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0 落ちた日
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私がこの世界に落ちてきたのは、十歳の時。
それまで経験したことのない野外での覚醒が、一番最初に覚えた違和感。
草と土の臭い、それと服の上を撫でて行く風の感覚、そしてそれに乗って鼻を刺激する獣臭と……うなり声を上げる、数多の動物の声。
頭がはっきりしてくるに従って、異常な事態に陥っていることを理解した。
何が起こっているのか知りたい、でも、怖い、そんなはずがない、目を開けたくない。
そんな葛藤に終止符を打ったのは、突然襲った足への激痛だった。
「きゃぁ!!!」
悲鳴を上げて足に食い込んだ何かを蹴るようにして振り払い、飛び起きてみれば、私を取り囲むようにして、たくさんの犬が歯をむき出しにして涎を垂らしながら今にも襲いかかってこようとしていた。
その時は犬と思ったけど、後になって思えば、それは狼だったのだろう。あの時は狼なんていう発想さえ浮かぶはずもなく、灰色の毛並みの怖い犬のような動物がたくさんいて、私に噛みつこうとしていることだけしかわからなかった。
さっきの足の痛みは、その内の一匹が足に噛みついたのだろう。靴が離れたところに落ちていた。靴のおかげでひどい怪我にはなっていなかったけれど、それも時間の問題だろう。
がちがちと歯がなって、自分が震えることに気付く。
「……パパ……? ママ……?」
近くに両親がいるはずだと、こんなところに私が一人置き去りにされてるはずがないと、両親を呼ぶ。
一匹が飛び跳ねるように私に噛みついてこようとしていた。がむしゃらにはねのけようと手足をばたつかせると、服の端に引っかかるように噛みついて直ぐに後ろにはねて下がる。
「こないで!! こないで!! こないで!!!」
叫びながら犬を振り払う。
ついに一匹が私のふくらはぎにかみついて、後ろに下がることなく唸りながら肉をかみ切ろうとする。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
振り払おうと頭をたたこうとした瞬間、犬がよける。咬み跡から血がぷくっと溢れ、だらりと赤い筋を作った。
痛いと感じるよりも、ひどいショックで、理解が出来なかった。
しりもちをついた状態で、何もない場所を振り払い続ける。
私は、気が狂ったように、ただ叫び続けた。
「いやだ、やだ、やだ、やだやだやだ……うそ、もう、たすけて、ぱぱ、まま、やだ、もう、なに、なんなの、もうやだ……」
自分で何を言っているのかもわかっていなかった。怖くて震えながら叫ぶ合間にぶつぶつととりとめなく漏れる言葉は、決して意味のある物じゃなかった。
ギャウン!!
突然、犬の叫び声がした。直後、ザッと音を立てて犬たちが後ずさる。
突然の変化に、私も一緒になってびくりとこわばったけど、襲ってくる気配がなくなったことにまずほっとした。それから犬たちが緊張して顔を向けた先に私もまた視線を向けて……これまで以上の恐怖に出会い、「ひっ」と息を飲んだ。
狼だ。
犬だとは、思わなかった。
大型犬なんていう大きさじゃない。人よりもずっと大きな……そう、動物園で見たライオンや虎のような巨体の、狼がそこにいた。
周りにいた犬たちの何倍もの大きさの狼は、口を開ければ私の頭など一口でかみ砕けるのではないかと思うほどだ。
「こ、こな、こな、こ………こないっで……っっっ」
悲鳴は、驚くほど小さくしか出てこなかった。がちがちと震える体は、言葉さえもろくに紡げない。
息をすることさえまともにできなくなるほどに恐怖して、ヒッヒッと悲鳴にならない息を吐き出す。
頭がくらくらする。
狼は私を……私だけを、見ていた。じりじりと歩み寄ってくる巨体に、後ろ手にしりもちをついたまま、ずり下がるように逃げようとした。でも、震える体はまともに動いてくれない。
私の足下まで歩み寄ってきた狼が、私の胴体ほどあるのではないかと思えるほどの大きな頭を、ぐっと寄せてきた。
ヒッと息を飲んで、そこから、後の私の記憶はない。
それまで経験したことのない野外での覚醒が、一番最初に覚えた違和感。
草と土の臭い、それと服の上を撫でて行く風の感覚、そしてそれに乗って鼻を刺激する獣臭と……うなり声を上げる、数多の動物の声。
頭がはっきりしてくるに従って、異常な事態に陥っていることを理解した。
何が起こっているのか知りたい、でも、怖い、そんなはずがない、目を開けたくない。
そんな葛藤に終止符を打ったのは、突然襲った足への激痛だった。
「きゃぁ!!!」
悲鳴を上げて足に食い込んだ何かを蹴るようにして振り払い、飛び起きてみれば、私を取り囲むようにして、たくさんの犬が歯をむき出しにして涎を垂らしながら今にも襲いかかってこようとしていた。
その時は犬と思ったけど、後になって思えば、それは狼だったのだろう。あの時は狼なんていう発想さえ浮かぶはずもなく、灰色の毛並みの怖い犬のような動物がたくさんいて、私に噛みつこうとしていることだけしかわからなかった。
さっきの足の痛みは、その内の一匹が足に噛みついたのだろう。靴が離れたところに落ちていた。靴のおかげでひどい怪我にはなっていなかったけれど、それも時間の問題だろう。
がちがちと歯がなって、自分が震えることに気付く。
「……パパ……? ママ……?」
近くに両親がいるはずだと、こんなところに私が一人置き去りにされてるはずがないと、両親を呼ぶ。
一匹が飛び跳ねるように私に噛みついてこようとしていた。がむしゃらにはねのけようと手足をばたつかせると、服の端に引っかかるように噛みついて直ぐに後ろにはねて下がる。
「こないで!! こないで!! こないで!!!」
叫びながら犬を振り払う。
ついに一匹が私のふくらはぎにかみついて、後ろに下がることなく唸りながら肉をかみ切ろうとする。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
振り払おうと頭をたたこうとした瞬間、犬がよける。咬み跡から血がぷくっと溢れ、だらりと赤い筋を作った。
痛いと感じるよりも、ひどいショックで、理解が出来なかった。
しりもちをついた状態で、何もない場所を振り払い続ける。
私は、気が狂ったように、ただ叫び続けた。
「いやだ、やだ、やだ、やだやだやだ……うそ、もう、たすけて、ぱぱ、まま、やだ、もう、なに、なんなの、もうやだ……」
自分で何を言っているのかもわかっていなかった。怖くて震えながら叫ぶ合間にぶつぶつととりとめなく漏れる言葉は、決して意味のある物じゃなかった。
ギャウン!!
突然、犬の叫び声がした。直後、ザッと音を立てて犬たちが後ずさる。
突然の変化に、私も一緒になってびくりとこわばったけど、襲ってくる気配がなくなったことにまずほっとした。それから犬たちが緊張して顔を向けた先に私もまた視線を向けて……これまで以上の恐怖に出会い、「ひっ」と息を飲んだ。
狼だ。
犬だとは、思わなかった。
大型犬なんていう大きさじゃない。人よりもずっと大きな……そう、動物園で見たライオンや虎のような巨体の、狼がそこにいた。
周りにいた犬たちの何倍もの大きさの狼は、口を開ければ私の頭など一口でかみ砕けるのではないかと思うほどだ。
「こ、こな、こな、こ………こないっで……っっっ」
悲鳴は、驚くほど小さくしか出てこなかった。がちがちと震える体は、言葉さえもろくに紡げない。
息をすることさえまともにできなくなるほどに恐怖して、ヒッヒッと悲鳴にならない息を吐き出す。
頭がくらくらする。
狼は私を……私だけを、見ていた。じりじりと歩み寄ってくる巨体に、後ろ手にしりもちをついたまま、ずり下がるように逃げようとした。でも、震える体はまともに動いてくれない。
私の足下まで歩み寄ってきた狼が、私の胴体ほどあるのではないかと思えるほどの大きな頭を、ぐっと寄せてきた。
ヒッと息を飲んで、そこから、後の私の記憶はない。
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