23 / 58
3章 呪い
13
しおりを挟む
「また、その子か……」
「こう言うのも悪いけど、それ、信じてもいいの? だってさ、その子、幽霊……なわけでしょ?」
美伽が疑う気持ちも理解できる。
だけど、あの男の子からは悪意は全く感じないのも事実だ。
理由はわからないけれど、あの子はあの亡霊を慕っているだけ……。
そのことを2人に伝えた。
「だったら尚更信用できないじゃん! その子、あいつの手先ってわけでしょ!? それ、きっと罠だよっ!」
頭を思いっきり殴られたような衝撃だった。
そうか、そういう考え方もあるんだ……。
……わからなくなってきた。
美伽の言い分が正しいとすれば、あの子はやはり敵……ということになってしまうのだろうか?
「考えていても仕方ないよ。それよりも早く進もう」
真人さんは左側に伸びている廊下の方へと歩を進めていく。
「待ってくださいよ! もし罠だったら……」
「だとしても、どのみちあの場所に行かなきゃならないんだ。そうでないと俺達に未来はない……」
その一言が効いたらしい。美伽は口を噤み従う。
進んでいくと今度は二股に廊下は分かれている。
『今度は右に……』
また、語りかけてきた。
導かれるままに私達は進んでいく。
そして……
『その扉から中庭に出られるよ……。早く来て……』
扉を開けると屋外へと続いている。
あの、池がある中庭だ。
そして、例の離れ家も──……
離れ家に視線を向けた。
過剰なまでに配置されてあった錠前付きの格子戸。
その奥にある部屋……。直接入ったわけではないけど、きっとそこは座敷牢になっているはず。
男の子は“お兄ちゃんの部屋”と言っていた。
それは、彼は生前、この離れ家に監禁されていたことを意味する。
夢の中でちらりと見えた生前の姿。とても優しそうな人だった。
そんな人がなぜ、監禁されなければならなかったんだろう……。
離れ家の入り口を開けた。
「!?」
懐中電灯で照らした先──それを見て私は驚愕した。
「あなたは……」
格子戸の前に立っていたのは、冬服姿の男の子──私達をここに導いた本人であった。
「こ、この子が例の……?」
美伽と真人さんも驚きを露にしているということは、彼らにも見えているということである。
男の子は無表情に無言で両手を差し出してきた。
美伽と真人さんは警戒する。
「真人さん、ケースを乗せてあげてください。多分、あの人に返してくれるんだと思う……」
真人さんは訝しげな表情ながらも、言われた通りにしてくれた。
ケースを受け取った男の子は、やはり無表情に無言だ。
そして、スーっと消えてしまった。
そのまま私達は、しばしそこに立ち尽くす。
あの子と初対面の2人には、私に比べると驚きは倍だったのだろう。その顔は驚愕に固められている。
「……やるべきことはやったんだ。行こうか」
停止していた時間を動かすように真人さんは言った。
長居は無用ということで、私達は引き上げる。
離れ家を出る寸前──
『返してくれて、ありがとう……』
また、声が聴こえた。
けれど、それは子供の声ではない。
穏やかで優しげな男性の声だった。
△▼△
トンネルを出ると、真人さんは外した注連縄を元通りにした。蔦で入り口を覆い隠すことも忘れない。
「ふぅ、今回は怖いことは何も起きなくてよかったよね。まあ、本物の幽霊を見ることにはなったけどさ。でも、思ったよりも怖くなくてよかった……」
「きっと、峰岸さんがくれた護符が守ってくれたんだと思う」
ポケットから護符を取りだした。それを見た瞬間、私の肌は粟立った。
「いやっ、何これ!?」
美伽も自分の護符を見るなり悲鳴をあげた。
──純白であった護符が、まるで煤を塗りたくったように真っ黒に変色していたのだ……。
「護符が悪いものを吸い取ってくれたんだろうな。感謝の気持ちを込めてお焚き上げをしよう」
そうだ。護符は私達を守ってくれたんだ。気味悪がってはバチが当たる。
△▼△
行きの車内はひたすらに重たい空気に支配されていたけれど、帰りの車内はいくらか空気も軽くなっていた。
それは、去り際に聴こえたメッセージを2人に伝えたからだろう。
美伽は嬉しそうに、その旨を未央さん達に電話で報告している。
『返してくれて、ありがとう……』
優しげな男性の声が言っていた。
これは、どう考えてもあの亡霊からのメッセージに他ならない。
許しを得ることができた。
だから向こうも、もう私達に敵意を向ける理由がない。
だからきっと、大丈夫なはず──。
……そう思っていた。
だけど、それは私達の勘違いであった。
△▼△
「──ッ!」
私は飛び起きると真っ先に自分の胸を確認した。
「そんなっ! どうして!?」
これで捕まるのは3度目だ。
つまり、痣は3本になったということ。
背中で吹き出した汗が、パジャマをぺたりと皮膚に貼り付かせる。
動悸が止まらない。
遮るものは何もないのに、狭い場所に押し込められたような息苦しさを覚える。
未だに繰り返される悪夢。
どうして? どうして!?
