に、
「ゴチャゴチャうっせぇんだよぉ、コゾウがぁ!」
ヤンキー張りの本性をさらけ出し、勇者召喚のノルマ達成の為に「異世界に行け」と強要する。
脅され、騙され、異世界に勇者として送られる気弱な少年。
たった一つ、ヤンキー女神から渡された「特殊スキル」を携えて。
「小説家になろう」様でも掲載。
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる