私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花

文字の大きさ
上 下
1 / 8

1

しおりを挟む

「好きです。付き合って下さい」

 走って、追いかけて、ようやく追いついて。私は彼の袖を掴んで必死の思いで告白した。

「だが断る」

 それが、振り向きざま向けられた彼の答えだった。

「……」

 私は言葉を失い袖口をぐっと掴む。
 しかし無情にも彼はそれを引きはがそうと腕を引く、だがそこで負ける物かと握力の限りを尽くし離さない私。
 無言のまま熾烈な争いが繰り広げられていた。
 ついに彼が腕を引き抜こうとしたその瞬間、私は叫んだ。

「もう一声!」
「興味ない」
「そこを何とか!」
「絶対イヤだ」
「そんな事を言わず!」
「ふざけんなボケ!」
「そんな冷たいあなたも好き……!!」
「きしょくわりぃわ!!」

 さすがにか弱い婦女子の握力ですから、私の決死の思いの「袖口きゅっと」作戦は、振り切られ、彼は私を置いて、すたすたと歩いて行く。

「えー……」

 そんな面と向かって言われるほど、気色悪くないと思うんですー。
 めげないしょげない諦めないを座右の銘にしている私ですが、さすがにちょっと傷つきました。
 でも大好き。

「じゃあね、高崎君! また明日~!」

 彼の背中に叫ぶと、彼は振り向きもせずに、片手を上げてひらひらとさせると去って行く。
 告白始めて早一ヶ月。何度目のトライだかすっかり忘れたけど、毎回この調子だったりする。いつまでたっても受け入れてくれない高崎君だけど、キツイ言葉の割に、また明日って声をかけると、ちゃんと手を振って応えてくれる。
 彼はああ見えて結構優しい。
 バイバイって手を振ってくれたその後ろ姿を思い出しながら、私はちょっと浮かれて家に帰る。
 今日も逢えた。今日もお話しできた。今日もバイバイって手を振ってくれた。高崎君、大好き。

 私が彼と出会ったのは合コンの時。盛り上げ要員としてでた私と、数合わせできていた高崎君とは、激しく意思疎通が難しかった。
 一人で居ると寂しいから、合コン自体にはあまり興味はなくても、私はよく顔を出していた。
 興味のなさそうな高崎君をいかに楽しい気持ちにするかに熱意を注いだ合コンとなった。
 盛り上げようとする私とそのフラグをことごとくへし折っていく高崎君とのやりとりに、予想外なことに周りが盛り上がった。

「良いぞ、もっとやれ! そのまま高崎を落としてしまえ!」

 かけられた声援に私が満面の笑顔でこたえる。

「いえす!ふぉーりんらぶ!」
「ふるい!」

 高崎君がすかさずツッコミを入れた。

「恋に落ちるのに、時代は関係ありません!」
「なんか俺カッコイイ事言った、みたいな顔すんな!」
「言ったのにー!」
「ねぇよ」

 くだらないやりとりばかりの出会いだった。でも、最後まで彼は私の相手をしてくれていた。合コンだと、ただ盛り上がりたいだけ、楽しみたいだけの私では、ときどき浮くことがある。でも高崎君の隣にいると、そんな気持ちには全くならず、嬉しくて楽しい気持ちばかりで。
 帰りに「また会いたいです、付き合って下さい!」という直球で告白したけど、「無理」と一言で断られた。
 まあ仕方ないよね。会ったばかりだし、私も好きって言うより、この時はひたすら「一緒にいたい、この出会いで終わりにしたくない」その気持ちばかりだったから。

「じゃあ、友達からで良いから、電話とメルアド教えて」
「い・や・だ」

 私が必死で縋ってるのに、素っ気なさは合コン時から変わることはなかった。

 でも、一ヶ月こうして彼につきまとえることが出来ているのは、ちゃんと彼から電話番号もメルアドもゲットしたからだ。
 あの時、根性で縋り付いて、帰る事が出来なくなった彼が音を上げたのだ。
 もらえたときのうれしさは忘れられない。
 渋々通信をしながら互いのアドレスを交換してくれた。

「ありがとう!」

 うれしくなった私に、呆れた顔して高崎君は拳をぐりぐりと私の額に押しつけた。

「俺はメールは返さないし、電話がしつこかったら着信拒否するからな」
「らじゃですけど、痛いです!!」

 ぐぐっとその拳を押し返しながらしつこすぎないようにしようとは、一応決意する。着信拒否されたら意味ないしね。
 でも拳はすぐに離れてくれない。

「高崎君、女の子に、そんなに激しくしちゃ、ダ・メ☆ もっと優しくしてくれないと、女の子は壊れ物……あでででででっっ、ギブ、ギブです!!」

 優しくしてもらおうと思ったのに、余計に激しく責め立てられました。拳に。

「激しく責めるなら、前からでも後ろからでもオッケーだけどおでことはもっと違う感じでででででででっっっ」

 後で見たら、ちょっとおでこが赤くなっていたから「あの時高崎君があんまり激しいから、赤く跡が残っちゃって……」と、後日「きゃっ」と照れながら頬を染めて訴えたら、殴られた。
 ときどき乱暴だけど、なんだかんだと私が声をかけると付き合ってくれるし、メールも返事しないって言ったけど一日に一回ぐらいは一言ぐらいの返信は来るし。それだけで、結構楽しかった。
 でも、それがどれだけ独りよがりな楽しみだったかなんて、私は気付いてなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

だから、恋をする。

はるきりょう
恋愛
「だめだ」  通る声が一つ。低いその声は決して大きくないのに、絵梨の耳にしっかりと入った。 「お前、やっぱ、俺と付き合え」 「おいおい、健。もういいじゃん。別の罰ゲーム考えるからさ」 「いやだね。俺はこいつを惚れさせてやる。んでもって、俺からふってやるよ」  黒い笑みを浮かべた健に絵梨は一歩後ずさった。それを追いかけるように健が一歩を大きく出す。 「覚悟しろよ」 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。 ※以前投稿している「好きになったのは、最低な人でした。」の譲が少し出てきます。

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

届かなかったので記憶を失くしてみました(完)

みかん畑
恋愛
婚約者に大事にされていなかったので記憶喪失のフリをしたら、婚約者がヘタレて溺愛され始めた話です。 2/27 完結

好きになったのは、最低な人でした。

はるきりょう
恋愛
彼は有名だ。 『橋元譲は、誰の告白も拒まない』 数々の女がその噂に便乗し、その噂が真実だと証明した。  それでも友香は泣きそうになった。「いいよ」と言われて。だってずっと見ていた。この高校に入って2年間ずっと。 ※小説家になろうサイト様に掲載しています。

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

愛しているなら、愛してよ!

はるきりょう
恋愛
※部活一筋の彼氏と、その彼女の話。 そう言って紗希は笑った。そして思う。笑顔を作るのが上手くなったなと。 けれどきっとはじめはそんなこと気づいてくれない。こっちを見てはくれないのだから。 はじめの視線に入るには、入るように自分が動かなくてはならない。彼からこちらを見てくれることはないのだ。 それが当たり前だった。けれど、それで「恋人」と呼べるのだろうか。

処理中です...