まるで……わからない──!
そして、この数時間後……
柏原さんが亡くなったことを知らされることになる──……。
「こう言うのも悪いけど、それ、信じてもいいの? だってさ、その子、幽霊……なわけでしょ?」
美伽が疑う気持ちも理解できる。
だけど、あの男の子からは悪意は全く感じないのも事実だ。
理由はわからないけれど、あの子はあの亡霊を慕っているだけ……。
そのことを2人に伝えた。
「だったら尚更信用できないじゃん! その子、あいつの手先ってわけでしょ!? それ、きっと罠だよっ!」
頭を思いっきり殴られたような衝撃だった。
そうか、そういう考え方もあるんだ……。
……わからなくなってきた。
美伽の言い分が正しいとすれば、あの子はやはり敵……ということになってしまうのだろうか?
「考えていても仕方ないよ。それよりも早く進もう」
真人さんは左側に伸びている廊下の方へと歩を進めていく。
「待ってくださいよ! もし罠だったら……」
「だとしても、どのみちあの場所に行かなきゃならないんだ。そうでないと俺達に未来はない……」
その一言が効いたらしい。美伽は口を噤み従う。
進んでいくと今度は二股に廊下は分かれている。
『今度は右に……』
また、語りかけてきた。
導かれるままに私達は進んでいく。
そして……
『その扉から中庭に出られるよ……。早く来て……』
扉を開けると屋外へと続いている。
あの、池がある中庭だ。
そして、例の離れ家も──……
離れ家に視線を向けた。
過剰なまでに配置されてあった錠前付きの格子戸。
その奥にある部屋……。直接入ったわけではないけど、きっとそこは座敷牢になっているはず。
男の子は“お兄ちゃんの部屋”と言っていた。
それは、彼は生前、この離れ家に監禁されていたことを意味する。
夢の中でちらりと見えた生前の姿。とても優しそうな人だった。
そんな人がなぜ、監禁されなければならなかったんだろう……。
離れ家の入り口を開けた。
「!?」
懐中電灯で照らした先──それを見て私は驚愕した。
「あなたは……」
格子戸の前に立っていたのは、冬服姿の男の子──私達をここに導いた本人であった。
「こ、この子が例の……?」
美伽と真人さんも驚きを露にしているということは、彼らにも見えているということである。
男の子は無表情に無言で両手を差し出してきた。
美伽と真人さんは警戒する。
「真人さん、ケースを乗せてあげてください。多分、あの人に返してくれるんだと思う……」
真人さんは訝しげな表情ながらも、言われた通りにしてくれた。
ケースを受け取った男の子は、やはり無表情に無言だ。
そして、スーっと消えてしまった。
そのまま私達は、しばしそこに立ち尽くす。
あの子と初対面の2人には、私に比べると驚きは倍だったのだろう。その顔は驚愕に固められている。
「……やるべきことはやったんだ。行こうか」
停止していた時間を動かすように真人さんは言った。
長居は無用ということで、私達は引き上げる。
離れ家を出る寸前──
『返してくれて、ありがとう……』
また、声が聴こえた。
けれど、それは子供の声ではない。
穏やかで優しげな男性の声だった。
△▼△
トンネルを出ると、真人さんは外した注連縄を元通りにした。蔦で入り口を覆い隠すことも忘れない。
「ふぅ、今回は怖いことは何も起きなくてよかったよね。まあ、本物の幽霊を見ることにはなったけどさ。でも、思ったよりも怖くなくてよかった……」
「きっと、峰岸さんがくれた護符が守ってくれたんだと思う」
ポケットから護符を取りだした。それを見た瞬間、私の肌は粟立った。
「いやっ、何これ!?」
美伽も自分の護符を見るなり悲鳴をあげた。
──純白であった護符が、まるで煤を塗りたくったように真っ黒に変色していたのだ……。
「護符が悪いものを吸い取ってくれたんだろうな。感謝の気持ちを込めてお焚き上げをしよう」
そうだ。護符は私達を守ってくれたんだ。気味悪がってはバチが当たる。
△▼△
行きの車内はひたすらに重たい空気に支配されていたけれど、帰りの車内はいくらか空気も軽くなっていた。
それは、去り際に聴こえたメッセージを2人に伝えたからだろう。
美伽は嬉しそうに、その旨を未央さん達に電話で報告している。
『返してくれて、ありがとう……』
優しげな男性の声が言っていた。
これは、どう考えてもあの亡霊からのメッセージに他ならない。
許しを得ることができた。
だから向こうも、もう私達に敵意を向ける理由がない。
だからきっと、大丈夫なはず──。
……そう思っていた。
だけど、それは私達の勘違いであった。
△▼△
「──ッ!」
私は飛び起きると真っ先に自分の胸を確認した。
「そんなっ! どうして!?」
これで捕まるのは3度目だ。
つまり、痣は3本になったということ。
背中で吹き出した汗が、パジャマをぺたりと皮膚に貼り付かせる。
動悸が止まらない。
遮るものは何もないのに、狭い場所に押し込められたような息苦しさを覚える。
未だに繰り返される悪夢。
どうして? どうして!?
まるで……わからない──!
そして、この数時間後……
柏原さんが亡くなったことを知らされることになる──……。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
あぁそうさ下らねぇ文章で何が小説だ的なダラダラした展開が
要所要所の事件の連続で主人公は性格が変わって行くわ
だんだーん強くうぅううー・・・大変なことになりすすぅーあうあうっうー
めちゃくちゃなラストに向かって、是非よんでくだせぇ・・・・え、あうあう
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
続・骸行進(裏怪談)
メカ
ホラー
本作で語る話は、前作「骸行進」の中で
訳あって語るのを先送りにしたり、語られずに終わった話の数々である。
前作に引き続き、私の経験談や知り合い談をお話しましょう・・・。
また、前作では語られなかった「仲間たち」の話も・・・是非お楽しみください。
神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
黒猫館の黒電話
凪司工房
ホラー
雑誌出版社に勤める黒井良樹は十年前のある失踪事件について、調べていた。
それは彼の大学時代、黒猫館と呼ばれたある建物にまつわるもので「黒猫館にある黒電話を使うと亡くなった人と話すことができる」そんな噂話が当時あった。
それを使って肝試ししようと、サークル仲間の安斉誠一郎が提案し、仲の良かった六人の男女で、夏のある夜、その館に侵入する。
しかしその内の一人が失踪してしまったのだった。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2024/11/12:『どうくつのなかのあくま』の章を追加。2024/11/19の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/11:『にわのいけ』の章を追加。2024/11/18の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/10:『はれたひ』の章を追加。2024/11/17の朝8時頃より公開開始予定。
2024/11/09:『ついてくる』の章を追加。2024/11/16の朝8時頃より公開開始予定。
2024/11/08:『くろーぜっと』の章を追加。2024/11/15の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/07:『つかれてるね』の章を追加。2024/11/14の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/06:『おでこ』の章を追加。2024/11/13の朝4時頃より公開開始予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる